「インターステラー理論」を実践する。

12月4日(月)
19:00 友人と久々の中華「K」へ。Kさんご夫妻もお元気そうで安心しながら、相変わらず超美味しい「胡麻麺」や「蒸し豚薬膳ソース」等を堪能する。帰り掛けには、この冬から着て居る軽くて暖かいヨウジ・ヤマモトのフード付きコートを褒められ、照れる…僕が服の事で他人様に褒められる事等、人生に於いて殆ど無いし、Kさんはその昔有名ファッションブランド「B」に居た人だから。

20:30 食後は甘い物でも食べて帰ろうと、西麻布「C」へ行きケーキ(当然モンブランだ!)を注文して居ると、隣の席に客が来たのでふと見ると、何とイケメン古美術商のT氏。今後「甘いモン」の場所を変えねば…ここはもう危険だ(笑)。


12月5日(火)
15:00 久し振りにワタリウムに向かい、石巻男鹿半島での展示も結局観れ無かった「リボーンアート・フェスティバル東京展」を観る。現地の展示とは勿論違うだろうが、それでも見応え十分の展覧会で、特にカオス・ラウンジのVR作品「地球をしばらく止めてくれ、僕はゆっくり映画をみたい」に驚く…あの「憑依感」は独特で、エンターテイメント性十分。観覧後は館長姉弟とお茶をし、歓談。最近のアート・マーケットやダ・ヴィンチの「救世主」に就いて等話す。


12月6日(水)
9:00 3ヶ月毎の定期健診+血液検査。実は僕は知る人ぞ知る「検査フェチ」で、血を抜かれる時の快感や、気の小ささを紛らわす為の「検査結果待ち」期間が何とも堪らない(笑)。一週間後、検査結果に一喜一憂するのが待ち遠しい…。

19:00 若い友人とサントリーホールに向かい、ワレリー・ゲルギエフ指揮・マリインスキー歌劇場管弦楽団庄司紗矢香のコンサートを堪能。ゲルギエフはNY時代から何度聴いても素晴らしく、個人的には現存するコンダクターでは随一だと思う。インターミッションでは、バーで現代美術家S氏とバッタリ会い、一緒に居た超童顔の友人を見たS氏に「あれ、今日はお孫さん連れ?」と言われてショックを受けるが(笑)、マリインスキーは流石に鍛えられた弦と菅での透徹で力強いベルリオーズ幻想交響曲」、そして庄司紗矢香の方は、非常に難しく体力を使うショスタコーヴィチの大名作「ヴァイオリン協奏曲 第1番」を熱演し、大満足の一夜と為った。

21:00 コンサート後は、その孫的友人と老舗イタリアン・レストラン「C」でディナー。此処は僕が未だ学生の頃、ガキが決して足を踏み入れられない「オトナの店」として有名で、人生の先輩達に連れられて店のドアを開けると、例えば篠山紀信加賀まりこが入り口付近の椅子に陣取り、睨みを利かせて居たりした恐ろしい店。そんな若かりし時代の或る日、思いっ切り背伸びをして女の子を連れてこの「C」に来て、メインより前菜を多く食べた方が安上がりだろうと高を括り、前菜を沢山頼んだ結果、支払い時にチェックを見て卒倒しそうに為り、その後2ヶ月間大貧民生活を余儀なくされた…と云う過去を思い出したので、前菜は程々に、そしてバランス良くデザート迄頂く。

23:00 その友人が以前から美味しいと云って居た「しっとりおいしいイタリアの栗」を一袋持って来て呉れたので、家に帰って早速食べてみると、これがまた最高にウマい!真空パックされた剥き栗はほんのり甘くて柔らかく、確かに「しっとりおいしい」…早速オトナ買いオーダーして仕舞ったワタクシ。


12月7日(木)
9:00 ルーブルアブダビが自館のインスタグラムで、ウチが売った「ダ・ヴィンチ『救世主』がやって来る」と発表したのを知る(→https://www.instagram.com/louvreabudhabi/)…そうだったのか⁉︎これで尚更アブダビに行かねばならない…僕が売った大名品日本美術品を観る為にも。

17:00 今年大変お世話に為った茶の湯者と某美術館長との3人で、今年を締め括るお茶をする。茶の湯者の茶室に入ると、床には「救世主」の代わりに(笑)相客館長のお名前の一字を含んだ季節の横物の二字墨跡が掛けられて居て、「館長はこれを『号』とすべきだ!」と盛り上がる。そして各々激動の1年を振り返りながらの、アジの凄い高麗茶碗と和物茶碗で頂くお茶は格別だったが、今年本当に色々有った僕には師走独特の少々感傷的な茶と為った。その後は近くの中華「S」に向かい、乾杯後、カリカリと香ばしい北京ダックやモチモチ餃子、トマト炒飯からシメのプルプル杏仁豆腐迄を堪能。このメンバーでの「忘年茶」ならば、本当はもうひと方居る筈だったのだが、その方の噂話もかなり出たので、今頃クシャミどころか大風邪を引いて居るのでは無かろうか(笑)。今年の僕は或る意味常に茶の心と有り、それもこれもこの方々のお陰…感謝の気持ちで一杯です。


12月8日(金)
11:00 オフィスで今プライヴェート・セールとして手掛けている、各々200点近い2つの日本美術コレクションの作品リスト作り。アシスタントの女性スタッフのHさんとUさんのフル・サポートに感謝。

15:00 作品調査と価格設定の為に家に戻り、作業続行。そうこうして居ると、某有名コレクターから久し振りにメールが来たので、読んでみると何とコレクション売却の相談で吃驚…コレクターの世代交代を実感する。家の書庫とリヴィングを行ったり来たりしながらの仕事中の僕には弛めのBGMが必須で、この日はメゾ・ソプラノ、フレデリカ・フォン・シュターデの「フォーレ歌曲集」(僕は「夢のあとで」を愛して止まない)や、最近入手した「グレン・グールド 坂本龍一セレクション バッハ編」(16日のコンサートが楽しみスグル)、大橋トリオ「Blue」等。


12月9日(土)
13:00 某美術館を訪ねる為、箱根へ…かなり寒くて震えるが、綺麗な空気と自然に癒されながら、登山鉄道から眺める景色を楽しむ。その帰り、電車の時間迄散策した箱根湯本の駅前商店街で見つけた「焼きモンブラン」を買って食べてみると、これが恐ろしく美味い!パリパリの外見に、マロンが1つゴロリと入って、甘さも控え目…箱根湯本に行ったら、隣の店の「小田原ドック」と共に必食だ!


12月10日(日)
18:00 ニューヨークから帰国中の友人と、再びゲルギエフ+マリインスキーの今回の日本最終公演を聴く為にサントリー・ホールへ。この晩のゲスト・プレイヤーは第11回チャイコフスキー・コンクールの覇者、デニス・マツーエフ、演目は「オール・ラフマニノフ・プログラム」で、ピアノ・コンチェルト3番&4番、そして「交響的舞曲」で有る。会場に着くと、恐らくは外務省関係の背広組の姿が多く、ピアニストの松田華音さん、最近連続してクラシックコンサートで会うT大のI先生やH先生の顔も見える。開演前にはロシア大使館の外交官と政治家らしき日本人が舞台上で挨拶したが、その演説が長くてウンザリ…僕は「音楽」を聴きに来たのだから、能書きは要らない。そして始まった音楽会は、相変わらずマリインスキーの弦と菅は素晴らしく、マツーエフの演奏も完璧なのだが、彼のピアノには何故か最後迄共感出来なかった…完璧過ぎたのだろうのか?

21:00 広尾のイタ飯屋「A」でディナー。席に通されると、隣の席から「桂屋さん!」との声が。えっ?と思い振り返ると、其処には日本よりもヨーロッパで会う機会の多い古美術商のK氏の顔が!1週間に2度も行きつけの店の隣席で、然も今迄何年もこれだけ通って居ても、唯の一度も仕事関係の人に会わなかったのに、危険過ぎるでは無いか(何が?…笑)。此処でもモンブラン・パイを頂く。


12月11日(月)
10:00 オフィスで今年の総括ミーティング。今年のクリスティーズは、手前味噌だが云って仕舞えば「ダ・ヴィンチ」と「藤田美術館」に尽きる。会社の業績がこれだけ良いのだから、来年のボーナスが楽しみだ…が、古人曰く「取らぬ狸の皮算用」と。

12:30 VIPコレクターと、都内ホテルの天麩羅屋で年末のご挨拶ディナー。今年も大変お世話になりました。食後は何時もの甘味処「T」で、きな粉安倍川餅を頂く。

15:00 安藤忠雄事務所に5年務めたニューヨークの友人と、3度目の安藤忠雄展@国立新美術館へ。会場は相変わらず超満員だったが、矢張り大建築家の側に居た人の解説は貴重で、裏話を含めて大変勉強に為る。そんな裏表を含めても、安藤忠雄とは日本人としては稀なるタフでスケールの大きい人物だと思うし、家を建てるなら僕が今最も依頼したい建築家だ。ウチの社主フランソワ・ピノーの、パリのプロジェクト完成が待ち遠しい。

19:00 ここ何年か仲の良いYさんが独立して銀座に店を構えたので、お祝いのしゃぶしゃぶディナー。未だ30を出た所なのに、その実力に脱帽。店に飾るアートの相談を受ける。


12月12日(火)
19:00 友人とCharのコンサート@六本木EXシアター。年齢層が高く、Charのオヤジギャグも全開。だが、ギターだけは未だ凄い。その後は西麻布「H」で創作イタリアン夕食…ブラッタチーズと苺の組み合わせに悶絶する。

23:00 先週の血液検査の結果が、担当医からメールで届く。見ると総コレステロールが、上限を少し超えて居る以外は満点で、これでまた食えると安心する…が、「上限を超えて良いのは、オークション・エスティメイトだけだ」と職業的に反省する(笑)。


12月13日(水)
7:30 頑張って早起きし、新幹線で京都へ。愈々大学客員教授としてのスタート…緊張するなぁ。

10:30 大学前にひと仕事。初めてお会いする某収集家を訪ねて作品を拝見するが、最後に或る絵画が出て来て吃驚…非常に重要な作品で、興奮を抑えるのに必死。

13:00 京都造形芸術大学に向かい、初授業2コマ。去年のAO入試で会った学生達との再会を喜びながら、用意したパワーポイントで早速授業開始。あれから1年半…彼等は成長し、僕は年を取る。光陰矢の如し。

18:00 長年お世話に為って居る、浮世絵商のYさんご夫妻とディナー。京都の冬と云えば「コッペ(コウバコ)蟹」…いやぁマジ美味いっす!その他ぐじや百合根饅頭、海老芋揚げ等を堪能…冬の京都の食はネ申だ。

21:00 Y氏とY氏行きつけの、曰く「熟女キャバ・カラオケバー」(笑)へ。大塚博堂松山千春等を久し振りに歌うが、カラオケ自体久々だったので余り調子が出ない。「涙をふいて」と「熱き心に」…偶に聞くといい曲だなぁ。


12月14日(木)
11:00 嘗て同僚だったZと、久し振りに会ってランチ。Zはご両親は中国人だが、本人は日本で生まれ育ったトリ・リンガルな才女で、墨絵を描くアーティスト。彼女は今日本に戻って来て居るのだが、後で京都の大学で教鞭を取って居られるZのお母様もジョインすると云うので楽しみ倍増。そのZのお母様は、会ってみると一目で分かる程知的且つオープンマインドな素晴らしい方で、映画や音楽、芸術全般を心から愛する者同士の共感を得て、話が弾む。そんなお母様は、僕が偶々食後に頼んで居たマロンシャンティ風モンブランを見ると、やっぱり!と仰る…僕の栗好きもご存じだったのには驚いたが、然し良い意味で「この母にして、この子有り」を体感した、嬉しくも心温まる出会いでした。

13:00 昨晩ディナーを御馳走になった、Y氏の新門前通のお店で学生達と待ち合わせをし、版画や肉筆の体験授業。これは僕の企画なのだが、やはり美術品は実物を見ねば分からないので、これからアーティストに為る人は、必ず「ホンモノ」を沢山観るべきだと思う…と云う理由で、Y氏のご厚意に拠り浮世絵の摺りの順番や版木、メディアとしての浮世絵を実物を見たり触ったりしながら学べる彼等は幸せ者だ!最後には自分が1番好きだった作品を皆の前で発表しその理由を述べる、と云う内容で1限目は終了。

15:00 2限目は新門前から縄手に移動し、別の古美術店での講義。此処でも店主Y氏のご厚意に拠り、屏風や茶碗、漆作品を見せて頂く…のだが、用意された屏風が17世紀と思われる、プロが観ても驚く中々良いモノで、思わず学生達を押し退けたく為るが(笑)、此処は授業と云う事で必死に我慢。そしてお茶碗の方は、桃山の某美濃焼を学生達に1人ずつ実際に触って貰う。学生達は丁度2ヶ月程前に自分達で楽焼茶碗を造って居たので、その意味でも茶碗に触れる彼等の眼や手は真剣そのもの…Y氏も「無理矢理キズを探す骨董屋でも、此処迄真剣に見いへんな〜」と笑う程だった。各々触れた後に感想を聞くと、自分の作った茶碗との高台や釉薬の違い、口辺の作りの素晴らしさ等を机を挟んで座る僕に熱く語る学生達に、僕の心も熱くなった。お二人のYさん、本当に有難う御座いました!

17:30 そのY氏と祇園「T」で、おばんざいディナー。此処でもコッペ蟹や河豚唐揚げ、自家製カラスミや蕪蒸し等、京の冬味を堪能…もう、京都ラブとしか云えない。

20:00 新幹線で帰京。車中、和多利月子編著「明治の男子は、星の数ほど夢を見たーオスマン帝国皇帝のアートディレクター 山田寅次郎」を読み始める。以前僕も登壇させて頂いた「山田寅次郎研究会」を開催する、ワタリウムの和多利月子さんの新著だが、彼女の祖父で有る山田宗遍流家元の数奇でアドヴェンチャラスな生涯は、何度読んでも面白い。


12月15日(金)
10:30 オフィスに行くと、開店祝いをしたお礼にYさんからお菓子が届いて居て、開けて見ると中津川の和菓子店「S」の栗のお菓子!栗餡が葛に包まれて居て、この上なく美味いっ!流石Yさんのお見立てと感心する。

11:00 来月僕がインタビュー記事に登場する「陶説」の、原稿校正。取材の折に撮影して貰った写真の中にかなり気に入った写真が有ったので、編集主幹のM氏に欲しいと言ったら頂けるとの事。遺影に使って欲しい位、気に入ってます(笑)。

13:00 重要顧客と、今手掛けて居る某コレクションのプロモート・ミーティング。決まると良いなぁ。

18:00 六本木のギャルリー・ペロタンで始まった、アーティスト加藤泉の版画展のレセプションへ。小品から大作迄、加藤の新たなる試みへの情熱が見える作品ばかり。加藤氏も荒谷さんもお元気そうだったが、その体調を支える神の手マッサージ師の方をパーティー中に紹介される。僕も早くお願いしたい!

19:00 会社の忘年会@「S」。「S」はここひと月で4回位来て居るので、目新しくはないが、コースには入って居ない美味い料理を追加注文する役目を仰せ付かる。皆さん、一年お疲れ様でした。


僕が勝手に、僕と誕生日が一緒のクリストファー・ノーランに敬意を表して「インターステラー理論」と呼んで居るのだが、若い人や今迄会った事の無い人と会ったり、今迄した事の無い事を経験したりすると、自分の老化を鈍化・遅延させる事が出来る、と信じて居る。

此処の所それを意識して実践中な訳だが、人生54年目の年も後2週間…大嫌いなクリスマスがそろそろとやって来る。


ーお知らせー

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/6bd74df6-bb02-1d16-5bf1-59fafec5021f

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

体験藝術覚書。

ー展覧会ー
・「Aomori Printトリエンナーレ2017」審査会:「棟方志功国際版画大賞」の審査員を仰せ遣い、雪降る青森に向かう。今回の応募作は凡そ170点で、技法も木版・エッチング・リト・インクジェット・エングレーヴィング等様々、テーマも古典的な物から現代的な物迄揃い、レヴェルも中々に高い。審査員は僕の他に青森県美の高橋さん、京都市芸大の大西先生、都現美の近藤さんと日本版画協会理事長の磯見氏の計5人。2日間に渡り審査し、結局僕イチオシの少々過激なテーマの大型木版作品は優秀賞に入賞したが、個人的に物凄く欲しい一作(笑)。1つ面白かったのは、地元の高校生に圧倒的人気の有った作品がどれも入賞しなかった事で、「世代間ギャップが有るのかな?」と首を捻ったが、審査後の彼等へのレクチャーの際にその事を確認出来ず、残念。入賞・入選作品の展示は、青森県美で2月3日から。

・「Here and Beyond この現実のむこうに」@国際芸術センター青森:雪が積もり、より美しく佇む安藤忠雄建築の国際芸術センター青森で開催中の、「アーティスト・イン・レジデンス2017秋」。日本、中国、インド、シンガポール、フランスからの5組の参加アーティストに拠る展示だ。ボイス的、或いはもの派的作品にも思えるが、特に本山ゆかりの「デジタル・ドローイング」に惹かれる。

・市村しげの「相対的関係/Relative Relation」@Sh Art Project:ニューヨーク在住の現代美術家市村の新作展。アクリル粘土を丸め、今迄の作品の様にドットを配した、見方に拠っては例えば心電図の様にも見える新作群が新鮮。同世代なのに、新しい展開を生み出す作家の情熱に脱帽。

上田義彦「林檎の木」@Tomio Koyama Gallery:生命、特に「木」に愛着を示す写真家上田の新作展。印画紙の白と、8X10で撮ったにも関わらずミニマイズした美しい「林檎の木」とのコントラストが美しい。

・藤本由紀夫「Stars」@Shugo Arts:ランダムな音を「描く」藤本作品は、その欠落したオルゴールの音と紡がれるイメージの蓄積が心を揺さぶる。本作は18本の音の連作アートだが、2本位なら家に欲しいと切に思う程音が美しく、それと同時にデュシャン、ケージ、そしてシェーンベルグの芸術をも追体験出来る。

・「小野田實」@タカ・イシイギャラリー:「具体」の第三世代で有る小野田の、初期から晩年迄の作品で構成される展覧会。胡粉とボンドで起伏を持ったキャンバスに描かれた円は、時にフラジャイルで草間の作品の様にも見えるが、有機的に思える…自身が「繁殖絵画」と呼んだのも宜なるかな


ー音楽会ー
・益田正洋&川瀬佑介「スペイン!ギターと絵画の交わるところ:スペインは何故アルハンブラを想い出したのか?」@北とぴあ・つつじホール:ジュリアード時代からの友人クラシック・ギタリスト益田正洋と、国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介のコラボ企画。この企画コンサートに行くのは2回目だが、益田君の素晴らしい演奏と、川瀬氏の軽妙且つタメに為るお話は相変わらず楽しい。今揺れているカタルーニャや、嘗て訪れたグラナダコルドバ、或いはセビーリャに想いを馳せる、心温まるコンサートだった。

辻井伸行「音楽と絵画コンサート」@オーチャードホール:前半は辻井本人の曲、後半はクラシックのピアノ曲を、モニターに映る写真や印象派の名作絵画で彩る企画のコンサート。個人的にはモニターに映る印象派等要らないが、自作曲「ロックフェラーの天使の羽」は12歳時の作曲と云うから、矢張り辻井の才能は凄い。そしてラヴェルの2曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「水の戯れ」が、何よりも素晴らしかった…ラヴェルの曲は、運指の都合や曲調が辻井に非常に合って居る様に思う。

小菅優「Four Elements Vol.1:Water」@オペラシティ・コンサートホール:顧客から勧められて、初めて聴いたピアニスト。確りとした固い演奏だったが、最後の一音から指を離す際の残音が、何時も気に為って仕舞う。「水の戯れ」は辻井の演奏の方が柔らかく僕好みだったが、武満の「Rain Tree Sketch I&II」は繊細且つ大胆で惚れる。

・ピエール・ロラン・エマール(P)、シャルル・デュトワ(C)、NHK交響楽団「オール・ラヴェル・プログラム」@NHKホール:この音楽会は如何なるコンサートでも今年1番と云っても良い位の、素晴らしい演奏会だった!何しろデュトワN響の信頼関係が素晴らしく、お互いにリスペクトして居るのが演奏からヒシヒシと感じられる…こんな空気を感じる事は中々無い。その上ラヴェルデュトワ/エマールの仏軍とN響の相性もバッチリで、特に今晩のエマールの神がかった「左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調」は、とても左手一本で演奏したとは思えない恐るべきパフォーマンスで、僕は今日のこの演奏を一生忘れないと思う。そしてクラシックのコンサートではでは余り感じる事の無い、愉悦極まりない「グルーヴ」に乗って迎えた最終曲「ボレロ」では、そのフィナーレを迎えるともうNHKホール全体が揺れ、ステージも客席も歓喜の拍手と興奮の笑顔に包まれたのだった!終演後、この日ステージ上でチェロを弾いて居た中学の同級生Fと会うと、彼も興奮の面持ちで「最高だった!」と僕に語り、エマールとデュトワへの賛辞を惜しまなかった。そう、こんな凄い演奏を聞いた僕は本当にラッキーだったし、そして僕はやっぱりラヴェルを心底愛して居るのだ。


ー舞台ー
・「スーパー歌舞伎II ワンピース」@新橋演舞場:個人的にはかなり苦手な新作歌舞伎だが、本作は違い、ハッキリ云ってかなり良かった!普段歌舞伎座では見掛けないタイプの、大勢の女性客で満員の演舞場は、猿之助不在でも右近の頑張りで活気に満ち、「ワンピース」を全く知らない僕ですら楽しめた(劇中若い友人に、登場人物の相関関係等を教えて貰ったりしたが)演出も良く出来て居る。カーテンコールでは猿之助や「ゆず」のカッコイイ方も登場し、後ろの席でもう何回も観に来て居ると声高に話す、所謂「追っかけ」客達も大興奮で、此処迄コアなファンが多いと拍手が起こるタイミングも皆一緒で、何処か「ロッキー・ホラー・ショウ」的楽しみも有るのだろう。また観てみたい。

・「二十周年記念公演 第九回三響会」@観世能楽堂能楽大鼓葛野流宗家亀井広忠、歌舞伎囃子田中流宗家田中傳左衛門、歌舞伎囃子方田中傳次郎の三兄弟の、第9回公演。猿之助負傷の為、当初予定されて居た演目の変更も有ったが、こちらも普段能楽堂では見掛けない観客で満員。正直能舞台で鳴物を見るのは、未だ違和感が有るのだが、然しこの日の「船弁慶」等は、演出も良く考えられて居たと思う。観世喜正師の謡は朗々として居て、何度聞いても素晴らしい。

・「Fantasia: 1st season」@浅草ロック座:来日して居るニューヨークの友人夫妻に誘われ、数十年振りの浅草ロック座へ。僕がNY最後の晩に一緒に飲んだ友人の音響エンジニアが、その晩連れて居た女の子がダンサーとは聞いて居たが、何と彼女はストリッパーで、然しバレエ・ダンサーとしては「ローザンヌ国際バレエコンクール」のセミ・ファイナリストだと云うからスゴい。若い女の子の観客も見掛けた客席は清潔、そしてそのダンサーの彼女も含めた5人で鑑賞した7つのステージは、「全部見せて居るのに、チラリズム」を感じさせる、「ムーラン・ルージュ」「クレイジー・ホース」的な内容で、ショウとしてのレヴェルがかなり高く飽きない。その点エロさは足りないのかも知れないが、ダンサー達の鍛えられた肉体は美しく、公演後紹介された芸大出の若い演出家や、「土蜘蛛」並みのリボン投げのプロ(投げた後、伸び切った時点で巻き戻すテクニックがスゴい!)、一度は食べてみたい500円のエビピラフやカレーも出すバーカウンターで黙々と働く綺麗な女の子、システムを教えてくれたお礼に外国人観光客に通訳して上げた受付の若い男迄、昭和感の残る看板のロゴマーク等、ロック座は絶対にもう一度行きたい!と思わせるショウワ・ジャパンな場所だ!然しハマったらどうしよう…(笑)。


ー番外ー
・茶室「雨聴天」茶室披@小田原文化財団「江之浦測候所」:現代美術家杉本博司氏20年来の夢が叶った、複合文化施設「江之浦測候所」…其処に建つ待庵写の茶室「雨聴天」の席披きにお呼ばれ。杉本氏の大事なイヴェント時には荒天が定石だが、この日は信じられない位の晴天で吃驚する。が、良く考えれば茶室名「雨聴天」とは、雨の日にトタン屋根に当たる雨音を愉しむ事が故なのだから、この日こそ雨が降らねばならなかったのでは無いか(笑)…何ともお天気の神様は気紛れだ。それはさて置き、抜ける様な青空の下、紅葉の中根津美術館旧蔵の「明月門」を通り、元興寺法隆寺の礎石に歴史を眺め、まるでタオルミーナ風の鏡の様な海を臨みながら、五右衛門風呂にピッタリな焚火野点席での杉本氏自らの白湯手前を頂いた後、僕の親戚筋でも有る奈良屋旧蔵の門を潜り、愈々「雨聴天」へ。この日の相客は有名料亭の若女将と有力古美術商で、杉本氏と小柳氏、そして点前をする千宗屋氏に拠ると、最も気楽な席との事で安心。躙口から床を見ると、某所に在るモノと違わない墨跡、茶碗風格の黒楽、そして武将の茶杓に眼を見張る建水…ー嘗て祖先が戦の中、秀吉の為に茶を点てたこの場所で、400年の歳月を経て濃茶を練る若宗匠はさぞ感慨一入だったろうと思うが、客の我々もその感慨を共有し、素晴らしいお茶を頂いた。そう、この「江之浦測候所」は巨大なタイムマシンで有り、日本文化の墳墓と未来で有り、日本人の記憶細胞が鏤められた祭壇なので有る。


気が付けば12月…命短し、恋せよ男。


追伸:先程、能楽太鼓方観世流宗家後嗣の観世元伯師が亡くなったとの報を受けました。元伯師は気さくで、気高く且つパワフルな演奏の出来る素晴らしい囃子方でした。然し51歳とは若過ぎます…残念でなりません。心よりご冥福をお祈り致します。


ーお知らせー

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/6bd74df6-bb02-1d16-5bf1-59fafec5021f

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

藝術的に濃蜜な5日間。

11月15日(水)
9:00 全米で最も高額な土地に建つ顧客宅に向かい、終日査定業務。顧客が高齢の為、此処連日僕が全て遣った作品の出し入れ等で疲労が溜まって来て居るが、然しこの仕事をやって居て良かったと思う一瞬は、コレクターと共に作品を観ながら語らい、彼の思い出話を聴き乍ら「この素晴らしい作品を扱うチャンスが、僕には有るのだ!」、或いは「何百年生き延びて来た作品を又これから大事に残すと云う、歴史財産存続の手助けをするのだ」と思える時だ。

18:00 顧客宅を辞去し、ホテル前の日本食料品店のフードコートで「山頭火ラーメン」を食べる。醬油味が既に懐かしい。

20:30 空港へ向かい、チェックイン。ラウンジでは余りに美味そうなアジアン・ヌードルを頂いて仕舞ふ。自己嫌悪。


11月16日(木)
5:30 ANA便が、羽田に到着。深夜0:30に現地を出て、飛行時間と時差でこの時間に日本に着くと、丁度眠れて宜しい。今回機内ではたった1本だけ映画を観たのだが、それは「A Ghost Story」…デヴィッド・ロウリー監督の本作は、タイトルから想像する様なオカルトでもホラーでも無く、一風変わった、然し非常に切ない作品で、どうしてもジャンル分けするなら「ファンタジー映画」だろうか。主演は前回のアカデミー主演男優賞のケーシー・アフレックと、ルーニー・マーラ。ネタバレしたく無いので詳しくは書かないが、主演のアフレックは全編を通して略「白い布」を被り、観客からは眼の動きすら見えない状態にも関わらず、それがアフレックだと確り判る演技力を発揮。そしてストーリーは甘く切なく、寂しい。日本公開は未だだと思うが、サンダンス映画祭で絶賛された本作、超オススメだ。

10:00 ウチのニューヨークの現代美術セールに出品されて居た、ダ・ヴィンチの「Salvator Mundi(救世主)」、通称「ラスト・ダ・ヴィンチ」のセール模様をライヴ映像で観る。110億円程のエスティメイトと云われて居たが、何とそのハンマープライスは4億ドル…手数料を含めると510億円だ!今迄オークションに於ける如何なる美術品の中でも史上最高価格だった、ピカソの「アルジェの女たち」(拙ダイアリー:「ピカソの『才色兼備な女たち』が作った『世界新記録』」参照)の倍以上の高値で記録を更新。然し1枚の絵画作品の価格が此処迄来ると、何と無くもう美術品では無く「カネ」としか考えられない…そして日本美術の余りの安さに呆然しながら、ダ・ヴィンチの500億よりも、藤田美術館の300億の方が日本に取っては大ニュースな筈だし、議論されるべき事象なのに…と落胆する。日本人は本当〜〜に外国ネタに弱い。

18:30 友人と有楽町で公開中の映画「Ryuichi Sakamoto: CODA」を観る。このドキュメンタリーは、5年間に及ぶ教授の音楽制作・思索の記録で、監督は「ロスト・イン・トランスレーション」のプロデューサー、スティーヴン・ノムラ・シブル。「被災ピアノ」から「レヴェナント」、咽頭癌罹患、そして「戦メリ」「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」等の過去の作品の制作を振り返りながら、教授の「音」への志向の変化を辿る。僕は教授は日本人の中、いや世界でも20世紀最大のメロディー・メーカーの1人だと思って居るが、それは彼が世界の一流監督との「映画音楽」の仕事の大きな成果なのだと思う。そして劇中本人も云って居る様に、『「制約」の中での「自由」の獲得』と、常に自分より高いレヴェルの芸術家や芸術作品に触れ(例えばベルトリッチやタルコフスキー、ボウルズ)、会い、学び、そしてそれを凌駕しようと藻掻き苦しまなければ、優れた芸術作品は生まれない、と云う事を再認する。来月草月ホールで開催される「Glenn Gould Gathering」が、益々楽しみに為って来た。

20:30 映画後は昔日本に住んで居た時に良く行って居た、銀座の馬焼肉「K」で食事。相変わらず美味しくヘルシーな肉刺し、鬣、ヒモ肉とカルビの焼肉、馬汁を堪能。マスターが僕を憶えて呉れて居て、とても嬉しい。その後は斜向かいに在る、此れも馴染みの喫茶店「M」で、名物「和栗のモンブラン」を友人と半分ずっこ。昔から居る気の良いベテラン・ウェイトレスが気を利かせて、モンブランを最初から半分に切って皿に乗せて出して来たので、最初何が出て来たのか分らなかったが、「男同士でも、僕達は1つのモンブランを突いてシェアしたかったのに…」と冗談で云ったら(笑)、彼女は恐縮頻りで謝ったので、却って悪い事をした罪悪感に苛まれる。


11月17日(金)
17:00 森美術館に向かい、「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」のオープニング・レセプションへ。レアンドロ金沢21世紀美術館の「プール」の恒久展示作品で有名なアルゼンチンの作家だが、日本では初の大規模な個展と為る、椿玲子学芸員渾身の展覧会だ。この展覧会は子供から大人迄楽しめる、エンターテイメント性も満点。混む前に是非訪れて頂きたい。

19:00 天王洲の銀河劇場へ行き、友人が出演して居る舞台「この熱き私の激情」を観る。ロビーでは弟夫婦にバッタリ会い、ビックリ。さてこの舞台は、カナダの作家ネリー・アルカンの特異な作品をマリー・ブラッサールが演出、出演は女優と女性ダンサーの7名のみ、そして舞台は娼館と云う、女尽くし・女塗れの演劇。舞台セットは、キューブ形の9つの部屋が2階建に設えられ、各部屋には各々「幻想(芦那すみれ)」「天空(小島聖)」「宙に浮いた姉の金色の魔法」「血(霧矢大夢)」「星の金色の魔法」「神秘(初音映莉子)」「影(松雪泰子)」「蛇(宮本裕子)」そして「失われた(奥野美和)」と名前が付けられて居る。36歳でこの世を去った作者のアルカンは、自らが娼婦の経験が有り、本作品で女達に語られる極めて過激で象徴的、且つ絶望的な言葉の数々は、女優達の熱演と共に観る者の心を抉る。かなり良く出来た舞台なのに、空席が目立って居たのが理解出来ない。まぁ日本人、然も一般向きでは無いか…。


11月18日(土)
9:00 「親孝行ウィークエンド」のスタート。母と新幹線で待ち合わせて熱海に向かい、MOA美術館で開催中の展覧会「千宗屋キュレーション 茶の湯の美ーコレクション選」見学と、その関連イヴェントで有る茶会に出席。若宗匠を始め、FやU等の美術館館長や大阪・京都・名古屋の道具屋さん達にもバッタリ会って仕舞い、そう為ると母を紹介せざるを得ないので、恥ずかしながらこの日は母の「業界デビュー」の日と為る(笑)。長次郎の「あやめ」や大井戸「本阿弥井戸」、牧谿の双幅「蓮に鶺鴒、葦に翡翠図」等、展示された茶道具のコレクションも流石のMOAだが、然し茶会での濃茶席主茶碗だった長次郎焼黒茶碗の「箱」が、子孫了入に拠る「陶箱」な事に驚愕。その陶箱は何処と無く光悦風の面取りの作で、大き目の茶碗と思って使えば、飲めなくも無さそうだったが、ご丁寧に紐穴を開けて焼いて居るので、漏れて仕舞ふ事止む無し…然し、こんなの初めて見た!

20:00 予定されて居たディナーがドタキャンされて仕舞ったのだが、都合良く学生時代の先輩N氏に誘われたので、シャンパンを一本抱えてN氏の若い友人のフェアウェル・パーティー@ウエスティン・ホテルへ。スイートを借り切ったパーティーの主役は、メキシコ人と結婚する為に移住する24歳の可愛いMさん。N氏の交友範囲には驚くばかりだったが、その場の慣れない雰囲気に戸惑う。その後、彼女やその友人が僕の母校出身だと知り少々安堵するが、然し違和感は拭い切れず、N氏を置いて早々に退散…何と無くルーザー気分を噛み締める。

22:00 今日茶会で会った方々から、メール等届く。幾つに為っても、息子が母親と一緒の所を見られるのは何故か恥ずかしい…何故だ?(笑)


11月19日(日)
11:00 「親孝行ウィークエンド」の2日目は、国立能楽堂で開催された「片山幽雪 三回忌追善能」。11時から18時前迄の長丁場だが、母の体調の事も有り、お能二番を中心に15時半過ぎ迄観能。一点難を言えば、番組が詰め込み過ぎで休憩が短く、客がランチを取る時間が無い。況してや国立の食堂は食事が出て来るのが遅いのだから、勝手を云えば観客の腹具合も少々考慮した番組作りをして欲しかった。さて会は連吟「加茂」から始まり、お仕舞六番を経て、最初のお能は観世宗家の「海士 二段返・解脱之伝」。囃子方は藤田六郎兵衞、大倉源次郎、亀井広忠、小寺佐七(番組には観世元伯師と有ったが、小寺師に変わって居た。元伯師、お具合が悪いのだろうか…心配だ)各師のオールスターキャストで、源次郎師の最初の一音の素晴らしさと、宗家の優美な舞(謡い出しがかなり強くて吃驚した)、そして銕仙会の面々に拠る力強い地謡を堪能する。能二番目は今日の真打、片山九郎右衛門師の「三輪 白式神神楽」。出演者が入って来て、小鼓と大鼓の後見に源次郎師と亀井忠雄師が座ったのにも驚いたが、ワキの宝生欣哉師が声も謡もお父さんそっくりに為って来た事にも驚く。そしてこの「三輪」でも、地謡観世銕之丞梅若玄祥、観世喜正各師を配する強力ラインナップだったが、個人的にはシテが余りにヒューマン・フェミニン過ぎて、「神」感が少々足りない気もした…如何だろう?

17:00 母と都内ホテルの中華「T」でディナー。何時も通りの蟹卵入り鱶鰭スープや北京ダック、エビチリ等に加え、何時もと違う物を食べて見ようと、春巻や東坡肉、海鮮焼きそばを食す。母が食欲旺盛で安心する。

20:00 時差ボケでウトウトしながら、久し振りに家でノンビリし、最近古書店で入手した小林秀雄私小説論」初版を読む。この初版本の装丁は青山二郎で、古書店のショウケースに並んで居たのを偶然見つけ、即買いしたモノ。骨董を間に育まれた、2人の愛憎半ばする「友情の証」を読み進む悦びは、秋の夜長にピッタリ。BGMは中学の同級生でN響チェリスト藤村俊介の、ヴァイオリニスト大宮臨太郎とのコラボ盤「コダーイ:二重奏曲」、デザートはファミマの新製品「濃栗プリン」…嗚呼、何て癒されるのだろう。


然し濃い5日間だったなぁ…。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、上記国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は朝日カルチャーセンター新宿(03-3344-1941)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

時差ボケの「ここんとこ日誌」。

10月30日(月)
11:00 重要顧客が来社し、打ち合わせ。その顧客の顧客が、或る絵師の作品で飾られた部屋を作りたいらしい。ブームというのは恐ろしいモノだ。

12:00 その顧客と久し振りに銀座の洋食店「Y」に行き、メンチカツ・ランチを頂く。昔東京オフィスが銀座に在った頃に良く来た店だが、味も、何気無く壁に掛って居る梅原龍三郎のデッサンも変わっては居ない…嬉しい限り。

19:00 オペラシティ・コンサートホールでの、クラシック・ピアニスト松田華音のリサイタルへ。彼女のピアノを聴くのは、2年前のロシア大使館以来だが(拙ダイアリー「『追いかけない』歳末動向」参照)、彼女の演奏、そして外見もあれから大分大人っぽく、且つ艶っぽくなった…そしてその事実は、実に素晴らしかったムソルグスキーの「展覧会の絵」の演奏に、見事に反映されて居た。


10月31日(火)
10:30 香港のボスと電話会議。マネージメントの人間は、現場のスペシャリストが作品を、況してやコレクションを引っ張って来るのがどれだけ大変かを知るべきだ。作品が手許に無ければ売る事、利益を出す事等出来る訳が無いのだから。そしてそんな事も分からん人間がスペシャリスト達を評価をするのだから、出世や報酬に差別的格差が出るし、例えばどんな功績を上げたら給料やポジションが上がるかもハッキリしない…やっとられんわ。

19:00 頼んで居た茶碗と湯呑の直しが出来たとの事で、依頼した修復家とその茶友で有る編集者、そして某老舗ディーラーの娘さんを交えて、目白「B」でディナー…不昧茶会の事等を話す。この店は料理も大概美味しいが、シメの欧風カレーが天国的にウマ過ぎて、炭水化物ダイエット実行者には地獄。


11月1日(水)
9:30 朝から所用有って、実家の在る地区の市役所へ。全く役人ってヤツは…。

19:00 顧客と銀座のしゃぶしゃぶ店「Z」でディナー。老舗のしゃぶしゃぶ店に良く有る、炭を使っての「銅の煙突付き鍋」が泣かせるが、周りの外国人観光客の団体がまるで「フットボール観戦でもしてるのか?」位の勢いで騒いで居て、煩過ぎ、イラつく。が、僕の席に付いたウェイトレスさんがかなり面白い人だった事と、デザートの「トップス」のチョコレートケーキで少し心が和らぐ。その胡桃の入った「トップス」のチョコレートケーキで思い出すのは何時も父親の事で、僕が高校生だった頃、夜更かしして深夜2時位に喉が渇いて2階の自室から降りて来ると、何故か台所の電気が付いて居る。不思議に思いソッと中を覗くと、父親が扉を開けた冷蔵庫の前に椅子を持って来て座って居るでは無いか。「親父、何してんの?」と背後から声を掛けると、父親はハッとして振り向いたのだが、その左手には箱入りの細長いトップスのチョコレートケーキのホール、そして右手にはスプーン、口元はチョコレートで汚れて居た。幾ら大好物でも、夜中にスプーンで端からホール・ケーキを食べなくても…とも思ったが、今と為ってはその気持ちも分からないでは無い(笑)。


11月2日(木)
9:00 NYからのLINEで、若い女性の友人に赤ちゃんが産まれた事を知る。目出度い…Sちゃん、御目出度う!それにつけても何時も思うのだが、人生は誕生と死の繰り返しで成立して居て、新しい生命の誕生は、僕には同時に死んで行った者を思い起こさせるのだ。

10:00 家で作品調査中に、先日某オークションで売ったその売上金で買った写真作品が届く。僕は写真作品は殆ど持って居ないのだが、この一見恐ろしい作品は、その恐ろしさが故に惹かれる。

15:00 オフィスにて、来日中のロックフェラー家当主デヴィッド・ロックフェラー夫妻と会い、藤田家のご兄弟を紹介する。ロックフェラー氏のお父様の本に掲載されて居る写真に、ロックフェラー氏と藤田伝三郎夫妻が一緒に写って居る写真が有る事からこの面会が実現したのだが、藤田氏に拠ると何とその写真中の人物は伝三郎氏では無く、その長男で有る平太郎氏夫妻と判明…ロックフェラー氏はメモを取り、次の版では訂正すると約束。何れにしても名家ならではの、時代を超えての子孫同士の微笑ましい面会と為った。


11月3日(金・文化の日
10:00 昨日アーティストの佐藤允君から届いて居た「スタジオ・ヴォイス」最新号、「Alternative Eroticism ゆらぐエロ」特集を見る。すると、手紙らしき物が挟まれたページが有り、そこを開いてみると、パンツ一丁で緊縛された元々ハンサムな佐藤君が、妖しく此方を見つめる。そして手紙には到底此処には書けない内容の絵と云うかイラストと云うか、図解と云うか…(笑)。佐藤君、有難う!

14:00 21_21 Design Sightへ向かい、「野性展:飼いならされない感覚と思考」展を観る。本展のディレクターは中沢新一で、此処から既に興味深いが、南方熊楠からしりあがり寿迄フィーチャーされ、内容も秀逸。僕は常々「心の中の野性の『余地』」=「未だ飼いならされて居ない場所」を大事にして来たタイプだから、本展への共感度は異常に高い。隣で開催中の吉岡徳仁「光とガラス」展と共にオススメ。

15:30 サントリー美術館「狩野元信展」へ再来訪。やっぱ正信より元信でしょ(笑)。そして、去年売った伝元信の「四季花鳥図屏風」を再び思い出す。良い作品だったなぁ…。

19:00 NYで知り合ったアーティストIさんとH君の2人と、神保町「M」で肉ディナー。其処へウチの会社の同僚Kと、その友人で元画廊勤務の金融Dさんがジョインし、盛り上がる。その後は皆でウチへ移動し、家飲み四方山話。その中で僕が皆に糾弾されたのが、「女性をサシでお能に誘うのは良くても、映画はダメ!」と云う話で、「食事や飲みは良くても、映画や舞台はダメ!」と云う女性も過去に居たが、一体全体何処がそんなに違うって云うんだ(怒)⁉


11月4日(土)
13:00 若い友人と代官山で待ち合わせ、ヒルサイド・フォーラムで開催された「第4回CAF賞作品展」へ。このコンペは前澤友作氏率いる現代芸術振興財団主催で、若手現代美術家の育成を目的とした物で有るが、今年の展覧はその入選作品以外にも、「123億円」バスキアを初めとする前澤氏所有の作品も飾られ、話題を呼ぶ。若手作家の作品を観て貰う為に、自分のコレクションを呼び水に使う氏に敬意を表する、良い展示でした。帰り際には財団の方々にご挨拶。

15:00 その友人と「ブレードランナー 2049」を観る。ハッキリ云って、素晴らしい!一緒に行った友人は、1982年のオリジナルを観て居なかったが、それでも内容は追いかけられるし、前作を観た者に取っては、オマージュだらけの面白さも有る。ヴィルヌーヴのシットリとした映像も良いし、脚本も大変ヨロシイ。然し前作でのレプリカントが、何と「2017年年生まれ」だった事にはビックリ…サイエンスは僕等が思ったより進歩して居ない。今回の舞台は2047年だから、再び30年後の近未来を描いて居るが、僕はその頃84歳…科学の進歩の結果が見られるだろうか?

18:30 若い友人は今迄、猪も熊も鹿も食べた事がないと云ふ…ので、六本木「M」でディナー。魚、猪と鹿を焼き、最後は猪熊鍋。突然の冷たい雨でも、十二分に暖まる。


11月5日(日)
11:30 今晩初めて行く生花教室の為に、ミッドタウンの「木屋」に行き、「団十郎」花切鋏を買う。何故「団十郎」なのかと聞くと、木屋四代目が九代目団十郎の贔屓だったそうで、今で云うパテント契約を結んだと云う…僕が買うに相応しい鋏では無いか(笑)?

12:30 運慶に関するレクチャーに来てくれた、元同僚Yさんとランチ@「U」。「ハーフ」サイズでも普通の一人前より多い位のサラダを突きながら、20年振りにお互いの近況を語り合う。「ハーフ」為らぬ「ミックス」(最近は「ハーフ」とは云わないらしい…)のYさんは、以前と余り変わらずお綺麗で、然し2人の男の子の母としての威厳も出て居る。僕はこのYさんを含めて、10組弱結婚式でスピーチをして居るが、未だに誰も離婚をして居ない(と思う)のが自慢だが、どんな事でも人の事は上手く行くモノだと熟く思う。

18:30 現代美術コレクターY氏が経営する三宿のカフェ「S」で月一回開催される、慈照寺銀閣)の元花方で、今と為っては京都造形大で僕の同僚でも有る、珠寶さんに拠るお花の教室へ。今回が初めての参加だったが、珠寶さんが選んだ10種類位の花を各々取り、自ら持って来た花器に生けた作品を先生が手直ししてくれる、と云う手順。当然上手く行く訳もないが、先生に「余白を活かせ」と教えられ、室町水墨画を思い出しながら、ギャラリストK君等と一緒に頑張る。その後は珠寶先生を囲んでのディナー。


11月6日(月)
9:00 渋谷黒田陶苑から届いた、山田山庵の茶碗展の図録を観る。「今光悦」とも呼ばれた山庵は、そもそもは金融業を営む実業家で、茶道具商も創業…半泥子のタイプの数寄者陶芸家だが、その茶碗は実に魅力的…欲しく為る〜(笑)。

11:00 某刀剣商の店で武具甲冑の世界的エキスパートに会い、プライベートセールの為に研ぎ上がり、写真を撮られた素晴らしい刀を共に観る。 僕の刀剣の知識等ハナクソ・レヴェルだが、元来神宝で後に人を切る武器と為り、然もこれ程美しい「美術品」は他に類を見ない。恐らく海を渡る史上最高クオリティの刀と為るだろう…。その後は皆で打ち立て蕎麦のランチ。

16:00 オフィスにて、某百貨店美術部関係者と某プロジェクトの打ち合わせ。「ジャポニズム」がもっと流行しないかなぁ…。


11月7日(火)
14:00 有力浮世絵商に会い、写楽北斎の作品を幾つか見せて貰う。最近北斎の値上がりが凄く、ちょっとオーヴァー・ヴァリューでは無いか?と思う程。高く売れるのは良い事だが、世の中それだけでも無い。

17:00 香港と電話会議。そんなに何でもかんでも進まないよ。


11月8日(水)
9:30 某大学美術史教授から着電。僕が昔売った、或る凄い来歴を持つ最高品質の肉筆春画のセットの写真を、来年出る某有名美術誌の特集号に出したいとの事。

11:00 某古美術商の所で、掛軸を拝見。流行りの絵師のモノだが、この絵師の作品の真贋は年々甘く為りつつ有り、まるで嘗ての北斎の肉筆の様。

14:00 オフィスにて、某学会誌のインタビュー。名物編集のMさんは長年この世界で活躍、青山二郎白洲正子の時代から現在迄、古美術の世界に住む魔物達と付き合って来た、優秀且つダンディーな方。来年掲載されると云うから楽しみ。因みに対談風景の写真を撮りに来たのは、現代美術家杉本博司氏のお弟子さんだった。

17:00 重要顧客が作品を持って来社。専門家が来る迄、お預かりする。

18:00 某重要顧客と銀座「G」でディナー。斜め向かいの席には、東京五輪でも役が付きそうな、有名ファッションデザイナーも居たが、略満員の客は大概が「同伴」組。何時もの様にオードブル数品、冷製コンソメ、サラダ、そして野菜たっぷりの「シチュー・ア・ラ・モード」を頂く(当然ご飯は無し!)。さてデザートの段に為って、マダムが「今日は孫一さんの大好物の、『洋梨のシャルロット』が有るわよ!」と云うので、僕も顧客にも強く勧めた末注文したのだが、一度それを受けたマダムが急いで引き返して来て、「ゴメン、今日は作ってなかった!」と云ふ。期待が大きい程落胆も大きい…何だよ!と云うと、代わりに「マロンと芋のシャンティ」が有ると云うので、それを食べたら僕の機嫌はアッサリと治った(笑)。単純。


11月9日(木)
10:00 今日の深夜便で海外出張に出るので、荷物の準備。

15:00 有力浮世絵商を訪ね、プライベートセールの為の写楽の大首絵を拝見。状態はそれ程良く無いが、印象と色の残りはかなり良い。これなら、若しかしたら行けるかも知れん。

20:00 迎えの車に乗り、羽田空港へ。車中、今別件で他部門とトラブっている顧客と、空港に着く迄の粗全時間を話に費やす。

21:00 ラウンジで、小カレーを食べて仕舞ふ…中々美味しい。深夜便だと乗ってから食事を摂るのは時間的に厳しいので「仕方無い」と思い、小牛丼も(涙)。

23:00 搭乗口でかなり待たされるが、その時同乗者に個性派有名女優Mが居る事に気付く。彼女はイライラして居て、歩き回って居たが、スッピンの素顔は年齢を感じさせない綺麗さだった。搭乗し席に座った途端に爆睡。僕としては極めて稀だが、一本も映画も見ずに過ごす。


11月9日(米国時間)
16:00 飛行機は結構遅れて到着。そこから車でラッシュの中2時間半近く掛けて、漸く現地ホテル到着。疲労困憊。

21:00 軽く夕食を取り、時差ボケ対策もない侭、もうだめだ…とベッドに倒れこむ。さぁ、明日から頑張らねば!


皆さん、おやすみなさい。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、上記国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は朝日カルチャーセンター新宿(03-3344-1941)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「異風」堂々な近況。

10月20日(金)
11:00 日本橋・瀬津雅陶堂で始まった「第九回雅展 南都」を拝見。瀬津勲氏による「雅展」には何時も驚かされるが、今回も腰を抜かさんばかりの激素晴らしいラインナップ。展示作品は法隆寺興福寺、或いは唐招提寺東大寺等の「来歴寺別」に構成され、塑像・乾漆・木彫・金銅・刺繍・麻布迄、古の香りが濃密に漂う展覧会。中でも法隆寺金堂天蓋の天人と鳳凰、乾漆釈迦如来坐像、原三渓益田鈍翁来歴の蓮華と蓮弁、ペアの興福寺天部等は、垂涎のモノ…無理とは分かって居ても「嗚呼、欲しいっ!」と叫びたく為る作品ばかり。誠に罪な展覧会で有る(笑)。

15:00 「北斎ジャポニズム展」のオープニング・レセプション@国立西洋美術館。内覧会にも拘らずかなりの人出で、作品をじっくりと観れない。展覧会は何方かと云うと図様・構図の比較が多く、矢張り浮世絵よりも海外の美術館からの印象派の作品に見応えが有る。

19:00 ロシアのピアニスト、イーヴォ・ポゴレリッチのピアノリサイタルを聴きに、音楽をやって居る友人とサントリー・ホールへ。会場には最近お互いにクラシック・ファンだと知り、ポリーニのCDを貸して呉れた古美術商氏(最前列に陣取って居た!)や、T大のI先生の姿も。此処毎年聴いて居るポゴレリッチだが、聴く度に「此奴は実は『打楽器奏者』では無いのか?」と思えて来て、イマイチ感が強いが、この日は偶然にも彼の59回目のバースデーで、相変わらず長くなったコンサートもアンコールが終わると、関係者の合図で観客全員がサプライズでのハッピー・バースデーを歌い、驚いたポゴレリッチは顔を赤らめる。ホノボノした良い瞬間だった。

21:00 コンサート後は友人と、しゃぶしゃぶディナー@「K」。此処は胡麻ダレが少し変わって居るが、しゃぶしゃぶにしては厚切りの肉に何故か合い、大満足。


10月21日(土)
13:00 雨の中電車に1時間一寸乗り、帰国後始めた弓の稽古へ。緑に囲まれた雨の日の弓道場はシットリとして静かで、人も少なく、より集中出来る気がする。この日、僕は生まれて始めて俵に向けて弓を射ったのだが、何とも云えない素晴らしい感覚で感動。そして「型」の大事さを思い知る。

19:00 テラダ・アート・コンプレックスのオープニングへ。今回の主目的は、Kosaku Kanechikaでの桑田卓郎の展覧会「I’m Home, Tea Bowl」。所狭しと並べられた桑田君の茶碗はカラフルで、然も「飲めない」茶碗が主流。が、その独創性には故林屋先生も唸った。桑田君は、今世界で最も名を知られて居る日本陶芸家と云える…これからの活躍に期待して居ます!

19:30 テラダ内を徘徊中に、SBIオークションに出品されて居た某作品にテレフォンビッド。予算内で買えたので、良かった良かった。

20:30 金近君に招かれ、近所の「T」でのディナーに参加。コレクターや所属作家達と楽しいひと時を過ごすが、実は翌日が金近君の●●回目のバースデーと云う事を偶然知ったので、サプライズでケーキを用意し、お祝いする。然し、彼はズル過ぎる程若く見えるので、何か癪に触るのだが(笑)。金近君、おめでとう!

22:30 食事会で一緒だったアーティストT氏と、表参道に移動してサシ飲み。「飲み」と云っても「ソフトドリンク」な僕等だったが(笑)、諸々の悩みを聞いて貰ふ。


10月22日(日)
10:00 朝から台風の大雨で憂鬱、そして強い孤独感。ポリーニベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴きながらお抹茶を頂き、最近刊行された「告白 三島由紀夫未公開インタビュー」を読む。三島のスノッブさが鼻に付く。

14:00 大雨の中、行こうかどうしようかかなり迷った末に、結局骨董フェア「目白コレクション」へ。前年、以前僕が持って居た誕生仏を出して居た店の店主が云うには、その誕生仏は僕に売って呉れた骨董屋さんが買い戻して行ったとの事…骨董は「相目利き」と云う同じサークル内を巡る事が多い。

16:00 どうせ外に出たのだからと、西洋美術館の「北斎ジャポニズム展」を再訪。流石に人も少なく、今度はじっくりと観れる。僕は雨の日の美術館が好きだ。

18:30 上野から新宿に出て、親しい友人が出演して居る角田光代原作の映画「月と雷」を観る。寂しいと云える程静かな作品だがメッセージ性は強く、ヒシヒシと「Life must go on」感を得る。主演の初音映莉子草刈民代コントラストが良い。


10月23日(月)
10:30 僕が最近理事に為った、日本文化関係社団法人の理事会@海外特派員協会。お歴々の中で緊張する。理事会後の昼食会では、緊張の余り腹が減り、パンを3回もお代わりして仕舞った…自己嫌悪。

15:00 オフィスにて経費の仕事と、レクチャーの為の資料作り。

18:30 顧客と築地「T」で鰻ディナー。重要なビジネスの話をする。その後は、顧客行きつけの銀座のクラブ「T」と「F」の2軒をハシゴ。今最も人気の2店らしく超満員で、女性も美しいが、そのホスピタリティも一流なので、ハマる理由も分からなくも無いが、それも此れも先立つモノ次第(涙)。


10月24日(火)
10:00 お世話に為った元同僚、Nさんの告別式。Nさんは僕より一回り上だったが、僕を新入社員の頃から可愛がってくれた、何時も綺麗でオシャレな方だった。最後に病院でお会いした時、もう余り話せなかったが、相変わらずの茶目っ気振りを発揮して居て、却ってそれで泣きそうに為った。Nさん長い間お疲れ様、そして有難うございました…心からご冥福をお祈りします。

12:00 都内ホテルの天麩羅店で、IT社長K夫妻とランチ。総選挙でも奔走して居たで有ろうK氏は、初めて奥様を連れて来た…美しい奥様は秘匿されるのも宣なし。

13:30 現代美術家杉本博司氏が、今年の文化功労者に選ばれた事を知る。官界を意図的に巻き込んで、芸術的国威高揚を企む氏の凄さを再認識。次は文化勲章か⁉

15:00 東京オフィスで開催して居た時計と宝石の下見会で、気に入ったクラシックな時計を見つけたので専門家に値段を聞くと、桁違いで吃驚する。「時計にこの値段かぁ?」と正直思うが、世の中には「仏像や茶碗に、このお金?」と思う人の方が多いかも知れないと思い、反省する。

19:00 初めてのタイ古式マッサージを、体験施術。結構ハードだったが、体の至る所が伸びた気がする。クセに為るかも。


10月25日(水)
12:00 顧客との打ち合わせを終えた途端、ふと「O」の激ウマ栗のスフレの「期限」の事が頭を過ぎり、「O」に電話をしてみると、今年は後2日位で終わりだと云う…。そう聞いて知らん顔する程、僕はタフでも我慢強くも無く(笑)、早速飛んで行き、カウンターに1人で座ると、サラダとコンソメ入りかぼちゃの冷製スープ、オムライスを頂く。そして愈々今年の食べ収め…「マロン・スフレ」の登場だ!と思ったら、若い料理人の子が2個運んで来たので、「ん?」と尋ねると、何とムッシュ(シェフの事)の指令だと云う。嗚呼、有難き幸せ…僕は熱々のマロン・スフレを2個、ダブル・エスプレッソと共に頂き、至福のひと時を味わった。これで今年も年が越せる。


10月26日(木)
10:30 某顧客と国立新美術館で開催中の、「安藤忠雄展−挑戦−」を観る。この素晴らしい展覧会は、安藤こそが現代日本を代表する建築家で有り、アートと共に生きる者に取っての神建築家で有ると云う事が判る。「余白」や「間」を感じさせる、独特な個人住宅&美術館建築家の両面で、これだけ個性と機能を充実させ得る事に敬意を表するし、ボクサー故とも思われる氏の精神と肉体のタフさには、驚愕を禁じ得ない。近作で有る、NYの顧客でも有るY氏のマンハッタンのペントハウスには、工事中何度かお邪魔したのだが、パトリック・ブランのアートをインストールする等、建築家としての「挑戦」と顧客との「調整」との絶妙さを垣間見た気がした。外に建てられた「光の教会」も必見の、建築に詳しく無い僕でも感動する、今年のベスト5に入る展覧会だと思う。

11:30 新美術館を出た所で、大手骨董商のT氏にバッタリ。T氏も安藤展へ行くとの事。後でお店を訪ねようと思う。

12:30 ミッドタウンの和食屋「S」で、美術館関係者とランチ。此処に来ると何時も頼む「玄米+鯖味噌定食」を頂く。デザートは杏仁豆腐…美味い!

14:30 食後、さっき会ったT氏の店に行こうと六本木を歩いていると、NYのディーラーY氏が向こうから何か食べながら歩いて来るでは無いか!するとY氏が「さっきTさんに銀座からの地下鉄で会ったよ」と云う…ふーむ、今日は「人間相目利き」の日なのか?(笑)

15:00 T氏の店を訪ね、作品を眺めながら味わい深い高麗物の茶碗でお抹茶を頂く。在外日本美術コレクションは最近移動が激しく、それはコレクターの代替わりが最も大きな要因だが、これはビジネスチャンスでも有る。来月ウチで売る「ラスト・ダ・ヴィンチ」が幾らになるか?との話に為るが、「あの作品」より安かったらどうしよう…と同意する。

16:00 帰りに隣のタカ・イシイ・ギャラリーに寄り、榎倉康二の展覧会「Figure」を観る。此処数年、或る人の影響で榎倉康二に興味を持ち、展覧会やオークション等作品が出ると必ず観るようにして居るが、人とモノの出会いは本当に面白い。

19:00 最近知り合った若い友人と、青山「D」でディナー…の筈だったが、友人が都会のエアポケット的に道に迷い続け、僕も探しに出て行った末、見つけ出して食事を始めたのは何と40分後。食事前の有酸素運動のお陰で、ブラッタやトリッパ、パスタ、カンノリッキも味がより良く為った気がする(笑)。帰り際Iシェフが最近出したレシピ本を買い、サインをして貰う…作りゃあしないんだけどね(涙)。


10月27日(金)
8:50 羽田から飛行機に乗り、顧客に会いに岩国空港へ。

12:00 顧客と打ち合わせがてら、広島に移動して顧客の行きつけのピッツェリアでランチ。シェフはナポリで修行した本格派で、流石に美味しかった!

14:30 トンボ帰りも良い所だったが、良きニュースを持って羽田へ戻る。

19:00 銀座の「K」で若い学者と食事をし、季節の料理に舌鼓を打つ。その後は最近再訪した、都合20年近く通って居る並木通りの「M」で一杯。驚くべきは、その頃の女性が未だ店に居た事だが、然し妙な安心感が有って好ましい。

22:00 早目に銀座を上がり、帰宅して翌日の運慶レクチャーの準備。


10月28日(土)
10:00 午後のレクチャーの最終点検を、坂本龍一の「Playing the Piano Self Selected」を聴きながら頑張る。そう云えば、12月半ばに草月ホールで教授主催の「グレン・グールド・ギャザリング」が開催されるそうな…行かねば。

13:30 荒谷さんからの連絡を貰い、タケ・ニナガワでのアーティスト加藤泉氏の1日展覧会へ。この日の展示は、マイアミ・バーゼルで展示される加藤作品のプレヴューで、何時も木彫、石を使った新作やリトグラフ、明るい色合いの絵画等が並ぶ。加藤作品は相変わらず魅力的だったが、彼のバンド(テトラポッツ)の方も早く聞きたい!

15:30 運慶に関するレクチャーを、朝日カルチャーセンター新宿で行う。多くの方に受講して頂き、また質疑応答や挙手の場面でも皆さん積極的で、感動。楽しんで頂けたなら幸甚だ。また、このダイアリーを読んで頂いて居る受講者の方も多く、30年振りの学生時代の友人にも会えたし、マロンちゃんのお土産も沢山頂いて仕舞いました…受講して頂いた皆さん、有難うございました!

18:00 雨の中銀座に向かい、友人と「Y」で豚ベーコン・シーザーサラダ、豚肉蜂蜜焼き、一口カツ、そして二色豚薬膳鍋を腹一杯頂く…。寒くなって来たこの頃に、この鍋は最高過ぎるゼ(笑)。


10月29日(日)
12:00 大雨の中、古典芸能関係者の友人を連れ立って、護国寺で開催された「松平不昧公二百年遠忌記念茶会」へ。この茶会は不昧公の墓所も在る護国寺で、濃茶席を担当する遠州流宗家小堀宗実宗匠と、薄茶席を持つ武者小路千家家元後嗣千宗屋若宗匠の立案、もうひと席はLIXILの潮田会長の濃茶席で構成された、道具に関しても垂涎極まり無い茶会だ。先ずは展覧席で、不昧公直筆の素晴らしくも力強い「枕流」の双幅に感動するが、書状での文庫の方曰く「文春砲」的内容にも驚愕。次に官休庵の水屋を訪ね、若宗匠やお母様、社中の方にご挨拶をし、茶室へ。不昧公の「破れ虚堂写」横物、五鈷鈴や実は新発見な某絵師に拠ると思われる花鳥図風炉先屏風に目を奪われるが、不昧箱を持つ無傷の青井戸「銘秋野」が素晴らしい。その後吉兆さんの美味しい点心を頂いた後は、遠州家元の濃茶席へ。此方では龍耳古銅花入や瓦獅子香炉、また非常に女性的な不昧公共筒茶杓に眼を奪われる。そしてギリギリに飛び込んだ潮田氏の席は、雲州蔵帳所載の顔輝作「二仙図」、同じく蔵帳所載の与次郎作小阿弥陀釜、砧鯉耳花入、宋胡録九角香合等々名品揃いだったが、個人的には何よりも替茶碗だった青井戸「異風」…不昧公が最も愛したとも云われる、小振りで何とも侘びて居るのに、堂々と風格の有る垂涎のお茶碗でした!


さてさて気が付けば、10月ももう終わり…個人的激動の2017年も後2ヶ月。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「京博」もとい「九博」で見つけた、「国宝」に負けない日本美術と「僕の心」。

人の心が揺れれば、政治も揺れるのは太古からの必然…が、今週末が選挙だと云うのにも関わらず、出張先でも東京でも、選挙カーや演説に行き合う事が無く、東京でも殆ど候補者達の声は聞こえない。僕の行動範囲と合わないのか?然し昔はもっと至る所で、候補者達を見た様に思うのだが。

そんな選挙は小池都知事の「排除」発言という大失態に因って、恐らく緑の党は勝てず、安倍政権が存続すると云う最悪のシナリオを考えざるを得ないが、我々は取り敢えず反安倍票を入れねばなるまい。小池氏は民主党の全員を一旦受け入れ、過半数議席を取ってから「排除」=「窓際化」すべきだったのに、人生最大・千載一遇のチャンスを逸した…これで日本初の「女性首相」の目も無くなっただろう。

さて最近の僕はと云うと、色々な形の「別れ」に直面して居て、心が安らがない。今は人生に於ける「そう云う時期」だと諦めるしか無いのだろうが、色々な意味で井伏鱒二に拠る「勧酒」の訳、『「サヨナラ」ダケガ人生ダ』と云う文々が当に正しい、と云う事を認めざるを得ない。

そんな中、僕を癒して呉れて居るアート・ライフはと云えば、日米協会の賞を受賞した在米の大コレクター顧客の授賞式@国際文化会館に出席したり、「やはり協奏曲は難しいのかな…」と実感した辻井伸行ロンドン・フィルラフマニノフを聞いたり。

はたまた茶人宅で邦楽家元と共に夜のお茶を楽しんだり、東美アートフェアを訪ねたりもしたが、先週末の大仕事、永青文庫副館長の橋本麻里さんと最近小布施の北斎館館長に為られた安村敏信先生と一緒に出演した「ニコ生・国宝特集」は、お二人のお陰で非常に楽しく勉強に為った2時間で、番組最後のアンケートでも相当高い評価を頂いた、稀なる体験と為りました…麻里さん&安村先生、有難うございました!

と云う事で、此処からが今日の本題…今週は関西へと出張をして来たのだが、先ず月曜日は、細見美術館で開かれた特別展「末法/Apocalypseー失われた夢石庵コレクションを求めて」のオープニング・レセプションに出席。

今は亡き仏教美術個人コレクター「夢石庵」の正体は、観覧後のお楽しみとして置くが、作品のラインナップは京博で開催中の「国宝展」に勝るとも劣らぬモノで、そのコレクションの持つ得も云われぬ「センス」は、京博の作品群を凌駕して居ると云っても過言では無い。

中でも白眉は、日本彫刻の代表格と云っても良い程のクオリティの法隆寺伝来・鳥海青児旧蔵「木造十一面観音立像」(平安)や本邦初公開パワーズ・コレクション旧蔵の「木造天部立像」(平安前期)、状態の良さに驚く安田靫彦旧蔵「胎蔵界曼荼羅」(平安)や、弓を笛に代えれば見方に拠っては能楽笛方藤田流宗家の藤田六郎兵衛師にしか見えない(笑)「木造随身坐像」(平安)、これも本邦初公開、パワーズ旧蔵司馬江漢の大名品「寒柳水禽図」軸や、『「かざり」展に出したい!』と誰もが頷く超絶技巧な鎌倉期「金銀鍍透彫光背」等々で、何れも此れも古美術・仏教美術蒐集家に取っては、垂涎の品ばかり!

夜は名品でお腹一杯と思いきや、最近体調を崩したけれど復活を果たしたSシェフの顔が見たく為って、彼のレストラン「L」へ行き、スタミナ満点の赤身ステーキとブラッタ・カプレーゼを彼の笑顔と共に頂き、健康の有難さを実感。

そして翌日は朝から福岡へと移動し、九博で始まった特別展「新桃山展−大航海時代の日本美術」を観る。

この展覧会も、謂わば「南蛮国宝展」と云っても過言では無い位の物凄いラインナップで、約80年振りに見つかった、僕が今まで観た如何なる南蛮屏風の中でも最高品質の、懐かしい狩野内膳作「南蛮屏風」から、国に買われて仕舞った大好きな長次郎の黒茶碗「ムキ栗」や志野茶碗「猛虎」、狩野永徳「唐獅子図屏風」や「泰西王侯騎馬図屏風」、延いては日本風に作られた近世メキシコ産の驚異の「大洪水(ノアの箱舟)図屏風」迄、観覧者を全く飽きさせない。

が、現在の九博の凄さはこの展覧会だけでは無い…特別展の上階で同時開催中の「大分県国東宇佐 六郷満山展〜神と仏と鬼の郷〜」に、僕は度肝を抜かされたのだった!

国東半島の六郷満山は来年平成30年に開山1300年を迎えるが、それを記念した本展は4章から為り、藤原期の神像や仏像達が勢揃いし、そのウブさと味わい深い美に大きな感動を禁じ得ない。

特に八幡奈多宮の重文「木造八幡三神坐像」(10-11世紀)や「男女神坐像」(11-12世紀)、萬徳寺の「如来立像」(11世紀)や岩戸寺の「薬師如来坐像」(12世紀)等の垂迹系の神像・仏像等は、僕には堪らない作行きで、「もう持って帰っちゃおうか!」と真剣に思った程だ(笑)。

そしてこの素晴らしくも有難い展覧会を拝見した後、上階の残りで有る「文化交流展示」を観覧して居る最中、ふと「僕の名前」が目に入った気がしたので良く観ると、それは当時の重要な交易商品の一つで有った「香木」コーナーに書かれた「桂心」と云う文字だった。

初めて知ったのだが、「桂心」とは「シナモン」の別名らしい…と云う事は、「僕の心はシナモン」と云う事に為る訳が、成る程我ながら「道理で結構スパイシーな筈だ」(笑)と気付く。

何れにせよ今九博で開催されて居る上記2つの展覧会は、「国宝展」にも負けないスンバラシイ展覧会なので、無理をしてでも是非是非訪れて頂きたい。

何故なら観覧後には、顧客とご一緒した西中洲の超美味い焼肉屋「R」が出す素晴らしい希少部位肉と、マロンちゃんも咽び泣いた「マロン・アイスクリーム」が待って居るのだから(笑)。


ーお知らせー
*10月28日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿校にて「運慶ー世界を魅了する美」と題された講座を開催します。詳細はこちら→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/a23108c9-3dab-2e5f-7631-59829e1dc570

*現在発売中の「Numéro TOKYO」11月号で、6ページに渡り大特集されて居る舘鼻則孝氏のアートに就てコメントさせて頂いています。館鼻氏のアートにご興味の有る方は、是非ご一読を!→https://numero.jp/magazine111-special/

*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「私を離さないで」な一週間。

10月2日(月)
9:00 この日は終日、自宅で200点に及ぶ某コレクション作品の値付けを行う事に決める。NY時代と違い、東京のオフィスには日本美術の文献資料が何も無いので、「スペシャリスト」業務には自宅のライブラリーを使うしか無い。然しこれでこそ、ホボホボ2ヶ月掛けて段ボール箱150箱分の美術書を整理した書庫の意味も有ろうと云うモノ。

11:00 自宅で仕事をする時の良い点は、BGMが有る事…が、僕は歌詞の有る曲は掛けない。セロニアス・モンク、原摩利彦、プーさん(菊地雅章)、キース・ジャレット、益田正洋等、ピアノやギターのソロや環境音楽を微かに掛けるのがミソ。

17:00 現代美術系の友人が、利休の勉強をしたいと本を借りに来たので、千宗屋著「もしも利休があなたを招いたら」や赤瀬川原平「利休 無言の前衛」等をチョイスする。

19:00 仕事の再開を悔やむ程話が盛り上がった友人を送り出すと、近所の「ミル・クレープ・トンカツ」を注文し、食後再び査定に明け暮れる。昔から思って居るのだが、僕は意外と調べ物が好きで、これは間違い無く父親の血…良いんだか、悪いんだか(笑)。


10月3日(火)
10:00 予定して居たサシでの電話会議をバックレられ、憤慨…最も嫌な事に我慢して臨んだ末にバックレられる事程、血圧が上がる事は無い。

11:30 香港と別の電話会議。こちらは短目に終わり、ホッ。

14:00 京橋・日本橋界隈の骨董屋を訪ねた後、三井記念美術館で開催中の展覧会「特別展 驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」を観る。本展は監修の山下裕二先生のテイストが具現化された、村田理如氏のコレクションの明治工芸の粋と、超絶技巧を継承する現代美術を並列する企画。個人的には前原冬樹の「一刻:皿に秋刀魚」に、大驚愕。

15:30 最近店を引っ越した、馴染みの古美術商を訪ねる。静かな空間の中、某外国大使館の緑を借景に、美味しいナチュラルなジンジャエールを頂きながら観る仏教美術は仕事を忘れさせるが、序でに危険な購買欲を増進させる(笑)。某コレクターの持つ大名品と同じ作者と思われる藤原時代の菩薩像、藤原時代の飛天、鎌倉時代の某有名神社伝来の狛犬等、この時程自分が大金持ちだったら…と思う時は無い。出たのは「買った!」の声では無く、溜息で有った。

16:30 溜息連発後、その近所に在る現代美術ギャラリーを電撃訪問すると、ギャラリスト氏は居らっしゃったが、かなり慌て驚かせて仕舞い、恐縮する…が、氏の慌てる姿が何気に可愛かった(笑)。

19:00 某公的芸術関連機関の友人と久し振りに会い、神保町で肉ディナー。最近問題となった次回のヴェニス建築ビエンナーレの選考方法の事等を話す。ヴェニスビエンナーレに関する、公平さを欠いたり遅きに甘んじる日本の選考方法は、早急に再考されなければ為らない。


10月4日(水)
12:00 学生時代の友人と久し振りに会い、ランチ。友人は或る病気に悩んで居り、然し人間この年に為ると、身体のあちこちに故障が出るのは必然。最近周りの人に具合の悪い人が結構居て、それは老若男女、境が無い。健康こそが金・地位・名声・美貌・若さ、そして愛にすら勝る価値を持つ。

14:30 歌舞伎座で「芸術祭十月大歌舞伎」夜の部を観る。玄関で現代美術コレクターのY氏にバッタリ会い驚くが、Y氏は骨董も華道もやられる現代数寄者…流石である。演目は先ずは玉三郎の「沓手鳥孤城落月」だったが、劇中ただの一度も大向こうから声が掛からず、吃驚する。何度か掛かりそうな場面も有ったが、まぁ新劇チックな舞台だったので、声を掛けないのが慣わしなのだろうか?(後記:後で歌舞伎囃子方の方に聞いたら、大向こうが声を掛けなかったのは、大和屋さんの要望なのだとの事…成る程で有った)。次の「漢人韓文手管始」は芝翫鴈治郎も上手くて面白かったが、大発見は女形米吉!米吉の可憐さは、これからの楽しみ。そしてトリは、お待たせ大和屋の踊り「秋の色種」…大和屋はもう別格の一語で、素晴しスグル。「然しこの人が居なくなったら、歌舞伎はどうなっちゃうんだろう?」と本気で考えて仕舞った夜でした。

21:00 歌舞伎後は、代官山「A」でディナー。こちらも「待ってました!」のモンブランをデザートに控え、美味しい旬の魚料理を頂く。ガツガツと食べて居ると、「A」のスタッフでモデルのS君が声を掛けて来て、聞くと彼の同級生の某有名美術関係出版社の社長が、僕に会いたいとの事…光栄です!


10月5日(木)
9:00 或る作品の調査の為、図録類を引っ張り出しては広げ、朝からパニック状態。

12:00 余りにショッキングな事が起こり、愕然とする…。

13:00 ショックを癒し自己鼓舞する為に、久し振りにすずらん通りの天麩羅屋「H」で穴子天丼を食べるが、完食出来ず…こんな事は初めてだ。

14:00 心の動揺を抑え、某ホテルのロビーで将来有望な社員候補に会う。是非入社して貰いたい。

15:00 某古美術商を訪ね、骨董四方山話。長年この世界を見て来た人の話は、参考どころか映画を観る様に楽しい。役得だったが、虚しさ消えず。

19:00 とても外出する気に為れず、家に閉じ籠るが効果無し。人間は勝手な生き物だが、自分が宇宙一勝手で、人を傷つける事のみに有用な、汚くて鋭利な刃物の様に思える。こんな時は音楽もアートも役に立たない。

23:00 垂れ流して居たテレビのニュースで、長年のファンで有るカズオ・イシグロノーベル文学賞を受賞した事を知り、涙が出そうに為る。イシグロの文学は人の心の奥底に触れる、大きな真理を包含して居ると思うが、肝心な時に必要なのは矢張り春樹文学では無いのだ。


10月6日(金)
9:30 オフィスにて、クライアントと修復師に拠る某作品のプレビュー…結果や如何に?

10:30 僕を大変可愛がって呉れた嘗ての社員の方が重篤な健康状態との報を、会社で聞く。悲しい。人生は何時終わるか、誰にも決して分からない…だからこそ、一分一秒を大切にせねばならない。正受老人悟る、「一大事と申すは今日只今の心也」と。

13:30 東京駅から新幹線に乗り、アーティスト杉本博司氏の財団「江之浦測候所」のオープニング・レセプションへ。さて、杉本氏のイヴェント時には何時も天候が荒れる…これは、氏が鎌倉時代の木造雷神像を購入してからの「常識」だったが、この日も小田原に着くと既に雨が降り始めて居て、大荒れの様相。元興寺法隆寺、川原寺の礎石、百済寺等の石橋等の名石を集めたが故に、別名「石の博物館」とも呼ばれる「江之浦測候所」に着くと、先ずは馬越恭平・根津美術館旧蔵の室町期「明月門」を通り、石舞台を横目に見てから「光学硝子舞台+古代ローマ円形劇場写し客席」を拝見。此処は海に迫り出した舞台で、大好きなシシリー島タオルミーナのローマ劇場を髣髴とさせるが、高所恐怖症の能楽師やダンサーは無理だろう(笑)。舞台を降り、僕の親戚筋でも有る今は亡き箱根の名旅館奈良屋別邸に在った門を潜ると、待庵写しの茶室「雨聴天」へ…床に掛けられた軸「日々是『口実』」が笑える。その後は、冬至の朝太陽光が貫く「冬至光遥拝隧道」を通り、雨の為レセプションが開かれた「夏至光遥拝100メートルギャラリー」へと歩を進める。此方は夏至の朝に太陽光が駆け抜けると云う、先端部に12m.の展望スペースを持つスペースで、杉本氏の代表作「海景」の大判が展示される。恐らくは150名を超える美術関係者等が集まったレセプションでは、杉本氏の挨拶に続き、能楽シテ方と大鼓に拠る一調「屋島:夕景の能楽囃子」が演じられ、花を添えた。恐るべし「江之浦測候所」…現代美術家杉本博司の、渾身の集大成作品だ!

17:30 新幹線で帰京する車内でトイレに立つと、斜め後ろの席に、携帯を持ったま侭眠りこけて居る見た顔が...良く見ると、何と河野外務大臣では無いか。一国の外務大臣が携帯を握った侭無防備に居眠りしているのも、国家安全保障上とても信じられない光景だったが、その2つ後ろの席でこれまた眠りこけるSPもを見た日には、矢張りこの国は自民党には任せられないと思った。何が北朝鮮危機だ?外相ですらこれなんだから、極め付けの平和ボケ政治だ。

18:00 品川に着くと、夕食迄寺田アート・コンプレックスで時間を潰す。然し今回URANOで展示中の小西紀行作品は、何度観ても素晴らしい。早く「横浜トリエンナーレ」行かなきゃ。

19:00 高輪のアジア料理店「A」でディナー。近くの席に元ライヴァル会社の某氏が居たが、気付かれなかった様で安心する。


10月7日(土)
10:00 好きなバンドのコンサート・チケットの発売日だったので、ネットや電話で頑張るが、全く取れない…何をやっても上手く行かない時なのだろうと、落胆。

13:00 電車に1時間乗って、最近始めた習い事の稽古。礼儀作法から練習迄2時間たっぷりとやった為、筋肉痛の前兆…年配の女性の先生に「杖が必要になりますよ」と笑われる。が、この歳で誰かに教えを請い、直されたり笑われたりするのは、快感且つ重要。

18:00 ギャラリストの友人と、日本橋高島屋で開催中の「池田学展 The Pen−凝縮の宇宙−」を観る。物凄い数の観覧者に驚くが、現代美術家の個展が百貨店で開催される事は画期的だと思う。

19:00 友人の和菓子作家坂本紫穂さんが、銀座SIXで漆作家赤木明登氏とのコラボ展をして居ると聞き、展覧会を観た友人を伴い、序でに能研究者のR君も呼び出して観に行く。紫穂さんの綺麗な和菓子が赤木氏の器に乗り、余りに美味しそうで涎が出そうに為る(笑)。

19:30 僕が今嵌って居る銀座の豚肉料理屋「Y」で、3人ディナー。此処の薬膳豚鍋は超絶美味で、タマラナイ…シメの麺まで確りと頂戴しました。

21:30 「もう一軒行こう!」と為り、久し振りに神保町のベルギー・ビアバー「B」へ。常連の建築家等に挨拶した後、陣取った奥の席は若者達の為の「恋バナ相談室」と化す。僕に彼等に恋愛のサジェッションをする権利なんて、皆無なのに…。


10月8日(日)
11:30 久し振りに国分寺の実家へ。気温は涼しく為ったが、実家の鬱蒼とした緑は未だ鮮やかで、例年より多い鳥達の囀りに、傷んだ心が緩む。

12:30 栗ご飯と角煮の母の手料理を食べた後、果物と珈琲をテラスで。嗚呼、何て気持ちの良い日なのだろう…。

14:00 都内へ帰る途中下車し、これも久々に父の墓参…あの世の親父に愚痴を溢し、少し気が晴れる。

16:00 この日を逃してはもう無理…と云う状況下、東京都美術館へ走り、開催中の「ボストン美術館の至宝展 東西の名品 珠玉のコレクション」を 20分並んだ末、漸く観覧。さて今回、大混雑の中この展覧会に足を運んだ理由は、蕭白でも歌麿でも無く、ただ一つ…南宋の画家陳容作の「九龍図巻」を観る為で、それはこの「九龍図巻」が、今年3月の藤田美術館セールで約55億円で売却した、伝陳容「六龍図巻」の基準作と為る作品だからだ!絵巻を観る行列に並ぶ事3回、続けて熟視したボストン本の龍は、僕が売った伝陳容の龍とは異なり、個性的で伸びやかに見える。そして藤田本よりボストンの画巻の方が、縦が12cm.長く画面が大きい事も有り、全体の迫力もスゴい。が、龍の「顔」に関しては、藤田本も細密で確りと描かれて居ると思ったし、全体としてそれ程劣って居るとも思えなかった。何はともあれ、自分が売った名品と基準作と云われる大名品を、記憶が確かな内に比べられた喜びは格別で、ヒビの入った心が少し継がれた気がした。

19:00 友人とヤケ喰い気味のしゃぶしゃぶディナー。虚しさは中々消えないが、気は少し晴れる。

22:30 自宅に戻って「カヴァレリア・ルスティカーナ」を聴く。「淋しさ」は、敢えて助長する事によって解消する…かも知れない。


こんな時には、イシグロの「私を離さないで」を又読もうと思う。


ーお知らせー
*来たる10月14日(土)20:00より、「ニコニコ生放送:国宝特集」に出演します。詳細はこちらから→http://live.nicovideo.jp/watch/lv306711061

*現在発売中の「Numéro TOKYO」11月号で、6ページに渡り大特集されて居る舘鼻則孝氏のアートに就てコメントさせて頂いています。館鼻氏のアートにご興味の有る方は、是非ご一読を!→https://numero.jp/magazine111-special/

*10月28日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿校にて「運慶ー世界を魅了する美」と題された講座を開催します。詳細はこちら→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/a23108c9-3dab-2e5f-7631-59829e1dc570

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。