「人生は地獄より地獄的である」。

先週末、本当に久し振りに映画「地獄変」をDVDで観た。

1969年東宝製作、豊田四郎監督の本作は、ご存知芥川龍之介宇治拾遺物語から題材を取った同名短編を基にした、彼の「芸術至上主義」を具現する作品。

主演の渡来人絵師に仲代達矢藤原道長をモデルとした「堀川の大殿」に中村(萬屋錦之助、絵師の娘に内藤洋子と云った配役、龍之介三男の芥川也寸志が音楽を担当して居て、流石の出来栄えで有る。

階級社会の中で奪われ、牛車の中で焼死させられる娘の様迄を見せられた絵師は、それでも「地獄絵」を描き上げ、大殿に献上する。最終的には因果応報…大殿は狂い、絵師は縊死するのだが、絵師の描いた「地獄絵図屏風」は名作の誉を得る、と云う話だ。

そんな劇中の仲代と萬屋の演技は、今の俳優の誰が演れるだろうかと思う程抜群で、「階級」と「アート」の関係性、そして「芸術的リアリズム」の極致が原作者とダブる、大名作だと思う。

この映画「地獄変」の最後にテロップで出て来るのが、今日のダイアリー・タイトルの「人生は地獄より地獄的である」と云う一文なのだが、実はこれは原作「地獄変」に出て来るセンテンスでは無く、芥川の「侏儒の言葉」内の「地獄」と云う箇所に出て来る。

この一文の意味は言わずもがなだと思うが、「侏儒の言葉」ではこの後にこう続く…。

 

地獄の与える苦しみは一定の法則を破ったことはない。(中略)

しかし人生の与える苦しみは不幸にもそれほど単純ではない。(中略)

こう云う無法則の世界に順応するのは、何びとにも容易に出来るものではない。(後略)

 

この映画を観た数日後の今日、9回目の「3.11」がやって来た。

そして「3.11」に起きた事は、被災された方に取って当に「地獄より地獄的」だったろうと、「地獄変」のテロップが脳裏にこびり付いて仕舞った僕は、改めて強く感じた。

今日のテレビ報道等ではコロナウィルスの報道がメインで、今日が「3.11」で有る事すら忘れそうに為って居た人も居たのでは無いか。

「忘れない努力」は絶対的に必要で、それは国や自治体の務めでも有るにも拘らず、「復興五輪」に代表される様に、現政権が放つ根拠無き言葉のいい加減さは最近余りに目に余り、原発政策や東電の後始末も侭為らない。

然しこんな状況下でも、我々はこのまま東京オリンピックが開催されようが中止になろうが、コロナウィルスが蔓延しようが退治されようが、決してこの日を、「地獄より地獄的な人生」を過ごして居る人達を忘れてはいけないと思う。「3.11」も「コロナ」も「無法則な世界」の産物…受け入れ難いが、忘れない事でしか未来は無い。

犠牲者の方のご冥福と1日も東北の早い復興を、改めて、心よりお祈りをして、今日はお終いとしたい。

 

ーお知らせー

*「日経産業新聞」内のシリーズ企画「アートはビジネスに役立つか」の第5回(→https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57322410X20C20A3000000/)に寄稿しています。大変内容のある本企画、是非ご一読下さい。

*「日経マネー」5月号(3/20発売)内「Money Interview」(→https://www.nikkeibpm.co.jp/item/mon/639/saishin.html)にて、インタビューが掲載されています。ご一読を!

*3月21日付「文春オンライン」に、インタビュー(→https://bunshun.jp/articles/-/36541)と拙著「美意識の値段」からの「怖い話」の抜粋(→https://bunshun.jp/articles/-/36555)が掲載されました。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*3月4日付「日刊ゲンダイDigital」にて「美意識の値段」の書評が掲載されました(→https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/269858)。

*3月1日付ウェッブ版「美術手帖」にて、インタビューが掲載されました(→https://bijutsutecho.com/magazine/interview/21362)。

*2月28日付朝日新聞デジタル&Ⓜ︎」内のインタビュー、「クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力」(→https://www.asahi.com/and_M/20200228/9915737/)にて、インタビューを受けました。

*2月21日の夕刊フジ、22日の西日本新聞の書評に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました。

*2月15日産経新聞内「本ナビ+1」で、永青文庫副館長橋本麻里氏が拙著を取り上げて下さいました(→https://www.sankei.com/life/news/200215/lif2002150018-n1.html)。

*2月15日付日経「新書」にて「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.nikkei.com/article/DGKKZO55630490U0A210C2MY6000/)。

*2月5日の日経MJ内「使える読書」で、「美意識の値段」が取り上げられました。

*1月22日の産経新聞書評欄に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.sankei.com/premium/news/200122/prm2001220002-n1.html)。

*「J-CAST ニュース」内「BOOK ウォッチ」(→https://books.j-cast.com/2020/02/12010854.html)、「Bur@rt ぶらっとアート」(→https://kobalog.jp/burart/2020/01/aesthetics-and-prices/)にて、「美意識の値段」が取り上げられました。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。是非ご一読下さい!

*雑誌「Pavone」54号内の特集「ART: Timeless Value 永遠の価値を求めて」(→http://www.pavone-style.com/culture/art_202001_1.php)で、オークションに就いての取材を受けました。是非ご一読下さい。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2020年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。