TKY-LAX-SFO-NYC的近況。

8月31日(水)
11:00 前日より風邪気味の悪体調だったが、かいちやうに誘われ、日本橋三越本店新館で始まった「茶の湯の継承 千家十職の軌跡展」へ。物凄い混雑だったが、展示内容もかなり充実して居て、長次郎を始めとする歴代の楽茶碗の名碗、釜や塗物迄新旧の名品揃い。無理して行って良かった。

13:00 一度家に帰り、咳に苦しみながらも明日からの西海岸出張の準備。ランチは神保町のカレー屋「B」のポーク・カレー…此処は並んでも客の回転が早いし、オカズに付いて来るじゃがバターや辣韮等の薬味も旨く、カレー激選区神保町でも随一。カレー後は、老舗珈琲店「B」のオリジナル・ブレンドで一息吐く。

18:00 大顧客A夫人が催した、ピアニスト若林顕氏のソロ・コンサート@ペニンシュラ東京・グランド・ボール・ルームに出席。この日の演目はラフマニノフ「幻想的小品集 作品3-1 『悲歌(エレジー)』」、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調作品57 『熱情』、ショパン「12の練習曲作品10」より「第3番 ホ長調『別れの曲』」と「第12番 ハ短調『革命』、そしてリスト「愛の夢」と最後は「ハンガリー狂詩曲第2番 嬰ハ短調」。若林氏のピアノは豪快・超絶技巧で、ベートーヴェンやリストが凄い。三宅一生氏等を含めた70名程が参加したこのコンサートは、引き続きA夫人の80歳のバースデー・パーティー・ディナーへと移行し、最後は乳製品アレルギーのA夫人の為に特別に作られた、蝋燭が8本立った「餡練り切りケーキ」でお祝いをする。お孫さん達もアメリカから駆けつけた、アットホームな素晴らしい一夜だった。


9月1日(木)
8:00 起床し、部屋の掃除。相変わらず体調優れず…。

11:30 今回の日本滞在最後の食事は、近所の旨い蕎麦屋「M」での天ざる。何時もは無愛想な女将さんが、今日は妙にニコニコしてて珍しい。

17:00 ANA便でロスへと向かう。機内では碌な映画が無く、結局大好きなヴィデオ番組「LIFE 人生に捧げるコント」を見る。この番組は本当に良く出来て居て、今回も「宇宙人総理」等の定番コントで爆笑したが、 僕が一番好きなのは「囲み取材」のゲスニック・マガジンの西条(田中直樹)…機内でも到底笑いを堪え切れない大爆笑モノだ。その後も風邪薬の効用で眠る迄、「ガリレオ」や「科捜研の女」等のTV番組でお茶を濁す

11:00(ロス時間) ロス到着。某TV局クルーと合流し、海沿いの顧客B夫妻宅へと向かう。今回のお宅訪問はB夫人からの要請だったのだが、偶々僕を取材中の番組をも受け入れて頂けるとの事で、偶然の賜物。今日から2日間ミッチリと作品を拝見する予定。

13:00 B夫妻宅に到着。80代後半の旦那様、70代後半の奥様共お元気そうで安心する。打ち合わせ後、早速肉筆浮世絵や初期風俗画等の掛軸や屏風作品を拝見し始めるが、その間にもインタビューや作品を巡るご夫妻との会話を収録。風邪が良くなった気がしたのは、素晴らしいクオリティの美術品を観たからか…良き芸術は、百薬の長で有る。

18:00 B夫妻のお招きで、近所のレストランで食事。止せば良いのに力がつくと言い訳をして、僕はチーズバーガーを頂く…が、風邪は治らず。この晩は早く就寝するが、夜中に汗を掻き、2度Tシャツを替える。


9月2日(金)
9:00 再びB夫妻宅へ。B夫妻のこの一風変わった邸宅は、世界的に有名な某建築家のお弟子さんに拠る物で、まるで「ワンダーランド」。特にB氏の書斎は「オトナの秘密基地」と云っても過言では無い。

12:30 御宅のテラスでサンドウィッチ・ランチ。今回の仕事は将来を見据えての話だったので、B夫妻に娘さんをご紹介頂く。明るく聡明そうな娘さんで、そのご主人も見るからに良い人…然しこんなにも素晴らしい美術品達の中で育った感覚とは、一体どんな物なのだろう?

16:00 再びの作品拝見後、近い将来の再訪を約束してB夫妻宅を後にすると、クルーと共に近郊の実景を撮影。嗚呼、何と綺麗な海なのだろう!その後皆でシーフードの食事を終えると、僕の部屋でのインタビュー撮影。咳が出て困る。その後はベッドに倒れ込み、爆睡。


9月3日(土)
9:30 ロス国際空港にて、サンフランシスコ行きUA便に搭乗…が、滑走路に出てから濃霧の為に飛べなく為り、1時間程遅れる。

12:00 先着していたクルーと共に、今日会う顧客C女史のお宅へ車で向かうが、レイバー・デイ・ウィークエンドの為に大渋滞…結局ゴールデン・ブリッジを越える迄、2時間近く掛かって仕舞った。

14:00 やっと山中のC女史宅に到着。空気が綺麗で静か、その上人工物が視界に無く、鳥の囀りしか聞こえない素晴らしい環境だ。先ずはお互いの近況報告をし、テラスでランチ。その後早速作品を拝見…世界的に高名な学者だったC女史の父親が集めた、室町水墨画の大名品や白隠の軸を壁に掛けると、父親の思い出と共に作品を眺める。そう、美術品とは歴史と思い出とを運ぶ「タイムマシーン」でも有るのだ。この秋白隠に就いてレクチャー予定なので、白隠作品の特に「下絵線」を確り頭に焼き付ける。

18:00 作品拝見もC女史のインタビューも終わり、皆でイタリアン・ディナーへ。70代のC女史の健康を気遣っていたが、かなり元気そうで安心する。然し日本美術コレクターの年齢層は高い…若いシリアスなコレクターが出て来ない物だろうか?逆に今は日本美術を集めるのには非常に良い時期で、価格も手頃だし何しろライヴァルが居ない。何方か名乗り出ませんか?最高級の作品をご紹介出来まっせ!(笑)


9月4日(日)
9:00 連日の5時半起きでSF空港に向かい、ニューアーク行きのUA機に乗り込む。5時間半のフライト中、どの映画を見ようかと悩んだ末、選んだのは「Miles Ahead」(邦題:「マイルス・デイヴィス 空白の5年間」。本作は2015年、「ホテル・ルワンダ」や「オーシャンズ」シリーズで知られた俳優のドン・チードルが製作・監督・主演した、所謂マイルスの部分的伝記作品。他にユアン・マクレガー等が出演して居るが、最後の最後にウェイン・ショーターハービー・ハンコック、ゲイリー・クラークJr.等も画面に登場し、ジャズ・ファンをハッとせるし、「役柄」ではポール・チェンバースやギル、或いはビル・エヴァンスの名も出て来て、嘗てはポール・チェンバース+フィリー・リー・ジョーンズのリズム・セクションで、リーダー・アルバムを買って居た僕なんかは、ニヤリ。そんな映画の内容は、1970年代後半に5年間ミュージック・シーンから身を消したマイルスに焦点を当て、腰痛の為にドラッグや鎮痛剤で荒んだ生活を送って居たマイルスの再生を描くが(小川隆夫さんがマイルスを治療したのは、この頃だろうか?)、まぁ脚本もソコソコだし、何しろドンがマイルスに全く見えないのが難(笑)。が、これはこう云った伝記映画作品での例えば「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマンや、「Ray/レイ」でのジェイミー・フォックス、最近では「鉄の女の涙」のメリル・ストリープや「博士と彼女のセオリー」のエディ・レッドメイン等、外見もかなり似せた俳優と役作りの作品が多かった所為かも知れない。だが救いは音楽を担当したロバート・グラスパーで、マイルスへの尊敬が滲み出た曲を提供して居て、サントラが無性に欲しく為る…買わねば!そして本作を見たお陰で、今度はマイルスと全く同時代・別人生を送った白人トランペッター、チェット・ベイカーイーサン・ホークが演じた「Born to Be Blue」(邦題:「ブルーに生まれついて」)を観たく為った。

18:30(ニューヨーク時間) ニューヨークの自宅到着。街は連休の観光客で溢れんばかりだが、こっちは体調が悪過ぎて其れ所では無い。

19:30 母親からの電話で、僕が子供の頃から大変お世話に為った歯科医、I先生が亡くなられたとの報せを受ける。I先生は色白で背の高い、とてもハンサム&ダンディな方で、夜神楽坂を一緒に歩くと何処からともなく女性が出て来ては、「あらセンセ、今日は何方へ?」と何人もから聞かれる程。偶然にもメトロポリタン美術館のO氏の従兄弟さんでも有ったI先生のご冥福を、心よりお祈りしたい。その後、溜まりに溜まった郵便物の整理、洗濯等をするが、体が持たず撃沈…これぞ精神と肉体の疲労極致と云う感じ。


9月5日(月:レイバー・デイ祝日)
8:00 朝汗だくで起床。うがいと飲水の後、ベッドで室生犀星の「蜜のあわれ/われはうたえどもやぶれかぶれ」を読んで居たが、何時の間にか二度寝して居た…嗚呼、しんどい。

11:00 友人から「面白いよ」云われて見た、何とスパイク・ジョーンズが監督したKENZOのフレグランスの新製品のPV(→https://www.kenzo.com/en/kenzoworld)が、極めて良く出来て居てビックリする。劇中のこの可愛くも迫力満点の女性は、モデルだろうか?

13:00 朝昼食兼ねての出前を、中華料理店から取る。毛布を被り、その雲呑スープを啜りながら「ルパン三世 テレビ第1シリーズ」のDVDを観て居ると、某海外美術館学芸員から「至急電話を呉れ!」とのメールが入ったので、何事かと電話してみると、以前から購入委員会に掛けて居た数億円単位の屏風一双の購入が決定したとの事!風邪を忘れる位に興奮する嬉しい報せに、学芸員と2人で電話口で喜びを分かち合う。来年2月のその美術館の開館が待ち切れない。

16:30 毛布を被って、寝転がりながらキューブリックの「アイズ・ワイズ・シャット」のDVDを観て居たら、若い建築家の友人が果物やジュース等を持ってお見舞いに…嗚呼、持つべきモノは友人だ(涙)。それにしてもこの「アイズ・ワイズ・シャット」、完成後キューブリックは「クルーズとキッドマンの所為で、この映画はメチャクチャに為った」と云ったらしいが、そもそもこの夫婦役には何とスティーヴ・マーティン&ヴィクトリア・テナント夫妻を考えて居たらしいから「?」。そんなこんなで、映画自体の出来は兎も角、随所で用いられるショスタコーヴィチの「ジャズ組曲第2番 第2ワルツ」の旋律が甘美過ぎて、然もキューブリックの美しい映像に合い過ぎる程合って居るので、その為だけに何度も見返して仕舞うのだが、トム・クルーズは何度観ても信じられない位の大根役者(涙)。

20:00 入浴後、薬の効き目でウトウトしながら聴くホロヴィッツスクリャービンは最高。現実と夢の世界を往き来しながら、眠りに就く。


そして今週末からは、秋の「Asian Art Week」の下見会が始まる。中国美術セールでは某日本個人の宋磁コレクションや、メトロポリタン美術館の売り立ても…踏ん張らねば。


*お知らせ*
ー来る10月17・24・30日の3日間、渋谷のアップリンクにて、僕がエクゼクティヴ・プロデューサーを務めた映画、渡辺真也監督作品「Soul Oddysey–ユーラシアを探して」(→http://archive.j-mediaarts.jp/festival/2014/art/works/18aj_Searching_for_Eur-Asia/)が上映されます。本作は最近「インドネシア世界人権映画祭」にて受賞、各日上映後には畠山直哉國分功一郎森村泰昌の各氏と渡辺監督のトークが有ります。奮ってご来場下さい!詳しくは→http://www.uplink.co.jp/event/2016/45014

ー10月29日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿にて、「海外から見た禅画・白隠と仙突」と題されたレクチャーをします。詳しくは→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/704962b9-c35e-e518-3c8a-57a99c63c4e2

ー12月16日、19:00-20:30、ワタリウム美術館での「2016 山田寅次郎研究会4:山田寅次郎著『土耳古画考』の再考」 に、ゲスト・コメンテーターとして登壇します。詳しくは→http://www.watarium.co.jp/lec_trajirou/Torajiro2016-SideAB_outline.pdf