ムンクの「叫び」と、印象派週間。

今日は先ずは、敬愛する文豪、島田雅彦氏の新作小説「英雄はそこにいる」(注:「ひでお」では無く、「えいゆう」と読む:笑)のプロモーション・ヴィデオが完成したらしいので、是非ご覧頂きたい(→http://www.youtube.com/watch?v=FXwV89cQfs&feature=youtu.be)…相変わらずの島田節だが、ウーム、早く読みたい!

さて最近、送られて来るメールの数が急に減ったと思ったら、何て事は無い、日本が黄金週間に入った為に、日本からのメールが減っただけだった。祭日と連休の多い日本…羨ましい限りで有る。

それに引き換え、夜等ダウンを着込む程に寒さがぶり返した今週のニューヨークは、「印象派・近代絵画」のオークション・ウィーク。

そしてクリスティーズサザビーズの両社がオファーする数有る作品の中でも、目玉中の目玉と云えば云う迄も無くサザビーズがオファーする、エドヴァルド・ムンク1895年制作の「The Scream(叫び)」だろう。

この「手に入れる事の出来る、最後の『叫び』」はEstimate on Request、恐らくは2億ドル(約160億円:この金額で売れれば、公開オークションに於ける「如何なる美術品の中でも世界史上最高価格」となる)は下らないと囁かれて居るが、現所有者はムンクの隣人で(ムンクは彼の父親の肖像も描いている)、作家本人から「タダ」でこの作品を貰った上、戦争中は納屋に隠して置いたらしいが、戦後戻って来て取り出して見たら、驚くべき事に戦禍を潜り抜けて「完璧な状態」だったのだそうだ。

筆者は実際にこの「叫び」を観たが、パステルの色彩の鮮やかさと状態の良さに驚くと共に、その明るい色遣いがより一層「狂気」を惹き立てている様に思える、敵ながら天晴れの作品で、しかもオリジナル・フレームに入って居る為に、その重要性は一段と増す…そしてこの「明るい狂気」は、現代美術のコレクターをも魅了するに違いないと確信する。

しかし残念な事に、このムンク「叫び」、そして印象派の下見会はサザビーズにアカウントを持っているか、職員に知り合いが居る者しか観る事が出来ない。それは何故なら昨秋のメインセールの時期、サザビーズに「格差是正」を訴えるデモ隊が玄関に押しかけ抗議活動をしたり、オークション会場に入って抗議声明を述べたりした為に、セキュリティが強化されたからである。

これは非常に残念な事で、「売る作品を全て見せる」と云うオークション発祥の頃からの「約束」を反故にする物だが、あのムンクを買える人は世界でも限られているし、その会社の方針だから仕方が無いのだろうとも思うが、これに因ってサザビーズがより「格差助長」(「貧乏人は観なくて良い」的な)させていると思われるのでは無いかと、個人的には危惧するのだが…。

作品の安全と「パブリック・オークション」の本質…難しい所では有る。

さて今晩(クリスティーズ)、明晩(サザビーズ)と行われる、その「印象派・近代絵画イヴニング・セール」である。

先ずはサザビーズ。今春のイヴニングは計76点が出品される大きなセールで、トップ・ロットで有る上記ムンクの他に、1000万ドル以上のエスティメイトが付いている作品は、ピカソの「Femme Assise dans un Fauteil」の2000万-3000万ドル、スーティンの「Le Chasseur de chez Maxim’s」が1000-1500万ドル、ミロの「Tête Humaine」が1000-1500万ドルの4点。

対するクリスティーズの方は その半分に満たない少数精鋭の32点のオファーで、トップ・ロットは最近某中近東の王室に拠って買われ、美術品の取引史上最高価格(2億5000万ドル:200億円)と為ったとの噂の有る、セザンヌの「カードで遊ぶ男達」の習作水彩画「Joeur de Cartes(「カードで遊ぶ男)」(→http://www.christies.com/sales/impressionist-modern-new-york-may-2012/evening-special-feature-01.aspx)が1500万-2000万ドルのエスティメイトで、1000万ドル以上の下値が付いた作品はこの1点のみ。

個人的な趣味を云えば、サザビーズでは当然ムンクの「The Scream」、ゴーギャン「Cabane sous les Arbres」とブランクーシの「Prométhée」、クリスティーズではジャコメッティの「Femme Debout」とミロの「L'Arête Rouge Transperce les Plumes Bleues de l'Oiseau au Pâle Bec」等が素晴らしいと思ったが、如何だろうか。

さぁ、今年の美術品業界の景気の道標となるイヴニング・セール…注目の結果は、明後日此処に報告しよう。