「インターステラー理論」のお陰。

5月14日(月)
11:00 僕が審査員を務めた、昨年の「青森トリエンナーレ棟方志功国際版画大賞」の入賞者、山田ひかるさんの展覧会へ。女子高生を主人公にした少々エグいテーマで有ったりもするが、サー・ジョン・エヴァレット・ミレーの名作「オフィーリア」を思わせる墨一色の木版画は、迫力と新しさに充ちる。

21:00 アメリカ出張の為に羽田空港へ。ラウンジでは現代美術ディーラーのM氏にバッタリ会い、四方山話…そろそろニューヨーク進出との話を聞く。未だ精力的なM氏に感動。

23:00 搭乗し、食事中から映画を観ようとするが、ラインナップがイマイチで、仕方なく「嘘」に関わる邦画2本を観る。1本目の「嘘」は、昨年来同業者から「観た?観た?」と聞かれ続けて居た、中井貴一主演の「嘘八百」。利休所持の幻の楽茶碗の贋物を作って売ると云うコンマン・ストーリーだが、映画自体は安っぽく、何て事は無い…が、『文化庁の人間が「大日如来の一件」で、海外流出に厳しくなった』話や、映画の最後で海外オークションに出そうと企む連中の、「早速クリスティーズが食い付いて来ましたで!」と云った台詞には驚く。特に後者には、「おいおい、一体誰の許しを得て社名使ってるんだ?」と云いたい(怒)。2本目は「Tsutaya Creaters’ Program Film 2015」のグランプリ作品、「嘘を愛する女」。ストーリーは在り来たりだと思うが、主演の長澤まさみ高橋一生吉田鋼太郎がそれなりの演技を見せて飽きない。ただ、『「捨てたく為る程の過去」を持つ人間の痛みは、中々本人からは語られず、其れが無い者には非常に判り辛い』と云う現実を突き付けられる。現在の「生」は、如何なる過去だとしても、その過去の「結果」でしか有り得無いのだ。


5月15日(火:アメリカ時間)
10:00 修復家を伴って、顧客宅へ。相変わらずお元気なご夫妻に会えて、嬉しい。

12:00 顧客家族、修復家と寿司ランチへ。然し寿司は、ここ10年で外国でも飛躍的に美味しく為った。このプロジェクト、是非とも上手く行って欲しい…。


5月16日(水:アメリカ時間)
11:30 顧客家族と再びランチ…今日はステーキだ!80歳をとうに越えたクライアントの食欲は旺盛で、毎度思うが「肉を食べる老人」は須らく元気。岩の様な形状の、然し柔らかいステーキを頂きながら、打ち合わせ。帰りには、素敵なアクセサリーのお土産を頂く。

25:30 某都市空港から帰国便に搭乗。帰りの機内では、阿部寛松嶋菜々子主演のミステリー邦画「祈りの幕が下りる時」を観る。プロットは流石に良く出来て居て、面白い。また松嶋菜々子の可愛さは未だ健在で、僕は実は大好きだったドラマ「Sweet Season」以来のファンなのだが、45歳・二児の母としては、かなり上手く年を取って来て居ると思う。


5月18日(金)
5:00 羽田空港到着。深夜に出発し、寝て、明け方に日本に到着、は中々宜しい。

12:30 久し振りに会う顧客と、某大名品に関する打ち合わせランチ@銀座「G」。今年も始まった「パリソワ」を味わう。この大名品は、僕が人生で観た如何なる作品の中でも美しい作品…良い所に嫁入りさせたい。


5月20日(日)
15:30 静嘉堂文庫美術館で、「酒器の美に酔う」展を観る。中国古代青銅器から、朝鮮・日本の酒器を所蔵品から展示する。が、何と云っても目玉は特別出品の国宝「曜変(稲葉)天目」で、3碗全て国宝として存在する曜変天目の中でも、一際派手で美しい。階下で上映されて居たヴィデオも大変良く出来て居て、勉強になる。その後は学芸員の方と懇談。

19:30 ミッドタウンの「U」で、友人とディナー。食事中、向こうの席で結構な大声で話して居る家族が居て、気に為って見ると、何故かその声の主に見覚えが…良く見ると、何と小中高同級生だったKでは無いか!Kはドイツ人とのクォーターで、Kを含めた3兄弟は皆ハンサムで有名だった。在学当時、兄のCは雑誌「メンズクラブ」、弟のCもモデル、そしてKはこれも当時大流行してた雑誌「ポパイ」のモデルで、最近は大層体重も増えた様だが、カメラのCM等にも出て居たのを見た事も有る。Kと一緒に居たのはご家族で、綺麗な奥様に超ハンサム&美人の息子と娘、流石で有る(笑)。さて、僕が通って居た高校は小中高一貫教育の男子校で、だが僕達の降りる駅周辺には有名女子高が三校位在って、僕の惨めな男子校生活はその事に因って、その悲惨さがほんの少し緩和されて居た訳だが、Kに取ってのその三女子高の存在は、僕の眼には飽く迄も「彼の誕生日」の為に有った、と思える程だった。それがどう云う事かと云うと、Kは自分の誕生日が近く為ると、駅のプラットフォームを僕等とチンタラ歩きながら、「そう云えば、もうそろそろ誕生日だなぁ…」と周りに聞こえる程の声で呟く。すると僕等の誰かが「あれ、いつだっけ?」と聞と、「ああ、来週の水曜!」等とKが答える。そしてまた誰かが「おい、K、最近は何か欲しいモノあんの?」と聞くと、「そうだなぁ、『カウチンセーター』かなぁ?」とこれも少し大きい声で答える。そして迎えた次の水曜日の朝、僕等がまた駅のプラットフォームをチンタラ歩いて居ると、女の子が駆け寄って来て、「Kさん、お誕生日おめでとうございます!」と云いながら、ラッピングされたモノをKに渡す。するとそこいらに居た異なる制服を着た女の子達が一斉に、「K君、お誕生日おめでとう!」とカウチンセーターを持って来るのだ!そしてKは恐らくは20着程のカウチンセーターを貰い、僕等が其れ等を持つのを手伝って、登校するので有った…「人生とは不公平だ」と実感した青春の一コマで有る(笑)。


5月21日(月)
11:00 関西の顧客を同僚と訪ね、色々と作品を拝見しながら、某名品を如何に売るか考える。これはマーケティングが必要だ。

16:00 骨董屋さんを訪ねる。仕事中に頂く、良い高麗茶碗での一服はタマラナイ。


5月22日(火)
11:00 久し振りに南蛮文化館に向かい、展示を拝見。南蛮文化館は今年が開館50周年だが、年に2カ月間しか開いて居ない、知る人ぞ知る美術館。収蔵品は屏風や漆器等、誠に素晴らしい南蛮美術の宝庫。Y館長もお元気そうでした。

13:00 新しく中之島に開館した、香雪美術館へ。学芸員の方にご挨拶をすると、早速開館記念展第2弾の「美しき金に心をよせて」へ。有名且つ超可愛い重文「稚児大師像」から始まり、「これ以上に状態の良い『桃山屏風』が有るだろうか?」位に状態の良い、大好きな「レバント戦闘図・世界地図屏風」迄、最初から最後ま迄、「金」三昧。次回の「茶の道にみちびかれ」も楽しみだ!

15:00 奈良へ向かい、奈良博で特別展「国宝 春日大社のすべて」を観る。云う迄も無く素晴らしい展覧会で、特に絵画パートがスゴい。宮曼荼羅、鹿曼荼羅、社寺曼荼羅を含めて、これだけの春日曼荼羅を一度に観るのは中々無いし、僕が人生で2回だけ扱かった「春日宮曼荼羅」の内の1つが出ていたのも嬉しい。季節は桜の散り際、その桜が見える小さな茶室に横たわり、側には美しく優しい女性、床には宮曼荼羅と出来の良い興福寺千体仏、そして大好きなお茶碗で一服頂きながら、西行の歌を口遊み乍ら、逝きたい…と云うのが、僕が死ぬ時の夢の状況。そうは問屋が卸さないだろうなぁ(涙)。

16:00 某氏のご厚意で、某大名品を倉庫で拝見する。出るのは溜息と感謝の言葉ばかり…。

17:00 近鉄奈良駅への帰りの道で、歩道に居た鹿が、何故か急に物凄い勢いで此方に向かって走り出し、驚いた外国人同僚が引っ繰り返って仕舞う。最近鹿の一群が市街を爆走する映像を見たばかりだったが、実際に体験すると恐ろしい。春日の鹿達は、成る程あの速さと勢いで「鹿島神宮」から来たんだから、そりゃ強いわな。


5月23日(水)
12:30 名古屋の方が居らして、青山のフレンチ「R」でランチ。冬に僕が担当する講座の打ち合わせ。この「R」には初めて伺ったのだが、中々に美味しくて、序でに最後にお抹茶が出て来るのが面白い。そのお点前は、宗和流のU宗匠のご指導との事…お茶事でご一緒したのが、もう懐かしく思われる。

15:30 オフィスで顧客に会い、某作品の契約を頂く。この作品はその分野では最もレアなモノで、価格も高いが世界にももう無い。売れるか知らん?

20:00 長年の友人編集者とチェリストと、蛎殻町の寿司屋「K」でディナー。相変わらず美味いK君のお寿司を摘みながら、チェリストの電車&飛行機オタク話で盛り上がる。


5月24日(木)
14:00 仏教美術専門の古美術商を訪ね、仏像等を観る。然し仏教美術とは不思議なモノで、仏教自体に信仰の無い僕でも惹かれるし、例えば藤時代のモノでも、「良くぞ残って来た!」感が他の分野のモノよりも強い…何故だろう?

15:00 ペロタン東京で開催中のDaniel Arshamの展覧会、「Color Shadow」を観る。天然物質から作り出される彫刻は、石膏や金属、そしてブロンズを含む鋳造作品だが、その素材感の無いぬいぐるみ作品が面白い。

15:30 階上の現代美術画廊で、オーナー氏と懇談。美術品の価値とは、価格が全てでは無い…希少性こそ重要かも知れない。

17:30 ウチの舞台を借りて貰って居る観世流喜多流の能役者2人を、母が招いたディナー@「O」へ。若手ながら実力者のこの2人は、将来の能楽界を背負って立つかも知れない。


5月26日(土)
5:30 迎えの車に乗って、香港に行く為羽田空港へ。ラウンジでは某古美術商とばったり。

9:00 全日空便は、映画のラインナップが良く無い…ので、「コード・ブルー」と云う緊急医療モノの連続ドラマを観るが、何とこれにハマる。ガッキーや戸田恵梨香比嘉愛未が可愛いし、有り勝ちとは云え、ストーリーも面白い。元々医療モノのドラマ好きで、このドラマも悪くは無いが、どう頑張っても「白い巨塔」には敵わない。

14:00 香港到着。蒸し暑い。体調優れず。

22:00 今晩のアジア20世紀&現代美術イヴニングセールは、10億4039万香港ドル(約147億円)を売上げ、これは香港でのこの分野での史上最高価格。相変わらずザオ・ウーキーが強く、中国マーケットも強い…まぁ「アジア」と云っても、バスキアやヘリング、ドイグやボカプーア等も出て居たのだけれど。


5月27日(日)
9:30 今回の香港出張は、ほぼほぼ会議とミーティングに明け暮れる予定。その第1弾は、専門家達と今手掛けて居る某コレクションに関する打ち合わせ。数が多いので、どう捌くか?が問題。

10:30 今回の香港には、大阪美術倶楽部の理事の方々20名が研修旅行で居らっしゃるので、そのお出迎え。美術商には元気な人が多い。

11:00 今日のミーティング第2弾、某個人コレクションに関する打ち合わせ。この仕事はマーケティングとタイミングに掛かって居る気がする。

12:30 ミーティング第3弾。在米コレクションの打ち合わせ。二転三転するこの仕事は、然し僕の仕事の集大成に為るやも知れない大仕事。頑張らねば!

17:30 全世界CEOと、初の1:1ミーティング。フランス人で有る彼は、日本的な仕事スタイルに詳しく、例えば「根回し」と云う言葉も知って居る程(笑)。昨年の僕の大仕事や、今やって居る仕事も承知して呉れて居て、一寸嬉しい。

19:00 大阪美術倶楽部の方々20名を招待してのディナー@「D」。この場所は中国及び欧米の現代美術コレクターが作品を飾って居るお洒落な店で、料理はコンテンポラリー・カントニーズ。和気藹々とした、良いディナーでした!


5月28日(月)
10:30 香港での絵最後のミーティング。某コレクションの売却を頑張って来たが、今回のバイヤーとは金額が折り合わず、ギブアップ。残念だが、こんなコレクションは世界広しと云えども他には無いのだから、何時か売れるに違いない!

13:00 香港セールは続くが、別の重要ビジネスの為帰国するので、チェックインしラウンジに入ってムシャムシャ食べて居ると、何処からか「孫一さん!」と云う声が…顔を上げると、其処には友人のアーティストK氏が!K氏はヨーロッパのギャラリー所属で、香港にもアトリエを持ち、クリスティーズのオークションにも作品が出る世界的な作家で、最近はバンドも始めてレーベルも作る勢い。K氏とは、目黒でやった西野達と椹木野衣さんの芸術選奨のお祝い飲み会以来だったが、マネージャーでパートナーのAさんも登場し、嬉しくも偶然な再会でした!

15:00 機内では相変わらず「コードブルー」を観る。観てる内に、ドクターの1人の浅利陽介と云う役者が好きに為って、コメディもシリアスもやれそうなこの役者の、「演技派的演技」の映画を見て観たいと思う。


5月29日(火)
14:00 或る方に招かれ、銀座に在るスイスの超高級腕時計ブランド、「Jaquet Droz」のショウルームへ。このメーカーは1738年の創業と云うから、今年で280年の歴史を持つ。クリスティーズの創業は1766年だから彼方の方が28年程先輩だが、18世紀創業同士と云う事で、何と無く好意を持つ。幾つか作品を見せて貰うが、オートマタやエナメル絵画装飾等も作って居ると云う事で、その技術と美の感覚には、清朝乾隆帝もラッキナンバー「8」のデザインでオーダーしたと云う事実も信用出来る。

19:00 某美術館理事長とそのご友人の一部上場企業の社長氏と、月島で「超下町」ディナー。頂いたのはアジフライ、ハムカツ、マグロユッケ等だったが、軽くサクッと揚げられたアジフライは特に美味く、アジフライ大好物の僕には超ハッピー。


5月30日(水)
16:00 千葉市美術館で始まった、「岡本神草の時代」展のオープニング・レセプションへ。この作家の事は知らなかったが、この大正京都のアーティストは、決して関東には居ないタイプ。浮世絵美人画の流れを汲んでは居るとは思うが、展覧会を観て行くとこのアブナい感じの画風は、幕末大阪の絵師祇園井特を思い出させるし、甲斐庄楠音にも通じる。然し知らない絵師は沢山居る物だ!

18:30 レセプションを終え、総武線快速で帰京。が、東京駅の改札を出る時に、ズボンのポケットに入れて置いた、千葉駅で1万円チャージしたばかりのパスモが無い事に気付く…どうも座席に落としたらしい。慌てて駅員さんに云うと、「乗って来た電車が品川で折り返して居るので、今ホームに戻って折り返しに乗れば、席に有るかも知れない」と云うので、ダッシュでホームに戻ったが、丁度ドアが閉まって仕舞い、満員の乗客を乗せた電車は目前で走り去った。嗚呼、こりゃダメだな…と思い、家に帰ったが、念の為にとJR遺失物センターに連絡したら、何とそれらしき物が届いて居ると云うでは無いか!翌日取りに行く事にする。


5月31日(木)
9:00 「紀州ドンファン死亡」事件を知り、何て「推理小説」っぽい事件かと思う。数十億と云われる資産、本人の死の前にもがき苦しんで死んだ愛犬、3ヶ月前に結婚した55歳年下の妻、家政婦、解剖で分かった覚醒剤の大量摂取、半裸で椅子に座っての死、上階の物音の時刻とと死後硬直の時間差…おいおい、エラリイ・クイーンか?

12:00 今やって居る仕事に関わる某エキスパート氏と、明神下「K」でランチ。この方とはもう長いお付き合いだが、外国の有名美術館のコンサルタントも務める、真のエキスパート。美味しい食事と打ち合わせを堪能する。

18:00 無くしたパスモを受け取りに、東京駅の遺失物お預かりセンターに行く。偶々チャージした時の領収書を持って居たので、その末尾4桁で僕のパスモだと証明され、無事手元に!勿論中身の金額も同じ。然し日本って、信じられない位に、何て親切で誠実な国なのだろう…長い外国生活経験者には、もう涙しか出ない。アメリカだったら有り得ないよ。


気が付けばもう6月…いや、「インターステラー理論」のお陰で「未だ」6月、と云おう。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。