時差ボケの「ここんとこ日誌」。

10月30日(月)
11:00 重要顧客が来社し、打ち合わせ。その顧客の顧客が、或る絵師の作品で飾られた部屋を作りたいらしい。ブームというのは恐ろしいモノだ。

12:00 その顧客と久し振りに銀座の洋食店「Y」に行き、メンチカツ・ランチを頂く。昔東京オフィスが銀座に在った頃に良く来た店だが、味も、何気無く壁に掛って居る梅原龍三郎のデッサンも変わっては居ない…嬉しい限り。

19:00 オペラシティ・コンサートホールでの、クラシック・ピアニスト松田華音のリサイタルへ。彼女のピアノを聴くのは、2年前のロシア大使館以来だが(拙ダイアリー「『追いかけない』歳末動向」参照)、彼女の演奏、そして外見もあれから大分大人っぽく、且つ艶っぽくなった…そしてその事実は、実に素晴らしかったムソルグスキーの「展覧会の絵」の演奏に、見事に反映されて居た。


10月31日(火)
10:30 香港のボスと電話会議。マネージメントの人間は、現場のスペシャリストが作品を、況してやコレクションを引っ張って来るのがどれだけ大変かを知るべきだ。作品が手許に無ければ売る事、利益を出す事等出来る訳が無いのだから。そしてそんな事も分からん人間がスペシャリスト達を評価をするのだから、出世や報酬に差別的格差が出るし、例えばどんな功績を上げたら給料やポジションが上がるかもハッキリしない…やっとられんわ。

19:00 頼んで居た茶碗と湯呑の直しが出来たとの事で、依頼した修復家とその茶友で有る編集者、そして某老舗ディーラーの娘さんを交えて、目白「B」でディナー…不昧茶会の事等を話す。この店は料理も大概美味しいが、シメの欧風カレーが天国的にウマ過ぎて、炭水化物ダイエット実行者には地獄。


11月1日(水)
9:30 朝から所用有って、実家の在る地区の市役所へ。全く役人ってヤツは…。

19:00 顧客と銀座のしゃぶしゃぶ店「Z」でディナー。老舗のしゃぶしゃぶ店に良く有る、炭を使っての「銅の煙突付き鍋」が泣かせるが、周りの外国人観光客の団体がまるで「フットボール観戦でもしてるのか?」位の勢いで騒いで居て、煩過ぎ、イラつく。が、僕の席に付いたウェイトレスさんがかなり面白い人だった事と、デザートの「トップス」のチョコレートケーキで少し心が和らぐ。その胡桃の入った「トップス」のチョコレートケーキで思い出すのは何時も父親の事で、僕が高校生だった頃、夜更かしして深夜2時位に喉が渇いて2階の自室から降りて来ると、何故か台所の電気が付いて居る。不思議に思いソッと中を覗くと、父親が扉を開けた冷蔵庫の前に椅子を持って来て座って居るでは無いか。「親父、何してんの?」と背後から声を掛けると、父親はハッとして振り向いたのだが、その左手には箱入りの細長いトップスのチョコレートケーキのホール、そして右手にはスプーン、口元はチョコレートで汚れて居た。幾ら大好物でも、夜中にスプーンで端からホール・ケーキを食べなくても…とも思ったが、今と為ってはその気持ちも分からないでは無い(笑)。


11月2日(木)
9:00 NYからのLINEで、若い女性の友人に赤ちゃんが産まれた事を知る。目出度い…Sちゃん、御目出度う!それにつけても何時も思うのだが、人生は誕生と死の繰り返しで成立して居て、新しい生命の誕生は、僕には同時に死んで行った者を思い起こさせるのだ。

10:00 家で作品調査中に、先日某オークションで売ったその売上金で買った写真作品が届く。僕は写真作品は殆ど持って居ないのだが、この一見恐ろしい作品は、その恐ろしさが故に惹かれる。

15:00 オフィスにて、来日中のロックフェラー家当主デヴィッド・ロックフェラー夫妻と会い、藤田家のご兄弟を紹介する。ロックフェラー氏のお父様の本に掲載されて居る写真に、ロックフェラー氏と藤田伝三郎夫妻が一緒に写って居る写真が有る事からこの面会が実現したのだが、藤田氏に拠ると何とその写真中の人物は伝三郎氏では無く、その長男で有る平太郎氏夫妻と判明…ロックフェラー氏はメモを取り、次の版では訂正すると約束。何れにしても名家ならではの、時代を超えての子孫同士の微笑ましい面会と為った。


11月3日(金・文化の日
10:00 昨日アーティストの佐藤允君から届いて居た「スタジオ・ヴォイス」最新号、「Alternative Eroticism ゆらぐエロ」特集を見る。すると、手紙らしき物が挟まれたページが有り、そこを開いてみると、パンツ一丁で緊縛された元々ハンサムな佐藤君が、妖しく此方を見つめる。そして手紙には到底此処には書けない内容の絵と云うかイラストと云うか、図解と云うか…(笑)。佐藤君、有難う!

14:00 21_21 Design Sightへ向かい、「野性展:飼いならされない感覚と思考」展を観る。本展のディレクターは中沢新一で、此処から既に興味深いが、南方熊楠からしりあがり寿迄フィーチャーされ、内容も秀逸。僕は常々「心の中の野性の『余地』」=「未だ飼いならされて居ない場所」を大事にして来たタイプだから、本展への共感度は異常に高い。隣で開催中の吉岡徳仁「光とガラス」展と共にオススメ。

15:30 サントリー美術館「狩野元信展」へ再来訪。やっぱ正信より元信でしょ(笑)。そして、去年売った伝元信の「四季花鳥図屏風」を再び思い出す。良い作品だったなぁ…。

19:00 NYで知り合ったアーティストIさんとH君の2人と、神保町「M」で肉ディナー。其処へウチの会社の同僚Kと、その友人で元画廊勤務の金融Dさんがジョインし、盛り上がる。その後は皆でウチへ移動し、家飲み四方山話。その中で僕が皆に糾弾されたのが、「女性をサシでお能に誘うのは良くても、映画はダメ!」と云う話で、「食事や飲みは良くても、映画や舞台はダメ!」と云う女性も過去に居たが、一体全体何処がそんなに違うって云うんだ(怒)⁉


11月4日(土)
13:00 若い友人と代官山で待ち合わせ、ヒルサイド・フォーラムで開催された「第4回CAF賞作品展」へ。このコンペは前澤友作氏率いる現代芸術振興財団主催で、若手現代美術家の育成を目的とした物で有るが、今年の展覧はその入選作品以外にも、「123億円」バスキアを初めとする前澤氏所有の作品も飾られ、話題を呼ぶ。若手作家の作品を観て貰う為に、自分のコレクションを呼び水に使う氏に敬意を表する、良い展示でした。帰り際には財団の方々にご挨拶。

15:00 その友人と「ブレードランナー 2049」を観る。ハッキリ云って、素晴らしい!一緒に行った友人は、1982年のオリジナルを観て居なかったが、それでも内容は追いかけられるし、前作を観た者に取っては、オマージュだらけの面白さも有る。ヴィルヌーヴのシットリとした映像も良いし、脚本も大変ヨロシイ。然し前作でのレプリカントが、何と「2017年年生まれ」だった事にはビックリ…サイエンスは僕等が思ったより進歩して居ない。今回の舞台は2047年だから、再び30年後の近未来を描いて居るが、僕はその頃84歳…科学の進歩の結果が見られるだろうか?

18:30 若い友人は今迄、猪も熊も鹿も食べた事がないと云ふ…ので、六本木「M」でディナー。魚、猪と鹿を焼き、最後は猪熊鍋。突然の冷たい雨でも、十二分に暖まる。


11月5日(日)
11:30 今晩初めて行く生花教室の為に、ミッドタウンの「木屋」に行き、「団十郎」花切鋏を買う。何故「団十郎」なのかと聞くと、木屋四代目が九代目団十郎の贔屓だったそうで、今で云うパテント契約を結んだと云う…僕が買うに相応しい鋏では無いか(笑)?

12:30 運慶に関するレクチャーに来てくれた、元同僚Yさんとランチ@「U」。「ハーフ」サイズでも普通の一人前より多い位のサラダを突きながら、20年振りにお互いの近況を語り合う。「ハーフ」為らぬ「ミックス」(最近は「ハーフ」とは云わないらしい…)のYさんは、以前と余り変わらずお綺麗で、然し2人の男の子の母としての威厳も出て居る。僕はこのYさんを含めて、10組弱結婚式でスピーチをして居るが、未だに誰も離婚をして居ない(と思う)のが自慢だが、どんな事でも人の事は上手く行くモノだと熟く思う。

18:30 現代美術コレクターY氏が経営する三宿のカフェ「S」で月一回開催される、慈照寺銀閣)の元花方で、今と為っては京都造形大で僕の同僚でも有る、珠寶さんに拠るお花の教室へ。今回が初めての参加だったが、珠寶さんが選んだ10種類位の花を各々取り、自ら持って来た花器に生けた作品を先生が手直ししてくれる、と云う手順。当然上手く行く訳もないが、先生に「余白を活かせ」と教えられ、室町水墨画を思い出しながら、ギャラリストK君等と一緒に頑張る。その後は珠寶先生を囲んでのディナー。


11月6日(月)
9:00 渋谷黒田陶苑から届いた、山田山庵の茶碗展の図録を観る。「今光悦」とも呼ばれた山庵は、そもそもは金融業を営む実業家で、茶道具商も創業…半泥子のタイプの数寄者陶芸家だが、その茶碗は実に魅力的…欲しく為る〜(笑)。

11:00 某刀剣商の店で武具甲冑の世界的エキスパートに会い、プライベートセールの為に研ぎ上がり、写真を撮られた素晴らしい刀を共に観る。 僕の刀剣の知識等ハナクソ・レヴェルだが、元来神宝で後に人を切る武器と為り、然もこれ程美しい「美術品」は他に類を見ない。恐らく海を渡る史上最高クオリティの刀と為るだろう…。その後は皆で打ち立て蕎麦のランチ。

16:00 オフィスにて、某百貨店美術部関係者と某プロジェクトの打ち合わせ。「ジャポニズム」がもっと流行しないかなぁ…。


11月7日(火)
14:00 有力浮世絵商に会い、写楽北斎の作品を幾つか見せて貰う。最近北斎の値上がりが凄く、ちょっとオーヴァー・ヴァリューでは無いか?と思う程。高く売れるのは良い事だが、世の中それだけでも無い。

17:00 香港と電話会議。そんなに何でもかんでも進まないよ。


11月8日(水)
9:30 某大学美術史教授から着電。僕が昔売った、或る凄い来歴を持つ最高品質の肉筆春画のセットの写真を、来年出る某有名美術誌の特集号に出したいとの事。

11:00 某古美術商の所で、掛軸を拝見。流行りの絵師のモノだが、この絵師の作品の真贋は年々甘く為りつつ有り、まるで嘗ての北斎の肉筆の様。

14:00 オフィスにて、某学会誌のインタビュー。名物編集のMさんは長年この世界で活躍、青山二郎白洲正子の時代から現在迄、古美術の世界に住む魔物達と付き合って来た、優秀且つダンディーな方。来年掲載されると云うから楽しみ。因みに対談風景の写真を撮りに来たのは、現代美術家杉本博司氏のお弟子さんだった。

17:00 重要顧客が作品を持って来社。専門家が来る迄、お預かりする。

18:00 某重要顧客と銀座「G」でディナー。斜め向かいの席には、東京五輪でも役が付きそうな、有名ファッションデザイナーも居たが、略満員の客は大概が「同伴」組。何時もの様にオードブル数品、冷製コンソメ、サラダ、そして野菜たっぷりの「シチュー・ア・ラ・モード」を頂く(当然ご飯は無し!)。さてデザートの段に為って、マダムが「今日は孫一さんの大好物の、『洋梨のシャルロット』が有るわよ!」と云うので、僕も顧客にも強く勧めた末注文したのだが、一度それを受けたマダムが急いで引き返して来て、「ゴメン、今日は作ってなかった!」と云ふ。期待が大きい程落胆も大きい…何だよ!と云うと、代わりに「マロンと芋のシャンティ」が有ると云うので、それを食べたら僕の機嫌はアッサリと治った(笑)。単純。


11月9日(木)
10:00 今日の深夜便で海外出張に出るので、荷物の準備。

15:00 有力浮世絵商を訪ね、プライベートセールの為の写楽の大首絵を拝見。状態はそれ程良く無いが、印象と色の残りはかなり良い。これなら、若しかしたら行けるかも知れん。

20:00 迎えの車に乗り、羽田空港へ。車中、今別件で他部門とトラブっている顧客と、空港に着く迄の粗全時間を話に費やす。

21:00 ラウンジで、小カレーを食べて仕舞ふ…中々美味しい。深夜便だと乗ってから食事を摂るのは時間的に厳しいので「仕方無い」と思い、小牛丼も(涙)。

23:00 搭乗口でかなり待たされるが、その時同乗者に個性派有名女優Mが居る事に気付く。彼女はイライラして居て、歩き回って居たが、スッピンの素顔は年齢を感じさせない綺麗さだった。搭乗し席に座った途端に爆睡。僕としては極めて稀だが、一本も映画も見ずに過ごす。


11月9日(米国時間)
16:00 飛行機は結構遅れて到着。そこから車でラッシュの中2時間半近く掛けて、漸く現地ホテル到着。疲労困憊。

21:00 軽く夕食を取り、時差ボケ対策もない侭、もうだめだ…とベッドに倒れこむ。さぁ、明日から頑張らねば!


皆さん、おやすみなさい。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、上記国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は朝日カルチャーセンター新宿(03-3344-1941)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。