「コルトレーン」な金曜、「若冲」と「ショーター」な土曜。

今週は「Ryuichi Sakamoto Curates The Stone」で、筆者の「夜」は音楽一色なのだが、金曜の夜は久々にジャズを聴きに、後輩のM君と「Dizzy's Club Coca-Cola」へ。

この晩のギグは「Endangered Species: The Music of Wayne Shorter」と題され、「ジャズ・レジェンド」ウェイン・ショーターの偉業を、実力派若手ミュージシャンでオマージュすると云う企画で有る。

何しろこのライヴのメンバーが魅力的で、テナー&ソプラノ・サックスにコルトレーンの息子のラヴィ・コルトレーン、実力派サックス・プレイヤーのマーカス・ストリックランドや、トランペッターの「太っちょ」ジェレミー・ペルト、ベースにドゥエイン・バーノ、ドラムにE.J.ストリックランド(このベースとドラムのリズム・セクションが、マジにスゴイ!)等々、若き猛者達が揃っている。

マイルス・デイヴィスと共にプレイした父親を持つ子が、同じくマイルスの薫陶を受けたショーターの曲を演奏する…期待をしない方が無理と云う物だろう!

何しろ久々に聞くショーターの曲は余りにもカッコ良くて、これは彼が作曲家としても超一流だと云う事の証だと思う。そして、そのファンキーで複雑なリズムや曲の展開は、ブルー・ノートの時代から今迄、ショーター音楽が様々な「過去」を打破して来た、「新しい」アートなのだと云う事の証なのだ。

ショーターの、今でも古びれ無いアヴァンガルドな曲の数々は、コルトレーンやストリックランド、ペルトやバーノ等の、若く才気溢れるプレイに拠って、より輝きを増した何とも素晴らしいライヴで有った。

さて、一夜開けた土曜日は、ゲル妻と早朝の列車に乗って、ワシントンD.C.へ。

このミニ旅行の目的は2つ…ナショナル・ギャラリーで開催中の「Ito Jaluchu's Colorful Realm of Living Beings」と、サックラー・ギャラリーで開催中の「Masters of Mercy: Buddha's Amazing Disciples」の両展覧会を見る為で有る。

この2つの展覧会の出展作品は、既に殆ど日本で観て居たにも関わらず、筆者がD.C.迄赴いた理由は、やはりこれ等「奇想」の日本絵画が、アメリカの美術館でどう見えるか、またアメリカの観客の眼にはどう映るかを確かめたかったからだ。

地獄宮殿から直ぐのペン・ステーションから、快適な「ACELA Train」に乗ってD.C.に着くと、先ずはナショナル・ギャラリーへと急ぐ。

翌日が展覧会最終日だった為か、会場は結構な混雑だった…が、京博や承天閣の比では無い。そして再見した伊藤若冲の「動植綵絵」全幅は、地獄夫婦の眠気眼を一喝したのだった!

その中でも大好きな逸品、「梅花群鶴図」や「南天雄鶏図」、「雪中錦鶏図」は本当にスゴい…しかし何時も思うのだが、若冲のスゴさとは一筋縄では行かない。

絵具は薄塗なのに重厚に見え、構図はフラットなのに奥行きがある。線の一本一本には意思が有り、繊細で力強く、描く物全てのディテールと色構成には、極めて細心の注意を払う。そして全体的にはゴテゴテ感が有るのに、得も云われぬ気品が有る…何しろ、何しろスゴイ絵師としか云えない。

ゲル妻と溜め息を吐きながら、そして若冲の「これでもか!」の余韻に包まれながら、今度は歩いてサックラーへと向かう。

この「羅漢」展は、芝増上寺蔵狩野一信筆の「五百羅漢図」100幅の内の16幅が来ていて目玉と為って居る、此方も「これでもか!」な展示。

観終わった後は、隣の部屋で展示されていた北斎作品が、非常に品良く見えた位だったが(笑)、この2人の「これでもか」絵師の展覧会は、日本美術の現在のトレンドを見せた形となり、アメリカ人達にもかなりの大好評…何とかどちらか、秋のオークションに出て来ない物だろうか(笑)。

その後「眼の満腹」状態の侭、再び3時間の列車の旅を経てニューヨークに戻り、向かった先は「Rose Theater」…「孫一音楽週間」のトリは、「Wayne Shorter Quartet」で有る。

某国際機関の友人O氏と共に到着した会場は満員で、アナウンスの後79歳のショーターがステージに出て来ると、観客は既にスタンディング・オベイション。ジャズ・メッセンジャーズマイルス・デイヴィス・バンド、ウェザー・リポートに名を連ねて来た「レジェンド」の名に、偽りは無い。

そして都合45分間掛かった、「ジャズの叙事詩」とも呼べる様な「1曲目」が終わると、カルテットの演奏のプレイは徐々に熱を帯び始め、ショーター独特のオーケストレーションを無視した、まるで「抽象絵画」の様な曲を、超絶技巧で演奏し続ける。

各パートに課された、バラバラで超複雑なリズムや急な曲調の変化に、素晴らしいテクニックとインプロで応えたメンバー中でも、特にドラムのブライアン・ブレイドが凄かった…が、それに付けてもあんな曲を書けるショーターとは、真の天才に違いない。

最後の曲が終わると、観客は総立ちでスタンディング・オヴェイションを送り、アンコールを要求、ピアノに寄り掛かりながら「休み休み」演奏していた79歳は、貪欲なる大衆の為にもう1曲プレイして、パフォーマンスは終了。

ショーターの年齢を考えると、実に「観ておいて良かった」感が有るが、これぞジャズ、そして過去や今に決して迎合せず、自分がクリエイトする「これぞ『アート』」なのだ!と云って居る様な、本当に凄い大興奮のライヴだった。