"Important Chinese Art from the Fujita Museum" オークション開催。

帰って来た途端に寒く為ったニューヨークでは、春のアート・シーズンが始まった。

そんな週末に行って来たのは、Pier 92-94で開催された「Armory Show」。今回は日本からも三瀦さんや大田さん、小山さん等が出展し、特にミヅマが展示した会田誠の未だ制作中(?)の大作「Jumble of 100 Flowers」は、2m x 17.5mの大壁画調の作品で、作家自身が1人でこの大作を描いて居る処等は、某作家の作品に対する或る意味アンチテーゼと取れなくも無いが、良く見るとかなり細かい日本的細工も仕込まれて居て、見応え充分の作品。

フェア全体では「絵画」のヴォリュームが増えて居る気がして、これは回帰的傾向なのかも知れないが、安易なコンセプチュアル・アートやヴィデオ・アートに食傷気味な僕には誠に望ましい。会場に人は沢山入っては居たが、はてさて売上は如何に?と云った感じで有った。

さて最近困ったニュースが入って来て、それは今年1月に改正されたワシントン条約。今迄美術品に於いても、象牙や鼈甲、珊瑚等の輸出入が粗100%無理に為り、象牙に至ってはアメリカ国内での販売も許されない。

そんな中ローズウッド(紫檀)とエボニー(黒檀)の2種の木材が、かなり強い制限下に置かれて仕舞った…これは例えば中国家具や、掛軸の軸先、七宝焼や青銅器の台、又は箱迄、輸出する前に確認をせねばならないと云う事に為る。種類にも拠るだろうが、CITESを取るには最低4ー5ヶ月掛かるので、オークションに出品するにも時間を見ねばならない。最近は螺鈿もチェックを受けると云うし、東洋美術の輸出入が益々難しく為る…自然野生動物を大切にする事に全く異議は無いが、東洋美術従事者が困る事には違いない。

それはさて置き、春のAsian Art Weekが愈々開幕…今回のニューヨークの大目玉は、勿論クリスティーズで15日に「イヴニング・セール」として開催される、藤田美術館所蔵の中国美術セール「Important Chinese Art from the Fujita Museum/宗器寶繪ー藤田美術館藏中國古代藝術珍品」だ!

1954年、大阪市内に設立された藤田美術館は、藤田組や藤田観光等を興した藤田家の長、実業家で近代の大コレクター、藤田傳三郎を祖とする美術館。

今巷で話題の「耀変天目茶碗」や「紫式部日記絵詞」等の国宝9点、重文52点を含む数千点を誇る館のコレクションは、 仏教美術・茶道具・鎌倉〜江戸絵画迄バラエティに富み、実際「指定品」数に於いて日本の如何なる私立美術館の中でも最多で有る事実からしても、数と質、名実共に「日本一」と云っても過言では無い。

さて、この藤田美術館が今回収蔵する中国美術品を売却する事にしたのには、ハッキリとした理由と目的が有る。それは、

1. 美術館建物の老朽化に拠る、新美術館施設の建設。2. 新築された最新技術を持つ美術館と為り、今後「日本美術」の美術館として、より安全且つ長期間文化財を保存し、次代へと継承する役割を果たす。

為のファンディングだ。

こう云った美術館改築、設備充当、収蔵品の修復、新収蔵品の購入等の用途の資金を得る為の収蔵品の「売却」は、例えばメトロポリタン美術館ボストン美術館等の米国の美術館では毎年の様に行われて居るのだが、日本の美術館はその意味では大変遅れて居ると云わざるを得ない。

クリスティーズは2008年に根津美術館所蔵の「清朝時計」を売却し、現在の隈研吾氏に拠る館改築の為の資金作りのお手伝いをさせて頂いたが、今回の藤田美術館セールは作品数も多く内容も濃く、その意味で今回の藤田美術館の「決定」は、21世紀の日本の美術館運営の先駆けと為る、重要且つ画期的な物と云えると思う。

では此処からは、そのオークションのスニーク・プレビューを。

出品作の内訳は、元・明の龍泉窯青磁が3点、北魏・隋・唐の石仏3点、商・西周時代の青銅器が6点、西漢から清時代に掛けての文房具が7点、そして絵画が唐から清時代の12点の、総計31点。

その中でも特筆すべきは絵画と青銅器で、先ず青銅器は「方尊(ほうそん)」・「方罍(ほうらい)」・「瓿(ほう)」・「觥/犠尊(こう/ぎそん)」の4点が、何れもワールド・ベスト・クオリティで素晴らしい…が、個人的には非常に珍しい羊型の觥と、恐らくは確認されている物の中でも3番目に大きいと云われる瓿が好きだ。

「鳳龍文羊觥(犠尊)」(→http://www.christies.com/lotfinder/lot/a-highly-important-and-extremely-rare-bronze-6061294-details.aspx?from=salesummery&intobjectid=6061294&sid=2193dfc3-a446-4226-9117-921b8fc7a3df)は酒を入れる祭器で、その顔や眼は何処かピカソの「牛」やエジプト美術の動物を思い出させる。全身に彫られた文様も精緻で、全体的にも小さいがピリッとして居て、非常にクオリティの高い、お金が有ったなら買って側に置き、ずっと撫でて居たくなる様なカワイイ作品。

また「犠首饕餮虺龍文瓿」(→http://www.christies.com/lotfinder/lot/an-extremely-rare-massive-bronze-ritual-wine-6061293-details.aspx?from=salesummery&intobjectid=6061293&sid=30930ed7-8dec-452a-b4c3-c9d7b022cf89)は、これだけ大きいのに作風が全く間延びして居らず、美しく風格が有る。

実はこの「瓿」には兄弟作品が存在して居て、それは現在香雪美術館に収蔵されて居る「瓿」(→http://www.kosetsu-museum.or.jp/collection/kougei/kougei03/index.html)。では、何故香雪「瓿」が藤田「瓿」の兄弟だと分かるかと云うと、香雪作品は藤田作品と形も彫りもそっくりだが一回り小さく、が然し、この香雪「瓿」には「藤田箱」が付いて居て、元々この2作品はペアとして藤田家に有った事が判る。

然も当時村山(香雪)家にお出入りだった某有名茶道具商に拠ると、何とその茶道具商のお祖父さんが「瓿」を自転車の後ろに括り付けて、藤田家から村山家迄運んだのだと云う(今は保険額が怖くて、とても出来ない:笑)…明治・大正期の大コレクター同士の、何ともノンビリとした良い話で有りませんか!

そして絵画。長く宮廷に有った事が確認されて居る六巻の画巻が、今回の絵画セクションで最も重要な作品群なのだが、その中での白眉はと聞かれれば、陳容作と云われる墨画巻「六龍図」(→http://www.christies.com/lotfinder/paintings/chen-rong-as-catalogued-in-shiqu-6061275-details.aspx?from=salesummery&intobjectid=6061275&sid=30930ed7-8dec-452a-b4c3-c9d7b022cf89)に為るだろう。

この作品を観ると、後の雪村や雲谷派の作品、光琳、延いては横山大観の重文画巻「生々流転」の祖として、本作を捉える事さえ出来る。幽遠で力強い構図と筆力、吹墨の技法等も含めて、何と云うか「水墨画の極み」的作品で、エスティメイトは120万〜180万ドルと為ってはいるが、「龍」と云う画題、乾隆帝の来歴も手伝って、恐らく「エスティメイトの10倍以上に為るのでは?」と予想される程のスター・ロット。

またこの「六龍図」には、これら六巻の画巻が中華民国4(1915)年に、醇親王府から山中商会への受け渡されたと云う「レシート」が付いて居るので、歴史的価値もかなり大きい…どんな値段が付くか、乞うご期待だ!

と云う事で、後はオンライン・カタログ(→http://www.christies.com/salelanding/index.aspx?lid=1&intsaleid=26905&saletitle=)を読んで貰うとして、オークションは来週の水曜日夕方7時、下見会は10日からセール当日の5時迄開催して居るので(入場無料)、お時間の有る方は是非…藤田美術館の大名品を通して、古代中国や清朝宮廷に想いを馳せる、またと無いチャンスなのだから!


ーお知らせー
*3月12日(日)15:00-16:00、クリスティーズ・ニューヨークの社屋に於いて、武者小路千家家元後嗣千宗屋氏に拠るレクチャー「Quintessence of Asian Art – The Fujita Museum Collection」(東洋美術の真髄ー藤田美術館コレクション)が行われます。入場無料・全席自由ですので、下見会と共に皆様のご来場をお待ちして居ります。

*3月13日(月)18:30-19:30、ジャパン・ソサエティにて、同上千宗屋氏に拠る「The Subtle Art of the Japanese Tea Ceremony」と題された講演会が開催されます。詳細はこちら→http://www.japansociety.org/event/sen-sooku-the-subtle-art-of-the-japanese-tea-ceremony

*3月16-17日(木-金)、The Kitano Hotel New Yorkに於いて、「桃源茶会」が開催されます。今年は濃茶席を千宗屋氏、薄茶席を谷松屋戸田商店が担当されます。お問い合わせ・お申し込みはMs. Mariko Ikeuchi (212-885-7072)、若しくはRSVP@kitano.com迄。

*3月27日(月)22:25-23:14、NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」に出演します→http://www.nhk.or.jp/professional/schedule/。メディアには見せられないモノ・人・事が多過ぎて、どんな事に為って居るのか全く判りませんが(笑)、お時間が有る方はご覧下さい。