「ここんとこアート」覚書。

2世俳優が強姦致傷罪容疑で逮捕された。

その母親の会見は余りに芝居染みて居て、僕には1時間以上立って話した彼女を、重大な罪を犯した可能性の有る息子の母親と見る事は出来なかった。

想像では有るが、この母親は子離れが全く出来て居ないのでは無いか、息子が可愛くて可愛くて仕方なく、何処か被害者の方が息子を誘った位に思って居るのでは無いか、と思わせる程の雰囲気だった…と思うのは、僕だけだろうか?

そんな疑惑の中、今日は最近体験したアートの事を分野別メモ形式で。


・映画
「ラスト・タンゴ」:ヴィム・ヴェンダース製作総指揮、ヘルマン・クラル監督作品。Bunkamuraにて。伝説のアルゼンチン・タンゴ・ダンスペア、マリア・ニエベスとファン・カルロス・コペスを追ったドキュメンタリー。愛憎渦巻いても、私的感情を排して最高のダンスをする為だけに生きる…プロとはそう云うモノ。然しタンゴを「3分間の恋愛」とは良く云った物で、この踊りを同一人物と長年続けて、相手と恋に落ちない人は居ないだろう…タンゴを習いたく為る、如何にもヴェンダースっぽい作品だった。

犬神家の一族」:1976年市川崑監督作品。新宿角川シネマでの「角川映画祭」で、大スクリーンでの観賞。この作品は僕が後に横溝正史フリークと為った記念すべき作品で、ご存じ「佐清」の登場作。石坂浩二を始め、小沢栄太郎加藤武高峰三枝子や大滝秀司等の名優達も皆若く、横溝氏や角川氏自身も出演。市川の独特なカット割りや大野雄二の音楽も良い。余談だが、犬神家の大広間の松図襖が気に為り、これで思い出したのが、「天河伝説殺人事件」に於ける能楽宗家宅の「鴉図襖」…シアトル美術館蔵の六曲一双屏風を彷彿とさせる。「獄門島」や「悪魔の手毬唄」も観たい。

シン・ゴジラ」:「エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督作品。観る前に色々な人から「観るべきだ」と云われ、期待したのがいけなかったのか、流石にCGはそれなりだった物の、日本の政治体制風刺等の内容が浅薄且つ冗長で、石原さとみのキャスティング(わざと、と云う説も有るが、それだったら他もオチャラケて欲しかった)も含めて映画としては全く腑に落ちず、伊福部昭のオリジナル曲が如何に素晴らしいかだけが心に残る。ただ、現在の日本を救うには「スクラップ&ビルドしかない」と云う点は賛成だし、その点ではゴジラの気持ちに為って東京を打っ壊す事にスカッとしたのも事実だが、物足りない事甚だしい。また、総理始め閣僚が乗ったヘリをゴジラが直ぐに撃墜する所、官邸に片岡球子が掛かって居る処等には共感。然しエンド・ロールに名前の有った小山登美夫氏は、この映画の一体何に協力したのだろう?


・展覧会
「想像の構築と制限」@Gallery Sezon:フランシス慎吾や鬼頭健吾等をフィーチャーしたグループ展。今年からギャラリーに入った、NY時代の友人高根枝里さんのキュレーションらしく、NY感溢れる展示だった。フランシスの作品が美しい。

「アカデミア美術館蔵 ヴェネチアルネッサンスの巨匠たち」@国立新美術館ベッリーニティツィアーノ、ヴェロネーゼ等の名品展。イタリア絵画の名品展に行くと、何時も腹が減る…それは「カルパッチョ」とか「ブランジーニ」、「パルミジャーノ」と云った作家名が食欲を唆るからだ(笑)。それと、展示作品の数点の画中、端の方に大き目の「赤い点」と云うか「絵具の点」が有り、これが所謂「コレクション・シール」で有る事を確認。画中に押す「シーリング・スタンプ」は、例えば中国絵画中の皇帝印、或いは浮世絵版画に押されたコレクター印等と同じ感覚。

岩佐又兵衛展」@福井県立美術館:又兵衛が京都から福井に移住してから400年を記念した、千葉市美術館以来の久し振りの岩佐又兵衛展を、頑張って福井迄観に行く。旧金谷屏風だった軸画が集合したのと、堀江・浄瑠璃・山中常盤・小栗判官各物語絵巻の出品が目玉だが、出展数が多く無いにも関わらず、濃密な展覧会…戸田主任学芸員渾身の展覧会だ。個人的には矢張り堀江物語と山中常盤が一段と素晴らしいと思うが、物語絵巻群は手が違い過ぎるので、色々と難しい。

「西京人ー西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。」@金沢21世紀美術館小沢剛とチェン・シャオション、ギム・ホンソックの、架空芸術国家をテーマとする日中韓コラボ展。が、個人的には高品質なユーモアが感じられず、内輪受けっぽく見えて仕舞う。コンセプチャル・アートは何年も前からもうお腹一杯で、最近は心から「感動する」アートを見たい、と熟く思う。

「開館5周年記念特別展 無−心 Mu-Shin」@鈴木大拙館:ずっと行きたかった、鈴木大拙館に滔々来館。谷口吉生の建築は評判通りに素晴らしく、禅を想うにはかなり良い空間だと感心する。この秋、朝日カルチャーセンターで「海外での白隠と仙突」に就いてレクチャーをする予定なので、鈴木大拙館の体験は非常に良かった。谷口建築は知的で美しい。

「竹村京 なんか空から降ってくるよ」@Taka Ishii Gallery:糸や布、印画紙をフィーチャーした作品群を観る。3.11の震災や原発事故に啓発された作品群は、その後の「日々」を僕に考えさせる。嘗てニューヨークで、京さんと赤ちゃんに旦那さんの鬼頭健吾君共々お会いしたのも懐かしい。

「ブレイク前夜展」@表参道スパイラル:25人のアーティストをフィーチャーした、BSフジの番組「ブレイク前夜〜次世代の芸術家たち〜」との連動展。僕はこの番組は観た事が無いのだが、出展作家の1人佐藤令奈の作品を以前観た事が有って、その時は美しくも複雑に描かれたクローズアップされた赤ちゃんの「肌」に凄く感動したのだが、今回出品の同シリーズ「やわらかい、あたたかい」も現代性と「体温」を持った見事な作品群だった。これからも楽しみな作家だ。


・本
横尾忠則千夜一夜日記」:実生活に於いても46年間日記を付けて居ると云う、現代美術家横尾忠則の書き下ろし日記。夢日記・「病は気から」日記、そして「甘いもん」日記として読むのも面白い。


・舞台
「芸の真髄シリーズ第十回 能狂言の名人 幽玄の花」@国立劇場:内容に惹かれて行った、能楽界の人間国宝勢揃いの公演だったが、舞台セットが酷過ぎる。開け離れた舞台では囃子の音も謡も全て飛んで仕舞い、その奥の空間に置かれた「巨大盆栽」の様な「松」らしき物体も醜悪。然し舞台の「鏡板」を付けなかったという事は、囃子方が「鏡板」を利用して自分達の音を「鏡」の様に反射して聞く、と云う事も知らなかったに違い無い…これでは能は出来ない。こんな「ド素人」な演出・舞台で「芸の真髄」とは、ちゃんちゃら可笑しい。公演後出演者の方と一杯やったが、最高の芸を持つ彼等が本当に可哀想だった。

「八月納涼歌舞伎 第一部」@歌舞伎座:今回の演目は「嫗山姥(こもちやまんば)」と「権三と助十」。「嫗山姥」は扇雀橋之助、そして巳之助の三人共極めて歌舞伎らしい演技を見せ、素晴らしかった。特に扇雀扮する八重霧が身の上を語る長い一人舞、そして巳之助の立派さが良い。橋之助も秋の八代目芝翫襲名を控えて、貫禄が出て来た…秋が楽しみ。「権三…」はコミカルな近代歌舞伎作だが、此処では七之助と巳之助、そして壱太郎が際立つ。巳之助は最近かなり良く為って来て居て、将来期待が持てる。


と云う事で、8月ももう終わり…この後西海岸で数日間重要な仕事を熟した後、ニューヨークに戻る。


*お知らせ*
ー来る10月17・24・30日の3日間、渋谷のアップリンクにて、僕がエクゼクティヴ・プロデューサーを務めた映画、渡辺真也監督作品「Soul Oddysey–ユーラシアを探して」が上映されます。本作は最近「インドネシア世界人権映画祭」にて受賞、各日上映後には畠山直哉國分功一郎森村泰昌の各氏と渡辺監督のトークが有ります。奮ってご来場下さい!詳しくは→http://www.uplink.co.jp/event/2016/45014

ー10月29日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿にて、「海外から見た禅画・白隠と仙突」と題されたレクチャーをします。詳しくは→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/704962b9-c35e-e518-3c8a-57a99c63c4e2

ー12月16日、19:00-20:30、ワタリウム美術館での「2016 山田寅次郎研究会4:山田寅次郎著『土耳古画考』の再考」 に、ゲスト・コメンテーターとして登壇します。詳しくは→http://www.watarium.co.jp/lec_trajirou/Torajiro2016-SideAB_outline.pdf