「下見会」と「トーク」、そして「変態ピアニスト」的動向。

12月8日(木)
10:00 今日から、来年3月15日にNYで開催される「藤田美術館所蔵中国美術品セール」の東京下見会。来訪予定だった現在美術界のヒーロー的存在のコレクターX氏が急病の為来れず、代わりに彼の財団の人達が来る。目玉作品の解説をビデオで撮って帰ったが、その担当者が漏らした「Xは『藤田箱』為らぬ、『X箱』を作りたいんですよ」との言に心打たれる。今時何と奇特な…その日が来るのが待ち遠しい限り。「藤田箱」とは藤田家が収蔵品に特別に作った、漆を塗った細工の素晴らしい桐箱の事。市などに出て来ても、一目で藤田家の物だと判る逸品。

11:00 東京下見会がスタート。開場からかなりの人が詰め掛ける。30点強がオークションに掛かる中から選ばれた半数程の展示品の内の目玉作品は、清朝乾隆帝所持の画巻六巻の内の「六龍図」や、商時代「青銅羊型犠尊」等の大名品。この2点は各々、恐らく20億円は超えるのでは無いか?と下馬評も高い。業界の誰かさんがこの「羊」を偽物と云って廻って居るらしいが、科学的調査も類品調査も完璧…証拠も提出せずに、如何にしてディスれるのだろう(嘆)?

11:30 最近某高額日本美術作品の購入を決めた、公立美術館と地方自治体担当者が来社し、その美術館にピッタリの或る海外コレクションを勧める為の打ち合わせ。

18:00 下見会初日終了…160人強が観に来たらしい。下見会終了時には有力顧客が来社し、億単位の価値の有るプライヴェート・セール用の桃山期重要作品を見せられ、やらせて頂く事に。その後は一緒に銀座へ出向き、老舗洋食店でディナー。ディナーの後は某美術館長が加わり、今最も銀座で忙しいと云われて居るクラブ「F」へ…銀座での「打ち合わせ」は実りが多い(笑)。


12月9日(金)
11:00 下見会2日目がスタート。14日に岡本太郎記念館で対談するシュー・デザイナー氏が来社。

16:00 初めて会う友人の美しき彼女が来社し、ドキドキする。美術好きの女性は何時でも魅力的、と思うのは僕だけだろうか?

16:30 クラシック・ギタリストや、小説家の友人夫妻等の友人達が来社。違う分野のエキスパート達と最高の美術品を観る歓びは代え難い。

18:00 2日間の東京下見会終了。2日間で300名近い来場者が有り、東京オフィスでの下見会来場者数の新記録樹立らしい。「伝運慶作大日如来坐像」の時より多いのか?…吃驚だ。

19:30 某番組ディレクターと、東京オペラシティ・ギャラリーで始まる山本耀司+朝倉優佳の展覧会「画と機」のオープニング・レセプションへ。嘗てそう呼ばれた「カラス族」が集結して居て、視界は真っ黒(笑)。朝倉優佳さんは友人「前のめり」夫人の娘さんで、未だ女子美の大学院生…華奢な姿からは想像出来ない大作が並ぶ。再訪してきちんと観ねば。

20:30 銀座で飲んで居た重要クライアントに合流…嗚呼、銀座の夜は無情にも更けて行く。


12月10日(土)
12:30 久し振りに神保町「豚大学」で、豚丼を食べる。「共食い」と云われ様が何だろうが、構わない…嗚呼、何て美味いんだろう!早く「学位」を取らねば(笑)。

14:00 来週僕が主催する、老舗骨董店の社長に為った同い年のK氏の為の「祝賀飲み会」の為に、日本橋の老舗骨董店を訪ね、記念品の物色をする。この会には、今は皆一流の古美術商に為って居る、僕が駆け出しの頃一緒に「Underbidders」と云う草野球チームをやって居たメンバーや、京城や上海、北京等に研修旅行をした仲間達が久し振りに集まる、楽しみ過ぎる会だ。あれから20年…お互い色々有ったが、僕とK氏との友情は変わらない。心からお祝いをしたい。

15:00 直しに出して居たジャケットを、銀座のブランドショップ「T」に取りに行く。この店のメンズ担当にK君は、旅行好きな本当に親切な店員さんなのだが、この店舗はクローズして、来年6丁目に出来る「GINZA SIX」に入ると云う…それまで、暫しの別れだ。

19:00 サントリー・ホールに向かい、和菓子職人の友人とクラシック・ピアニスト、ポゴレリッチのリサイタルを聴く。ポゴレリッチは個人的には大好きな現存ピアニストの三指に入るのだが、云って仕舞うと彼は「変態ピアニスト」(笑)で、何しろ独自過ぎるの解釈と遅い演奏が彼の個性。今回も最初に演奏したショパンの「バラ2」(バラード第2番 へ長調)等は、「この演奏を捧げられたら、シューマンは何と云うだろう?」クラスの「異曲」に為って居たが、それでも素晴らしい物は素晴らしい。そしてラフマニノフの「ピアノ・ソナタ第2番」や、アンコールでのシベリウス「悲しきワルツ」は、もう涙無くしては聴けない位、素晴らしかった…変態、恐るべし(笑)。


12月11日(日)
7:00 明日の藤田美術館セール下見会の準備の為、新幹線で大阪へと向かう。

10:00 大阪美術倶楽部にて、作品搬入の立ち会い、そしてセッティング開始。大阪は藤田美術館の地元、そして大阪美術倶楽部は嘗て藤田家が売り立てをした場所だけに、緊張する…愈々だ!

12:00 在大阪某美術館館長や古美術商、香港のディーラーが特別に下見に来る。

18:00 途中でヒューズ飛んで仕舞った為、ライティングに大苦労したりしたが、何とかセッティング終了…「こう云うシーンこそ、某番組は撮りたいのでは無いか」と某ディーラーに云われ、最もだと頷く(嘆)。暗目でシックな感じの展示と、受付の前に飾った「藤田箱」が雰囲気満点で満足する。然し今回のセールの青銅器と巻物の質は、何度観ても凄いなぁ。大阪美術倶楽部の皆様、ヤマト運輸の皆さん、有難うございました!


12月12日(月)
10:00 下見会スタート。16点の展示作品の内、矢張り人気は陳容「六龍図」と「鳳龍文羊型犠尊」だが、「六龍図」を含む六巻の巻物の「レシート」も話題に為って居て、「藤田箱」と共に「来歴の証明」の重要性を再認識させられる。これもオークションに出そうか…。

13:00 代々香雪美術館に出入りの古美術商から、今回出品されて居る「犠首饕餮文瓿」が香雪美術館蔵の物と同型で、然も同じ「藤田箱」との情報を得る。香雪美術館の図録で確認すると、この2つの瓿は藤田家に「対」で入った後、村山香雪家へと移ったとの事(香雪美術館の物の方が一回り小さい)古美術商に拠ると、彼の曽祖父が何と「自転車の後ろ」に積んで、藤田家から村山家へ運んだとの事…良い時代の良いコレクター同士の、良いエピソードでは無いか!

18:00 下見会終了と共に、レセプションへと移行…大阪美術倶楽部のT氏のご配慮に拠り、割烹「K」の素晴らしい料理と美味しいお酒で、50名程のゲストを迎える。

18:30 スピーチ・タイム。僕も一言と云う事で、コンサイナーや倶楽部への謝辞と共に「日本の美術館も、売買をしてもっと美術品を流通させるべきだ」「今回出品作品の数点でも、日本に遺す様にビッドして下さい」と話す…引かれちゃったかな?

20:30 レセプションも終わり、大阪下見会も無事終了。その後はT氏、当社スタッフと共に慰労食事会へ…Tさん、大変お世話になりました!


12月13日(火)
10:00 顧客の店を訪ね、近世風俗画屏風を観る。中々の出来だが、価格が…。最近人物画の人気が低く、花鳥山水の方が価格も人気も高い。個人的には残念。

11:30 市内某外資系ホテルにて、当社香港のCEOと打ち合わせ。来年度の目標等を話す。然し中国の人は現実的且つ短期決戦志向だ。

13:00 大阪某区で美容院を営む、奇跡の経絡マッサージ師の元へ。この人はNYの友人のお母様なのだが、信じられない「神の手」を持って居て、最中何度も痛さに悲鳴を上げるも、それだけの価値は十二分に有って、悩み大だった僕の坐骨神経痛も全く出なく為った…たった1回のマッサージで、で有る!今日も痛さ満点だったが、これで安心して年が越せるだろう。多謝多謝で有る。

19:00 東京に戻り、根津の小料理屋で13年振りに会う新聞関係者と食事。彼からのお土産は、13年前に彼が書いた僕の写真付きの記事。写真の僕は当たり前だが若くて、痩せて居る…自分的には今の方が余程好きだが。新聞社の企画展覧会や映画の話等頻りだったが、村上春樹ボブ・ディランの話が心に残る。次回彼のスタッフへのレクチャーを約束する。


12月14日(水)
14:00 DIC川村記念美術館美術館に行き、開催中の展覧会「レオナール・フジタとモデルたち」を観る。中々素晴らしい展覧会で、藤田のモデル遍歴と恋愛遍歴を俯瞰できる。然し展示された藤田の若い頃の写真を見ると、ゲイにしか見えないが、実際の所如何だったのだろう?勿論4回も結婚した事は承知だが、このナルシスティックな風貌とフェミニンな雰囲気は一体…。作品は各時代其々出品されて居て、晩年の少女像等は気持ち悪く見るに耐えないが、1920-30年代の白の女性像の美しさは矢張り際立って居る。また驚いたのは、巨大正方形カンバス作品群の「ライオンのいる構図」「犬のいる構図」「争闘I」「争闘II」で、これでもかと云う筋肉表現の群像図は迫力満点。その後常設展を観るが、世界に誇る「ロスコー・ルーム」は国宝に指定したい程に素晴らしく、100億超で売って仕舞ったニューマンに代わって飾られたトゥンブリーの絵画と彫刻の部屋も、かなり良い。然しニューマン、何で売って仕舞ったのだろう…。

19:00 岡本太郎記念館にて、アーティスト舘鼻則孝氏とのトーク・イヴェントにて登壇。舘鼻氏の開催中の展覧会「呪術の美学」に関連して、伝統芸能や伝統工芸、古美術と現代美術、縄文等に就て話す。多くの方に来場頂き、会場は超満員…来場して頂いた皆様、有難うございました!来場出来なかった方はコチラ→http://playtaro.com/blog/2016/12/14/katsurayamaguchixnoritakatatehana/

21:00 舘鼻氏、チーム舘鼻の女性両Sさんと氏が所属するギャラリスト金近氏との計5人で、裏表参道(笑)のエスニック料理店「T」で、打ち上げ食事会。初めて行った「T」だが、何を食べても旨スグル…大成功のトーク後の楽しい食事会、満喫しました!


そうして明日は、ワタリウムで「山田寅次郎」研究会。宗徧流家元・民間トルコ親善大使・製紙会社社長・出版社社長等、多彩な面を持つ異端の茶道宗家を探求します。乞うご期待!


−お知らせ−
*12月16日(金)19:00-20:30、ワタリウム美術館での「2016 山田寅次郎研究会4:山田寅次郎著『土耳古画考』の再考」 に、ゲスト・コメンテーターとして登壇します。詳しくは→http://www.watarium.co.jp/lec_trajirou/Torajiro2016-SideAB_outline.pdf

*僕がエクゼクティヴ・プロデューサーを務め、「インドネシア世界人権映画祭」にて国際優秀賞とストーリー賞を受賞した映画、渡辺真也監督作品「Soul Oddysey–ユーラシアを探して」(→http://www.shinyawatanabe.net/soulodyssey/ja/)が、好評の為、来年1月21・24・30日の3日間、渋谷のアップリンクにてリヴァイヴァル上映されます(→http://www.uplink.co.jp/event/2016/45014)。奮ってご来場下さい。、