A Journey with "Art of Devotion."

都知事選の結果を見て、益々東京に戻りたく無くなったが、此方は相変わらず激寒のニューヨーク…もうマイナス8度、10度は当ったり前に為って仕舞った。

そんな数日前、朝起きて或るネット・ニュースを読んで、朝っぱらから爆笑して仕舞った。それは「飲酒の邦人機内で暴れ臨時着陸、逮捕」と云う記事だ(→http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140211/dst14021111280007-n1.htm)。

勿論この事件その物は、笑って済まされ無いが、なにせこの事件の起きた「機内」が「成田発ニューヨーク行きの『全日空機』」だったから、もう読んだ瞬間から「犯人は、あのアーティストでは…いや、若しかしたらあのアート・ディーラーじゃ?」(笑)と、想像がドンドン逞しく為って仕舞ったからだ。

結局その全日空機はアンカレッジに緊急着陸し(!)、騒いだ男はFBIに逮捕され、飛行機は6時間半遅れで到着したとか…賠償金とか実に大変そうだ…お酒は程々に、で有る。

さて今日は、3月のオークションのハイライト紹介を…先ずはレギュラーの「日本・韓国美術」セールから。

今回は小規模のセールだが、売れ線の作品がたっぷり。日本美術のトップ・ロットは、17世紀後半の風俗画の逸品「津島祭礼図屏風」(エスティメイト:30万ー35万ドル)。500年に及ぶ歴史を持つ「尾張津島天王祭」を画題とする八曲一双中屏風の本作は、状態も頗る良く、7月の「宵祭」の赤い提灯と、その翌日の「朝祭」のシーンが華麗に描かれた素晴らしい作品だ。

また明珍派の作家に拠る「自在龍置物」もスゴい。恐らくはこの手の物では東博蔵の物に次ぎ、世界で2番目に大きい作品と思われる、何と無くゴジラチックな作品…エスティメイトは20万−25万ドル。最近人気の明治美術の中でも「自在」は人気が高く、数年前にこれも明珍派の「鯱」が40万ドルを超える金額で売れた事も有ったので、高額落札の期待が持てる。

その他、帝国ホテル建設の際フランク・ロイド・ライトを林愛作に勧めた、シカゴの銀行家グーキンの広重の花鳥版画コレクションや川瀬巴水の版画、並河七宝、柴田是真の印籠等の漆工品や鎧迄、見所一杯のセールは韓国美術の個人コレクション・セールと共に、3月18日開催。

が、それにも況して、この春クリスティーズが「Asian Art Week」で行う「大目玉オークション」を忘れてはいけない。

そのセールとは、以前此処でも何回か取り上げている、3月20日に開催されるクリスティーズ史上初のアジア美術3部門の合同セール、「The Sublime and The Beautiful: Asian Masterpieces of Devotion」だ!

このセールのコンセプトは、アジアには各地の宗教、則ち仏教・神道ヒンズー教道教チベット密教が共存して居るが、長い歴史の間にその宗教への「信仰」から生まれた「崇高さ」や「美」を、クオリティの高い美術品から感じて貰いたい、と云う物で有る。

各国・各宗教が生んだ美術品の逸品が出品されるが、筆者の部門からは韓国物では「高麗経」が1点のみ、しかし日本美術からはかなり豪華なラインナップの出品なので、それ等を古い順に挙げて行こう。

日本美術の最古出品作は天平時代。興福寺に有る国宝の脱乾漆彫刻群、「十大弟子」の「ツレ」作品(60万ー80万ドル)だ。現在興福寺に残されている「十大弟子」は6体のみで、4体は破損等が有った事も有り、明治期に寺外に出て仕舞って居るのだが、本作はその4体の内の1体。

流出仏の内、大倉喜八郎旧蔵作品は焼失、芸大に1体の心木のみが残り、大阪市美には頭部のみが残されて居る事が現在確認されて居るが、今回このセールに出品される作品こそその残る1体で、仏教美術の大コレクター武藤山治の旧蔵品で有る。

本作は痛みが酷かったらしく、明治期の仏師に拠る修復文が胎内から見つかって居るが、脱乾漆の技法を伝える上でも重要な一品。また、上に記した大阪市美所蔵の「頭部」が、元々この像の物だったと云う学者間の説も有り、何しろ興味は尽きない。何れにせよ、興福寺十大弟子を手に入れられるのは、最初で最後の機会だ!

続いて平安期からは、神護寺経の内「鸚鵡経」一巻と「経秩」のセット(18万ー22万ドル)が出品される。ご存知神護寺経は、金銀泥で書かれた装飾経で扉絵も美しく、特に本作の状態はオリジナルの紐も含めてかなり良い状態で有る。また秩の方も、蝶金具や竹、裂から藤原の薫りが匂い立つ逸品で有る。

鎌倉期は、先ずは絵画から…非常に珍しい画題で、切金も残る美しい「金剛薩埵坐像」(40万ー60万ドル)と、「勝利寺本『現在過去因果経』断簡」(15万ー20万ドル)。両作とも状態の良い、目に美しい作品だ。彫刻の方も、迫力満点な慶派の「木造仁王像一対」(30万ー40万ドル)や、恐らくは筆者が今迄観たブロンズ像の中でも、最高の作行きの「金銅阿弥陀如来坐像」(50万ー70万ドル)…もう、欲し過ぎる!(笑)

鎌倉彫刻からはもう1点、美しすぎる仏様が…「木造如意輪観音坐像」(20万ー30万ドル)で有る。本作も恐らくは慶派の仏師に拠る物で、胎内から経物、舎利、印仏等が見つかった作品で、その経文中(修理の際の物と思われる)に嘉元2(1304)年の年紀が有る事から、学者の意見に因ると、造像自体は恐らく13世紀半ばと云っても良いのでは?との事。何とも「両性具有」な、色っぽくも素晴らしい作品で有る。

次に今度は少し下って、鎌倉末ー南北朝時代。此方の時代からは、先ずは神道代表の「春日宮曼荼羅図軸」(10万ー15万ドル)。彩色も良く残り、雰囲気が非常に宜しい。そしてもう1点は「木造持国天立像」(8万ー12万ドル)…こちらも写実的で、彩色も良く残った名品である。

そして…そして、このセールの「隠し玉」と云うか、「目玉」の事を記さない訳には行かない。

それはこの「The Sublime and the Beautiful」のセール・カタログに、イントロダクションを書いて頂いた現代美術家に拠る「ユニーク・インスタレーション」作品が、このセールの「最終ロット」として、セールを締め括るからだ。

この作品に関しては、また今度じっくり此処に記そうと思うが、AD2−3世紀のガンダーラ仏から始まり、インド・中国・チベット・韓国・日本の「Art of Devotion」達と、年代順に「1900年間」の旅をするこのセールは、何と現代美術で幕を閉じるので有る!

クリスティーズ史上初の、「現代美術」を含んだ「アジア美術部門合同セール」…皆さん、乞うご期待で有る!

と此処まで書いて来たが、今朝のニューヨークはまた猛吹雪…そして筆者は今、遅延している成田行きANA009便で日本に向かう為、迎えの車を自宅で待っている。

淋しい「アンカレッジ観光」だけはご勘弁だが(笑)、その前に飛行機が飛ぶか、いや、迎えの車が来れるか、それが問題だ…。