「近江の神仏」に会った、日帰り旅。

長年の疑問が有る。

新幹線のトイレの手洗いの蛇口付近に、「飲み水ではありません」と書いて有るのだが、ではこの水は、一体どんな水なのだろう?

飲める程綺麗では無いが、手を洗える位には、綺麗なのか?また他の人は、「飲めない水では、手も洗いたくない」とは思わないのだろうか?

何方か、あの水が一体どんな水なのか教えて欲しい…この侭では、気になって、夜も眠れ無くなりそうだ。
と、何でこんな話をしたかと云うと、前日思い立って昨日朝5時に起き、「8時丁度の『あずさ2号』」為らぬ(ふ、古すぎる…)「6時丁度の『のぞみ1号』」に飛び乗って、滋賀県在の3館の美術館に拠る共催展「神仏います近江」を観に行ったからで有る。

京都から湖西線に乗り、大津京駅下車、先ず向かったのは「日吉の神と祭り」展を開催している、大津市歴史博物館。

「神像フリーク」の筆者としては、今回の共催3館の内一番見たかったのは、実はこの大津の展覧会で、今迄本や写真でしか見た事の無かった名品の数々を直に、しかも一度に観る事の出来る、滅多に無いチャンスなのだから。

8時45分に館に着き、今か今かと9時の開館を待つ…そして誰も競う者等居ないのに、開館と同時に展示室へと小走りで向かった。

うぉー!一歩入った展示室には、所狭しと「神様」達が!

此れはスゴイ…初っぱなから何と、建部大社の重文「恥じらいの女神」こと、片袖で口元を覆い隠した「女神坐像」(+「小女神像」二体)では無いか!

もう其処からは無我夢中…金勝寺蔵の右膝を立て、豊満な胸元を「チラリズム」させる有名女神像や、大和文華館蔵の重美で、此方は左膝を立てた女神像(バーク財団等に「ツレ」が入っている)。

また「もう、持って帰っちゃいたい!」位の勢いの、一見地蔵菩薩に見える本隆寺の「僧形男神坐像」と地主神社蔵の重文神像、そして猿面神像こと「大行事神坐像」(個人蔵)迄、名品・有名作のオン・パレードで、もうタマラン!

絵画も、数々の「日吉山王本地仏曼荼羅」や「日吉祭礼図屏風」等充実しているが、最大の見物は真如苑蔵の鎌倉期「日吉山王十禅師曼荼羅図」で、上には北斗七星、下には山水図、中央には日吉神と本地仏地蔵菩薩が描かれるが、驚くのはその本宮の背後の屏風に描かれた、中国(夏珪)風の山水画のクオリティで、何しろ物凄い力量の絵師に拠る逸品で有る。

非常に地味な展示室に一番乗りした筆者の、「おぉっ!」や「すげぇ!」の小声が響き渡ったりしての、大興奮観賞で有った!

名残を惜しみながら、神様達に別れを告げると、タクシーを大津駅に走らせ、琵琶湖線で石山へ。今度は仏様達に会いに…「天台仏教への道:永遠の釈迦を求めて」展を開催中の、MIHO MUSEUMである。

前日の大雨とは打って変わった素晴らしい天候と澄んだ空気、赤と黄に色付き始めた山の美しさに迎えられたが、この信楽の土地の自然は、仕事や旅で荒れた心に本当に染み入る。

展示はインド・中国の作品から始まるが、飛鳥の金銅仏等の優品も多い。

しかし、それ等の中でも筆者の眼を奪って放さなかったのは、先ずはやはり大好きな、聖衆来迎寺の重文高麗仏画楊柳観音像」。

溜め息が出る程美しいこの絵画には、何とも云えぬ気品が有って、髯が有るにも関わらず(笑)、中性的な色気さえ感じるのだ。

そして、大きく何ともおおらかな大日寺の「木造薬師如来坐像」や、香蓮寺(何と美しい名の寺だろう!)の「木造宝冠阿弥陀如来坐像」、極め付け「これでもか!」の善勝寺の重文「木造千手観音立像」等、見処満載で有った。

時間の都合上、残念ながら滋賀県近美の展示をスキップせざるを得なかったのだが、「思い立ったが吉日」、早朝からの近江の神仏に会う旅は大満足で終了…が、実は最後の最後に「サプライズ」が待っていた。

それは、MIHOの展示を見終わり、館前で駅行きのバスを待っていた時の事…「桂屋さん!」と何処からか声が掛かった。

顔を上げてその方向を観ると、カッブルの姿が見えたのだが、何とその2人とは「ニューヨーク在住若手目利き古美術商」KY氏と、YHさんで有った!

ウーム、単なる思い付きで来た信楽の里で、しかもこの日この時間に、何故ニューヨークの友人にバッタリ会わねばならないのだ…これも「神仏」のお導きだろうか…?

もしそうならば、最近発見した「アレ」を、彼に是非とも買って頂かねばなるまい(笑)。

最後迄「何処迄強いんだ」的「引き」の、孫一なのでした。