「マロンチャワン」と「祝賀会」的近況。

12月15日(木)
10:30 オフィスにて某美術館館長と、これからの日本の美術館の在り方をよりアメリカ的にするかも知れない、との期待を持たせる、今僕が関わって居るビジネスのミーティング。それはどう云う事かと云うと、1人のコレクターにコレクションを購入して貰い、美術館に寄託して貰う。その事に拠って、コレクターは作品の保全が図れるし、美術館は寄託に因って展覧会の企画の幅が広がり研究も進む、と云う「ウィン・ウィン」な案件で、それが国立美術館ならば、コレクターの死後寄贈する事で節税にも為る。こんなビジネスが増えれば、日本の美術品の売買環境も変わるのでは無いか。

19:00 友人と参鶏湯を食べに、久し振りに麻布「G」へ。此処は学生時代からお邪魔して居るのだが、変わらず美味しい。高麗人参茶と共に、寒い夜にホッコリと暖まる。


12月16日(金)
10:30 オフィスで、藤田美術館の下見会のレヴュー・ミーティング。来場者数や新規顧客、クライアントのリアクション、設営の問題点等をレヴューする。今回の様な日本での下見会は、「買い手」を探すと云うよりも「売り手」を探す目的が強く、それは例えば来場者に「嗚呼、ウチにもこんなのが有るが、こんな値段付くのか…だったら売ろうかな?」と思わせるので有る。然しウチの営業達に拠ると、今回は「買い」に興味を示す日本人顧客も多いとか…個人的にも数点は日本に残したいと思って居るので、心強い。

12:30 若手有力古美術商と年末ランチ。美味しい蕎麦を食べた後は、彼のお店に寄って、以前一度観た事の有る垂涎の来歴を持つ黒茶碗でお茶を頂く…今年を締め括る最高の一服でした。

19:00 ワタリウムで開催された「山田寅次郎研究会」に出席し、ゲスト・コメンテーターを務める。イスラム美術の専門家、ヤマンラール水野先生の素晴らしい講演の後と云う事で大プレッシャーだったが、トプカビ宮殿に眠って居るかも知れない日本美術の名品の事や、「寅次郎のユーモアと冒険心こそが、真のインテリ国際人の矜持だ」等の話をする。ヤマンラール水野先生もユーモアの有る大変魅力的な方で、誠に楽しいレクチャーだった。

21:00 レクチャー後は、和多利家の皆さんと賑やかに食事…恥ずかしながら、僕自身が最も楽しんだ一夜でした。


12月17日(土)
9:00 重たい身体を引き摺って起き、珈琲を淹れながら、クラシック・ギタリスト村治奏一君の新譜「Collage de Aranjuez」聴いて、中年の身体を癒す…効果満点。

12:00 好天の下、友人と久々の代官山の「P」でピザに齧り付く…美味スグル。

14:00 国立新美術館に赴き、今回僕が1点貸し出して居る「Domani展」を観る。池内晶子と松井えり菜の作品に興味津々。

15:30 乃木坂から六本木アート・コンプレックス迄テクテク歩き、先ずはタカ・イシイで開催中の鈴木理策「Mirror Portrait」展へ。半透鏡を使ったポートレイト展だが、被写体が撮影者と顔を合わせないで撮られる所がミソ。小山登美夫ギャラリーの「ヴァルダ・カイヴァーノ展」では、アルゼンチン人女性アーティストの余白を活かした抽象絵画を楽しむ。云われてみれば、この作家の作品には「南米」臭が漂う。最後はシュウゴ・アーツで開催中の、戸谷成雄「森X」展。戸谷氏はもう68歳らしいが、チェーンソーを使っての、この制作パワーはスゴい。壁に掛けられた木彫レリーフの美しさに息を呑んだ。

16:30 隣のピラミデビルに移り、ワコウ・ワークス・オブ・アートで常設展を観た後は、隣のオオタ・ファインアーツで開催中の、南隆雄:Difference Between」展へ。南作品は国立新美術館で観たばかりだったが、それが直ぐに分かる程特徴的な作品だった。

17:00 階下の古美術店で、お抹茶を頂きながら店主に年末の挨拶。今年もお世話になりました。

18:00 都内ホテルの寿司店で、IT社長と禅僧との忘年会。禅僧の前妻の女流現代美術家が所属画廊を辞め、今はH女史にプロモートされてると聞き、吃驚。この晩呵々大笑した3人を繋ぐ政治思想家が今でも生きて居らしたら、今の日本の政治をどう捉えられるか…溜息が出る。


12月18日(日)
9:00 最近の僕の朝の音楽はクラシック・ギター付いてい居て、今朝は福田進一&作家平野啓一郎のコラボCD「マチネの終わりに」を聴く。この「映画音楽」為らぬ所謂「文学音楽」は、以前から僕が気にして居たニュー・ジャンルで(拙ダイアリー:「『文学音楽』のすゝめ」、「『歌うクジラ』:続『文学音楽』のすゝめ」参照)、持ってました!感が強い。美しいオリジナル楽曲、「幸福の硬貨」も必聴。

14:00 無人島プロダクションの藤城さんに招かれ、小泉明郎の新作映像作品「或る夢への儀式」のプレミア上映会へ。会場には小泉氏一家を始め、ゲストも高橋龍太郎氏他約20名。本作は既にオランダの美術館で展示されて居るとの事だが、この作品の前ギャラリーには昭和天皇の「解剖図」が展示されて居るらしい。そして本作は小泉が少年時に見た、敬虔なクリスチャンで有る父親が官憲に拠って連れ去られると云う夢を題材に、国家と天皇制問う。驚いたのは、作品の最後に顔を隠したコーラスが歌う「国歌 護国を祈る」と云う曲で、何処かで聞いたメロディーだと思ったら、そのメロディーはキリスト教賛美歌の「主よ御許に」で、何と歌詞は明治時代に天皇制賛美歌として変えられて居るとの事。靖国神社の隣のカトリック系私立校で6年間聖歌隊に属した身としては、妙に身につまされたが、流石小泉明郎の骨太作品だと感心。然しこの作品、ロケも嘸かし大変だったろうが、日本で公開出来るだろうか?

19:30 友人とダッシュで焼肉を食べた後、スティーヴン・フリアーズ監督作品「マダム・フローレンス!夢見るふたり」を観る。裕福な音痴の女性が、カーネギー・ホールでリサイタルを開くと云う実話をベースにしたコメディだが、メリル・ストリープは流石の演技で、ヒュー・グラントも相変わらず。英国映画なのにちょっと毒が足りない気がするが、本作では「献身的な夫で有れば、浮気をして居ても良いのか?」と云う問いの方が、重要な気もした。


12月19日(月)
11:00 古書店主3人と共に、オークション出品の可能性を探るミーティング。本屋業界も外国に販路を見出す時代だ。

19:00 毎年恒例、古美術商T氏&K君とやって居る「ジビエ忘年会」@六本木「M」。今回は、某私立美術館の女性学芸員2名をゲストに迎えて開催。「M」の親父さん自らが獲って来る金目鯛・鴨・猪・熊・鹿を、網焼きや鍋、そして塩・味噌で食す。此処で食べた後は、外に出ても全く寒くない位、パワー満点。

21:00 食後は皆で生演奏バーに移って一杯遣るが、其処では学芸員の先生方が各々弓道と器械体操の選手だった事を聞かされ、驚く。で、それでも足らずにもう1軒行ったのだが、気が付けば日付は変わって居りました…今年もお疲れ様でした!


12月20日(火)
12:00 NYの同僚Zが来日して居るので、神田の弟の店「I」でランチをご馳走する。Zは父親が中国人で母親が日本人、日中英、そして大阪弁の4ヶ国語を操る、元アーティストの才能豊かな女性。これから大阪・上海に行くと云う…こう云う社員が居るのが、クリスティーズらしい。

14:00 Zを連れて、ジャパン・オフィスへ。オフィスが杉本博司のデザインと知り、Zは昂奮頻り。

15:00 顧客に頼まれ、伊勢丹で現代「茶箱」の組み合わせを手伝う。今の「茶箱」は既にセットされて居る中から、例えば茶碗を違う作家の作品に替えたり、袋のデザインを替えたり、茶杓の素材を替えたりして、自分好みの取り合わせにする「茶箱」が流行って居て、値段も変わるが中身も変えられる点が、一から集めるより便利。旅先ではこれで十分に相違無い。

17:00 某業界人から、今晩放送予定の「開運!何でも鑑定団」に出ると予告されて居る「曜変天目茶碗」の事を聞かれたが、ノー・アイディア。茶人やテレビ・ディレクターを含めて、これで5人目だ。番組史上最高の逸品で「番組最高額」が出たとの事だから、本物なのか?

19:00 アーティストと六本木「K」で中華を。今年最後の「K」では、相変わらず大好物の胡麻平麺等散々食べ捲り。Kさんご夫妻にも大変お世話になりました!

21:00 ダッシュで自宅に戻り、「開運!何でも鑑定団」を観る。この新発見「天目茶碗」のオーナーは、三好長慶の子孫宅の改築工事を請け負った大工の息子で有る所の、ラーメン店主らしい。画面で見た限りでは、現在分かって居る三碗、即ち静嘉堂文庫美術館徳川家光春日局ー淀藩稲葉家ー岩崎小彌太ー静嘉堂文庫)・藤田美術館水戸徳川家藤田平太郎ー藤田美術館)・龍光院(津田宗及?ー筑前黒田家ー大徳寺龍光院)、またMIHO MUSEUM(油滴天目説も有り:加賀前田家ー大佛次郎MIHO MUSEUM)の作品を含めての四碗と比べると、その質はかなり劣ると云うしか無いが、本物なのだろうか?また、2500万円と云う値段も中途半端過ぎるが…。クリスティーズはこの春、油滴天目を12億で売ったので、近い将来査定依頼が来るかも知れない。

22:00 新発見「曜変天目」のお陰で、「逃げ恥」の最終回を観る事が出来た!「恋ダンス」のガッキーが可愛過ぎて、エンディングだけはYoutubeでも何度も観て居たのだが、一話を最初から最後まで観たのはこれが初めて。然しガッキーも然る事ながら、石田ゆり子がその年齢だと信じられない位綺麗なのと、リアル藤井隆妻の乙葉が全く劣化して居ない事に驚く。さぁ、シュー・デザイナーT氏と「恋ダンス」練習しなきゃ(笑)。


12月21日(水)
6:30 5時起床で新幹線に飛び乗り、京都へ…眠スグル。

9:30 京都国立近代美術館で開催中の、「茶碗の中の宇宙:楽家一子相伝の芸術」展を観る。何と云っても第1室に並ぶ16碗の長次郎が壮観で、当然「大黒」も「無一物」も、大好きな「白鷺」も素晴らしいのだが、「マロンちゃん」の異名を持つ僕が個人的に思い入れも思い出も有る、「茶碗界の『マロンチャワン』」こと「ムキ栗」との再会が一番嬉しかった。国に嫁ぐ前・重文に為る前の「ムキマロンちゃん」が懐かしい…。

12:00 大阪に住む20年来の顧客宅で、非常に状態の良い近世初期風俗画屏風一双を拝見する。その後半島からの陶工の茶碗で一服頂き、天満宮付近の鰻屋さんでランチ…関西風のカリッとした鰻を楽しむ。

19:00 中国古陶磁の老舗古美術店「繭山龍泉堂」の社長と為った、川島公之君の就任祝賀飲み会@神田「I」。川島君は僕と同い年、四半世紀前に僕がロンドンでインターンをして居た時代からの付き合いで、若い頃は一緒に飲んだり京城に旅行に行ったりして、未だに気の置けない友人だ。そしてその彼が鑑賞陶磁器界の大御所の社長に為った事が、僕は我が事の様に嬉しくて、祝賀会の幹事を申し出たのだった。正直云って、昔の仲間が皆今でも仲が良い訳では無い…業者も成長すると商売敵にも為るし、摩擦も有るだろう。が、今回集まった今昔の友人達20名の中には、京城・北京・上海等への海外研修旅行(名目だけ:笑)仲間や、「Underbidders」と云う世にも素晴らしくウィットの効いた名前の草野球チーム仲間(僕はショートで、川島君はキャッチャー、或いは監督だった)も居たし、出席者の中には十何年ぶりに会う人同士も居たりして、それだけでもこの会をやった甲斐が有ったと云う物。さて僕が生まれて初めてキチンとした骨董品を買ったのは、繭山龍泉堂からだった。それは「幾ら外国のオークションハウスだからと云って、骨董を扱うからには自分で買ってみないと、モノ等決っして分からない」と云う事を龍泉堂さんに叩き込まれたからで、それは今と為っては金遣いの面で少々恨みもあるが(笑)、実際自分を真の顧客の立場に置くには、それしか方法は無いので有る…感謝してもし尽くせない。川島君は既に長老の風格を持ち(実際若い頃からだが…)、業者の会の会主を務めたり、メディアでも大活躍して居るが、これからも身体だけは大切にして、マイペースを守り、日本の古美術品業界の改革に務めて頂きたい。川島君、本当に御目出度う!


今年も後10日。


−お知らせ−

*僕がエクゼクティヴ・プロデューサーを務め、「インドネシア世界人権映画祭」にて国際優秀賞とストーリー賞を受賞した映画、渡辺真也監督作品「Soul Oddysey–ユーラシアを探して」(→http://www.shinyawatanabe.net/soulodyssey/ja/)が、好評の為、2017年1月21・24・30日の3日間、渋谷のアップリンクにてリヴァイヴァル上映されます(→http://www.uplink.co.jp/event/2016/45014)。奮ってご来場下さい。