お疲れ動向。

4月11日(火)
10:00 京橋の古美術商を訪ね、某作品のプライヴェート・セールの打ち合わせ。今週末は骨董フェアも有るらしい…骨董屋さんも新規顧客獲得の為に、あの手この手で大変そう。

11:00 先週末は土日共に働いて疲労も溜まったので、一日の残りはお休みとし、先ずは愛宕と本郷でアパートを見る。僕の場合、本棚の多さが部屋選びの鍵なのだが、日本の部屋は広さの割には細かく部屋が分けられて居て、其処が不便。

15:00 麻布のTake Ninagawaに行き、絵画・木彫・ソフビ等の作品が並ぶ、加藤泉の展覧会を観る。加藤作品は僕の購入欲を何時も誘う…が、ニューヨークのペロタンで展示されて居た「白」の絵画が、未だ忘れられず。

16:30 本年度アカデミー作品賞を受賞した、バリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」を観る。前半は流石作品賞、と云う感じの重厚且つタッチーな内容で、特に主人公を演じたアレックス・ヒバートとアシュトン・サンダースの演技が素晴らしい。が、第3章に為ると何故か全てがトーンダウンし、結末も「なんだかなぁ…」な感じで、個人的には残念賞。


4月12日(水)
11:00 都内某ホテルにて古美術商と打ち合わせ。京都の骨董市場や動向の聞き取りをする。最近の古美術界では、研究者も業者も世代交代が進んで居て、大御所が亡くなった、或いは現在お具合が悪い等の話を良く聞く。これから何処の誰が「大御所」に為って行くのだろう…これも長年業界に居る楽しみ。

12:30 大学時代の親友Iと久し振りに会い、弟の店で食事。Iは僕の20代の全プライヴェート時間の、恐らくは8割方を一緒に過ごして居る人物で、優しく男らしい男。お互い年は取ったが、未だ未だ(笑)。

14:30 九段のアパートを内覧。九段は幼稚園から高校まで14年間学校通った場所なので、何と無く心安い。青山や広尾程フラッシーでも無いし、何と無く品も有る場所な事もヨロシイ。住み慣れた神保町にも近いし、春は桜も満開…此処にしようかな?と熟考。

19:00 銀座の小料理屋「K」で現代美術家S氏、ギャラリストK女史と食事。S氏は「NHKの番組を機に政界へ!」と僕を嗾けるが、機は未だ熟さず(笑)。旬菜を用いた「K」の料理に舌鼓を打ちながら、今年秋にオープンする氏の財団施設や公演の話をした後は、K女史のギャラリーを訪ね、Kさんお薦めのアーティスト、熊谷亜莉沙の強烈なポートレイトを観る…彼女の作品は、体験の絵画化の権化だ。


4月13日(木)
9:00 かいちやうと六本木「L」で、桜下朝食…これ程美しく、長く狂い咲いた桜も珍しい。平日の朝しか無いと云うフレンチ・トーストにも可なり惹かれたが、結局フワフワ・オムレツと「永遠のクロワッサン」を頂く。「永遠の…」は、ネーミングに納得する程美味かった。

10:30 かいちやうの茶室に招かれ、「初鰹」(お菓子ですから)を頂きながら、「一人『茶の湯展』」(笑)的高麗+和物の名碗ニ碗で二服頂く…至福、至福。

12:00 乃木坂「L」でランチ…久々のドリアを頂くが、何と新メニューが出来て居て吃驚。次回挑戦しよう。

13:30 今回お世話になって居る大手不動産会社「K」のYさんが、男性新入社員を研修目的で連れて来て、皆で六本木と銀座でアパート内見…中々良いが、ちょっと高い。「K」の新入社員は4:1の比率で女性が多いそうだ…負けるな、新入社員君!(笑)

18:00 天王洲の寺田アート・コンプレックスに向かい、山本現代やURANO等の展覧会を観た後、KOSAKU KANECHIKAで先ずはグループ展を観、佐藤允の作品に心惹かれる。その後舘鼻則孝氏と落ち合い、氏の展覧会「Camellia Fields」を説明を受けながら鑑賞。ブロンズで鋳造された720個・6種類の「椿」は作家自身に拠って手彩色されたが故に、一つ一つが「趣」を持ち、嘗て武士の世界で死を意味した椿は、改めて現代日本人の死生観を問う…強烈に印象的な作品だった。


4月14日(金)
8:30 松戸のベトナム人女児殺人事件の続報を聞き、吐きそうに為る…保護者会の人物が被疑者なんて、こんな酷い事件はない。

12:00 キュレーターと、都内ホテル内和食店「K」でランチ。最近外国の現代美術ギャラリーの東京での開店が続くが、原宿のブラム&ポー、六本木のペロタンに続き、ニューヨークの友人でも有るファーガス・マカフリーも表参道に…そしてガゴシアンが寺田倉庫に来る、との噂も。

14:30 都内某私立美術館に向かい、学芸員と面談。学会の話や、最近調印したコレクション・セールに関する話をする。日本の美術館は、財政面でも人事面でも絶対的に改革が必要だ。

18:30 盟友でも有る、最近日経でも紹介されたIT企業のCEO氏が企画した、赤坂での食事会に招待される。出席者は官僚や政治家秘書、ジャーナリスト、大手企業戦士や金融マン達で、話が合うか不安だったが、元首相秘書官で骨董誌編集長氏も来て居たので、一安心。然し日本の文化行政は全くなっちょらん…何故なら、政治家にも官僚にも真の意味での「インテリ」が全く居ないから。今、そして将来の日本を救う唯一の策は、自民党が割れて新党が出来、二大政党制に近い状態を作る事だと思うが、そんな気概の有る政治家は自民には居ないだろうし、保身ばかりの政治家にはさっさと退場して欲しいと幾ら云っても、無理だろうなぁ。


4月15日(土)
10:00 読んで居た、葉室麟著「墨龍賦」を読了。海北友松が主人公の時代小説だが、丁度京博で展覧会が始まったばかりなので、グッタイミン。海北友松展が5/21迄で、奈良博の快慶展と大阪市美の「木 x 仏像」展が6/4迄…次回来日時、関西に絶対に行かねば!

12:00 骨董市「目白コレクション」に行く。物凄い人で熱気ムンムン…骨董ブーム復活か?某店に出展されて居た、李朝白磁の鎬の明器瓶が美しかった。

13:00 六本木「L」で作家とランチ。今回はスタンダードなパンケーキに挑戦するが、相方のバーガーも超旨い。厚切りジェイソン似の典型的アメリカ人ルックな店員が居たので、「そういえば何故『厚切り』なんだっけ?」と不思議に思い調べてみるが、何て事ぁ無い、厚木に住んで居た事と胸板が厚いのが理由だそう…謎が解けた序でに、彼に何人かと聞くと、何とフランス人でこっちの答えの方に吃驚する。アンシャンテ。

14:30 先日スーツのズボンが破れてしまったので、ランチ後有楽町に行きスーツを買おうとするが、何時もの「洋服買えない病」が出て仕舞い、早々に退散。この「洋服買えない病」とは、どんな服を着ても「店員に『似合わねぇなぁ』と思われて居るのでは?」と考えて仕舞い、汗が吹き出て試着も儘為らなく為ると云う、僕の大きな弱点なのだ。然し早く買わねば…。

17:00 最近東大博士課程を満期退学した、能と庭園の研究者R君とオペラ演出家のMさんカップル、ペインターYさん等の若い人達と、ワタリウムで開催中の「坂本龍一 | 設置音楽展」を観る。先ずは和多利姉弟さん達とお茶をして、展覧会の説明を聞く。そして観覧後一番印象的だったのは、矢張りアピチャッポンとのコラボ・ヴィディオ・インスタレーションの「First Light」。相変わらず「眠い」アピチャッポンだが、多面化し続ける教授の音楽は、眠りをも包含して体内に入り込む。

19:00 上記4人でディナー@広尾の和食店「A」。渡辺守章ピーター・ブルック、バルトや観世寿夫迄、話題豊富…若いアーティストや研究者達との話は、何時も楽しい。然し今から思えば、その昔セゾン劇場でブルックの「真夏の夜の夢」を観たのは、代え難い経験…あんなにミニマルで能っぽい演劇を観たのは初めてだったのと、其れが西洋演劇、然もシェイクスピアで有った事に衝撃を受けた事を思い出す。


4月16日(日)
終日温泉にて休養。ワタリウムで求めた美術手帖は、坂本龍一特集号…拾い読むが、「芸術手帖」に名前を変えた方が良いのでは無いか(笑)。夜は「しくじり先生」を観て、森脇健児の面白さに吃驚。


4月17日(月)
9:00 ニュースで山本地方創生相の「一番のガンは学芸員」発言を知り、改めて現内閣の程度の低さに辟易する。この山本、今村復興相、金田法相、稲田防衛相、そして首相…余りに子供じみた発言と態度の連続にウンザリして居るのは、僕だけなのだろうか?

11:00 MOA美術館に向かい、「奇想の絵師 岩佐又兵衛 山中常盤物語絵巻」を観る。今回は全12巻を一挙公開して居るので、見逃せない展覧会だ。レイプ、体真っ二つや足首切断の殺人の物凄いスプラッター・シーン、状態の極めて良い極彩色、切られた屏風や着物の柄迄、リアリズムと細部に異常な執着を見せる見所満載の12巻だが、嘗てこの絵巻が発見された時に呈された贋作疑義が出たのも宜なるかな…異時同図法を用いて居るにも関わらず、直ぐ前のシーンと着物の色が違ったり、死体の足の位置が全く変わって仕舞ったりして居るからだ。然し何度観ても、物凄いクオリティの絵巻には違いない。

19:00 某大コレクターのご子息と、天麩羅店で食事。何故かアポの時間を間違えて仕舞って居て、30分もお待たせして仕舞い、平身低頭。お詫び後は、3月のオークションや茶の湯展の話等…日本文化に興味を持つ若い世代は、僕に取っても日本に取っても本当に重要な存在だ。お茶とお能の世界に、是非彼を招き入れたい。


4月18日(火)
10:00 香港と電話会議。何ともやり切れない…。

14:00 藝大美術館で開催中の「雪村 奇想の誕生」を観る。眼を惹いたのは、矢張り文化庁蔵の「四季山水図屏風」、ミネアポリスの「花鳥図屏風」等々。今回の展示は雪村影響下の絵師や、雪村が参考にしたと思われる中国・朝鮮絵画迄を含んで居るので、美術史上の雪村前後を確認出来る良い展覧会だった。

15:30 出光美術館に向かい、「茶の湯のうつわー和漢の世界」展を観覧。此方も流石のラインナップで、例えば巨大な宗入の黒楽「鬼の頭」や個人蔵萩筆洗茶碗「雪獅子」、奥高麗茶碗「さざれ石」と「秋夜」や熊川茶碗迄、茶碗好きには堪らない。個人的には、特に「秋夜」を含めた三碗の奥高麗茶碗で一服ずつ頂きたい(笑)…と垂涎。

18:00 某ブランドに招待され、銀座中央通りに新築された「Ginza Six」でのレセプション・パーティーへ。然しいざ行ってみると、開場15分前にも関わらず大乃国軽部アナ等を含めて(笑)、もう信じられない位の人、人、人。一度は入場待ちの列に並んだ物の、人気ラーメン屋に5分も並べない僕が待てる筈も無く、早々にギヴ・アップ。招待状には「特別なお客様だけの…」と書いて有ったが、良く考えれば二百数十店が100人に招待状を出せば、其れだけで2万人以上が来場する事に為るのだから、「特別なお客様」で超コミに為るに決まって居る。

19:00 人の多さに疲れ果てたので、銀座を脱出し、赤坂の老舗洋食店「T」で食事…ステーキ丼とカニ・クリームコロッケで自分を癒す。


日本滞在もあと数日…嗚呼、疲れが取れない。全てを忘れて、何処か南の島に行きたい。