「異風」堂々な近況。

10月20日(金)
11:00 日本橋・瀬津雅陶堂で始まった「第九回雅展 南都」を拝見。瀬津勲氏による「雅展」には何時も驚かされるが、今回も腰を抜かさんばかりの激素晴らしいラインナップ。展示作品は法隆寺興福寺、或いは唐招提寺東大寺等の「来歴寺別」に構成され、塑像・乾漆・木彫・金銅・刺繍・麻布迄、古の香りが濃密に漂う展覧会。中でも法隆寺金堂天蓋の天人と鳳凰、乾漆釈迦如来坐像、原三渓益田鈍翁来歴の蓮華と蓮弁、ペアの興福寺天部等は、垂涎のモノ…無理とは分かって居ても「嗚呼、欲しいっ!」と叫びたく為る作品ばかり。誠に罪な展覧会で有る(笑)。

15:00 「北斎ジャポニズム展」のオープニング・レセプション@国立西洋美術館。内覧会にも拘らずかなりの人出で、作品をじっくりと観れない。展覧会は何方かと云うと図様・構図の比較が多く、矢張り浮世絵よりも海外の美術館からの印象派の作品に見応えが有る。

19:00 ロシアのピアニスト、イーヴォ・ポゴレリッチのピアノリサイタルを聴きに、音楽をやって居る友人とサントリー・ホールへ。会場には最近お互いにクラシック・ファンだと知り、ポリーニのCDを貸して呉れた古美術商氏(最前列に陣取って居た!)や、T大のI先生の姿も。此処毎年聴いて居るポゴレリッチだが、聴く度に「此奴は実は『打楽器奏者』では無いのか?」と思えて来て、イマイチ感が強いが、この日は偶然にも彼の59回目のバースデーで、相変わらず長くなったコンサートもアンコールが終わると、関係者の合図で観客全員がサプライズでのハッピー・バースデーを歌い、驚いたポゴレリッチは顔を赤らめる。ホノボノした良い瞬間だった。

21:00 コンサート後は友人と、しゃぶしゃぶディナー@「K」。此処は胡麻ダレが少し変わって居るが、しゃぶしゃぶにしては厚切りの肉に何故か合い、大満足。


10月21日(土)
13:00 雨の中電車に1時間一寸乗り、帰国後始めた弓の稽古へ。緑に囲まれた雨の日の弓道場はシットリとして静かで、人も少なく、より集中出来る気がする。この日、僕は生まれて始めて俵に向けて弓を射ったのだが、何とも云えない素晴らしい感覚で感動。そして「型」の大事さを思い知る。

19:00 テラダ・アート・コンプレックスのオープニングへ。今回の主目的は、Kosaku Kanechikaでの桑田卓郎の展覧会「I’m Home, Tea Bowl」。所狭しと並べられた桑田君の茶碗はカラフルで、然も「飲めない」茶碗が主流。が、その独創性には故林屋先生も唸った。桑田君は、今世界で最も名を知られて居る日本陶芸家と云える…これからの活躍に期待して居ます!

19:30 テラダ内を徘徊中に、SBIオークションに出品されて居た某作品にテレフォンビッド。予算内で買えたので、良かった良かった。

20:30 金近君に招かれ、近所の「T」でのディナーに参加。コレクターや所属作家達と楽しいひと時を過ごすが、実は翌日が金近君の●●回目のバースデーと云う事を偶然知ったので、サプライズでケーキを用意し、お祝いする。然し、彼はズル過ぎる程若く見えるので、何か癪に触るのだが(笑)。金近君、おめでとう!

22:30 食事会で一緒だったアーティストT氏と、表参道に移動してサシ飲み。「飲み」と云っても「ソフトドリンク」な僕等だったが(笑)、諸々の悩みを聞いて貰ふ。


10月22日(日)
10:00 朝から台風の大雨で憂鬱、そして強い孤独感。ポリーニベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴きながらお抹茶を頂き、最近刊行された「告白 三島由紀夫未公開インタビュー」を読む。三島のスノッブさが鼻に付く。

14:00 大雨の中、行こうかどうしようかかなり迷った末に、結局骨董フェア「目白コレクション」へ。前年、以前僕が持って居た誕生仏を出して居た店の店主が云うには、その誕生仏は僕に売って呉れた骨董屋さんが買い戻して行ったとの事…骨董は「相目利き」と云う同じサークル内を巡る事が多い。

16:00 どうせ外に出たのだからと、西洋美術館の「北斎ジャポニズム展」を再訪。流石に人も少なく、今度はじっくりと観れる。僕は雨の日の美術館が好きだ。

18:30 上野から新宿に出て、親しい友人が出演して居る角田光代原作の映画「月と雷」を観る。寂しいと云える程静かな作品だがメッセージ性は強く、ヒシヒシと「Life must go on」感を得る。主演の初音映莉子草刈民代コントラストが良い。


10月23日(月)
10:30 僕が最近理事に為った、日本文化関係社団法人の理事会@海外特派員協会。お歴々の中で緊張する。理事会後の昼食会では、緊張の余り腹が減り、パンを3回もお代わりして仕舞った…自己嫌悪。

15:00 オフィスにて経費の仕事と、レクチャーの為の資料作り。

18:30 顧客と築地「T」で鰻ディナー。重要なビジネスの話をする。その後は、顧客行きつけの銀座のクラブ「T」と「F」の2軒をハシゴ。今最も人気の2店らしく超満員で、女性も美しいが、そのホスピタリティも一流なので、ハマる理由も分からなくも無いが、それも此れも先立つモノ次第(涙)。


10月24日(火)
10:00 お世話に為った元同僚、Nさんの告別式。Nさんは僕より一回り上だったが、僕を新入社員の頃から可愛がってくれた、何時も綺麗でオシャレな方だった。最後に病院でお会いした時、もう余り話せなかったが、相変わらずの茶目っ気振りを発揮して居て、却ってそれで泣きそうに為った。Nさん長い間お疲れ様、そして有難うございました…心からご冥福をお祈りします。

12:00 都内ホテルの天麩羅店で、IT社長K夫妻とランチ。総選挙でも奔走して居たで有ろうK氏は、初めて奥様を連れて来た…美しい奥様は秘匿されるのも宣なし。

13:30 現代美術家杉本博司氏が、今年の文化功労者に選ばれた事を知る。官界を意図的に巻き込んで、芸術的国威高揚を企む氏の凄さを再認識。次は文化勲章か⁉

15:00 東京オフィスで開催して居た時計と宝石の下見会で、気に入ったクラシックな時計を見つけたので専門家に値段を聞くと、桁違いで吃驚する。「時計にこの値段かぁ?」と正直思うが、世の中には「仏像や茶碗に、このお金?」と思う人の方が多いかも知れないと思い、反省する。

19:00 初めてのタイ古式マッサージを、体験施術。結構ハードだったが、体の至る所が伸びた気がする。クセに為るかも。


10月25日(水)
12:00 顧客との打ち合わせを終えた途端、ふと「O」の激ウマ栗のスフレの「期限」の事が頭を過ぎり、「O」に電話をしてみると、今年は後2日位で終わりだと云う…。そう聞いて知らん顔する程、僕はタフでも我慢強くも無く(笑)、早速飛んで行き、カウンターに1人で座ると、サラダとコンソメ入りかぼちゃの冷製スープ、オムライスを頂く。そして愈々今年の食べ収め…「マロン・スフレ」の登場だ!と思ったら、若い料理人の子が2個運んで来たので、「ん?」と尋ねると、何とムッシュ(シェフの事)の指令だと云う。嗚呼、有難き幸せ…僕は熱々のマロン・スフレを2個、ダブル・エスプレッソと共に頂き、至福のひと時を味わった。これで今年も年が越せる。


10月26日(木)
10:30 某顧客と国立新美術館で開催中の、「安藤忠雄展−挑戦−」を観る。この素晴らしい展覧会は、安藤こそが現代日本を代表する建築家で有り、アートと共に生きる者に取っての神建築家で有ると云う事が判る。「余白」や「間」を感じさせる、独特な個人住宅&美術館建築家の両面で、これだけ個性と機能を充実させ得る事に敬意を表するし、ボクサー故とも思われる氏の精神と肉体のタフさには、驚愕を禁じ得ない。近作で有る、NYの顧客でも有るY氏のマンハッタンのペントハウスには、工事中何度かお邪魔したのだが、パトリック・ブランのアートをインストールする等、建築家としての「挑戦」と顧客との「調整」との絶妙さを垣間見た気がした。外に建てられた「光の教会」も必見の、建築に詳しく無い僕でも感動する、今年のベスト5に入る展覧会だと思う。

11:30 新美術館を出た所で、大手骨董商のT氏にバッタリ。T氏も安藤展へ行くとの事。後でお店を訪ねようと思う。

12:30 ミッドタウンの和食屋「S」で、美術館関係者とランチ。此処に来ると何時も頼む「玄米+鯖味噌定食」を頂く。デザートは杏仁豆腐…美味い!

14:30 食後、さっき会ったT氏の店に行こうと六本木を歩いていると、NYのディーラーY氏が向こうから何か食べながら歩いて来るでは無いか!するとY氏が「さっきTさんに銀座からの地下鉄で会ったよ」と云う…ふーむ、今日は「人間相目利き」の日なのか?(笑)

15:00 T氏の店を訪ね、作品を眺めながら味わい深い高麗物の茶碗でお抹茶を頂く。在外日本美術コレクションは最近移動が激しく、それはコレクターの代替わりが最も大きな要因だが、これはビジネスチャンスでも有る。来月ウチで売る「ラスト・ダ・ヴィンチ」が幾らになるか?との話に為るが、「あの作品」より安かったらどうしよう…と同意する。

16:00 帰りに隣のタカ・イシイ・ギャラリーに寄り、榎倉康二の展覧会「Figure」を観る。此処数年、或る人の影響で榎倉康二に興味を持ち、展覧会やオークション等作品が出ると必ず観るようにして居るが、人とモノの出会いは本当に面白い。

19:00 最近知り合った若い友人と、青山「D」でディナー…の筈だったが、友人が都会のエアポケット的に道に迷い続け、僕も探しに出て行った末、見つけ出して食事を始めたのは何と40分後。食事前の有酸素運動のお陰で、ブラッタやトリッパ、パスタ、カンノリッキも味がより良く為った気がする(笑)。帰り際Iシェフが最近出したレシピ本を買い、サインをして貰う…作りゃあしないんだけどね(涙)。


10月27日(金)
8:50 羽田から飛行機に乗り、顧客に会いに岩国空港へ。

12:00 顧客と打ち合わせがてら、広島に移動して顧客の行きつけのピッツェリアでランチ。シェフはナポリで修行した本格派で、流石に美味しかった!

14:30 トンボ帰りも良い所だったが、良きニュースを持って羽田へ戻る。

19:00 銀座の「K」で若い学者と食事をし、季節の料理に舌鼓を打つ。その後は最近再訪した、都合20年近く通って居る並木通りの「M」で一杯。驚くべきは、その頃の女性が未だ店に居た事だが、然し妙な安心感が有って好ましい。

22:00 早目に銀座を上がり、帰宅して翌日の運慶レクチャーの準備。


10月28日(土)
10:00 午後のレクチャーの最終点検を、坂本龍一の「Playing the Piano Self Selected」を聴きながら頑張る。そう云えば、12月半ばに草月ホールで教授主催の「グレン・グールド・ギャザリング」が開催されるそうな…行かねば。

13:30 荒谷さんからの連絡を貰い、タケ・ニナガワでのアーティスト加藤泉氏の1日展覧会へ。この日の展示は、マイアミ・バーゼルで展示される加藤作品のプレヴューで、何時も木彫、石を使った新作やリトグラフ、明るい色合いの絵画等が並ぶ。加藤作品は相変わらず魅力的だったが、彼のバンド(テトラポッツ)の方も早く聞きたい!

15:30 運慶に関するレクチャーを、朝日カルチャーセンター新宿で行う。多くの方に受講して頂き、また質疑応答や挙手の場面でも皆さん積極的で、感動。楽しんで頂けたなら幸甚だ。また、このダイアリーを読んで頂いて居る受講者の方も多く、30年振りの学生時代の友人にも会えたし、マロンちゃんのお土産も沢山頂いて仕舞いました…受講して頂いた皆さん、有難うございました!

18:00 雨の中銀座に向かい、友人と「Y」で豚ベーコン・シーザーサラダ、豚肉蜂蜜焼き、一口カツ、そして二色豚薬膳鍋を腹一杯頂く…。寒くなって来たこの頃に、この鍋は最高過ぎるゼ(笑)。


10月29日(日)
12:00 大雨の中、古典芸能関係者の友人を連れ立って、護国寺で開催された「松平不昧公二百年遠忌記念茶会」へ。この茶会は不昧公の墓所も在る護国寺で、濃茶席を担当する遠州流宗家小堀宗実宗匠と、薄茶席を持つ武者小路千家家元後嗣千宗屋若宗匠の立案、もうひと席はLIXILの潮田会長の濃茶席で構成された、道具に関しても垂涎極まり無い茶会だ。先ずは展覧席で、不昧公直筆の素晴らしくも力強い「枕流」の双幅に感動するが、書状での文庫の方曰く「文春砲」的内容にも驚愕。次に官休庵の水屋を訪ね、若宗匠やお母様、社中の方にご挨拶をし、茶室へ。不昧公の「破れ虚堂写」横物、五鈷鈴や実は新発見な某絵師に拠ると思われる花鳥図風炉先屏風に目を奪われるが、不昧箱を持つ無傷の青井戸「銘秋野」が素晴らしい。その後吉兆さんの美味しい点心を頂いた後は、遠州家元の濃茶席へ。此方では龍耳古銅花入や瓦獅子香炉、また非常に女性的な不昧公共筒茶杓に眼を奪われる。そしてギリギリに飛び込んだ潮田氏の席は、雲州蔵帳所載の顔輝作「二仙図」、同じく蔵帳所載の与次郎作小阿弥陀釜、砧鯉耳花入、宋胡録九角香合等々名品揃いだったが、個人的には何よりも替茶碗だった青井戸「異風」…不昧公が最も愛したとも云われる、小振りで何とも侘びて居るのに、堂々と風格の有る垂涎のお茶碗でした!


さてさて気が付けば、10月ももう終わり…個人的激動の2017年も後2ヶ月。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。