34年前のメリー・クリスマス。

ニューヨークの気温は−8度迄下がり、滅切り寒く為った。

就任を約1週間後に控えたトランプの、色々な意味での「勢い」は衰えず株価も好調な侭だが、オバマの「フェアウェル・スピーチ」を聴くと、如何に両者の間にインテリジェンスの差が有るかが判る。そしてそのオバマの実績をどうこう云う人も多いが、個人的には此れだけの大統領を持ったアメリカ人は誇りに思うべきだと思うし、オバマは単に非白人系初の大統領だと云う事のみならず、歴史上に残る人物だと信じて止まない。大統領、大変お疲れ様でした!

で、今日は先ずは「ラウンジ・シンクロニシティ」のお話。

飛行機での移動とは面白い物で、同じ路線に何度も乗って居ると、期せずして連続的に同じ知り合いと同じ便に為る事が有って、それはNY在住者であればNY⇄日本での仕事と移動のサイクルがお互いに同調して居るらしく、NYや東京の街中でどんなに会って居る人でも、空港ラウンジで全く会わない人も居る事を考えると、全く以って不思議で有る。

そんな「ラウンジ・シンクロニシティ」に関する少々身につまされる(?)話を、海外某都市在住のアーティストA氏から聞いた。A氏は仕事柄、その都市と東京を1年でもかなりの回数往復する所謂「フリークエント・フライヤー」なので、マイレッジのグレードも最高、ビジネスクラスに乗る際も当然「ファーストクラス・ラウンジ」で時間を過ごす事が出来る。

さてそのA氏には、同じ都市に住む宿命のライバルとでも呼ぶべきアーティストB氏が居て、この2人のアートは全く異なる正反対の種類の物で有り、その生き方も含めて、お互いを全く相容れない。が、普段その街でも日本でも決して会わないそんな2人に限って、東京便を待つラウンジでバッタリと一緒に為る事が多いのも宿命(笑)…これは、そんな或る日の物語。

ラウンジでA氏は、宿敵B氏の姿を見つける。オトナなA氏はB氏に勿論会釈位はするが、遠く離れた席に陣取り、会話等は決してしない。そして時間が来て、搭乗開始のアナウンスが有ると、2人は徐に立ち上がり各々ゲートへと向かったのだが、そのゲートから飛行機迄の間にA氏は怒り心頭と為って仕舞う…それは最高のマイレッジ・グレードにも関わらず、日頃慎まやかなA氏がビジネスクラスへ向かったのに対し、その日B氏はファーストクラスへと向かったからだ!

「むぅ…同じファーストクラス・ラウンジに居たのに、何で奴がファーストで、俺がビジネスなのだ?同じ飛行機で彼奴の『下』に乗る事等、出来ん!」

と怒りの収まらないA氏は、地上スタッフを捕まえると、急ぎファーストへのアップグレードを頼む…何と云っても、マイルは腐る程持って居るのだから。

そしてA氏は何万マイルかを使って、無事ファーストクラスへとアップグレードをし、B氏には澄まし顔を決め込んで東京迄のフライトを楽しんだ訳だが、A氏が僕にこの話を語った時、彼はこう最後に付け加えたのだった。

「でもね桂屋君、 僕があのBに対抗する為に、今迄一体どれだけ『無駄なマイル』を使ったか分かるかね?」(笑)

閑話休題。さてA氏とは全く違う状況だが、今年から本仕事の傍らK大学で客員として教える事に為った僕は、今回の日本からの帰りも、此処の処良く一緒に為る「教授」と再び同便搭乗と相成った。

そして昨晩は、その「教授」の若き日(31歳時!)の姿を観る事に…ジャパン・ソサエティで上映された、「Merry Christmas, Mr. Laurence」(「戦場のメリークリスマス」)で有る。ご存知「戦メリ」は1983年大島渚作品。僕はこの映画をリアルタイムで観て居るのだが、それがもう34年前、大学に入った年だったとは驚きだ。

出演者も教授を始め、たけしやジョニー大倉内田裕也内藤剛志室田日出男等当然だが皆若くて、金田龍之介も懐かしい。が、今回この作品を34年振りに再見して驚いたのは、本作には女性が1人も出て来ない事と、爆撃等の所謂戦争シーンが全く無い事、そして全編を通じてそこはかと無く感じるホモ・セクシャル感だった。

また外国人俳優達の演技が、主演・脇役を含めて総体的に良く、此処まで自然に外国人俳優を外国映画の様に使い熟せた日本人監督は、大島以外には居ないのでは無かろうか?それ程この作品での大島の演出は、輝いて居ると思う。

そして、デヴィッド・ボウイ。彼が亡くなった時、 僕は彼とクリスティーズ・ロンドンのウェアハウスで、2人っきりでこの映画の事を話した事を思い出したのだが(拙ダイアリー:「手と指の力」参照)、この作品中のボウイは当時36歳(因みにたけしとボウイは同い年)で、軍服を脱いで背中を見せるシーンも艶かしく、それから6年後に会った彼の未だ瑞々しかった姿を思い出させた。

34年と云う年月は長い…ボウイも大島も死に、たけしは顔の形を変える程の事故に遭い、教授は現在闘病中。そして世界はこの映画中のハラとローレンスの様に、未だ最終的に理解し合えずに居る。

当時大学生に為ったばかりだった自分を思い返す事は困難だし、そんな事に興味も無い。が、34年前の「戦メリ」が、日本映画としては時代を先取りした作品で有った事だけは確認出来た。

ラストで「Merry Christmas, Mr. Laurence !」と、或る意味「救い」を求めたので有ろうたけしの顔が、今は街やテレビでも余り見掛けない、極めて「日本人的」な顏だった事も…。


−お知らせ−

*僕がエクゼクティヴ・プロデューサーを務め、「インドネシア世界人権映画祭」にて国際優秀賞とストーリー賞を受賞した映画、渡辺真也監督作品「Soul Oddysey–ユーラシアを探して」(→http://www.shinyawatanabe.net/soulodyssey/ja/)が、好評の為、2017年1月21・24・30日の3日間、渋谷のアップリンクにてリヴァイヴァル上映されます(→http://www.uplink.co.jp/event/2016/45014)。奮ってご来場下さい。