藝術的に濃蜜な5日間。

11月15日(水)
9:00 全米で最も高額な土地に建つ顧客宅に向かい、終日査定業務。顧客が高齢の為、此処連日僕が全て遣った作品の出し入れ等で疲労が溜まって来て居るが、然しこの仕事をやって居て良かったと思う一瞬は、コレクターと共に作品を観ながら語らい、彼の思い出話を聴き乍ら「この素晴らしい作品を扱うチャンスが、僕には有るのだ!」、或いは「何百年生き延びて来た作品を又これから大事に残すと云う、歴史財産存続の手助けをするのだ」と思える時だ。

18:00 顧客宅を辞去し、ホテル前の日本食料品店のフードコートで「山頭火ラーメン」を食べる。醬油味が既に懐かしい。

20:30 空港へ向かい、チェックイン。ラウンジでは余りに美味そうなアジアン・ヌードルを頂いて仕舞ふ。自己嫌悪。


11月16日(木)
5:30 ANA便が、羽田に到着。深夜0:30に現地を出て、飛行時間と時差でこの時間に日本に着くと、丁度眠れて宜しい。今回機内ではたった1本だけ映画を観たのだが、それは「A Ghost Story」…デヴィッド・ロウリー監督の本作は、タイトルから想像する様なオカルトでもホラーでも無く、一風変わった、然し非常に切ない作品で、どうしてもジャンル分けするなら「ファンタジー映画」だろうか。主演は前回のアカデミー主演男優賞のケーシー・アフレックと、ルーニー・マーラ。ネタバレしたく無いので詳しくは書かないが、主演のアフレックは全編を通して略「白い布」を被り、観客からは眼の動きすら見えない状態にも関わらず、それがアフレックだと確り判る演技力を発揮。そしてストーリーは甘く切なく、寂しい。日本公開は未だだと思うが、サンダンス映画祭で絶賛された本作、超オススメだ。

10:00 ウチのニューヨークの現代美術セールに出品されて居た、ダ・ヴィンチの「Salvator Mundi(救世主)」、通称「ラスト・ダ・ヴィンチ」のセール模様をライヴ映像で観る。110億円程のエスティメイトと云われて居たが、何とそのハンマープライスは4億ドル…手数料を含めると510億円だ!今迄オークションに於ける如何なる美術品の中でも史上最高価格だった、ピカソの「アルジェの女たち」(拙ダイアリー:「ピカソの『才色兼備な女たち』が作った『世界新記録』」参照)の倍以上の高値で記録を更新。然し1枚の絵画作品の価格が此処迄来ると、何と無くもう美術品では無く「カネ」としか考えられない…そして日本美術の余りの安さに呆然しながら、ダ・ヴィンチの500億よりも、藤田美術館の300億の方が日本に取っては大ニュースな筈だし、議論されるべき事象なのに…と落胆する。日本人は本当〜〜に外国ネタに弱い。

18:30 友人と有楽町で公開中の映画「Ryuichi Sakamoto: CODA」を観る。このドキュメンタリーは、5年間に及ぶ教授の音楽制作・思索の記録で、監督は「ロスト・イン・トランスレーション」のプロデューサー、スティーヴン・ノムラ・シブル。「被災ピアノ」から「レヴェナント」、咽頭癌罹患、そして「戦メリ」「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」等の過去の作品の制作を振り返りながら、教授の「音」への志向の変化を辿る。僕は教授は日本人の中、いや世界でも20世紀最大のメロディー・メーカーの1人だと思って居るが、それは彼が世界の一流監督との「映画音楽」の仕事の大きな成果なのだと思う。そして劇中本人も云って居る様に、『「制約」の中での「自由」の獲得』と、常に自分より高いレヴェルの芸術家や芸術作品に触れ(例えばベルトリッチやタルコフスキー、ボウルズ)、会い、学び、そしてそれを凌駕しようと藻掻き苦しまなければ、優れた芸術作品は生まれない、と云う事を再認する。来月草月ホールで開催される「Glenn Gould Gathering」が、益々楽しみに為って来た。

20:30 映画後は昔日本に住んで居た時に良く行って居た、銀座の馬焼肉「K」で食事。相変わらず美味しくヘルシーな肉刺し、鬣、ヒモ肉とカルビの焼肉、馬汁を堪能。マスターが僕を憶えて呉れて居て、とても嬉しい。その後は斜向かいに在る、此れも馴染みの喫茶店「M」で、名物「和栗のモンブラン」を友人と半分ずっこ。昔から居る気の良いベテラン・ウェイトレスが気を利かせて、モンブランを最初から半分に切って皿に乗せて出して来たので、最初何が出て来たのか分らなかったが、「男同士でも、僕達は1つのモンブランを突いてシェアしたかったのに…」と冗談で云ったら(笑)、彼女は恐縮頻りで謝ったので、却って悪い事をした罪悪感に苛まれる。


11月17日(金)
17:00 森美術館に向かい、「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」のオープニング・レセプションへ。レアンドロ金沢21世紀美術館の「プール」の恒久展示作品で有名なアルゼンチンの作家だが、日本では初の大規模な個展と為る、椿玲子学芸員渾身の展覧会だ。この展覧会は子供から大人迄楽しめる、エンターテイメント性も満点。混む前に是非訪れて頂きたい。

19:00 天王洲の銀河劇場へ行き、友人が出演して居る舞台「この熱き私の激情」を観る。ロビーでは弟夫婦にバッタリ会い、ビックリ。さてこの舞台は、カナダの作家ネリー・アルカンの特異な作品をマリー・ブラッサールが演出、出演は女優と女性ダンサーの7名のみ、そして舞台は娼館と云う、女尽くし・女塗れの演劇。舞台セットは、キューブ形の9つの部屋が2階建に設えられ、各部屋には各々「幻想(芦那すみれ)」「天空(小島聖)」「宙に浮いた姉の金色の魔法」「血(霧矢大夢)」「星の金色の魔法」「神秘(初音映莉子)」「影(松雪泰子)」「蛇(宮本裕子)」そして「失われた(奥野美和)」と名前が付けられて居る。36歳でこの世を去った作者のアルカンは、自らが娼婦の経験が有り、本作品で女達に語られる極めて過激で象徴的、且つ絶望的な言葉の数々は、女優達の熱演と共に観る者の心を抉る。かなり良く出来た舞台なのに、空席が目立って居たのが理解出来ない。まぁ日本人、然も一般向きでは無いか…。


11月18日(土)
9:00 「親孝行ウィークエンド」のスタート。母と新幹線で待ち合わせて熱海に向かい、MOA美術館で開催中の展覧会「千宗屋キュレーション 茶の湯の美ーコレクション選」見学と、その関連イヴェントで有る茶会に出席。若宗匠を始め、FやU等の美術館館長や大阪・京都・名古屋の道具屋さん達にもバッタリ会って仕舞い、そう為ると母を紹介せざるを得ないので、恥ずかしながらこの日は母の「業界デビュー」の日と為る(笑)。長次郎の「あやめ」や大井戸「本阿弥井戸」、牧谿の双幅「蓮に鶺鴒、葦に翡翠図」等、展示された茶道具のコレクションも流石のMOAだが、然し茶会での濃茶席主茶碗だった長次郎焼黒茶碗の「箱」が、子孫了入に拠る「陶箱」な事に驚愕。その陶箱は何処と無く光悦風の面取りの作で、大き目の茶碗と思って使えば、飲めなくも無さそうだったが、ご丁寧に紐穴を開けて焼いて居るので、漏れて仕舞ふ事止む無し…然し、こんなの初めて見た!

20:00 予定されて居たディナーがドタキャンされて仕舞ったのだが、都合良く学生時代の先輩N氏に誘われたので、シャンパンを一本抱えてN氏の若い友人のフェアウェル・パーティー@ウエスティン・ホテルへ。スイートを借り切ったパーティーの主役は、メキシコ人と結婚する為に移住する24歳の可愛いMさん。N氏の交友範囲には驚くばかりだったが、その場の慣れない雰囲気に戸惑う。その後、彼女やその友人が僕の母校出身だと知り少々安堵するが、然し違和感は拭い切れず、N氏を置いて早々に退散…何と無くルーザー気分を噛み締める。

22:00 今日茶会で会った方々から、メール等届く。幾つに為っても、息子が母親と一緒の所を見られるのは何故か恥ずかしい…何故だ?(笑)


11月19日(日)
11:00 「親孝行ウィークエンド」の2日目は、国立能楽堂で開催された「片山幽雪 三回忌追善能」。11時から18時前迄の長丁場だが、母の体調の事も有り、お能二番を中心に15時半過ぎ迄観能。一点難を言えば、番組が詰め込み過ぎで休憩が短く、客がランチを取る時間が無い。況してや国立の食堂は食事が出て来るのが遅いのだから、勝手を云えば観客の腹具合も少々考慮した番組作りをして欲しかった。さて会は連吟「加茂」から始まり、お仕舞六番を経て、最初のお能は観世宗家の「海士 二段返・解脱之伝」。囃子方は藤田六郎兵衞、大倉源次郎、亀井広忠、小寺佐七(番組には観世元伯師と有ったが、小寺師に変わって居た。元伯師、お具合が悪いのだろうか…心配だ)各師のオールスターキャストで、源次郎師の最初の一音の素晴らしさと、宗家の優美な舞(謡い出しがかなり強くて吃驚した)、そして銕仙会の面々に拠る力強い地謡を堪能する。能二番目は今日の真打、片山九郎右衛門師の「三輪 白式神神楽」。出演者が入って来て、小鼓と大鼓の後見に源次郎師と亀井忠雄師が座ったのにも驚いたが、ワキの宝生欣哉師が声も謡もお父さんそっくりに為って来た事にも驚く。そしてこの「三輪」でも、地謡観世銕之丞梅若玄祥、観世喜正各師を配する強力ラインナップだったが、個人的にはシテが余りにヒューマン・フェミニン過ぎて、「神」感が少々足りない気もした…如何だろう?

17:00 母と都内ホテルの中華「T」でディナー。何時も通りの蟹卵入り鱶鰭スープや北京ダック、エビチリ等に加え、何時もと違う物を食べて見ようと、春巻や東坡肉、海鮮焼きそばを食す。母が食欲旺盛で安心する。

20:00 時差ボケでウトウトしながら、久し振りに家でノンビリし、最近古書店で入手した小林秀雄私小説論」初版を読む。この初版本の装丁は青山二郎で、古書店のショウケースに並んで居たのを偶然見つけ、即買いしたモノ。骨董を間に育まれた、2人の愛憎半ばする「友情の証」を読み進む悦びは、秋の夜長にピッタリ。BGMは中学の同級生でN響チェリスト藤村俊介の、ヴァイオリニスト大宮臨太郎とのコラボ盤「コダーイ:二重奏曲」、デザートはファミマの新製品「濃栗プリン」…嗚呼、何て癒されるのだろう。


然し濃い5日間だったなぁ…。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、上記国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は朝日カルチャーセンター新宿(03-3344-1941)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

時差ボケの「ここんとこ日誌」。

10月30日(月)
11:00 重要顧客が来社し、打ち合わせ。その顧客の顧客が、或る絵師の作品で飾られた部屋を作りたいらしい。ブームというのは恐ろしいモノだ。

12:00 その顧客と久し振りに銀座の洋食店「Y」に行き、メンチカツ・ランチを頂く。昔東京オフィスが銀座に在った頃に良く来た店だが、味も、何気無く壁に掛って居る梅原龍三郎のデッサンも変わっては居ない…嬉しい限り。

19:00 オペラシティ・コンサートホールでの、クラシック・ピアニスト松田華音のリサイタルへ。彼女のピアノを聴くのは、2年前のロシア大使館以来だが(拙ダイアリー「『追いかけない』歳末動向」参照)、彼女の演奏、そして外見もあれから大分大人っぽく、且つ艶っぽくなった…そしてその事実は、実に素晴らしかったムソルグスキーの「展覧会の絵」の演奏に、見事に反映されて居た。


10月31日(火)
10:30 香港のボスと電話会議。マネージメントの人間は、現場のスペシャリストが作品を、況してやコレクションを引っ張って来るのがどれだけ大変かを知るべきだ。作品が手許に無ければ売る事、利益を出す事等出来る訳が無いのだから。そしてそんな事も分からん人間がスペシャリスト達を評価をするのだから、出世や報酬に差別的格差が出るし、例えばどんな功績を上げたら給料やポジションが上がるかもハッキリしない…やっとられんわ。

19:00 頼んで居た茶碗と湯呑の直しが出来たとの事で、依頼した修復家とその茶友で有る編集者、そして某老舗ディーラーの娘さんを交えて、目白「B」でディナー…不昧茶会の事等を話す。この店は料理も大概美味しいが、シメの欧風カレーが天国的にウマ過ぎて、炭水化物ダイエット実行者には地獄。


11月1日(水)
9:30 朝から所用有って、実家の在る地区の市役所へ。全く役人ってヤツは…。

19:00 顧客と銀座のしゃぶしゃぶ店「Z」でディナー。老舗のしゃぶしゃぶ店に良く有る、炭を使っての「銅の煙突付き鍋」が泣かせるが、周りの外国人観光客の団体がまるで「フットボール観戦でもしてるのか?」位の勢いで騒いで居て、煩過ぎ、イラつく。が、僕の席に付いたウェイトレスさんがかなり面白い人だった事と、デザートの「トップス」のチョコレートケーキで少し心が和らぐ。その胡桃の入った「トップス」のチョコレートケーキで思い出すのは何時も父親の事で、僕が高校生だった頃、夜更かしして深夜2時位に喉が渇いて2階の自室から降りて来ると、何故か台所の電気が付いて居る。不思議に思いソッと中を覗くと、父親が扉を開けた冷蔵庫の前に椅子を持って来て座って居るでは無いか。「親父、何してんの?」と背後から声を掛けると、父親はハッとして振り向いたのだが、その左手には箱入りの細長いトップスのチョコレートケーキのホール、そして右手にはスプーン、口元はチョコレートで汚れて居た。幾ら大好物でも、夜中にスプーンで端からホール・ケーキを食べなくても…とも思ったが、今と為ってはその気持ちも分からないでは無い(笑)。


11月2日(木)
9:00 NYからのLINEで、若い女性の友人に赤ちゃんが産まれた事を知る。目出度い…Sちゃん、御目出度う!それにつけても何時も思うのだが、人生は誕生と死の繰り返しで成立して居て、新しい生命の誕生は、僕には同時に死んで行った者を思い起こさせるのだ。

10:00 家で作品調査中に、先日某オークションで売ったその売上金で買った写真作品が届く。僕は写真作品は殆ど持って居ないのだが、この一見恐ろしい作品は、その恐ろしさが故に惹かれる。

15:00 オフィスにて、来日中のロックフェラー家当主デヴィッド・ロックフェラー夫妻と会い、藤田家のご兄弟を紹介する。ロックフェラー氏のお父様の本に掲載されて居る写真に、ロックフェラー氏と藤田伝三郎夫妻が一緒に写って居る写真が有る事からこの面会が実現したのだが、藤田氏に拠ると何とその写真中の人物は伝三郎氏では無く、その長男で有る平太郎氏夫妻と判明…ロックフェラー氏はメモを取り、次の版では訂正すると約束。何れにしても名家ならではの、時代を超えての子孫同士の微笑ましい面会と為った。


11月3日(金・文化の日
10:00 昨日アーティストの佐藤允君から届いて居た「スタジオ・ヴォイス」最新号、「Alternative Eroticism ゆらぐエロ」特集を見る。すると、手紙らしき物が挟まれたページが有り、そこを開いてみると、パンツ一丁で緊縛された元々ハンサムな佐藤君が、妖しく此方を見つめる。そして手紙には到底此処には書けない内容の絵と云うかイラストと云うか、図解と云うか…(笑)。佐藤君、有難う!

14:00 21_21 Design Sightへ向かい、「野性展:飼いならされない感覚と思考」展を観る。本展のディレクターは中沢新一で、此処から既に興味深いが、南方熊楠からしりあがり寿迄フィーチャーされ、内容も秀逸。僕は常々「心の中の野性の『余地』」=「未だ飼いならされて居ない場所」を大事にして来たタイプだから、本展への共感度は異常に高い。隣で開催中の吉岡徳仁「光とガラス」展と共にオススメ。

15:30 サントリー美術館「狩野元信展」へ再来訪。やっぱ正信より元信でしょ(笑)。そして、去年売った伝元信の「四季花鳥図屏風」を再び思い出す。良い作品だったなぁ…。

19:00 NYで知り合ったアーティストIさんとH君の2人と、神保町「M」で肉ディナー。其処へウチの会社の同僚Kと、その友人で元画廊勤務の金融Dさんがジョインし、盛り上がる。その後は皆でウチへ移動し、家飲み四方山話。その中で僕が皆に糾弾されたのが、「女性をサシでお能に誘うのは良くても、映画はダメ!」と云う話で、「食事や飲みは良くても、映画や舞台はダメ!」と云う女性も過去に居たが、一体全体何処がそんなに違うって云うんだ(怒)⁉


11月4日(土)
13:00 若い友人と代官山で待ち合わせ、ヒルサイド・フォーラムで開催された「第4回CAF賞作品展」へ。このコンペは前澤友作氏率いる現代芸術振興財団主催で、若手現代美術家の育成を目的とした物で有るが、今年の展覧はその入選作品以外にも、「123億円」バスキアを初めとする前澤氏所有の作品も飾られ、話題を呼ぶ。若手作家の作品を観て貰う為に、自分のコレクションを呼び水に使う氏に敬意を表する、良い展示でした。帰り際には財団の方々にご挨拶。

15:00 その友人と「ブレードランナー 2049」を観る。ハッキリ云って、素晴らしい!一緒に行った友人は、1982年のオリジナルを観て居なかったが、それでも内容は追いかけられるし、前作を観た者に取っては、オマージュだらけの面白さも有る。ヴィルヌーヴのシットリとした映像も良いし、脚本も大変ヨロシイ。然し前作でのレプリカントが、何と「2017年年生まれ」だった事にはビックリ…サイエンスは僕等が思ったより進歩して居ない。今回の舞台は2047年だから、再び30年後の近未来を描いて居るが、僕はその頃84歳…科学の進歩の結果が見られるだろうか?

18:30 若い友人は今迄、猪も熊も鹿も食べた事がないと云ふ…ので、六本木「M」でディナー。魚、猪と鹿を焼き、最後は猪熊鍋。突然の冷たい雨でも、十二分に暖まる。


11月5日(日)
11:30 今晩初めて行く生花教室の為に、ミッドタウンの「木屋」に行き、「団十郎」花切鋏を買う。何故「団十郎」なのかと聞くと、木屋四代目が九代目団十郎の贔屓だったそうで、今で云うパテント契約を結んだと云う…僕が買うに相応しい鋏では無いか(笑)?

12:30 運慶に関するレクチャーに来てくれた、元同僚Yさんとランチ@「U」。「ハーフ」サイズでも普通の一人前より多い位のサラダを突きながら、20年振りにお互いの近況を語り合う。「ハーフ」為らぬ「ミックス」(最近は「ハーフ」とは云わないらしい…)のYさんは、以前と余り変わらずお綺麗で、然し2人の男の子の母としての威厳も出て居る。僕はこのYさんを含めて、10組弱結婚式でスピーチをして居るが、未だに誰も離婚をして居ない(と思う)のが自慢だが、どんな事でも人の事は上手く行くモノだと熟く思う。

18:30 現代美術コレクターY氏が経営する三宿のカフェ「S」で月一回開催される、慈照寺銀閣)の元花方で、今と為っては京都造形大で僕の同僚でも有る、珠寶さんに拠るお花の教室へ。今回が初めての参加だったが、珠寶さんが選んだ10種類位の花を各々取り、自ら持って来た花器に生けた作品を先生が手直ししてくれる、と云う手順。当然上手く行く訳もないが、先生に「余白を活かせ」と教えられ、室町水墨画を思い出しながら、ギャラリストK君等と一緒に頑張る。その後は珠寶先生を囲んでのディナー。


11月6日(月)
9:00 渋谷黒田陶苑から届いた、山田山庵の茶碗展の図録を観る。「今光悦」とも呼ばれた山庵は、そもそもは金融業を営む実業家で、茶道具商も創業…半泥子のタイプの数寄者陶芸家だが、その茶碗は実に魅力的…欲しく為る〜(笑)。

11:00 某刀剣商の店で武具甲冑の世界的エキスパートに会い、プライベートセールの為に研ぎ上がり、写真を撮られた素晴らしい刀を共に観る。 僕の刀剣の知識等ハナクソ・レヴェルだが、元来神宝で後に人を切る武器と為り、然もこれ程美しい「美術品」は他に類を見ない。恐らく海を渡る史上最高クオリティの刀と為るだろう…。その後は皆で打ち立て蕎麦のランチ。

16:00 オフィスにて、某百貨店美術部関係者と某プロジェクトの打ち合わせ。「ジャポニズム」がもっと流行しないかなぁ…。


11月7日(火)
14:00 有力浮世絵商に会い、写楽北斎の作品を幾つか見せて貰う。最近北斎の値上がりが凄く、ちょっとオーヴァー・ヴァリューでは無いか?と思う程。高く売れるのは良い事だが、世の中それだけでも無い。

17:00 香港と電話会議。そんなに何でもかんでも進まないよ。


11月8日(水)
9:30 某大学美術史教授から着電。僕が昔売った、或る凄い来歴を持つ最高品質の肉筆春画のセットの写真を、来年出る某有名美術誌の特集号に出したいとの事。

11:00 某古美術商の所で、掛軸を拝見。流行りの絵師のモノだが、この絵師の作品の真贋は年々甘く為りつつ有り、まるで嘗ての北斎の肉筆の様。

14:00 オフィスにて、某学会誌のインタビュー。名物編集のMさんは長年この世界で活躍、青山二郎白洲正子の時代から現在迄、古美術の世界に住む魔物達と付き合って来た、優秀且つダンディーな方。来年掲載されると云うから楽しみ。因みに対談風景の写真を撮りに来たのは、現代美術家杉本博司氏のお弟子さんだった。

17:00 重要顧客が作品を持って来社。専門家が来る迄、お預かりする。

18:00 某重要顧客と銀座「G」でディナー。斜め向かいの席には、東京五輪でも役が付きそうな、有名ファッションデザイナーも居たが、略満員の客は大概が「同伴」組。何時もの様にオードブル数品、冷製コンソメ、サラダ、そして野菜たっぷりの「シチュー・ア・ラ・モード」を頂く(当然ご飯は無し!)。さてデザートの段に為って、マダムが「今日は孫一さんの大好物の、『洋梨のシャルロット』が有るわよ!」と云うので、僕も顧客にも強く勧めた末注文したのだが、一度それを受けたマダムが急いで引き返して来て、「ゴメン、今日は作ってなかった!」と云ふ。期待が大きい程落胆も大きい…何だよ!と云うと、代わりに「マロンと芋のシャンティ」が有ると云うので、それを食べたら僕の機嫌はアッサリと治った(笑)。単純。


11月9日(木)
10:00 今日の深夜便で海外出張に出るので、荷物の準備。

15:00 有力浮世絵商を訪ね、プライベートセールの為の写楽の大首絵を拝見。状態はそれ程良く無いが、印象と色の残りはかなり良い。これなら、若しかしたら行けるかも知れん。

20:00 迎えの車に乗り、羽田空港へ。車中、今別件で他部門とトラブっている顧客と、空港に着く迄の粗全時間を話に費やす。

21:00 ラウンジで、小カレーを食べて仕舞ふ…中々美味しい。深夜便だと乗ってから食事を摂るのは時間的に厳しいので「仕方無い」と思い、小牛丼も(涙)。

23:00 搭乗口でかなり待たされるが、その時同乗者に個性派有名女優Mが居る事に気付く。彼女はイライラして居て、歩き回って居たが、スッピンの素顔は年齢を感じさせない綺麗さだった。搭乗し席に座った途端に爆睡。僕としては極めて稀だが、一本も映画も見ずに過ごす。


11月9日(米国時間)
16:00 飛行機は結構遅れて到着。そこから車でラッシュの中2時間半近く掛けて、漸く現地ホテル到着。疲労困憊。

21:00 軽く夕食を取り、時差ボケ対策もない侭、もうだめだ…とベッドに倒れこむ。さぁ、明日から頑張らねば!


皆さん、おやすみなさい。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、上記国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は朝日カルチャーセンター新宿(03-3344-1941)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「異風」堂々な近況。

10月20日(金)
11:00 日本橋・瀬津雅陶堂で始まった「第九回雅展 南都」を拝見。瀬津勲氏による「雅展」には何時も驚かされるが、今回も腰を抜かさんばかりの激素晴らしいラインナップ。展示作品は法隆寺興福寺、或いは唐招提寺東大寺等の「来歴寺別」に構成され、塑像・乾漆・木彫・金銅・刺繍・麻布迄、古の香りが濃密に漂う展覧会。中でも法隆寺金堂天蓋の天人と鳳凰、乾漆釈迦如来坐像、原三渓益田鈍翁来歴の蓮華と蓮弁、ペアの興福寺天部等は、垂涎のモノ…無理とは分かって居ても「嗚呼、欲しいっ!」と叫びたく為る作品ばかり。誠に罪な展覧会で有る(笑)。

15:00 「北斎ジャポニズム展」のオープニング・レセプション@国立西洋美術館。内覧会にも拘らずかなりの人出で、作品をじっくりと観れない。展覧会は何方かと云うと図様・構図の比較が多く、矢張り浮世絵よりも海外の美術館からの印象派の作品に見応えが有る。

19:00 ロシアのピアニスト、イーヴォ・ポゴレリッチのピアノリサイタルを聴きに、音楽をやって居る友人とサントリー・ホールへ。会場には最近お互いにクラシック・ファンだと知り、ポリーニのCDを貸して呉れた古美術商氏(最前列に陣取って居た!)や、T大のI先生の姿も。此処毎年聴いて居るポゴレリッチだが、聴く度に「此奴は実は『打楽器奏者』では無いのか?」と思えて来て、イマイチ感が強いが、この日は偶然にも彼の59回目のバースデーで、相変わらず長くなったコンサートもアンコールが終わると、関係者の合図で観客全員がサプライズでのハッピー・バースデーを歌い、驚いたポゴレリッチは顔を赤らめる。ホノボノした良い瞬間だった。

21:00 コンサート後は友人と、しゃぶしゃぶディナー@「K」。此処は胡麻ダレが少し変わって居るが、しゃぶしゃぶにしては厚切りの肉に何故か合い、大満足。


10月21日(土)
13:00 雨の中電車に1時間一寸乗り、帰国後始めた弓の稽古へ。緑に囲まれた雨の日の弓道場はシットリとして静かで、人も少なく、より集中出来る気がする。この日、僕は生まれて始めて俵に向けて弓を射ったのだが、何とも云えない素晴らしい感覚で感動。そして「型」の大事さを思い知る。

19:00 テラダ・アート・コンプレックスのオープニングへ。今回の主目的は、Kosaku Kanechikaでの桑田卓郎の展覧会「I’m Home, Tea Bowl」。所狭しと並べられた桑田君の茶碗はカラフルで、然も「飲めない」茶碗が主流。が、その独創性には故林屋先生も唸った。桑田君は、今世界で最も名を知られて居る日本陶芸家と云える…これからの活躍に期待して居ます!

19:30 テラダ内を徘徊中に、SBIオークションに出品されて居た某作品にテレフォンビッド。予算内で買えたので、良かった良かった。

20:30 金近君に招かれ、近所の「T」でのディナーに参加。コレクターや所属作家達と楽しいひと時を過ごすが、実は翌日が金近君の●●回目のバースデーと云う事を偶然知ったので、サプライズでケーキを用意し、お祝いする。然し、彼はズル過ぎる程若く見えるので、何か癪に触るのだが(笑)。金近君、おめでとう!

22:30 食事会で一緒だったアーティストT氏と、表参道に移動してサシ飲み。「飲み」と云っても「ソフトドリンク」な僕等だったが(笑)、諸々の悩みを聞いて貰ふ。


10月22日(日)
10:00 朝から台風の大雨で憂鬱、そして強い孤独感。ポリーニベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴きながらお抹茶を頂き、最近刊行された「告白 三島由紀夫未公開インタビュー」を読む。三島のスノッブさが鼻に付く。

14:00 大雨の中、行こうかどうしようかかなり迷った末に、結局骨董フェア「目白コレクション」へ。前年、以前僕が持って居た誕生仏を出して居た店の店主が云うには、その誕生仏は僕に売って呉れた骨董屋さんが買い戻して行ったとの事…骨董は「相目利き」と云う同じサークル内を巡る事が多い。

16:00 どうせ外に出たのだからと、西洋美術館の「北斎ジャポニズム展」を再訪。流石に人も少なく、今度はじっくりと観れる。僕は雨の日の美術館が好きだ。

18:30 上野から新宿に出て、親しい友人が出演して居る角田光代原作の映画「月と雷」を観る。寂しいと云える程静かな作品だがメッセージ性は強く、ヒシヒシと「Life must go on」感を得る。主演の初音映莉子草刈民代コントラストが良い。


10月23日(月)
10:30 僕が最近理事に為った、日本文化関係社団法人の理事会@海外特派員協会。お歴々の中で緊張する。理事会後の昼食会では、緊張の余り腹が減り、パンを3回もお代わりして仕舞った…自己嫌悪。

15:00 オフィスにて経費の仕事と、レクチャーの為の資料作り。

18:30 顧客と築地「T」で鰻ディナー。重要なビジネスの話をする。その後は、顧客行きつけの銀座のクラブ「T」と「F」の2軒をハシゴ。今最も人気の2店らしく超満員で、女性も美しいが、そのホスピタリティも一流なので、ハマる理由も分からなくも無いが、それも此れも先立つモノ次第(涙)。


10月24日(火)
10:00 お世話に為った元同僚、Nさんの告別式。Nさんは僕より一回り上だったが、僕を新入社員の頃から可愛がってくれた、何時も綺麗でオシャレな方だった。最後に病院でお会いした時、もう余り話せなかったが、相変わらずの茶目っ気振りを発揮して居て、却ってそれで泣きそうに為った。Nさん長い間お疲れ様、そして有難うございました…心からご冥福をお祈りします。

12:00 都内ホテルの天麩羅店で、IT社長K夫妻とランチ。総選挙でも奔走して居たで有ろうK氏は、初めて奥様を連れて来た…美しい奥様は秘匿されるのも宣なし。

13:30 現代美術家杉本博司氏が、今年の文化功労者に選ばれた事を知る。官界を意図的に巻き込んで、芸術的国威高揚を企む氏の凄さを再認識。次は文化勲章か⁉

15:00 東京オフィスで開催して居た時計と宝石の下見会で、気に入ったクラシックな時計を見つけたので専門家に値段を聞くと、桁違いで吃驚する。「時計にこの値段かぁ?」と正直思うが、世の中には「仏像や茶碗に、このお金?」と思う人の方が多いかも知れないと思い、反省する。

19:00 初めてのタイ古式マッサージを、体験施術。結構ハードだったが、体の至る所が伸びた気がする。クセに為るかも。


10月25日(水)
12:00 顧客との打ち合わせを終えた途端、ふと「O」の激ウマ栗のスフレの「期限」の事が頭を過ぎり、「O」に電話をしてみると、今年は後2日位で終わりだと云う…。そう聞いて知らん顔する程、僕はタフでも我慢強くも無く(笑)、早速飛んで行き、カウンターに1人で座ると、サラダとコンソメ入りかぼちゃの冷製スープ、オムライスを頂く。そして愈々今年の食べ収め…「マロン・スフレ」の登場だ!と思ったら、若い料理人の子が2個運んで来たので、「ん?」と尋ねると、何とムッシュ(シェフの事)の指令だと云う。嗚呼、有難き幸せ…僕は熱々のマロン・スフレを2個、ダブル・エスプレッソと共に頂き、至福のひと時を味わった。これで今年も年が越せる。


10月26日(木)
10:30 某顧客と国立新美術館で開催中の、「安藤忠雄展−挑戦−」を観る。この素晴らしい展覧会は、安藤こそが現代日本を代表する建築家で有り、アートと共に生きる者に取っての神建築家で有ると云う事が判る。「余白」や「間」を感じさせる、独特な個人住宅&美術館建築家の両面で、これだけ個性と機能を充実させ得る事に敬意を表するし、ボクサー故とも思われる氏の精神と肉体のタフさには、驚愕を禁じ得ない。近作で有る、NYの顧客でも有るY氏のマンハッタンのペントハウスには、工事中何度かお邪魔したのだが、パトリック・ブランのアートをインストールする等、建築家としての「挑戦」と顧客との「調整」との絶妙さを垣間見た気がした。外に建てられた「光の教会」も必見の、建築に詳しく無い僕でも感動する、今年のベスト5に入る展覧会だと思う。

11:30 新美術館を出た所で、大手骨董商のT氏にバッタリ。T氏も安藤展へ行くとの事。後でお店を訪ねようと思う。

12:30 ミッドタウンの和食屋「S」で、美術館関係者とランチ。此処に来ると何時も頼む「玄米+鯖味噌定食」を頂く。デザートは杏仁豆腐…美味い!

14:30 食後、さっき会ったT氏の店に行こうと六本木を歩いていると、NYのディーラーY氏が向こうから何か食べながら歩いて来るでは無いか!するとY氏が「さっきTさんに銀座からの地下鉄で会ったよ」と云う…ふーむ、今日は「人間相目利き」の日なのか?(笑)

15:00 T氏の店を訪ね、作品を眺めながら味わい深い高麗物の茶碗でお抹茶を頂く。在外日本美術コレクションは最近移動が激しく、それはコレクターの代替わりが最も大きな要因だが、これはビジネスチャンスでも有る。来月ウチで売る「ラスト・ダ・ヴィンチ」が幾らになるか?との話に為るが、「あの作品」より安かったらどうしよう…と同意する。

16:00 帰りに隣のタカ・イシイ・ギャラリーに寄り、榎倉康二の展覧会「Figure」を観る。此処数年、或る人の影響で榎倉康二に興味を持ち、展覧会やオークション等作品が出ると必ず観るようにして居るが、人とモノの出会いは本当に面白い。

19:00 最近知り合った若い友人と、青山「D」でディナー…の筈だったが、友人が都会のエアポケット的に道に迷い続け、僕も探しに出て行った末、見つけ出して食事を始めたのは何と40分後。食事前の有酸素運動のお陰で、ブラッタやトリッパ、パスタ、カンノリッキも味がより良く為った気がする(笑)。帰り際Iシェフが最近出したレシピ本を買い、サインをして貰う…作りゃあしないんだけどね(涙)。


10月27日(金)
8:50 羽田から飛行機に乗り、顧客に会いに岩国空港へ。

12:00 顧客と打ち合わせがてら、広島に移動して顧客の行きつけのピッツェリアでランチ。シェフはナポリで修行した本格派で、流石に美味しかった!

14:30 トンボ帰りも良い所だったが、良きニュースを持って羽田へ戻る。

19:00 銀座の「K」で若い学者と食事をし、季節の料理に舌鼓を打つ。その後は最近再訪した、都合20年近く通って居る並木通りの「M」で一杯。驚くべきは、その頃の女性が未だ店に居た事だが、然し妙な安心感が有って好ましい。

22:00 早目に銀座を上がり、帰宅して翌日の運慶レクチャーの準備。


10月28日(土)
10:00 午後のレクチャーの最終点検を、坂本龍一の「Playing the Piano Self Selected」を聴きながら頑張る。そう云えば、12月半ばに草月ホールで教授主催の「グレン・グールド・ギャザリング」が開催されるそうな…行かねば。

13:30 荒谷さんからの連絡を貰い、タケ・ニナガワでのアーティスト加藤泉氏の1日展覧会へ。この日の展示は、マイアミ・バーゼルで展示される加藤作品のプレヴューで、何時も木彫、石を使った新作やリトグラフ、明るい色合いの絵画等が並ぶ。加藤作品は相変わらず魅力的だったが、彼のバンド(テトラポッツ)の方も早く聞きたい!

15:30 運慶に関するレクチャーを、朝日カルチャーセンター新宿で行う。多くの方に受講して頂き、また質疑応答や挙手の場面でも皆さん積極的で、感動。楽しんで頂けたなら幸甚だ。また、このダイアリーを読んで頂いて居る受講者の方も多く、30年振りの学生時代の友人にも会えたし、マロンちゃんのお土産も沢山頂いて仕舞いました…受講して頂いた皆さん、有難うございました!

18:00 雨の中銀座に向かい、友人と「Y」で豚ベーコン・シーザーサラダ、豚肉蜂蜜焼き、一口カツ、そして二色豚薬膳鍋を腹一杯頂く…。寒くなって来たこの頃に、この鍋は最高過ぎるゼ(笑)。


10月29日(日)
12:00 大雨の中、古典芸能関係者の友人を連れ立って、護国寺で開催された「松平不昧公二百年遠忌記念茶会」へ。この茶会は不昧公の墓所も在る護国寺で、濃茶席を担当する遠州流宗家小堀宗実宗匠と、薄茶席を持つ武者小路千家家元後嗣千宗屋若宗匠の立案、もうひと席はLIXILの潮田会長の濃茶席で構成された、道具に関しても垂涎極まり無い茶会だ。先ずは展覧席で、不昧公直筆の素晴らしくも力強い「枕流」の双幅に感動するが、書状での文庫の方曰く「文春砲」的内容にも驚愕。次に官休庵の水屋を訪ね、若宗匠やお母様、社中の方にご挨拶をし、茶室へ。不昧公の「破れ虚堂写」横物、五鈷鈴や実は新発見な某絵師に拠ると思われる花鳥図風炉先屏風に目を奪われるが、不昧箱を持つ無傷の青井戸「銘秋野」が素晴らしい。その後吉兆さんの美味しい点心を頂いた後は、遠州家元の濃茶席へ。此方では龍耳古銅花入や瓦獅子香炉、また非常に女性的な不昧公共筒茶杓に眼を奪われる。そしてギリギリに飛び込んだ潮田氏の席は、雲州蔵帳所載の顔輝作「二仙図」、同じく蔵帳所載の与次郎作小阿弥陀釜、砧鯉耳花入、宋胡録九角香合等々名品揃いだったが、個人的には何よりも替茶碗だった青井戸「異風」…不昧公が最も愛したとも云われる、小振りで何とも侘びて居るのに、堂々と風格の有る垂涎のお茶碗でした!


さてさて気が付けば、10月ももう終わり…個人的激動の2017年も後2ヶ月。


ーお知らせー
*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「京博」もとい「九博」で見つけた、「国宝」に負けない日本美術と「僕の心」。

人の心が揺れれば、政治も揺れるのは太古からの必然…が、今週末が選挙だと云うのにも関わらず、出張先でも東京でも、選挙カーや演説に行き合う事が無く、東京でも殆ど候補者達の声は聞こえない。僕の行動範囲と合わないのか?然し昔はもっと至る所で、候補者達を見た様に思うのだが。

そんな選挙は小池都知事の「排除」発言という大失態に因って、恐らく緑の党は勝てず、安倍政権が存続すると云う最悪のシナリオを考えざるを得ないが、我々は取り敢えず反安倍票を入れねばなるまい。小池氏は民主党の全員を一旦受け入れ、過半数議席を取ってから「排除」=「窓際化」すべきだったのに、人生最大・千載一遇のチャンスを逸した…これで日本初の「女性首相」の目も無くなっただろう。

さて最近の僕はと云うと、色々な形の「別れ」に直面して居て、心が安らがない。今は人生に於ける「そう云う時期」だと諦めるしか無いのだろうが、色々な意味で井伏鱒二に拠る「勧酒」の訳、『「サヨナラ」ダケガ人生ダ』と云う文々が当に正しい、と云う事を認めざるを得ない。

そんな中、僕を癒して呉れて居るアート・ライフはと云えば、日米協会の賞を受賞した在米の大コレクター顧客の授賞式@国際文化会館に出席したり、「やはり協奏曲は難しいのかな…」と実感した辻井伸行ロンドン・フィルラフマニノフを聞いたり。

はたまた茶人宅で邦楽家元と共に夜のお茶を楽しんだり、東美アートフェアを訪ねたりもしたが、先週末の大仕事、永青文庫副館長の橋本麻里さんと最近小布施の北斎館館長に為られた安村敏信先生と一緒に出演した「ニコ生・国宝特集」は、お二人のお陰で非常に楽しく勉強に為った2時間で、番組最後のアンケートでも相当高い評価を頂いた、稀なる体験と為りました…麻里さん&安村先生、有難うございました!

と云う事で、此処からが今日の本題…今週は関西へと出張をして来たのだが、先ず月曜日は、細見美術館で開かれた特別展「末法/Apocalypseー失われた夢石庵コレクションを求めて」のオープニング・レセプションに出席。

今は亡き仏教美術個人コレクター「夢石庵」の正体は、観覧後のお楽しみとして置くが、作品のラインナップは京博で開催中の「国宝展」に勝るとも劣らぬモノで、そのコレクションの持つ得も云われぬ「センス」は、京博の作品群を凌駕して居ると云っても過言では無い。

中でも白眉は、日本彫刻の代表格と云っても良い程のクオリティの法隆寺伝来・鳥海青児旧蔵「木造十一面観音立像」(平安)や本邦初公開パワーズ・コレクション旧蔵の「木造天部立像」(平安前期)、状態の良さに驚く安田靫彦旧蔵「胎蔵界曼荼羅」(平安)や、弓を笛に代えれば見方に拠っては能楽笛方藤田流宗家の藤田六郎兵衛師にしか見えない(笑)「木造随身坐像」(平安)、これも本邦初公開、パワーズ旧蔵司馬江漢の大名品「寒柳水禽図」軸や、『「かざり」展に出したい!』と誰もが頷く超絶技巧な鎌倉期「金銀鍍透彫光背」等々で、何れも此れも古美術・仏教美術蒐集家に取っては、垂涎の品ばかり!

夜は名品でお腹一杯と思いきや、最近体調を崩したけれど復活を果たしたSシェフの顔が見たく為って、彼のレストラン「L」へ行き、スタミナ満点の赤身ステーキとブラッタ・カプレーゼを彼の笑顔と共に頂き、健康の有難さを実感。

そして翌日は朝から福岡へと移動し、九博で始まった特別展「新桃山展−大航海時代の日本美術」を観る。

この展覧会も、謂わば「南蛮国宝展」と云っても過言では無い位の物凄いラインナップで、約80年振りに見つかった、僕が今まで観た如何なる南蛮屏風の中でも最高品質の、懐かしい狩野内膳作「南蛮屏風」から、国に買われて仕舞った大好きな長次郎の黒茶碗「ムキ栗」や志野茶碗「猛虎」、狩野永徳「唐獅子図屏風」や「泰西王侯騎馬図屏風」、延いては日本風に作られた近世メキシコ産の驚異の「大洪水(ノアの箱舟)図屏風」迄、観覧者を全く飽きさせない。

が、現在の九博の凄さはこの展覧会だけでは無い…特別展の上階で同時開催中の「大分県国東宇佐 六郷満山展〜神と仏と鬼の郷〜」に、僕は度肝を抜かされたのだった!

国東半島の六郷満山は来年平成30年に開山1300年を迎えるが、それを記念した本展は4章から為り、藤原期の神像や仏像達が勢揃いし、そのウブさと味わい深い美に大きな感動を禁じ得ない。

特に八幡奈多宮の重文「木造八幡三神坐像」(10-11世紀)や「男女神坐像」(11-12世紀)、萬徳寺の「如来立像」(11世紀)や岩戸寺の「薬師如来坐像」(12世紀)等の垂迹系の神像・仏像等は、僕には堪らない作行きで、「もう持って帰っちゃおうか!」と真剣に思った程だ(笑)。

そしてこの素晴らしくも有難い展覧会を拝見した後、上階の残りで有る「文化交流展示」を観覧して居る最中、ふと「僕の名前」が目に入った気がしたので良く観ると、それは当時の重要な交易商品の一つで有った「香木」コーナーに書かれた「桂心」と云う文字だった。

初めて知ったのだが、「桂心」とは「シナモン」の別名らしい…と云う事は、「僕の心はシナモン」と云う事に為る訳が、成る程我ながら「道理で結構スパイシーな筈だ」(笑)と気付く。

何れにせよ今九博で開催されて居る上記2つの展覧会は、「国宝展」にも負けないスンバラシイ展覧会なので、無理をしてでも是非是非訪れて頂きたい。

何故なら観覧後には、顧客とご一緒した西中洲の超美味い焼肉屋「R」が出す素晴らしい希少部位肉と、マロンちゃんも咽び泣いた「マロン・アイスクリーム」が待って居るのだから(笑)。


ーお知らせー
*10月28日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿校にて「運慶ー世界を魅了する美」と題された講座を開催します。詳細はこちら→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/a23108c9-3dab-2e5f-7631-59829e1dc570

*現在発売中の「Numéro TOKYO」11月号で、6ページに渡り大特集されて居る舘鼻則孝氏のアートに就てコメントさせて頂いています。館鼻氏のアートにご興味の有る方は、是非ご一読を!→https://numero.jp/magazine111-special/

*11月23日(木・祝)14時から、僕の友人で有るクラシック・ギタリスト益田正洋君のリサイタルが、北とぴあ・つつじホールで開催されます。特別ゲストはこれまた友人の国立西洋美術館主任研究員、川瀬佑介氏。詳しくはムジカキアラ(03-6431-8186)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「私を離さないで」な一週間。

10月2日(月)
9:00 この日は終日、自宅で200点に及ぶ某コレクション作品の値付けを行う事に決める。NY時代と違い、東京のオフィスには日本美術の文献資料が何も無いので、「スペシャリスト」業務には自宅のライブラリーを使うしか無い。然しこれでこそ、ホボホボ2ヶ月掛けて段ボール箱150箱分の美術書を整理した書庫の意味も有ろうと云うモノ。

11:00 自宅で仕事をする時の良い点は、BGMが有る事…が、僕は歌詞の有る曲は掛けない。セロニアス・モンク、原摩利彦、プーさん(菊地雅章)、キース・ジャレット、益田正洋等、ピアノやギターのソロや環境音楽を微かに掛けるのがミソ。

17:00 現代美術系の友人が、利休の勉強をしたいと本を借りに来たので、千宗屋著「もしも利休があなたを招いたら」や赤瀬川原平「利休 無言の前衛」等をチョイスする。

19:00 仕事の再開を悔やむ程話が盛り上がった友人を送り出すと、近所の「ミル・クレープ・トンカツ」を注文し、食後再び査定に明け暮れる。昔から思って居るのだが、僕は意外と調べ物が好きで、これは間違い無く父親の血…良いんだか、悪いんだか(笑)。


10月3日(火)
10:00 予定して居たサシでの電話会議をバックレられ、憤慨…最も嫌な事に我慢して臨んだ末にバックレられる事程、血圧が上がる事は無い。

11:30 香港と別の電話会議。こちらは短目に終わり、ホッ。

14:00 京橋・日本橋界隈の骨董屋を訪ねた後、三井記念美術館で開催中の展覧会「特別展 驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」を観る。本展は監修の山下裕二先生のテイストが具現化された、村田理如氏のコレクションの明治工芸の粋と、超絶技巧を継承する現代美術を並列する企画。個人的には前原冬樹の「一刻:皿に秋刀魚」に、大驚愕。

15:30 最近店を引っ越した、馴染みの古美術商を訪ねる。静かな空間の中、某外国大使館の緑を借景に、美味しいナチュラルなジンジャエールを頂きながら観る仏教美術は仕事を忘れさせるが、序でに危険な購買欲を増進させる(笑)。某コレクターの持つ大名品と同じ作者と思われる藤原時代の菩薩像、藤原時代の飛天、鎌倉時代の某有名神社伝来の狛犬等、この時程自分が大金持ちだったら…と思う時は無い。出たのは「買った!」の声では無く、溜息で有った。

16:30 溜息連発後、その近所に在る現代美術ギャラリーを電撃訪問すると、ギャラリスト氏は居らっしゃったが、かなり慌て驚かせて仕舞い、恐縮する…が、氏の慌てる姿が何気に可愛かった(笑)。

19:00 某公的芸術関連機関の友人と久し振りに会い、神保町で肉ディナー。最近問題となった次回のヴェニス建築ビエンナーレの選考方法の事等を話す。ヴェニスビエンナーレに関する、公平さを欠いたり遅きに甘んじる日本の選考方法は、早急に再考されなければ為らない。


10月4日(水)
12:00 学生時代の友人と久し振りに会い、ランチ。友人は或る病気に悩んで居り、然し人間この年に為ると、身体のあちこちに故障が出るのは必然。最近周りの人に具合の悪い人が結構居て、それは老若男女、境が無い。健康こそが金・地位・名声・美貌・若さ、そして愛にすら勝る価値を持つ。

14:30 歌舞伎座で「芸術祭十月大歌舞伎」夜の部を観る。玄関で現代美術コレクターのY氏にバッタリ会い驚くが、Y氏は骨董も華道もやられる現代数寄者…流石である。演目は先ずは玉三郎の「沓手鳥孤城落月」だったが、劇中ただの一度も大向こうから声が掛からず、吃驚する。何度か掛かりそうな場面も有ったが、まぁ新劇チックな舞台だったので、声を掛けないのが慣わしなのだろうか?(後記:後で歌舞伎囃子方の方に聞いたら、大向こうが声を掛けなかったのは、大和屋さんの要望なのだとの事…成る程で有った)。次の「漢人韓文手管始」は芝翫鴈治郎も上手くて面白かったが、大発見は女形米吉!米吉の可憐さは、これからの楽しみ。そしてトリは、お待たせ大和屋の踊り「秋の色種」…大和屋はもう別格の一語で、素晴しスグル。「然しこの人が居なくなったら、歌舞伎はどうなっちゃうんだろう?」と本気で考えて仕舞った夜でした。

21:00 歌舞伎後は、代官山「A」でディナー。こちらも「待ってました!」のモンブランをデザートに控え、美味しい旬の魚料理を頂く。ガツガツと食べて居ると、「A」のスタッフでモデルのS君が声を掛けて来て、聞くと彼の同級生の某有名美術関係出版社の社長が、僕に会いたいとの事…光栄です!


10月5日(木)
9:00 或る作品の調査の為、図録類を引っ張り出しては広げ、朝からパニック状態。

12:00 余りにショッキングな事が起こり、愕然とする…。

13:00 ショックを癒し自己鼓舞する為に、久し振りにすずらん通りの天麩羅屋「H」で穴子天丼を食べるが、完食出来ず…こんな事は初めてだ。

14:00 心の動揺を抑え、某ホテルのロビーで将来有望な社員候補に会う。是非入社して貰いたい。

15:00 某古美術商を訪ね、骨董四方山話。長年この世界を見て来た人の話は、参考どころか映画を観る様に楽しい。役得だったが、虚しさ消えず。

19:00 とても外出する気に為れず、家に閉じ籠るが効果無し。人間は勝手な生き物だが、自分が宇宙一勝手で、人を傷つける事のみに有用な、汚くて鋭利な刃物の様に思える。こんな時は音楽もアートも役に立たない。

23:00 垂れ流して居たテレビのニュースで、長年のファンで有るカズオ・イシグロノーベル文学賞を受賞した事を知り、涙が出そうに為る。イシグロの文学は人の心の奥底に触れる、大きな真理を包含して居ると思うが、肝心な時に必要なのは矢張り春樹文学では無いのだ。


10月6日(金)
9:30 オフィスにて、クライアントと修復師に拠る某作品のプレビュー…結果や如何に?

10:30 僕を大変可愛がって呉れた嘗ての社員の方が重篤な健康状態との報を、会社で聞く。悲しい。人生は何時終わるか、誰にも決して分からない…だからこそ、一分一秒を大切にせねばならない。正受老人悟る、「一大事と申すは今日只今の心也」と。

13:30 東京駅から新幹線に乗り、アーティスト杉本博司氏の財団「江之浦測候所」のオープニング・レセプションへ。さて、杉本氏のイヴェント時には何時も天候が荒れる…これは、氏が鎌倉時代の木造雷神像を購入してからの「常識」だったが、この日も小田原に着くと既に雨が降り始めて居て、大荒れの様相。元興寺法隆寺、川原寺の礎石、百済寺等の石橋等の名石を集めたが故に、別名「石の博物館」とも呼ばれる「江之浦測候所」に着くと、先ずは馬越恭平・根津美術館旧蔵の室町期「明月門」を通り、石舞台を横目に見てから「光学硝子舞台+古代ローマ円形劇場写し客席」を拝見。此処は海に迫り出した舞台で、大好きなシシリー島タオルミーナのローマ劇場を髣髴とさせるが、高所恐怖症の能楽師やダンサーは無理だろう(笑)。舞台を降り、僕の親戚筋でも有る今は亡き箱根の名旅館奈良屋別邸に在った門を潜ると、待庵写しの茶室「雨聴天」へ…床に掛けられた軸「日々是『口実』」が笑える。その後は、冬至の朝太陽光が貫く「冬至光遥拝隧道」を通り、雨の為レセプションが開かれた「夏至光遥拝100メートルギャラリー」へと歩を進める。此方は夏至の朝に太陽光が駆け抜けると云う、先端部に12m.の展望スペースを持つスペースで、杉本氏の代表作「海景」の大判が展示される。恐らくは150名を超える美術関係者等が集まったレセプションでは、杉本氏の挨拶に続き、能楽シテ方と大鼓に拠る一調「屋島:夕景の能楽囃子」が演じられ、花を添えた。恐るべし「江之浦測候所」…現代美術家杉本博司の、渾身の集大成作品だ!

17:30 新幹線で帰京する車内でトイレに立つと、斜め後ろの席に、携帯を持ったま侭眠りこけて居る見た顔が...良く見ると、何と河野外務大臣では無いか。一国の外務大臣が携帯を握った侭無防備に居眠りしているのも、国家安全保障上とても信じられない光景だったが、その2つ後ろの席でこれまた眠りこけるSPもを見た日には、矢張りこの国は自民党には任せられないと思った。何が北朝鮮危機だ?外相ですらこれなんだから、極め付けの平和ボケ政治だ。

18:00 品川に着くと、夕食迄寺田アート・コンプレックスで時間を潰す。然し今回URANOで展示中の小西紀行作品は、何度観ても素晴らしい。早く「横浜トリエンナーレ」行かなきゃ。

19:00 高輪のアジア料理店「A」でディナー。近くの席に元ライヴァル会社の某氏が居たが、気付かれなかった様で安心する。


10月7日(土)
10:00 好きなバンドのコンサート・チケットの発売日だったので、ネットや電話で頑張るが、全く取れない…何をやっても上手く行かない時なのだろうと、落胆。

13:00 電車に1時間乗って、最近始めた習い事の稽古。礼儀作法から練習迄2時間たっぷりとやった為、筋肉痛の前兆…年配の女性の先生に「杖が必要になりますよ」と笑われる。が、この歳で誰かに教えを請い、直されたり笑われたりするのは、快感且つ重要。

18:00 ギャラリストの友人と、日本橋高島屋で開催中の「池田学展 The Pen−凝縮の宇宙−」を観る。物凄い数の観覧者に驚くが、現代美術家の個展が百貨店で開催される事は画期的だと思う。

19:00 友人の和菓子作家坂本紫穂さんが、銀座SIXで漆作家赤木明登氏とのコラボ展をして居ると聞き、展覧会を観た友人を伴い、序でに能研究者のR君も呼び出して観に行く。紫穂さんの綺麗な和菓子が赤木氏の器に乗り、余りに美味しそうで涎が出そうに為る(笑)。

19:30 僕が今嵌って居る銀座の豚肉料理屋「Y」で、3人ディナー。此処の薬膳豚鍋は超絶美味で、タマラナイ…シメの麺まで確りと頂戴しました。

21:30 「もう一軒行こう!」と為り、久し振りに神保町のベルギー・ビアバー「B」へ。常連の建築家等に挨拶した後、陣取った奥の席は若者達の為の「恋バナ相談室」と化す。僕に彼等に恋愛のサジェッションをする権利なんて、皆無なのに…。


10月8日(日)
11:30 久し振りに国分寺の実家へ。気温は涼しく為ったが、実家の鬱蒼とした緑は未だ鮮やかで、例年より多い鳥達の囀りに、傷んだ心が緩む。

12:30 栗ご飯と角煮の母の手料理を食べた後、果物と珈琲をテラスで。嗚呼、何て気持ちの良い日なのだろう…。

14:00 都内へ帰る途中下車し、これも久々に父の墓参…あの世の親父に愚痴を溢し、少し気が晴れる。

16:00 この日を逃してはもう無理…と云う状況下、東京都美術館へ走り、開催中の「ボストン美術館の至宝展 東西の名品 珠玉のコレクション」を 20分並んだ末、漸く観覧。さて今回、大混雑の中この展覧会に足を運んだ理由は、蕭白でも歌麿でも無く、ただ一つ…南宋の画家陳容作の「九龍図巻」を観る為で、それはこの「九龍図巻」が、今年3月の藤田美術館セールで約55億円で売却した、伝陳容「六龍図巻」の基準作と為る作品だからだ!絵巻を観る行列に並ぶ事3回、続けて熟視したボストン本の龍は、僕が売った伝陳容の龍とは異なり、個性的で伸びやかに見える。そして藤田本よりボストンの画巻の方が、縦が12cm.長く画面が大きい事も有り、全体の迫力もスゴい。が、龍の「顔」に関しては、藤田本も細密で確りと描かれて居ると思ったし、全体としてそれ程劣って居るとも思えなかった。何はともあれ、自分が売った名品と基準作と云われる大名品を、記憶が確かな内に比べられた喜びは格別で、ヒビの入った心が少し継がれた気がした。

19:00 友人とヤケ喰い気味のしゃぶしゃぶディナー。虚しさは中々消えないが、気は少し晴れる。

22:30 自宅に戻って「カヴァレリア・ルスティカーナ」を聴く。「淋しさ」は、敢えて助長する事によって解消する…かも知れない。


こんな時には、イシグロの「私を離さないで」を又読もうと思う。


ーお知らせー
*来たる10月14日(土)20:00より、「ニコニコ生放送:国宝特集」に出演します。詳細はこちらから→http://live.nicovideo.jp/watch/lv306711061

*現在発売中の「Numéro TOKYO」11月号で、6ページに渡り大特集されて居る舘鼻則孝氏のアートに就てコメントさせて頂いています。館鼻氏のアートにご興味の有る方は、是非ご一読を!→https://numero.jp/magazine111-special/

*10月28日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿校にて「運慶ー世界を魅了する美」と題された講座を開催します。詳細はこちら→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/a23108c9-3dab-2e5f-7631-59829e1dc570

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「アウトレイジに出たかったボーイ」的動向。

9月21日(木)
8:30 新幹線に乗り、顧客との幾つかの打ち合わせの為に京都へ。久し振りに歩く新門前通はもう暑さも人混みも無く、「痛快ウキウキ通り」と迄は行かないが、かなり気持ち良い。

11:00 某古美術商を訪ね、日本での美術品マーケットの近況等を聞く。日本美術分野に於いては、どうやら世界共通な状況らしく、若い世代のコレクターが皆無と云って良い状況。寂しいが、アートには必ずトレンドが有るので、世界の如何なる美術品の中でもクオリティの高い日本美術は、長い目で見れば何時の日か再び脚光を浴びる日が来るだろう…それが僕の生きて居る内なら、尚更良いのだが(涙)。

12:30 再び顧客の古美術商を訪問。此処では以前も拝見した、高麗茶碗を再見。国宝に為って居る屏風を保持していた名家に伝わったモノで、これで濃茶を飲みたい!と思うモノ。値段は…怖くて聞けなかった(笑)。

15:00 某美術館担当者と打ち合わせ。この重要プロジェクト、上手く行くと良いのだが。

19:00 祇園の「P」で、若手古典芸能関係者とディナー。若い世代の日本人に古典芸能をアピールして行く事の難しさを語り合う。その為に何でもかんでも新しいアートとコラボすれば良いと云うモノでは無いし、それは今世の中に氾濫する「アートっぽく偽装して居るモノ」を「アート」と呼ぶ事と同じ様に、危険極まりない。「ホンモノ」を見極める眼は、何時も厳しく難しくなければ為らない。


9月22日(金)
10:00 朝イチで名古屋に向かい、顧客を訪ねるがビジネスは不発。

12:00 帰京前に名古屋駅高島屋「すや」に寄り、今年初めての「栗きんとん」を買う。愈々僕の別名「マロンちゃん」の季節到来だ!が、今年も栗が不作との情報も…。

16:00 銀座SIXの蔦屋書店に行く。この日の収穫は草刈民代「舞う人」、伊藤宏見「夏目漱石と日本美術」、大倉源次郎「大倉源次郎の能楽談義」、岡田秀之「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」。特に「能楽談義」と「芦雪」は著者を存じ上げて居るだけに、読むのが楽しみ、楽しみ。

17:30 顧客と急な打ち合わせ…急な仕事程、良い仕事のケースも多い。

19:00 アート・アドヴァイザーと青山「D」で食事。カウンターに座って食べて居ると、その反対側に見覚えの有る方が…何と翌日飲む予定のパリ在住写真家のS氏!人の縁は場所の縁でも有る。

22:30 NYの名誉会長とパリの重要顧客とを繋いでの、3者電話会議。夕食後のカンファレンス・コール程、辛い物は無い。然しこの重要日本美術作品を売る事は、僕の個人的至上命題。

23:30 時差ボケも未だ取れず、どうせ暫く眠れなさそうだったので、栗きんとん&金重有邦氏の茶碗で一服。BGMはTobias Wildenのピアノ…静かで、芳醇な至福。


9月23日(土:秋分の日)
9:00 この日は午前中に、遠出先での新しい習い事の予定が有ったのだが、前日から体調優れず、どうもNYで引いた風邪がぶり返した様なので、無念の欠席。

19:00 日中寝て居た甲斐も有り、体調が少し改善したので、恒例のジャズ評論家・小説家・写真家各氏との男4人会へ。今回の場所は高輪に新しく出来た、蕎麦屋「K」…ツマミも上手く、蕎麦も美味い。話は、今は亡きプーさん(ジャズ・ピアニスト菊地雅章)の事、ジャズ評論家O氏が始めたジャズ・バンド「Selim Slive Elementz」(アルバム「Resurrection」が、ファンキーで超カッコ良い!)の活動や、小説家H氏のベストセラー小説の映画化で盛り上がる。然し今の日本には、「恋愛映画」を美しく撮れる監督が居ない気がする…と云うのが皆の意見。誰か居ませんかね?

23:00 家に帰り、飲み会で話題に出た村上春樹に就いて考える。海外では春樹の小説は「女性蔑視」の要素が多いからノーベル賞が取れない、と云われて居るらしく、それは本命の彼女以外の「ヤリ捨て」的性描写や男(自分)本位の描写が殆どだからとの事…確かに。日本の女性ファン達は、その辺をどう考えて居るのだろう?


9月24日(日)

9:00 新幹線に乗り、某美術館学芸員と連れ立って名古屋経由で刈谷市へと向かい、刈谷市美で開催中の展覧会「篠原有司男展 ギュウちゃん、"前衛の道"爆走60年」を観る。ギュウちゃんは勿論NYでも日本でも会った事が有るが、「ボクシング・ペインティング」シーンを観る度に、あの年(85歳)でのあの「細マッチョ」な身体に驚嘆する。そしてこの展覧会は、失礼ながら一地方市立美術館のレヴェルでは無く、かなり詳細かつ綿密、そして作品数に於いても頑張って作られた展覧会で、学芸員の情熱に大感動。

11:30 刈谷市から電車を乗り継ぎ、今度は豊田市美術館へと向かい、「奈良美智 for better or worse」の最終日に駆け込む。流石の奈良人気で、館は老若男女の来場者で混雑して居たが、これもよく作られた展覧会で、恐らくは作家自身もかなりディレクションをしたのだろう。作品の展示も、作品に拠って掛ける高さが絶妙に変えられて居るし、またアトラクション的楽しみも有るが、個人的には矢張り奈良の「絵画」の作り込みにシンパシーを感じ、作品を実見すればする程「絵画」の魅力を感じた。

14:00 帰京前に名古屋に戻り、遅い昼食をひつまぶしの名店「A」で…が、実は僕は「ひつまぶし」がそれ程好きでは無く、結局所謂普通の鰻で有る処の、そして素晴らしく美味い「長焼」定食を注文。序でに一緒にいた友人も「長焼」を頼んだので、恐らくは店内で僕達だけがひつまぶしを食べなかった客だろう。が、それがどうしたと云うのだ?「長焼」万歳!(笑)


9月25日(月)
14:00 東博で始まった、特別展「運慶」のオープニング・レセプションへ。東博の門を潜って歩いて居ると、前を歩く後ろ姿に見覚えが…何と云う僥倖、前日にLINEして居た「かいちやう」で無いか!かいちやうも偶然の邂逅にお喜びの様子で、一緒に観覧と為る。然しこの展覧会は流石の一言で、それは出展作も然る事ながら、その展示の仕方もかなり洗練されて居て観易いからで、この展示に拠って興福寺の名作群や僕のキャリアでの「勲章」、伝運慶大日如来坐像も最大限の魅力を解き放つ。「東洋のミケランジェロ」に感動する、何度も訪れたい展覧会だ。

16:30 かいちやうと上野を後にし、銀座の某古美術商へ。其処では、目利きだけが判る事の出来る軸物を拝見…然し骨董は奥深い。

18:30 某重要コレクションに関する、香港・パリとの電話会議。あぁ、また電話会議。


9月26日(火)
10:30 某美術館理事と打ち合わせ。これからは日本の美術館・博物館も、アメリカの美術館の様に「要らない物は売って、必要な物を買う」と云う当たり前の方法を取る様に為るだろうと、意見が一致。

11:30 時間が空いたので智美術館に向かい、「八木一夫と清水九兵衛 陶芸と彫刻のあいだで」を観覧。この2人は「陶芸彫刻家」として、何しろセンスがズバ抜けて居ると思う。抽象美術と陶芸の素晴らしいミクスチュアを体験出来る展覧会だった。

13:00 日本橋の老舗古美術商「壺中居」で開催中の、「2016年度日本陶磁協会賞・金賞受賞記念 重松あゆみ・伊藤慶ニ展」へ。伊藤慶ニの或る作品に思わず触手が伸びるが、断腸の思いで断念する…切ない。その後お店の方々と懇談するが、どうも話がオカシく、先方は何と僕が会社を辞めて帰国したと思ってらしたらしい…ガセも良い加減にして欲しいが、噂とは恐ろしいモノ。

14:30 有力古美術商と打ち合わせ。骨董屋さんとの打ち合わせは、仕事も然る事ながら、別の大きな楽しみが有って、それは垂涎の茶碗で出される一服のお茶。これは「嗚呼、この茶碗が何時の日かウチに来たら…」等と妄想する、ひと時のヘヴン(笑)。

16:00 オフィスに戻る途中、ギャラリー小柳に向かい「Men」展を観る。「男」尽くしの本展、今気に為って居る作家佐藤允作品も2点出て居て、「男」の面目躍如。

19:30 学生時代からの友人で、今は売れっ子スタイリストに為ったRと高輪の和食店「F」でディナー。お互い22と18位から知ってると、何と云うか軽口にも阿吽の呼吸が在って愉快。美味しいおばんざいの後は、締めの餃子と麻婆麺。餃子が美味すぎて10個程食べて仕舞ふ。いとおかし。その後白金の「M」に移ったが、移動前に危惧した通り此処でも「薄焼きピザ」と、マロンちゃんには抵抗で出来ない程「奇しうこそ、物狂ほしけれ」な「あつあつマロンパイ」を頂いて仕舞ふ…あはれにうしろめたけれ。

9月27日(水)
11:00 鎌倉の某寺塔頭へ。骨董好きの住職とお会いする。ランチは祖父の親友の息子さんと、外見は全く普通の民家な蕎麦屋で、美味しい鴨せいろ。

17:30 新しく出来た赤坂インターシティAIRに行き、其処に入った「ローリーズ ザ・プライムリブ」のレセプションへ…此処には友人のアーティスト流麻二果さんの作品がインストーレされて居て、彼女からのご招待でした!麻二果さんの作品は、店の重厚感+西海岸感にも合った4連作で、恐らくは代表作の1つに為るのでは無いか、と感じる素晴らしい作品。肉屋なのにレセプションで肉が出なかった事だけが残念だった(涙)。

19:00 階下に降り、同ビル内にオープンしたレストラン、「Courtesy」のオープニング・エクスクルーシヴ・ディナーに出席。このレストランは、朝7時から営業、朝昼はパンを中心としたプレート・フードで、夜はシェフが変わり、創作フレンチ的コース料理と為る。其れと共に重要なのが、この店内の内装を担当したのが、アーティスト舘鼻則孝だと云う事。自身の心臓をスキャンしたアートや、頭蓋骨や息子さんをモティーフとした作品等がインストールされ、その上例えば壁の素材や角度等にも拘ったレストランな「作品」だ。30名のディナーは和やかに進んだが、僕の隣の席には超売れっ子女性シンガーのNさんが座り、九州生まれのNさんは、今まで僕が勝手に思って居たイメージとは真逆の開けっ広げでフランクな方だった。マロンちゃん悶絶のデザート「無花果付きモンブラン」と共に、誠に楽しい時間を過ごしました!


9月28日(木)
9:00 今日首相は衆議院を解散する。「2/3の議席」を投げ出して迄解散し、「過半数取れれば勝利」等と意味の分から無い事を叫ぶ程「加計隠し」をしたいのが見え見えな、全く意味も大義も無い「国難突破選挙」(今「国難」なるモノが日本に有るとすれば、それは政権を担って来た首相本人と与党の所為では無いのか?)に、また数十億だか100億だかの「我々の金」を使う与党を勝たせる事だけは、絶対的に阻止したい。まぁ小池新党を全面的に信じる事は危険だが、然し「政界再編」無くしてこの国の政治は正常化され無いのだから。

11:00 オフィスに届いた、数十面の能面を観る。これだけウブく、種類の揃ったコレクションも珍しい。某財団が興味を示して居るので、上手く売れれば良いが…。

14:30 顧客を訪ねた序でに、ShugoArtsで始まった「Leiko IKEMURA あの世のはてに」展を観る。一点かなり気に入った麻布に描かれた風景画が有ったので、値段を聞いてみたのだが、敢え無く撃沈…然し風景画で久し振りに欲しいっ!と思った作品だった。

18:30 前日に続きCourtesyのレセプションへ。この晩は人で一杯でアート関係者も多く、また違った雰囲気で盛り上がる。則君、御目出度う!


9月29日(金)
9:30 家の電話とWifiがおかしく為り、NTTやプロバイダーと数時間に渡り電話で悪戦苦闘。俺はこう云うIT系に、マジ弱いからなぁ…。

12:30 東京オフィスのスタッフとランチ。人生いろいろ、仕事もいろいろ。

14:00 根津美術館で開催中の「ほとけを支える」展を観に行き、「金剛界八十一尊曼荼羅」等で、疲れた気持ちを癒す。

16:00 某財団の方々が来社し、能面を検分する。状態に難の有る物も当然有るが、良い家から出て居るだけ有って、作行には満足された様子…後は金額だ。

18:00 代官山の「O」で、弟の50歳を祝うバースデー・ファミリー・ディナー。自分が50に為った時より、弟が50に為った衝撃の方が遥かに大きいのは何故だ(笑)?何時もの美味しい料理の締めは、この時期しか出ない絶品「栗のスフレ」。「マロンちゃん」な僕が余りに物欲しそうな顔をして居たのか、母親が自分のスフレを半分呉れた。母親は何時迄経っても母親だ…有難や、有難や(涙)。

21:30 能・庭園研究者のR君と待ち合わせ、NYの友人チボ・マットのミホさんのDJを聞きに、原宿のトランク・ホテルへ。ミホさんは相変わらず超元気で、新しいユニット「New Optimism」のCDを頂く(後で聞いたら超クールなサウンド…激オススメです!)。

22:30 DJタイム終了後は、トランク・ホテルに花師T君、大鼓奏者K君とその彼女、静岡の有名料亭の若旦那も集まり、5人の若い友人達と飲む。遂には総勢6人で「ラーメン行こう!」と為り、久々の西麻布「E」へ。さて、この店を大概の人は「K」と呼んで居るのだが、意外に知られて居ないのは、その「K」と云う名はラーメンの名前で有って、店名では無い事だ。その「E」で久し振りに食べたラーメン、メンマ盛り、チャーシュー盛りは、相変わらず美味くて涙が出そうに為ったが、極め付けは、その昔店を仕切って居た相撲取り程の巨体で髭面のオヤジさんとの再会。顔を見合わせた瞬間にお互い「オーっ!」と叫び合い、固い握手を交わしました!お互い歳を取ったが変わって居ない…かなり良い夜だった。


9月30日(土)
9:00 前夜が久々の午前様だったので、ゆっくりと起床。朝食は青汁豆乳シェイク、ヤクルト、コーヒー、お抹茶。BGMはプーさんのインプロ・ピアノ。

11:30 出光美術館で、開催中の「江戸の琳派芸術」を観る。抱一は銀地作品の方により魅力を感じるのは僕だけだろうか…。

13:00 「マロン友達」と銀座の「G」で洋食ランチ。が、目的はデザートの「マロン・シャンティ」で、その上此処のパティシエから、「史上最高のモンブラン」の情報を得る。世田谷区の某所らしいが、僕が食べたら此処に報告しよう!

15:00 「マロンちゃん」を急いで掻き込むと、その友人と東京文化会館ダッシュで向かい、夏目漱石誕生150周年の記念事業で、その漱石の「夢十夜」が原作となった新作オペラ、「Four Nights of Dream」を観る。東京文化会館とジャパン・ソサエティの共同制作で、作曲・台本が長田原、演出がアレック・ダフィーと為った本作は、オーディションで選ばれた歌手6名が出演。全体的に音楽は、正直「60年代の日本アヴァンギャルド映画の映画音楽かな?」と感じたのだが、最後の方は美しく纏まって居たと思う。終演後のレセプションでは、オリンピック開会式担当の噂も有る演出家M氏等、NYの懐かしい人達との再会を楽しんだ。

18:30 上野を後にし、栗仲間と別れた後は、今度は「コートヤード広尾」で開催された、NYのグラフィティ・アーティスト、大山エンリコイサムのライヴ・ペインティング&河合ロン・木原浩太・酒井直之に拠るインプロ・ダンス・イヴェントへ。この日同所での展覧会の最終日を迎えたエンリコ君とは、久し振りの再会。展覧会で現代美術をクラシカルに観せた作品は完売、パフォーマンスは少々長く間延びした感が有ったが、場所も企画も全体的にかなり良かったと思う。

21:30 R君と六本木で待ち合わせ、実は初体験の六本木アートナイトへ。然し疲れも有って、アート・コンプレックス内のギャラリー数店舗を廻ってお終いにし、その後は乃木坂焼肉屋「A」で美味い肉とデザートの「しろくま」を堪能。然し、このイヴェントに参加しないギャラリーが複数有ったのだが、何故なのだろう?


10月1日(日)
13:00 ランチを食べに、乃木坂の行きつけのカフェ「L」へ行き、メチャ旨の「ラザニア・トースト」と香り高きコーヒーを頂く。食事をしながら軽く仕事もとiPadを取り出すが、この日のBGMが70年代のボブ・ジェームズやらニック・デカロやらで、懐かし過ぎる上にメロディーや歌詞を覚えて居る為思わず口遊んで仕舞い、気が散って仕事にならない(笑)。70-80年代のフュージョンAORは名曲揃いスグル。

15:00 何か爆笑する映画が観たくなったので、若い友人を誘って、六本木で「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」を観る。この映画は想像通り軽かったが、思ったよりかなり面白く、妻夫木聡の演技も笑えるし、今迄全然好きでもなかった水原希子のイヤラシさに参って仕舞ふ。そして、男として実に身につまされる映画で有った(笑)。が、最大のショックは、一緒に行った20代前半の友人が奥田民生の事を全く知らず、「映画の中だけの架空の歌手」と最後迄思って居た事だ…(涙)。

17:00 映画館を出た瞬間、森美術館で開催中の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」を観て居なかった事に気付き、友人を伴い美術館に立ち寄る。政治的な題材も多かったが、日本とは異なるパワーを感じる。

18:30 展覧会を観、お腹も良い具合に減ったので、麻布十番付近のすき焼き屋「K」で食事。元NY住人で有るマスターと、共通の友人の話題で盛り上がる。その共通の友人が西麻布に開いた店に、最近オノ・ヨーコも来たとか。

21:30 帰宅し「アウトレイジ」を観て居たら、予告でシリーズ最終作がもう直ぐ公開との事を知る。僕もいつの日か出たかったのに(笑)。


気が付けば、もう10月…今年も後1/4しか無い。全てをスピードアップせねば。


ーお知らせー
*来たる10月14日(土)20:00より、「ニコニコ生放送:国宝特集」に出演します。詳細はこちらから→http://live.nicovideo.jp/watch/lv306711061

*現在発売中の「Numéro TOKYO」11月号で、6ページに渡り大特集されて居る舘鼻則孝氏のアートに就てコメントさせて頂いています。館鼻氏のアートにご興味の有る方は、是非ご一読を!→https://numero.jp/magazine111-special/

*10月28日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿校にて「運慶ー世界を魅了する美」と題された講座を開催します。詳細はこちら→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/a23108c9-3dab-2e5f-7631-59829e1dc570

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「visitor」の「resident」義体化顛末。

9月に入って仕事も本格化し、今抱えている3つの大きなプロジェクトも少しずつ進み始めた。

そんな新しい日常の合間を縫ってのアート活動も相変わらずで、千葉市美術館で始まった素晴らしいラインナップの「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」のレセプションに出掛けたり、はたまた親しい古美術商達が僕の為に開いて呉れた「歸國記念大宴会」に出席したり…友情に感謝感激で有る。

特にこの大宴会では、20年程前から某老舗古美術商の文字通り「御蔵入り」と為って居た、我らが草野球チーム「Underbidders」(笑)のユニフォームの贈呈式が有り、無事着る事の出来た、当時の体重を使った背番号「88」番のユニフォームを羽織り、帽子を被ってM山R泉堂のK社長と映った記念写真は、恰も入団会見の写真みたいで良い想い出と為った…皆さん、有難うございました!

そして9月半ばは、毎年恒例ニューヨークのAsian Art Week…と云う事で、僕も2ヶ月半振りにニューヨークへ出張。その機内では「ゴースト・イン・ザ・シェル」を観たが、SFXは兎も角も、テーマで有る「義体化」も「ブレード・ランナー」のレプリカント達や「ロボコップ」程の心理的情緒も無く、残念。

なので機内では本作と、今迄何とも思って居なかったのに、これを観たら何故か急に可愛く見えて来た(笑)、北川景子出演のドラマ「Hero」に留め、代わりに読み始めた林道郎「静かに狂う眼差し:現代美術覚書」(水声社)に没頭。

この著作は8月に川村記念美術館で開催されて居た、著者キュレーションの同名展のカタログも兼ねて居るが、「アートとは、或る種の『謎解き』で有る」事を改めて教えて呉れるスリリングな内容で、展覧会を観て居ない人でも十二分に楽しめる、超オススメ本だ。

そうこうして居る内に、素晴らしい気候のニューヨーク到着。空港からのハイウェイの向こうに、忽然と見えて来るマンハッタンは記憶に違わない物だったが、レキシントン街のホテルにチェック・インする際の違和感には少々戸惑った。

さて、秋のAsian Art Weekは春のそれに比べると規模も小さいが、季節が良いので或る意味ニューヨークに来る口実としては最高。今回は僕が関わった中国美術のセールは無かったが、幾つかの重要なミーティングと顧客を伴っての作品ヴューイングが有ったので、今回の「第二の里帰り」と為った訳だ。

そのAsian Art Weekはと云うと、クリスティーズは4345万ドル(約47億4800万円)を売り上げ、中国美術の堅調さを示したが、春の藤田美術館セールの様な派手なセールも無かった為、何処か落ち着いた雰囲気。

僕の方はと云うと、酷い時差ボケの中NY到着後疲れが出たのか、風邪と結膜炎を併発してダウンし、病院行き…が、会社での会議や重要顧客とのミーティングも果たし、Koichi Yanagiでの仁清や乾山、Sebastian Izzardでの素晴らしい擦りの浮世絵、吉井画廊でのアラーキー、そしてブルックリン美術館の新装Korean Gallery等の展覧会も拝見出来、更に友人達が企画してくれた、美味しい四川料理店「S」での「お帰りなさい会」にも何とか出席する事が出来て、遥々来た甲斐も有ったと云うモノだ!

が然し、此方に来ても何故か気に掛かるのが、例えば英ガーディアン紙が報道した東京五輪の「招致贈賄疑惑」(略決定的では無いか?)を、日本のメディア(世界最低だ)が無視し続けるのを良い事に碌に調査もせず、北朝鮮のミサイルはただ打たせっ放し、加計・森友問題はもう霧散し無くなった如く振る舞い、「今なら勝てる」等と意味の無い衆院解散を考えたりして、己の保身ばかりを目指す我が国の政権の事だったりするのが、誠に情け無い。

そしてこんなウンザリする国に恒久的に戻った僕が、つい2ヶ月半前まで17年間も住んだ街に戻って来て感じたのは、驚くべき事に「僕はもうニューヨークの『resident(住人)』では無く、『visitor(訪問者)』なのだ…」と云う感覚だった。

それは、ホテルにチェック・インした時から始まったのだが、ホテルで過ごすニューヨーク、朝ホテルから向かうロックフェラー・センターのオフィス、食事から戻るホテルの部屋…ホテルこそが「visitor」のアジトと云う事なのだろうか?

土曜日、「visitor」な僕は朝イチのクライアント・ミーティングをアッパー・イースト・サイドで終え、その後夜の会食迄時間が有ったので、大好きだったブライアント・パークに行き、コーヒーを買って椅子に座り青空を見上げると、漸く「resident」の気分に為って来た。

一時の「resident」に「義体化」した僕は、公園を後にしてゆっくり歩いてチェルシーに向かい、顔馴染みのシェフとウェイターに迎えられ、行きつけだったイタリアン「B」のカウンターで思い出深いTシェフの美味しいパスタを食べるが、その味に拠って危うく「義体化」が解けそうに為り、焦る。

そして今日日曜日の朝、クライアントと今回の出張での最重要仕事を終え、その顧客と連れ立って大好きだったピッツェリア「C」に行き、好天の下のテラスで、知らない間に名前が変わって仕舞った「法蓮草のパイ」と名前の変わらない「キノコのパイ」を食べると、名前が変わって仕舞ったのに美味しさは変わらないパイの味と、後数時間で羽田行きの飛行機に乗ると云う事実が、僕の「resident」義体化を情け容赦なく崩壊させ始めた。

今、僕はJFK空港のラウンジ…すっかり「visitor」に戻った僕は、今からホームタウン・トウキョウに戻る。

See you, my dear New York.


ーお知らせー

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

*10月28日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿校にて「運慶ー世界を魅了する美」と題された講座を開催します。詳細はこちら→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/a23108c9-3dab-2e5f-7631-59829e1dc570