大和屋、ラフマニノフ、六地蔵と、人生の無常と。

今僕はメインの仕事の他に美大客員教授、また日本文化系財団・学会等の理事を3つ程やらせて頂いて居るのだが、最近もう一つ新しくも興味深いお仕事が…。

それは某官庁から仰せ付かった、政府制度研究会の委員。初会合にお邪魔すると、僕以外には大学教授や法律家、美術館学芸員、画商、金融関係者の方々が委員と為って居るし、会合にはもちろん政府の方々も出席されて居て、未だに「何故僕が?」感が否めないのだが、その新しい制度の内容は重要且つ興味深いモノなので、ちょっと頑張ろうかなとも思っている…が、基本的には僕は制度破壊を目指して居る人間なので悪しからず、なので有る(笑)。

さてピョンチャン・オリンピックも終盤に入り、日頃スポーツ観戦をしない僕でも、スピード&フィギュア・スケートやカーリング等の中継時にはテレビに釘付けに為って居るのだが(然しオリンピックのお陰で、眞子様の結婚の儀延期の話題が世間から掻き消された…これも政府の手だっんだたろう)、或る事がずっと腑に落ちないで居るので、今日はその事から。

それは男子モーグルで銅メダルを獲った、原大智選手のコーチの事。原選手の銅メダルは日本男子モーグル界史上初と云う事で本当に素晴らしく、彼に関しては何の文句も無い。また、彼を13歳から指導しながら4年前に27歳と云う若さで惜しくも急逝した、平子コーチとの約束を果たしたと云う話も美しい…が、メディアではこの平子コーチの事ばかりが取り上げられて、平子氏亡き後原選手を4年間指導し、メダリストへと導いた筈のコーチの事に誰も触れていない気がするのは、僕だけだろうか?

人間が出来ていない僕がそのコーチだったら、「原選手を此処まで育てたのは、『平子コーチと俺』なんだぞ!」と叫んで居るのではと無いか。シニカルな様だが、日本人は所謂お涙頂戴的な「美談」好きだから仕方ない。だが、いみじくもスピード・スケートの小平選手の金メダル決定後のインタビューで、「コーチと二人三脚で獲りましたね」と云うインタビュアーの問い掛けに、小平選手は「コーチとの二人三脚では無くて、チーム全員と頑張った」と敢えて訂正して答えて居た事を鑑みると、メディアが考えがちな「ネタになる話題」報道には、僕等も踊らされてはいけない気がするので有る。誰か原選手の「直近のコーチ」の事も教えて下さい!

てな感じの今日この頃だが、此処からが本題…今回も最近僕が体験して来た藝術の覚書を、メモ形式で。


ー舞台ー
・「歌舞伎座百三十年 二月大歌舞伎 夜の部」@歌舞伎座:先月に引き続き、高麗屋三代の襲名披露公演へ。歌舞伎座は団体客でごった返していたが、ロビーでは現代美術コレクターY氏や、友人の化粧品会社CDのT氏夫妻、顧客C氏等に遭遇。然し驚いたのは、何と緞帳が「草間彌生」に為って居た事で、然も作品は「富士山」等では無く、恐らくは初期の抽象絵画を3点配置した物…歌舞伎座に現代美術の緞帳が掛かる事自体には異論は無いが(寧ろ望ましい)、この作風は似合わない。緞帳って、誰がどう云う基準で決めているのだろう?さて今月の夜の部は、お馴染み「熊谷陣屋」「壽三代歌舞伎賑 木挽町芝居前」「仮名手本忠臣蔵 一力茶屋」の三狂言。「熊谷陣屋」は新幸四郎が頑張るが、矢張り声と台詞廻しが未だ未だで、5年前の吉右衛門の舞台で号泣した僕には物足りない。が、脇を固める魁春左團次菊五郎が素晴らしかったので、どうにかこうにか。幕間には久し振りに隣の「B」に出向いて「日之影栗のプリン」を頂き、相変わらずの旨さに悶絶する。このプリンはここ数年食べた如何なるマロンちゃんの中でも、未だにベスト3に入って居るのだ。次の襲名公演で良く掛かる幹部総出演の華やかな「木挽町芝居前」では、こう云っちゃあ何だが、芝居に集中せずにキョロキョロしたり、ダルそうにして居た海老蔵の悪い態度が目立って、周りの幹部連中がキチンとして居るだけに、折角の祝言の舞台の上であんな態度が許されるのか?とイラ付く。そして「一力茶屋」…これはもう松嶋屋と大和屋の2人の美しくも軽妙な演技が超素晴らしく、それに新白鸚の重さが加わった素晴らしい舞台。この平右衛門・お軽の役は、偶数日は海老蔵菊之助のコンビに変わるのだが、先に此方を観て仕舞うとどうだろう?夕飯は歌舞伎座帰り恒例の寿司屋「M」へ…減らず口を叩きながらの寿司は、幸せスグル。

・「面影」@国立能楽堂:フランスの詩人ポール・クローデルの作品、「女とその影」を原作とする新作能金剛流宗家金剛永謹師がシテの先妻の霊を、家元後嗣の龍謹師がツレの後妻を演じる。そして「清経」の小書で良く知られる笛の「恋之音取」で幕を開けるこの新作能は、詩情溢れる「蝋燭能」として上演されたのだが、実はこの「女とその影」は大正12(1923)年3月に帝劇に於いて、五代目中村福助主宰の「羽衣会」にて上演された事が有って、その時は柞尾佐吉作曲、鏑木清方が装置と衣装を担当すると云う豪華版だったらしい。これも何とも観たかった舞台だが、今回の金剛宗家の舞も成る程素晴らしく、夢幻能として完成度の高い新作能と為って居た。

・「松風」@新国立劇場新国立劇場開場20周年記念公演で有る本舞台は、観阿弥世阿弥作の能「松風」をオリジナルとした作品で、細川俊夫作曲、サシャ・ヴァルツの演出・振付。本公演は日本初演だが、実は僕はこの舞台を2013年にニューヨークで観て居て、その時の演出家は今回のヴァルツでは無かったのだが、纏まりが無く曖昧模糊として居て、辟易とした思い出が有った。なので、今回少しばかりの期待をして行ったのだが、残念ながら感想は変わらず、と云うのが本心。僕に取っての一番の疑問は、何故思い切った時代・役柄・物語の改変をしないのかと云う事で、成立後500年以上経ち、その長い年月の間シェイプされ続け、ミニマライズされ続けた最高級の芸術作品を改変するに当たり、 あの舞台で「ユキヒラ〜」と外人に歌われても違和感が有り過ぎるし、単に怪談若しくは亡霊譚に思えて仕舞う仕舞うストーリー、「武満っぽさ」から脱皮出来切れない音楽、散漫に見えて仕舞ったダンス・演出の一体感の無さは、再び僕を眠りへと誘ったのだった。異論が有れば、是非。


ー音楽ー
・「読売交響楽団 feat.ニコライ・ルガンスキー」@サントリー・ホール:読響の名誉指揮者、ユーリ・テミルカーノフ指揮、ピアノにチャイコフスキー・コンクール最高位のルガンスキーをフィーチャーした音楽会。この晩のプログラムは、チャイコの「幻想曲『フランチェスカ・ダ・リミニ」、ラフマニノフの「パガニーニ狂詩曲」、ラヴェル組曲クープランの墓』」、そしてレスピーギ交響詩『ローマの松』」。オーケストラの出来はそれなりだったが、ルガンスキーのピアノにはラフマニノフの曲の演奏に必要な微妙な「タメ」が有り、余りにもラフマニノフ向きで嬉しく為る。会場では、音楽バーを持つコレクターS氏にもバッタリ。


ー展覧会ー
・「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」@サントリー美術館寛永年間の京都芸術文化にスポットを当てた展覧会。遠州の「綺麗さび」に代表される瀟洒なアートを生んだ寛永文化は、公家や武士、町人の中でボーダーレスに成長する。その展覧会中の個人的白眉は、矢張り小井戸茶碗「六地蔵」と膳所光悦、そして「朝儀図屏風」(然し、何故この屏風が裏千家に在るのだろう?)で、特に「六地蔵」は矢張り僕が「老僧」と共に、一生に一度で良いからお茶を飲んでみたい逸品だ!…と思って居た矢先、下の階の展示室前で笑いながら手を振る集団が。最初、手を振られて居るのは僕ではないと思い、辺りを見回して見たが、どうも皆様僕に向かって手を振って居られる様で、良く見ると某美術館館長と学芸員の方々がサントリー学芸員の方といらっしゃる。ご挨拶すると「丁度孫一さんの話が出てたんですよ!『六地蔵』お好きなんだろうなぁ…ってね」と仰る…噂をすれば、影(笑)。

・「ポートレイツ」@Maho Kubota Gallery:オピー等7人のアーティストの「ポートレイト」作品を集めた展覧会。僕は個人的にポートレイトが好きで、自分が偶に買う現代美術作品も何故か広い意味でのポートレイトが多いのだが、今回の展覧会では、武田鉄平の「一見『厚塗り』に見えるが、実作を観ると実は写真の様にしか見えない程『薄塗り』な絵画」が面白い。

・「色絵 Japan CUTE!」@出光美術館:江戸期の色絵磁器を中心に構成された展覧会で、鍋島、古九谷、柿右衛門、仁清、デルフトやマイセン迄、名品を堪能出来る。ファッション性溢れる色絵磁器の中でも、僕は古九谷が好きで、今回も驚くべきデザインの数々に驚嘆。本展を観ると、日本の美術は「デコラティヴ&ミニマル」の両輪の上に成り立って居るのだと、熟く思う。

束芋「ズンテントンチンシャン」@Gallery Kido Press:現代美術家束芋の、初の銅版画展。この奇妙な展覧会タイトルは口三味線の表現らしいが、そもそも本展の作品は朝日新聞に連載された吉田修一の小説、「国宝」の挿絵が元に為って居るらしい。作品中には文楽岡本太郎太陽の塔等も登場する。お値段もお手頃で、一寸欲しい作品も有った(笑)。

奈良美智「Drawings: 1988-2018 Last 30 years」@Kaikai Kiki Gallery:何と、村上隆奈良美智のレップと為る第1回展。高天井の壁面と透明ガラスのデスクに、膨大な数のドローイングがクロノロジカルに並べられる。その作品群は、奈良がそれこそ真のアーティストだと云う事を証明すると共に、特に初期作品の素晴らしさは、プロトタイプと為る前の初々しさを際立たせて居て、僕は感動すら覚えたのだが、然し小山さんの事を考えずには居られなかったのも事実…色々な意味で興味深い展覧会だ。

・住山洋「Sea of Tranquility」@Books & Sons:現代美術家杉本博司に師事し、長年ニューヨークで活動して来た写真家の展覧会。住山のソフトフォーカスな暖かい写真は、観る者を自然へと引き込む。フィルムケースを使った自作ピンホール・キャメラも展示される、作家の温もりを感じる本展、会場の「Books & Sons」も良い意味で日本らしくないスペースなので、是非一度訪れて頂きたい。

・「仁清と乾山ー京のやきものと絵画」@岡田美術館:久し振りに訪れた箱根岡田美術館では、仁清と乾山を中心に、琳派絵画や若冲迄も含めての展覧。が、驚いたのは最上階仏教美術の部屋に入った途端、見覚えの有る仁王像一対が眼に入った時だった。「嗚呼、此処に入ったのか!良かった」と、大変御世話に為った元のオーナーの事を感慨深く思い返して居たのだが、その2日後にまさかそのオーナー氏の逝去を某レストランで知らされるとは…美術品は時に人生の無常を予言する。

・鈴木康広「始まりの庭」@彫刻の森美術館:自然現象を巧みに活かした、現代美術&デザインの展覧会。水滴が彫刻に為り、彫刻の「上」は「下」に為り、メトロノームの音すらアートに為る。鈴木の或る意味ユーモラスな「軽さを測る天秤」や「空気の人」等は、自然とアートの関係性と親和性を改めて「楽しく」考えさせられた作品だった。

会田誠「Ground No Plan」@表参道ダイヤモンドビル:2年に1度開催される、大林財団の新しい助成プログラム「都市のヴィジョン」の第一回。現代美術家会田誠が考える都市・国土を、マルチ・メディウムで表現するが、正直アートの展覧会と云うよりは、アイディア展に近いと思う。

・Hernan Bas「Imsects from Abroad」@ペロタン東京:アメリカ人アーティスト、バスの作品中の人物は何処かエゴン・シーレを思わせるし、風景は例えばラファエル前派の作家ミレイの「オフィーリア」やモネの「睡蓮」を感じさせる…が、決して剽窃や模倣に留まって居る訳では無く、現代的頽廃感を上手く表現して居る作品だと思う。ちょっと欲しく為ったが、怖くて値段が聞けない(笑)。

・「日本陶磁協会賞受賞作家展ー和のこころ 愉しむうつわ」@和光ホール:日本陶磁協会賞を受賞した重松あゆみと伊藤慶二の作品を中心に、歴代の受賞作家43名と「現代陶芸奨励賞」の福井・富山展受賞作家6名に拠る展覧会。来年引退をする予定の楽吉左衛門の黒茶碗から、手頃な酒器迄「愉しむ」焼物が揃う。会場では先日「陶説」でインタビューをして頂いた事務局長のM氏にばったりお会いしたが、氏のハード・ワーク無くしてはこう云った陶磁協会の展覧会も実現しないに違いない。手元で楽しむ陶磁器を、もっと身近にしたいと云う想いを同じくする。


さて年を取ると必然的に多くなるのが、お世話に為った方々のお葬式やお別れ会…最近も、親戚筋の冨士屋ホテル最後の創業家からの総支配人山口祐司氏、また公私共に大変お世話になったサンモトヤマ会長の茂登山長市郎氏のお別れ会に参列。

特に96歳で大往生された茂登山氏は、本当に豪快な方で、僕がニューヨークから日本に出張に来ていた時、銀座界隈の道端でばったり会って仕舞ったりすると「こらっ!日本に来たら必ず連絡しろっ!」と笑顔で怒鳴られ、数え切れない位鰻や洋食をご馳走して頂いた。

僕みたいな風来坊的若造にも、分け隔て無くフランクに接して呉れた懐の大きさは、氏の180cmを超える体格と共に、多くの人々を暖かく包んで呉れて居たに違いない…偉大なる「ハクライ屋」茂登山氏のご冥福を、心からお祈り致します。


明日明後日は、毎年恒例の人間ドック…はてさてどうなる事やら。


PS:先程、ニューヨーク禅堂の嶋野老師が名古屋で客死されたとの連絡を受けた。老師のご冥福をお祈り致します。


ーお知らせー
*生活の友社刊「月刊アートコレクターズ」2月号(→http://www.tomosha.com/collectors/9235)にて、ショート・インタビューが掲載されて居ります。ご一読下さい。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

不感症、神の法、森、そして幻の女。

最近の僕は、風邪気味では有っても、僕独自の「インターステラー理論」の実践に因って、時の流れをゆっくりとさせ、周りを見渡す時間を作る事に専念する。

そして、その実践は仕事に於いても芸術鑑賞に於いても然り…と云う事で、今日は最近の体験芸術一覧。


ー舞台ー
・「Noh Climax」@セルリアンタワー能楽堂現代美術家杉本博司の企画・監修、亀井広忠演出・囃子作調の本舞台は、元来パリでの公演企画だったらしいが、そのパリの劇場の改修工事の延期に拠り、当公演が初演と為った謂わば能の「ダイジェスト・メドレー」。登場するシテ方観世流から坂口貴信(善知鳥)、谷本健吾(屋島)と鵜澤光(羽衣)、喜多流から大島輝久(舞働・祈)と大島衣恵(猩々乱)。さて場内に入ると、舞台の松羽目は斜めに置かれた杉本作の「松林図屏風」一双で隠され、舞台中央には面箱が1つ置かれる。開演すると、先ずは屏風裏からの「翁」の居囃子が謡われ、その後杉本氏が登場して本公演の説明と自身のコレクション中の各面の説明をする。「翁面」の原型とも云われる「父尉」は古様を呈し、鎌倉期と云われれば成る程と思える。またこの日は使われなかった「万媚」は、その名に相応しくかなり艶っぽい面で中々良い面だったが、「真蛇」は実際に「舞働」で観るとかなり大きく、所謂「般若」や「蛇」とは異なる作りで、「これは本当に能面か?」と思った程。そして舞台は、休憩を挟んでの3曲と2曲がダイジェスト・メドレーと為って居て、囃子方はその間休まず、シテだけが入れ替わると云う演出で新しい…これなら杉本氏の云う通り、「寝る客」も少ないだろう(笑)。また後半は「松林図屏風」が土佐派系の絵師進藤尚郁の金地「松図屏風」と変わり、それも一興だったが、女流能楽師が特に羽衣を舞うと興が削がれて仕舞ふ気がするのは、何故だろう?最初小鼓の音が全く出て居らず心配したが、亀井広忠師の流石の大鼓にリードされた囃子はテンポ良く、能の新しい流れを創り出したと感じた、素晴らしい公演だった。然し杉本氏のステイトメント、「No Climax=不感症」とはこれ如何に(笑)。

・「アンチゴーヌ」@新国立劇場小劇場:主演は蒼井優生瀬勝久、原作は古代ギリシャ三大悲劇詩人ソフォクレスの「テーバイ三作」の一である本作を翻案したジャン・アヌイ(ピーター・オトゥールリチャード・バートンの名作映画「ベケット」の原作者だ!)。舞台は劇場中央に十字架の形に造られ、セットも椅子2脚だけが置かれ、蓋をされた奈落が中央に在るだけのミニマルなモノ。そして2時間10分の休憩無しのこの作品は僕を全く飽きさせず、蒼井と生瀬の熱演が「『神の法』と『人間の法』の対立」と云うテーマを鮮明且つ重厚に浮き立たせて観客を引きずり込む、誠に素晴らしい舞台で有った。それにしても蒼井優と云う女優は、こう云った役が似合うし上手い…恐らく本人もこの役が大好きに違いない。栗山民也の演出も見処。

・「新春歌舞伎公演・昼の部」@新橋演舞場高麗屋三代の襲名を歌舞伎座で観た後は、正月恒例の「にらみ」を観る為に演舞場へ。先ずは獅童宙乗りを務める「天竺徳兵衛韓噺」…此方は見世物的な内容だが、飽きさせない。獅童は台詞廻しが相変わらずで少々残念だが、体調も戻った様で悦ばしい。さて本劇中、獅童が「ライザップ、ライザップ」と連呼して居て、その時は一体何の事か訳が分からなかったのだが、翌日偶々テレビを観て居たら、ライザップのコマーシャルに何と市川九團次が出て居るでは無いか!そして「嗚呼、この事だったか!」と得心…高島屋さん、結果にコミットしてました(笑)。続くは初春恒例、成田屋の「口上」&にらみ。睨んで貰って、今年一年の健康祈念する。最後は九世團十郎生誕百八十年記念の復活上演、新歌舞伎十八番内「鎌倉八幡宮静の法楽舞」。此方は海老蔵が7役を演じるのも話題だが、個人的見処は、それよりも河東節・常磐津・清元・竹本・長唄箏曲迄入った音楽で、「邦楽リミックス」的聞き応えが抜群だった。


ー映画ー
・「ノクターナル・アニマルズ」:傑作「シングルマン」でデビューした、ファッション・デザイナーでクリエイティヴ・ディレクターのトム・フォードの監督第2作で、第73回ヴェネチア国際映画祭審査員大賞作。原作はオースティン・ライトのミステリー、主演は僕の大好きなエイミー・アダムスとジェイク・ジレンホールで、かなり良く出来た心理サスペンスドラマだった。主人公が現代美術のディーラーなので、映画の冒頭では見た事の有る作家の作品が幾つも登場するが、彼女が企画した太った女をフィーチャーしたイヴェントは、恐らくはこれも僕の大好きな英国人アーティスト、ジェニー・サヴィルの作品がモティーフでは無いかと思う。然し、この作品に観るフォードの美意識は崇高で、これは「シングルマン」でもそうだったが、画面に映る家具の一点一点、小道具、カット割、照明、ファッション、ストーリー・テリング、その全てが張り詰めた極細の糸の様に洗練されて居る為、観る者は疲弊し怖くなる。が、それよりも恐ろしいのは「男の復讐心」で、これはゲイで有るフォードならではの視点かも知れない。皆さん、女に捨てられた男の復讐は本当に恐ろしいですよ…ご注意あそばせ(笑)。


ー展覧会ー
・特別展「仁和寺と御室派のみほとけー天平真言密教の名宝ー」@東博:最近の東博は気合が入って居て、運慶展に続くこの特別展も仏教美術の至宝で溢れる。僕はオープニングに行った為、今回の超目玉で有る葛井寺の「千手観音像坐像」は未だ観れて居ないのだが、素晴らしい作行の道明寺の十一面観世音立像や中山寺馬頭観音坐像、非常に変わった造りの神呪寺(然しスゴい名の寺だ…笑)の如意輪観音坐像、個人的に観たかった仁和寺蔵の垂迹美術の名宝「僧形八幡影向図」等、大名品揃いで眼福の極み。序でにこの日は、開幕式で超目利仏教美術商のT氏にバッタリ会い、一緒に歩いて話を伺いながら展覧会を拝見する事が出来た、眼も頭も大変勉強に為った至福の時間と為りました。必見の本展、千手観音像が出たらまた行かねば!

・「開館20周年記念展I 細見美術館の江戸絵画 はじまりは伊藤若冲」@細見美術館:京都に或る屏風を観に行った合間に拝見。ここ数年の若冲の大ブームは、当然プライス夫妻コレクションに拠る処が大きいのだが、当然日本にも若冲のコレクターは居て、その筆頭が細見美術館前館長の故細見実氏で有った。細見コレクション中の白眉若冲は、30代半ばから後半の作と思われる2作品で、それは未だ景和落款の「雪中雄鶏図」と「糸瓜群蟲図」で、両作品とも中国絵画の影響を強く受けた、謂わば「プレ動植綵絵」。その他にも押絵貼屏風や禅僧に拠る画賛作品、若演等の弟子筋の作品も多く展示され、筋目描きや外隈等の技法も解説される、楽しい展覧会だ。

・「墨と金ー狩野派の絵画ー」@根津美術館狩野派の絵画作品を「墨」と「金」をキーワードに見直す企画展。作品は雪舟や元信、山雪から探幽、久隅守景迄バラエティに富むが、見処は矢張り芸阿弥の重文「観瀑図」と伝元信「養蚕機織図屏風」か。「犬追物図屏風」は風俗画題の中でも、外国でポピュラーな画題だが、最近は動物虐待を連想させるからか、余り人気が無い(涙)。

・「マイク・ケリー展 デイ・イズ・ダーン」@ワタリウム美術館:57歳でこの世を去った、「裏ポップアーティスト」の展覧会。ケリーはマイノリティに対する差別やセックス、暴力等の社会的問題を時に可笑しく、時に皮肉タップリに作品を作った、ニューヨーク・タイムズに「過去25年間で最もアメリカ美術に影響を与えた芸術家の1人で、アメリカに於ける大衆文化と若者文化の代弁者」と評された、クレイジー・アーティスト。3フロアの会場にはビデオ作品、インスタレーション、コラージュ等の平面作品で溢れているので、時間をタップリ取って訪れたい。展覧会タイトル作の「Day is Done」はケリーが1日1つの映像を作り、1年間で365と為る筈だったマルチ・メディア作品なのだが、実際は31作品しか完成せず、然しその全てをこの展覧会で観る事が出来るので、必見…然しこの作品が2005年に発表されたのが、ロンドン・ガゴシアンだったと云う事に、僕は興味を惹かれる。個人的には初期作品の「エクトプラズム #1-#4」や「チキンダンス」が良かった。

上田義彦「Forest 印象と記憶 1989-2017」@Gallery 916:天井高も広さも凄い、上田氏自身がキュレートするこの素晴らしい環境のギャラリーも、ビル自体が取り壊される事と為った為、本展が最後の展覧会…余りに残念過ぎる。さてその最後を飾るのは、上田氏が28年間撮り続けたQuinault、屋久島、春日大社の「森」で、会場は東京の湾岸とは思えない程のマイナスイオンに充たされて居る。僕は嘗て、氏の屋久島の作品を観て、彼の地へと旅をした。そして其処の森で観た生命の息吹と力強さ、生と死と云う命の循環の尊さは、今でも僕の心の奥底に「忘れがちな宝物」として大切に仕舞って有るのだが、この展覧会は改めてその宝物の存在を再確認したくさせる。特に新作の春日大社の森は、僕の心に如何に「森」が必要かと問い掛ける…そう、心に「森」を持ち続ける事が肝要なのだ。


そんな中、或る音楽家から「以前観た日本画の内容が余りに美し過ぎて覚えて居るのだが、画題が思い出せない…知らないか?」との連絡が有った。

その内容は「男が梅の木の下で、花の美しさに感動して歌を詠むと、美しい女が現れて歌を詠み、其の内に2人は歌を交し、酒を飲み、契りを交わすが、いつの間にか寝て仕舞う。翌朝男が木の下で起きると、女は消えていて、それは花の精だった…」と云う。

僕は色々探してみたのだが、見付からないで居ると、彼から「分かった」と連絡が有った。それは信濃を舞台にした日本の怪談の一噺だったが、元はどうも中国唐代の詩人崔護の「人面桃花」らしい。


去年今日此門中     
人面桃花相映紅     
人面不知何處去     
桃花依舊笑春風     


愛のキューピッドとしても名高い、音楽家の彼らしいロマンティックな話だったが、気が付けば1月ももう終わり…節分がやって来る。然し今年は時間の経過が遅い。


ーお知らせー
*生活の友社刊「月刊アートコレクターズ」2月号(→http://www.tomosha.com/collectors/9235)にて、ショート・インタビューが掲載されて居ります。ご一読下さい。

*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

夢のあとに。

1月6日(土)
15:00 原美術館に行き、この日から始まった展覧会「現代美術に魅せられてー原俊夫による原美術館コレクション展」を観る。館のW女史に拠ると、本展は80歳を超えても尚お元気な原館長が、50年代以降集めた約1000点の収蔵品の中から、館長自らが作品選定・キュレーションをした展覧会との事。その前期にはロスコや李禹煥草間彌生の素晴らしいインスタレーション「自己消滅」や杉本博司の「仏の海」の一部屋等が展示され、見応え充分。国宝をも持つ古美術コレクターの家に生まれた館長が、自身の世代に自身の眼で集めた戦後・現代美術に「コレクターの眼」の真髄を感じられる、後期も待ち遠しい展覧会だ。

19:00 サントリーホールで行われた、テナー歌手ヨナス・カウフマンのコンサートへ。会場では茶道家元や美術史家の方々にもご挨拶したが、席には空席も。コンサートはオーケストラの演奏とカウフマンのアリアが交互に行われる形式で、少々間延び感が有った事を否めないが、カウフマンは歌う度に声も出て来て、流石に素晴らしい。そして「誰も寝てはならぬ」を歌い終えたカウフマンは、その後何と6曲のアンコールに応え、最後の数曲は僕も涙する程感動しました!

21:30 コンサート後は「A」で食事…季節の素材を生かしたイタリアンを堪能するが、特に食前に飲んだ「とちおとめ」のフレッシュ・ジュースが大変な美味で、一気にその日の疲れが吹っ飛ぶ。嗚呼、四季有る日本の料理は世界一だ。


1月7日(日)
11:00 別に出世を望んで居る訳でも無かったが、「出世の神様」と呼ばれる愛宕神社を参拝する。標高27.7mに在る、東京23区内では「最高峰の山」へと登る「出世の石段」は、下から見るとかなり急で、芸能界の人等はこれを駆け上ると出世すると云う謂れも有ると聞く。そして「大丈夫か、俺?」と不安を抱えつつも、勿論駆け上がるのは不可能で普通に歩いて登ったのだが、特に大きく息も切れず登り切れて一安心…俺、未だイケるわ(笑)。その後はオニの様に長い行列に並んで参拝を終え、御神籤を引くと何と大吉…コイツは春から縁起がええわえ!

19:30 六本木の蕎麦屋「H」での、某美術館学芸員T女史を顕彰する「T会」新年会に参加。今回のメンバーはT女史、大手アート・ディーラーO氏らの総勢6人。「H」は嘗てニューヨークのソーホーに在った時に良くお邪魔していた店で、個性的な店主さんが有名。楽しい面子で新年を言祝ぎました。

22:30 そしてこの晩は、実は新年会がもう1つ…と云う訳で、中目黒に移動。其処で待って居たのは、仲の良い現代美術家N氏とK氏、K氏マネージャーのA女史と建築家I氏。新年早々の良い知らせを皆に伝えると、大盛り上がりで寒さも吹き飛ぶ。今年は皆にも良い事が有ります様に!


1月8日(月:成人の日)
9:00 一体何時から成人の日は、1月15日では無くなって仕舞ったのだろうか?…連休だから、まぁいいけど(笑)。

16:30 母、弟夫妻と共に歌舞伎座へ向かい、高麗屋三代の襲名公演「壽初春大歌舞伎」夜の部を観る。今月の狂言は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場」、「口上」、「勧進帳」、そして「相生獅子・三人形」。最初の「角力場」は、或る意味非常にタイムリーな演し物だが(笑)、芝翫愛之助双方共上手く楽しめる。「口上」では左團次等が、高麗屋三代が通い、また僕の母校でも有る暁星小学校の級長の話を持ち出して、客席を沸かせる。新白鸚は級長だったらしいのだが、僕も万年副級長だったので、制服の肩に縫い付ける金糸の腕章を懐かしく思い出した。幕間には皆で上階の「K」でお弁当を頂く。お能もそうだが、歌舞伎も幕間が短か過ぎて満足に食事が出来ない…何とか為らない物か?が、「K」のお弁当は流石美味しく、偶々隣にの席には米国人日本文化研究者のR先生が居らして、新年のご挨拶も。幕間後の目玉の「勧進帳」は、新幸四郎の力が入り過ぎて居て、観る方もかなり疲れる。また弁慶の知的部分が見受けられ無かったのが、少々残念…何しろ幸四郎もこれから、これから。そんな中、余りにも立派な大播磨の冨樫と新染五郎の凛とした姿、芝翫愛之助の山伏は見応え充分で有った。最後の舞踊は、鴈治郎が口をほんの少し開けて踊るのが、何時も気に為って仕舞ったが、又五郎が抜群に上手かった。


1月9日(火)
9:00 朝イチから香港と電話会議。課題山積…今年も色々有るんだろうなぁ。

10:30 香港の上司とのサシの電話会議。プライヴェート・セールに関しては良いニュースが…コトヨロです。

12:00 現在某有名週刊誌で連載中の小説の主人公でも有るIT会社のCEO氏と、都内ホテルの天麩羅屋「Y」で会食。余りの多忙さに太られ、食後に数種類の薬を飲まれる氏を心配する…。が、それに付けても此処の天麩羅の美味さよ(笑)。

19:00 六本木「K」でディナー。K夫妻がやって居る古き良き上海のカフェ風の「K」の胡麻平麺は、余りに絶品で思わずお代わりをして仕舞ふ程。キャベツの海老味噌炒めやスペアリブも絶品で、堪らない。


1月10日(水)
12:00 銀座「N」で某美術館関係者とランチをし、或るプロジェクトに関して相談する。食事は何時ものハンバーグ・ランチ…相変わらず、旨し。


1月11日(木)
18:30 九段下の「M」で開かれたIT会社CEOのK氏が主宰する政経塾で、日本美術と日本文化に就いて、90分間講演する。聴講者は政財界や官僚等総勢40人で、「真の国際人とは、自国の文化を正確に外国人に伝えられる人の事」「美術品は文化交流大使」「伝統は革新の連続」等の話を熱心に聴いて頂く。その後はブッフェ形式の会食だったが、質問者に取り囲まれた為余り食べられなかったのが悔しい(涙)。


1月12日(金)
10:30 香港のプライヴェート・セールズ・マネジャーと電話会議。目下僕が手掛けて居る、3つのプロジェクトに関して話す。これ等が完結すれば、この世界での僕のキャリアも終わりに近付く気がする。

19:00 某出版社の方と原宿「M」で会食。実は僕はこの方に、25年程前にお会いして居たらしいのだが、全く覚えて居らず、恥ずかしい思いをする。白子の天麩羅や鴨の厚切り焼、マグロアボカド山かけを頂き、最後はせいろそばでシメ。将来何か仕事に為れば良いのだが…。


1月13日(土)
10:30 今日の午後、今年初めて伺う弓の先生にお渡しする為のお年賀を買いに、日本橋三越へ。地下鉄で行ってみると、開店2分前だったが、地下入り口の前には凄い数の人が。入って見ると、先着順にチューリップの無料プレゼントをして居たので、納得…時間が有れば僕も並んだのに!お年賀には、たねやのお菓子を買う。

13:00 今年初めての弓のお稽古。暫くサボって居たので身体も言う事を聞かず、構えもキツく、直ぐに股関節が痛く為る。その上ただで寒い弓道場なのに、シングル・ディジットの気温の中長袖のシャツを忘れた為の半袖の道着、袴の下は股引も履か無かった為、足袋を履いた足も感覚が無く為る程に寒い。そして清廉な空気の中、久し振りに巻藁に居る弓は時に落ち、構えはぶれ、儘為らない…然し、この歳で物事を習うと云うのは、何と素晴らしい事なのだろう!

17:00 弓道場を後にし、電車を乗り継いで、青山のカフェ「T」へ。此処ではパリ在住フォトグラファーのS氏から、世界のファッション業界四方山話を聞く。この「T」には初めて来たのだが、流石「和」の店らしいメニューが並んで居たので、僕は餡入りココアを選び、冷え切った身体を温める。嗚呼、ブルータスの「あんこ好き。」特集が懐かしい(→拙ダイアリー:「『アート』より『あんこ』」参照)。

21:00 家に戻り、もう何度目かも分からない程大好きな川端の「眠れる美女」を読みながら、フレデリカ・フォン・シュターデフォーレ名歌曲集を聴く。僕はフォーレの「夢のあとに」が大好きなのだが、この「夢のあとに」はパリ音楽院でのフォーレの同僚、ロマン・ビュシーヌの詩に曲を付けた作品。ビュシーヌの詩も素晴らしいのだが、それにも況してフォーレの曲がこの上なく美しく、儚い…そう「人の夢」と書いて「儚い」と読むのだ。


夢は醒めない方が良いかも知れないが、人の夢は醒める…儚さの美しさを知る為に。そして再び夢を見続ける…醒めない夢に出会う為に。


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「過ぎ去った青春の残り香」の力。

12月26日(火)
12:00 某ホテルの寿司店「K」で、母と従姉妹の娘(これを「従姉妹半」と呼ぶのか?)とランチ。相変わらず光物から注文を始めるが、海胆の段に為ると、板さんが今日はバフンウニとムラサキウニが有ると云う。バフンウニは「馬糞海胆」と書く様に、当然見た目が「馬糞」に似ている為の呼び名だが、この馬糞と云う名称を変える動きが有ると云う。馬糞海胆を「赤海胆」、紫海胆を「白海胆」と呼ぶ方向らしいが、これは例えば東京神田の由緒有る地名がドンドン減り、「東西南北」を頭に付けたりして単に分かり易くする為だけの土地名変更に酷似して居る。全く世の中「由来」とか「情緒」とか、「歴史」を何だと心得ているのだろう?


12月27日(水)
10:00 二代に渡ってお付き合いの有る歯科医院で、今年最後の歯のチェック。この歯科医院は、嘗てふと気が付くと皇族のメンバーや政治家、或いは古典芸能の役者等の顔が見えた、知る人ぞ知る歯医者さん。数年前に残念ながらご逝去されたこの歯科医院の先代は稀に見る美男子で、一緒に神楽坂の石畳を歩いて居ると、何処からとも無く粋で鯔背な女性達が出て来て、「あらセンセ、今日はウチに寄って呉れないんですか?」と聞かれる事数限り無かった事が思い出される。当代の若先生が僕と年が近く、共通の友人も多くて、気安い。此処なら嫌な歯のクリーニングも、我慢出来様モノだ。

11:30 部屋の大掃除。元来掃除好きの僕だが、この部屋を1人でやるのはかなり大変…然し部屋に対する7月以来の感謝を込めて、頑張る。

16:00 青山の「誰もして居ない時計」店に向かい、予々欲しくて仕方の無かったセイコー1973年作の腕時計を購入する。この時計はLEDが開発された直後に出された、「グランド・セイコー」の上を行く高級ラインのシリーズのモノで、ブルーのグラデーションのバックにシンプルで品の有る文字盤、漢字に拠る曜日と数字の日付、赤の点滅ライト、そしてまるでダイヤモンドの様に美しく斜めにカットされたガラス…何て品の有る、レトロな、美しい、そして「誰もして居ない時計」なのだろう!購入後、暫く店のオーナーD氏とギークに就て語らい、店を後にする…嗚呼、至福!

18:00 僕が毎年歌舞伎町のおばあちゃん中華「玉蘭(ギョクラン)」で開催して居る、若手アート系忘年会「玉蘭(タマラン)会」の準備の為に店へ。今回幹事的に手伝って呉れる能研究者のR君、同僚のCさん等が集まり、席順等を決める。今年は何と45人の出席者が見込まれて居て、過去最多人数。某大物アーティストや文化官僚も来場する…どうなる事やら。

19:00 「タマラン会」がスタート…が、7時からだと告知しても流石のアート系、時間通りに来る者など殆ど居ない(笑)。三々五々集まって来たのは、アーティストやギャラリスト、建築家、キュレーターや研究者、古典芸能者、ミュージシャン、美術メディア迄、もうグシャグシャだが個性派揃い。そして大物現代美術家S氏の乾杯の音頭で始まった会は、酒池肉林(肉林、は無い:笑)の様相を呈しながらも大盛り上がりでした!おばあちゃんも元気で良かった!

22:30 有志でカラオケの2次会に繰り出すと、人数が多くて全員入る部屋が空いておらず、2部屋に分かれて入り、行ったり来たりするが、何と隣の部屋にS氏のグループが来て居て、結局20名以上が経過カラオケに来た事に為る…好きだなぁ、皆(笑)。が、その3部屋は同じ店舗内、客も元同じグループだったにも関わらず、全く異なる世界を呈して居て、一部屋は「昭和歌謡」部屋、一部屋は「イマドキ・カラオケ」、そしてもう一部屋は「全く歌を歌わず、食って語る」部屋で有った(笑)。

27:00 やっと解散…皆さん、今年もお疲れ様でした!


12月29日(金)
20:00 最近知り合った音楽家と、代官山「A」でディナー。クラシックのみならず、ジャニーズやロック・ミュージシャンのコンサート・ツアーでも弾くと云う彼女は、小柄だが恐ろしい食欲の持ち主で、次々と料理を平らげる。食後は下のクレープ屋でデザート。嗚呼、良く食べた〜。


12月30日(土)
12:00 代官山「O」に向かい、お正月用に注文して有ったビーフシチューやホタテのマリネ、カレー等をピックアップする。ムッシュからお土産に頂いた「牛肉の佃煮」が超嬉しい。今年もお世話になりました!

14:00 今晩の「歌会」に一緒に行く友人チェリストと青山で待ち合わせ、「B」で2種類のガレットをシェアしての遅いランチを頂く。音楽のみならず数多の話で盛り上がり、結局6時近く迄話して仕舞う。

18:00 また腹が減って来たので、「歌会前に、サクッと」と云う事で蕎麦屋「K」に行くが満席。仕方無く隣の焼肉「M」へ行くと、7時迄なら大丈夫だと云うので、45分間のタイムリミットで食べ始めるが、恐らく日本でも指折りの早食いで有る我らには没問題(モウマンタイ)で、確りと満腹感を得る(笑)。

19:30 チェリストと、現代美術家S氏主宰の歌会@箕輪「S」へ。毎年恒例のこの「アートVS建築」歌合戦は、S氏をリーダーとする「アートチーム」とI氏をリーダーとする「建築家チーム」が、この店の衣装室でコスプレをし、有名編集者T氏の司会の下で昭和歌謡カラオケバトルを繰り広げると云う、もうとても世界的にその道で名の知れた人達とは思えない(笑)、50人に垂んとする芸達者オンパレードの大宴会で有る。さて我ら「アート・チーム」にはリーダーS氏の他、サザンを歌うイケメン画伯Y氏や作風と真逆なブルーハーツを必ず歌うアーティストS氏、百恵ちゃんを歌った小説家Aさん、そしてコレクターやギャラリストが各々コスプレをしての熱唱。そんな中僕は長髪のヅラとサングラスを付け、井上陽水の名曲「傘がない」の替え歌「金がない・江之浦バージョン」(笑)を、S氏のカッコいいバック・コーラスと共に歌う…ウケました!最後の全員参加コーナーは、アートチームはお揃いのTシャツを着ての「いい湯だな」、建築チームは「マツケンサンバ」ならぬ「ケンチクサンバ」でシメ。いやー、この会も毎年パワーアップして行くのが凄い…そう、「過ぎ去った青春の残り香」の力は侮れないのだ(笑)。


12月31日(日)
12:00 実家に昨日取って来たシチュー等を届け、母と年越し讃岐饂飩を食べる。その後、自宅で正月に使うお茶碗を選定…悩んだ末に結局黄伊羅保にし、持ち帰る。

17:00 家に戻り、久し振りに黄伊羅保で一服。この茶碗は少し歪んで居る所が魅力で、抹茶の緑が映える。こう云う時の一服は限りなく美味しい。

21:00 鐘撞きをする為に訪ねて来た友人と、年越し蕎麦を食べようと決めるが、何処に出掛けて良いか分からないので、結局「どん兵衛」にする。然し日本のカップ麺のクオリティは高く、出汁が美味い。

23:30 谷中の禅堂に行き、除夜の鐘を撞く。H住職にもご挨拶するが、少々お太りに為られたか。今年は余りに色々有り過ぎたので、特に死や別離、散財の気を煩悩と共に葬り去る。


1月1日(月)
0:00 謹賀新年。


今年もこのトウキョウ・アート・ダイアリー、何卒宜しくお願い奉りまする。


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

大嫌いなクリスマスと「誰もして居ない時計」店。

12月16日(土)
16:00 某美術館地下のショップ店内をブラブラ見て歩いて居たら、片隅に何やら変わった時計が並んで居るケースが有った。「あれ、前からこんなの売ってたかな?」と思いつつ眺めて居ると、店主らしき人が出て来て云うには、今考えれば謂わば「キワモノ」的な70年代位からの日本の腕時計だけを探して、売って居るらしい。云われて見れば、確かに計算機にしか見えない時計やどう見てもダイヤル電話にしか見えないモノ、録音機能の有る初代「ゴースト・バスターズ」達がした時計や、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクがして居たストップウォッチ時計等、風変わりな、今でこそ一点モノの時計が並び、然しそれらは「金さえ出せば誰でも買える時計」とは一線を画した、余りにも魅惑的な「探さなければ買えない、誰もして居ない時計」なのだった!うぅ、欲し過ぎる!

18:00 音楽をやって居る友人と、「Glenn Gould Gathering curated by Ryuichi Sakamoto」@草月ホール。このイヴェントはカナダ建国150年、且つ50歳の若さで急逝したご存知20世紀の異才クラシック・ピアニストで有るグレン・グールドの生誕85周年を記念し、グールドの芸術を坂本教授が「リモデル」する試みだ。コンサートの他にトーク・セッションや展覧会も有ったが、時間の関係で僕はこの日のコンサートだけに参加。さて僕とグールドの出会いは、在り来たりの極みみたいだがバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」で、グールドの死の直前に録音された、若い頃の演奏とは正反対の非常にゆっくりとしたプレイに大感動し、彼の或る意味パンク的な思想と演奏に痺れたモノだ。その後かなり経って、大好きな映画「イングリッシュ・ペイシシェント」の中で、従軍看護婦ジュリエット・ビノシュが爆撃され廃墟と為った教会の壊れたピアノで弾いた曲が「ゴールドベルグ」だった事と、「羊たちの沈黙」でのレクター博士のピアノ、はたまた大切な友人からグールドの2枚の「ゴールドベルグ」がセットに為ったCDをバースデー・プレゼントされた事が切っ掛けで、再びグールド熱が再燃したのだった。僕に取っては杉本博司氏の朗読劇「肉声」以来の草月ホールは満員御礼だったが、ロビーで「桂屋さん!」と声を掛けられたので振り向くと、其処にはつい先日「情熱大陸」で取り上げられたイケメン作曲家のH氏が…が、未だ番組を観れて居らず、恐縮しながら挨拶する(汗)。公演が始まると、スクリーンには高谷史郎の映像(これが又素晴らしい)が流れ、先ずは教授のアルバム「async」からの曲、そしてカールステン・ニコライ(SA)、クリスチャン・フェネス(G)、キャロリン・ケンブルグ(V)、そして注目すべきピアニスト、フランチェスコ・トリスターノも競演で観客を魅了した。特に彼のピアノはクラシック・ジャズ・テクノの三面体的センスを持つアーティストならではのモノで、今回のバッハ&グールドの「リモデル」には最適と思われる、素晴らしい演奏だった!終演後はこれまたロビーで、前日ペロタンのレセプションで紹介された神の手マッサージャーのTさんにバッタリ。これもご縁と翌日の予約状況を聞いてみると、何とバッチリ空いて居たので、直様お願いする…嬉しさ倍増のコンサートと為ったのでした。

20:30 コンサート後は、行き付けのレストラン「A」でディナー。相変わらず美味スグル「白子のフリット」や「蟹のワカモレ」、「みる貝のココット」や「マグロのうなじ」等を頂く。素晴らしい芸術後の素晴らしい料理は、この上ない歓び。


12月17日(日)
15:00 友人に誘われて、某アイドル事務所のオフ会へ。僕は今迄半世紀強の人生を生きて来ても、こう云ったイヴェントに参加した事が皆無…なので、或る種の「恐怖感」と「場違い感」満載でこの会に行ったのだが、20歳前後の5人の女性タレント達と事務所の人が僕等を持て成すオフ会は何とも家族的で、来て居たファンの人達も恐らくは20代から50代迄位の当然男子だけだった訳だが、彼等は僕が想像して居た様なオタクだらけでも無く、仕事帰りのサラリーマン風の人も居たりして、アイドルさん達と皆で和気藹々とバーベキューを楽しむ事が出来た。序でに、僕が人生で1度しか当たった事の無いビンゴゲーム大会で何とビンゴして仕舞い、景品をアイドルさんから頂く羽目に為り嬉しいやら恥ずかしいやらだったが、「いやぁ、世の中未だ未だ知らない世界が色々有るものだなぁ…」と感慨深く会場を後にした。

19:30 麹町に向かい、前夜教授のコンサートで偶然会ったTさんのマッサージを受ける。タイ古式マッサージを基にしたTさんのマッサージは、親愛なるアーティストK氏やAさんも受けて居て、若しかしたら出雲神が付いて居るのでは?と勘ぐる程神掛かって上手い。イタ気持ち良い整体で、身体が伸びました!


12月18日(月)
11:30 今週一杯でオフィスはクローズなので、香港のプライヴェート・セールズ・マネージャーと、今年最後の電話ミーティング。来年こそ実現させたい、大きなプロジェクト2つに就いて話す。

18:00 再び例の「誰もして居ない時計」店に赴き、Sonyがその昔電子ペーパーを使って作った、ボタンを押す度に文字盤もベルトもデザインが刻一刻と変化するヤツと、アナログ電話ダイヤルを「117」と廻すと、何とその時間の「時報」が流れて現在の時刻を教えて呉れる、時間を知るのにひと手間もふた手間も掛かる明和電機作の腕時計の2点を滔々購入。さぁて、誰に自慢しよっかなー⁉

19:00 渋谷の「L」で、中学の同級生でチェリストのFと、その後輩の美人チェリストとの忘年会。彼女はクラシックのみならず、ポップス畑でも演奏すると云うパワフルな方で、とても書けない音楽業界裏話等、皆で喋り捲りの楽しい一夜と為りました。


12月19日(火)
15:00 某美術館長と打ち合わせ。今年は大変お世話になりました!此方の美術館に入った作品を、来年展示会場で観る事を楽しみに年を越そう。

19:30 麻布十番の熊本料理店「A」で、毎年恒例の男4人忘年会。今年は友人が急逝された為、残念ながらジャズ評論家O氏が欠席だったので、作家H氏と写真家S氏との3人会。馬刺しや辛子蓮根等を摘みながら、最近ハリウッドやアート界で騒がれて居るセクハラ問題に就いて話す。セクハラを肯定する気等毛頭無いが、此処まで表沙汰に為ると各芸術界の大物がかなりの割合で葬り去られて仕舞うのでは無いかとも思う。これも誤解の無い様に気を付けねば為らないが、セクハラと同意の上での行為の境界線、或いは「英雄色を好む」の格言通り、女好きで無い偉大な芸術家がどれほど居るのか?と云う疑問も有る。然し「時代の流れ」と云うモノが有る以上、今後益々摘発される大芸術家の数は増えるに違いない…大丈夫か、世界の藝術界?


12月20日(水)
12:00 都内某ホテル内の料亭で、美術館学芸員とランチ。久し振りの鯛茶を楽しみながら、日本美術界の近況を聞く。

18:00 此方も某ホテルのラウンジで、23日の朝日カルチャーでの「北斎ジャポニズム」に関するレクチャーの打ち合わせを、共催する国立西洋美術館の川瀬主任研究員と。川瀬氏はプライヴェートでもお付き合いの有る、ニューヨーク時代からの尊敬する友人…僕より遥かに話の上手い川瀬氏との対談形式レクチャー、乞うご期待です!

19:00 友人と西麻布「C」でディナー…此処に来るとデザートを食べ過ぎるのが難だが、季節の素材の料理と苺のデザート「カルメン」(アルコール抜き)に舌鼓を打つ。

21:00 帰るすがらふと思いつき、ミッドタウンのイルミネーションを友人と観る。クリスマス頃は大変な混雑なのだろうが、この日は未だ人も疎らで、中々清々しく美しい。余りの人の多さに辟易するので、日頃イルミネーション等決して観に行かないのだが、偶々訪れたこのミッドタウンのイルミネーションは立体的で観る場所に拠っても見え方がかなり異なるので、インスタレーションとして見応えが有ると思うし、さぞやインスタ映えするのだろう。


12月21日(木)
11:00 某画廊に日本美術作品を査定に行く。この作品は嘗て僕が入社したての頃に良く知った顧客オークションで落としたモノで、状態は昔から全く変わって居らず、見覚えが有ると同時に懐かしい逸品だ。プライヴェート・セールの契約を取る。

12:30 天現寺の和食店「S」で、某氏とランチ。「S」は久し振りだったが、相変わらず超美味しく、ランチはかなりのお得感有り。掘り炬燵の茶室に設えられた軸や香合も「ホンモノ」で、オーナーNさんの趣味の良さと気配りが分かる。ご馳走様でした!

17:00 新幹線に飛び乗って熱海に向かい、最終目的地の湯河原に在る高級温泉旅館「S」へ。この「S」では、現代美術家杉本博司氏の内外のファンと関係者10名程が集まってディナーと宿泊をし、翌早朝「S」から皆で小田原に出来た氏の財団「江之浦測候所」にバス等で移動し、年に一度冬至の日の出光でしか見れない「冬至光遥拝隧道」のアートを観る、と云う企画だ。「S」に着いてみると、アメリカ人投資家や顔見知りの某米美術館館長、日本人アーティストご夫妻等が居らっしゃる。僕はと云うと、食事前にひとっ風呂浴びようと露天風呂に入って居ると、外国人2人が入って来たので、日本の風呂の作法を教えて進ぜる。そして長湯出来ない彼らが去って暫くすると、目の前の柿の木をハクビシンがスルスルと登って行き、何と柿を食べ始めたのだが、目近に見るその様子が面白くて、お陰でつい長湯をして仕舞う。ディナーも流石に美味しくて、色々とアートの話で盛り上がったが、1番ウケたのは、藤田セールもビッドしたと云う香港在住の投資家が教えて呉たポリティカル・ジョーク(→https://9gag.com/gag/axj4W4D/i-said-lunch-not-launch-d)で、もう全員笑い死寸前の大爆笑だった。

22:30 そんな楽しい夜も、翌朝を考えて解散し就寝…の筈が、僕が今抱えて居る仕事に関して、散々メールを送らねば為らなくなり、結局寝たのは1時半過ぎ。大丈夫か、俺?


12月22日(金・冬至
4:30 決死の思いで起床し、出発準備。

6:00 車中から見る海には、雲が厚く垂れ込め、不安が過ぎる。そうして居るうちに江之浦測候所に到着、日の出迄皆で測候所内の施設を見て回るが、水平線の雲は消えない。

6:48 冬至の日の出時間に為るが、水平線の雲は残念ながら消えず…気候は風も無く、暖かくて悪くなかったので、残りの日の出光を楽しむ事に専心。

8:30 江之浦測候所を後にし、根府川から帰京。曇っても良い一晩でした。

10:30 数日前に「芸術家のセクハラ」に就て一緒に語ったばかりの作家H氏からのメールで、デュトワがセクハラで訴えられたとのニューヨーク・タイムズの記事を知る。その時、この間N響を指揮した「オール・ラヴェル・プログラム」が素晴らしかったと皆に話したばかりだったので、驚くと共に残念過ぎるが、仕方ない。ボストンやニューヨークでのデュトワの演奏会は既にキャンセルされた様だから、この間の演奏が彼の日本最後の指揮に為って仕舞うかも知れない。素晴らしい指揮者だけに悲し過ぎる。その上、あの素晴らしいラヴェルの演奏をテレビ収録して居たにも関わらず、放映も中止になったらしい。何も逮捕された訳でも無いし、有罪判決が出た訳でも無いのに、あの素晴らし過ぎる演奏をオクラ入りさせるなんて、余りにも勿体無い…NHKは、気小さ過ぎ。

13:00 今日は東京オフィスの今年最終営業日。オフィスに行って、皆に今年最後の挨拶。とかして居たら、某所からとんでもなく良い話の電話が掛かって来て、驚愕する…オイオイ、今年最後の営業日にこれか?「来年はかなり良い年に為るのでは?」と、取らぬ狸の皮算用的に期待して仕舞ふ。

19:00 来日中のニューヨークの元同僚と、代官山「A」で今年最後のディナー。「平目のパイ包み」や「鯖とモッツァレラ」、「ラムチョップ」等相変わらずパンチーで繊細な料理を堪能。Kシェフ、今年も大変お世話になりなりました!


12月23日(土・天皇誕生日
12:30 朝日カルチャーセンター新宿に向かい、西美の川瀬氏と落ち合い、講座の最終打ち合わせ。お互いのパワーポイントや構成を再確認。モデレーターは僕がやる事と為ったが、川瀬氏の話術に期待したい。

13:00 30名以上集まって頂いたレクチャーがスタート。川瀬氏の「日本+スペイン=フランス」的ジャポニズムのお話は非常に面白い角度からの見方で、僕が持って居た、恐らくは受講者の皆さんも思って居た、従来のジャポニズム理解の道筋を更新して呉れました。受講して頂いた皆様、川瀬さん、3種の栗のお菓子の詰め合わせを差し入れをして下さったNekoniko様(物凄く美味しかったです!)、本当に有難うございました。来年も宜しくお願い致します!

15:00 某美術誌に拠る、浮世絵のインターナショナル・マーケットに関するインタビューを受ける。

16:30 自宅に帰る最中、最近或る事でお願い事をして居た某美術館学芸員のH氏からメールが入り、何と僕が偶に行く神保町のベルギー・ビール・バー「B」で飲んで居ると云う。未だ夕方前なのに、で有る(笑)。余りのタイミングの良さにいそいそと「B」へ行ってみると、この日の「B」は何と居酒屋化して居て、店長は割烹着を着て女将さんに為って居るし、カウンターにはおでんと煮込みの鍋が!この雰囲気に呑まれ、2時間後にはディナーの予定が有ったのにも関わらず、おでんや煮込みを突きながら、H氏と歓談…と云いたい所だが結構重い話に為り、が故にお互いに共感を深めたひと時と為った。

19:00 最近僕が気に入って居る銀座の薬膳豚鍋屋「Y」で、ニューヨークの友人に紹介されたダンサーと食事。コンテンポラリー・ダンスやバレエ、舞踏の話等で盛り上がる。


12月24日(土:クリスマス・イヴ)
15:00 NHKホールに向かい、クリストフ・エッシェンバッハ指揮&N響「第九」を聴く。エッシェンバッハは「カラヤンの隠し子」とも噂される同性愛者の鬼才で、元ピアニスト。独特な解釈と感情的な指揮者との噂だったが、僕が初めて聞いた限りでは、エモーショナルでは有るが落ち着いた指揮で、中々の演奏だった。然し「第九」と云うのは本当に不思議な曲で、この曲が始まると僕は徐に今年を振り返り始め、第3楽章で失った人や物を想い、第4楽章のカタルシスでこの1年間の嫌な事、穢れを全て洗い流し昇華させる…そして今年余りにも色々な物を失った僕は落涙を止める事が出来ず、僕から去って行った人やモノへのレクイエムとして、が、何よりも自分が今生きて此処に居る事への感謝の歌としての「第九」を、感動を持って経験したのだった。終演後は、今日も舞台上に居たF君に挨拶。そしてNHKホールを出ると、其処にはクリスマス・イルミネーションの点灯を待ちわびる鬼の様な数の人が!そしてその殆どはカップルで、然もイチャイチャ、いっちゃいちゃ…だからクリスマスなんて大嫌いなんだ!(怒)

18:00 西麻布「A」で、音楽会に一緒に行った友人とディナー。クリスマスの日は、誰が何と云っても和食に限る…そうでしょ、サンタさん?


12月25日(月)
13:30 仲の良い骨董屋さんT氏を訪ね、年末の挨拶。昔からの仲間は、何時も気が置けなくてホッとする。

14:00 会社的には先週末でもう仕事納めなのだが、某古美術店で極秘超重要秘密会議。これが上手く行くと、僕の将来の回想録の重要なチャプターと為るに違いない(笑)。重要な仕事程、時と人の縁で動く。それら全てが揃ったタイミングが最も重要。

15:30 今年も大変お世話になった老舗古美術商を訪ね、ご挨拶。琳派の軸の掛かった床を見ながら、垂涎の黒茶碗でお抹茶を頂く。この店のご主人も今年は公私共に色々大変だった筈なので、お互いに言葉を交わさずとも、心から相手の来年の健勝を祈る。美しく素晴らしい来歴の半筒型の茶碗が、今年一年色々有り過ぎてかなり草臥れた僕の掌と心を、ジンワリと暖めて呉れました。


そんなこんなで、今年もあと1週間…そして皆様、

🎄メリー・クリスマス🎄


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第五回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「インターステラー理論」を実践する。

12月4日(月)
19:00 友人と久々の中華「K」へ。Kさんご夫妻もお元気そうで安心しながら、相変わらず超美味しい「胡麻麺」や「蒸し豚薬膳ソース」等を堪能する。帰り掛けには、この冬から着て居る軽くて暖かいヨウジ・ヤマモトのフード付きコートを褒められ、照れる…僕が服の事で他人様に褒められる事等、人生に於いて殆ど無いし、Kさんはその昔有名ファッションブランド「B」に居た人だから。

20:30 食後は甘い物でも食べて帰ろうと、西麻布「C」へ行きケーキ(当然モンブランだ!)を注文して居ると、隣の席に客が来たのでふと見ると、何とイケメン古美術商のT氏。今後「甘いモン」の場所を変えねば…ここはもう危険だ(笑)。


12月5日(火)
15:00 久し振りにワタリウムに向かい、石巻男鹿半島での展示も結局観れ無かった「リボーンアート・フェスティバル東京展」を観る。現地の展示とは勿論違うだろうが、それでも見応え十分の展覧会で、特にカオス・ラウンジのVR作品「地球をしばらく止めてくれ、僕はゆっくり映画をみたい」に驚く…あの「憑依感」は独特で、エンターテイメント性十分。観覧後は館長姉弟とお茶をし、歓談。最近のアート・マーケットやダ・ヴィンチの「救世主」に就いて等話す。


12月6日(水)
9:00 3ヶ月毎の定期健診+血液検査。実は僕は知る人ぞ知る「検査フェチ」で、血を抜かれる時の快感や、気の小ささを紛らわす為の「検査結果待ち」期間が何とも堪らない(笑)。一週間後、検査結果に一喜一憂するのが待ち遠しい…。

19:00 若い友人とサントリーホールに向かい、ワレリー・ゲルギエフ指揮・マリインスキー歌劇場管弦楽団庄司紗矢香のコンサートを堪能。ゲルギエフはNY時代から何度聴いても素晴らしく、個人的には現存するコンダクターでは随一だと思う。インターミッションでは、バーで現代美術家S氏とバッタリ会い、一緒に居た超童顔の友人を見たS氏に「あれ、今日はお孫さん連れ?」と言われてショックを受けるが(笑)、マリインスキーは流石に鍛えられた弦と菅での透徹で力強いベルリオーズ幻想交響曲」、そして庄司紗矢香の方は、非常に難しく体力を使うショスタコーヴィチの大名作「ヴァイオリン協奏曲 第1番」を熱演し、大満足の一夜と為った。

21:00 コンサート後は、その孫的友人と老舗イタリアン・レストラン「C」でディナー。此処は僕が未だ学生の頃、ガキが決して足を踏み入れられない「オトナの店」として有名で、人生の先輩達に連れられて店のドアを開けると、例えば篠山紀信加賀まりこが入り口付近の椅子に陣取り、睨みを利かせて居たりした恐ろしい店。そんな若かりし時代の或る日、思いっ切り背伸びをして女の子を連れてこの「C」に来て、メインより前菜を多く食べた方が安上がりだろうと高を括り、前菜を沢山頼んだ結果、支払い時にチェックを見て卒倒しそうに為り、その後2ヶ月間大貧民生活を余儀なくされた…と云う過去を思い出したので、前菜は程々に、そしてバランス良くデザート迄頂く。

23:00 その友人が以前から美味しいと云って居た「しっとりおいしいイタリアの栗」を一袋持って来て呉れたので、家に帰って早速食べてみると、これがまた最高にウマい!真空パックされた剥き栗はほんのり甘くて柔らかく、確かに「しっとりおいしい」…早速オトナ買いオーダーして仕舞ったワタクシ。


12月7日(木)
9:00 ルーブルアブダビが自館のインスタグラムで、ウチが売った「ダ・ヴィンチ『救世主』がやって来る」と発表したのを知る(→https://www.instagram.com/louvreabudhabi/)…そうだったのか⁉︎これで尚更アブダビに行かねばならない…僕が売った大名品日本美術品を観る為にも。

17:00 今年大変お世話に為った茶の湯者と某美術館長との3人で、今年を締め括るお茶をする。茶の湯者の茶室に入ると、床には「救世主」の代わりに(笑)相客館長のお名前の一字を含んだ季節の横物の二字墨跡が掛けられて居て、「館長はこれを『号』とすべきだ!」と盛り上がる。そして各々激動の1年を振り返りながらの、アジの凄い高麗茶碗と和物茶碗で頂くお茶は格別だったが、今年本当に色々有った僕には師走独特の少々感傷的な茶と為った。その後は近くの中華「S」に向かい、乾杯後、カリカリと香ばしい北京ダックやモチモチ餃子、トマト炒飯からシメのプルプル杏仁豆腐迄を堪能。このメンバーでの「忘年茶」ならば、本当はもうひと方居る筈だったのだが、その方の噂話もかなり出たので、今頃クシャミどころか大風邪を引いて居るのでは無かろうか(笑)。今年の僕は或る意味常に茶の心と有り、それもこれもこの方々のお陰…感謝の気持ちで一杯です。


12月8日(金)
11:00 オフィスで今プライヴェート・セールとして手掛けている、各々200点近い2つの日本美術コレクションの作品リスト作り。アシスタントの女性スタッフのHさんとUさんのフル・サポートに感謝。

15:00 作品調査と価格設定の為に家に戻り、作業続行。そうこうして居ると、某有名コレクターから久し振りにメールが来たので、読んでみると何とコレクション売却の相談で吃驚…コレクターの世代交代を実感する。家の書庫とリヴィングを行ったり来たりしながらの仕事中の僕には弛めのBGMが必須で、この日はメゾ・ソプラノ、フレデリカ・フォン・シュターデの「フォーレ歌曲集」(僕は「夢のあとで」を愛して止まない)や、最近入手した「グレン・グールド 坂本龍一セレクション バッハ編」(16日のコンサートが楽しみスグル)、大橋トリオ「Blue」等。


12月9日(土)
13:00 某美術館を訪ねる為、箱根へ…かなり寒くて震えるが、綺麗な空気と自然に癒されながら、登山鉄道から眺める景色を楽しむ。その帰り、電車の時間迄散策した箱根湯本の駅前商店街で見つけた「焼きモンブラン」を買って食べてみると、これが恐ろしく美味い!パリパリの外見に、マロンが1つゴロリと入って、甘さも控え目…箱根湯本に行ったら、隣の店の「小田原ドック」と共に必食だ!


12月10日(日)
18:00 ニューヨークから帰国中の友人と、再びゲルギエフ+マリインスキーの今回の日本最終公演を聴く為にサントリー・ホールへ。この晩のゲスト・プレイヤーは第11回チャイコフスキー・コンクールの覇者、デニス・マツーエフ、演目は「オール・ラフマニノフ・プログラム」で、ピアノ・コンチェルト3番&4番、そして「交響的舞曲」で有る。会場に着くと、恐らくは外務省関係の背広組の姿が多く、ピアニストの松田華音さん、最近連続してクラシックコンサートで会うT大のI先生やH先生の顔も見える。開演前にはロシア大使館の外交官と政治家らしき日本人が舞台上で挨拶したが、その演説が長くてウンザリ…僕は「音楽」を聴きに来たのだから、能書きは要らない。そして始まった音楽会は、相変わらずマリインスキーの弦と菅は素晴らしく、マツーエフの演奏も完璧なのだが、彼のピアノには何故か最後迄共感出来なかった…完璧過ぎたのだろうのか?

21:00 広尾のイタ飯屋「A」でディナー。席に通されると、隣の席から「桂屋さん!」との声が。えっ?と思い振り返ると、其処には日本よりもヨーロッパで会う機会の多い古美術商のK氏の顔が!1週間に2度も行きつけの店の隣席で、然も今迄何年もこれだけ通って居ても、唯の一度も仕事関係の人に会わなかったのに、危険過ぎるでは無いか(何が?…笑)。此処でもモンブラン・パイを頂く。


12月11日(月)
10:00 オフィスで今年の総括ミーティング。今年のクリスティーズは、手前味噌だが云って仕舞えば「ダ・ヴィンチ」と「藤田美術館」に尽きる。会社の業績がこれだけ良いのだから、来年のボーナスが楽しみだ…が、古人曰く「取らぬ狸の皮算用」と。

12:30 VIPコレクターと、都内ホテルの天麩羅屋で年末のご挨拶ディナー。今年も大変お世話になりました。食後は何時もの甘味処「T」で、きな粉安倍川餅を頂く。

15:00 安藤忠雄事務所に5年務めたニューヨークの友人と、3度目の安藤忠雄展@国立新美術館へ。会場は相変わらず超満員だったが、矢張り大建築家の側に居た人の解説は貴重で、裏話を含めて大変勉強に為る。そんな裏表を含めても、安藤忠雄とは日本人としては稀なるタフでスケールの大きい人物だと思うし、家を建てるなら僕が今最も依頼したい建築家だ。ウチの社主フランソワ・ピノーの、パリのプロジェクト完成が待ち遠しい。

19:00 ここ何年か仲の良いYさんが独立して銀座に店を構えたので、お祝いのしゃぶしゃぶディナー。未だ30を出た所なのに、その実力に脱帽。店に飾るアートの相談を受ける。


12月12日(火)
19:00 友人とCharのコンサート@六本木EXシアター。年齢層が高く、Charのオヤジギャグも全開。だが、ギターだけは未だ凄い。その後は西麻布「H」で創作イタリアン夕食…ブラッタチーズと苺の組み合わせに悶絶する。

23:00 先週の血液検査の結果が、担当医からメールで届く。見ると総コレステロールが、上限を少し超えて居る以外は満点で、これでまた食えると安心する…が、「上限を超えて良いのは、オークション・エスティメイトだけだ」と職業的に反省する(笑)。


12月13日(水)
7:30 頑張って早起きし、新幹線で京都へ。愈々大学客員教授としてのスタート…緊張するなぁ。

10:30 大学前にひと仕事。初めてお会いする某収集家を訪ねて作品を拝見するが、最後に或る絵画が出て来て吃驚…非常に重要な作品で、興奮を抑えるのに必死。

13:00 京都造形芸術大学に向かい、初授業2コマ。去年のAO入試で会った学生達との再会を喜びながら、用意したパワーポイントで早速授業開始。あれから1年半…彼等は成長し、僕は年を取る。光陰矢の如し。

18:00 長年お世話に為って居る、浮世絵商のYさんご夫妻とディナー。京都の冬と云えば「コッペ(コウバコ)蟹」…いやぁマジ美味いっす!その他ぐじや百合根饅頭、海老芋揚げ等を堪能…冬の京都の食はネ申だ。

21:00 Y氏とY氏行きつけの、曰く「熟女キャバ・カラオケバー」(笑)へ。大塚博堂松山千春等を久し振りに歌うが、カラオケ自体久々だったので余り調子が出ない。「涙をふいて」と「熱き心に」…偶に聞くといい曲だなぁ。


12月14日(木)
11:00 嘗て同僚だったZと、久し振りに会ってランチ。Zはご両親は中国人だが、本人は日本で生まれ育ったトリ・リンガルな才女で、墨絵を描くアーティスト。彼女は今日本に戻って来て居るのだが、後で京都の大学で教鞭を取って居られるZのお母様もジョインすると云うので楽しみ倍増。そのZのお母様は、会ってみると一目で分かる程知的且つオープンマインドな素晴らしい方で、映画や音楽、芸術全般を心から愛する者同士の共感を得て、話が弾む。そんなお母様は、僕が偶々食後に頼んで居たマロンシャンティ風モンブランを見ると、やっぱり!と仰る…僕の栗好きもご存じだったのには驚いたが、然し良い意味で「この母にして、この子有り」を体感した、嬉しくも心温まる出会いでした。

13:00 昨晩ディナーを御馳走になった、Y氏の新門前通のお店で学生達と待ち合わせをし、版画や肉筆の体験授業。これは僕の企画なのだが、やはり美術品は実物を見ねば分からないので、これからアーティストに為る人は、必ず「ホンモノ」を沢山観るべきだと思う…と云う理由で、Y氏のご厚意に拠り浮世絵の摺りの順番や版木、メディアとしての浮世絵を実物を見たり触ったりしながら学べる彼等は幸せ者だ!最後には自分が1番好きだった作品を皆の前で発表しその理由を述べる、と云う内容で1限目は終了。

15:00 2限目は新門前から縄手に移動し、別の古美術店での講義。此処でも店主Y氏のご厚意に拠り、屏風や茶碗、漆作品を見せて頂く…のだが、用意された屏風が17世紀と思われる、プロが観ても驚く中々良いモノで、思わず学生達を押し退けたく為るが(笑)、此処は授業と云う事で必死に我慢。そしてお茶碗の方は、桃山の某美濃焼を学生達に1人ずつ実際に触って貰う。学生達は丁度2ヶ月程前に自分達で楽焼茶碗を造って居たので、その意味でも茶碗に触れる彼等の眼や手は真剣そのもの…Y氏も「無理矢理キズを探す骨董屋でも、此処迄真剣に見いへんな〜」と笑う程だった。各々触れた後に感想を聞くと、自分の作った茶碗との高台や釉薬の違い、口辺の作りの素晴らしさ等を机を挟んで座る僕に熱く語る学生達に、僕の心も熱くなった。お二人のYさん、本当に有難う御座いました!

17:30 そのY氏と祇園「T」で、おばんざいディナー。此処でもコッペ蟹や河豚唐揚げ、自家製カラスミや蕪蒸し等、京の冬味を堪能…もう、京都ラブとしか云えない。

20:00 新幹線で帰京。車中、和多利月子編著「明治の男子は、星の数ほど夢を見たーオスマン帝国皇帝のアートディレクター 山田寅次郎」を読み始める。以前僕も登壇させて頂いた「山田寅次郎研究会」を開催する、ワタリウムの和多利月子さんの新著だが、彼女の祖父で有る山田宗遍流家元の数奇でアドヴェンチャラスな生涯は、何度読んでも面白い。


12月15日(金)
10:30 オフィスに行くと、開店祝いをしたお礼にYさんからお菓子が届いて居て、開けて見ると中津川の和菓子店「S」の栗のお菓子!栗餡が葛に包まれて居て、この上なく美味いっ!流石Yさんのお見立てと感心する。

11:00 来月僕がインタビュー記事に登場する「陶説」の、原稿校正。取材の折に撮影して貰った写真の中にかなり気に入った写真が有ったので、編集主幹のM氏に欲しいと言ったら頂けるとの事。遺影に使って欲しい位、気に入ってます(笑)。

13:00 重要顧客と、今手掛けて居る某コレクションのプロモート・ミーティング。決まると良いなぁ。

18:00 六本木のギャルリー・ペロタンで始まった、アーティスト加藤泉の版画展のレセプションへ。小品から大作迄、加藤の新たなる試みへの情熱が見える作品ばかり。加藤氏も荒谷さんもお元気そうだったが、その体調を支える神の手マッサージ師の方をパーティー中に紹介される。僕も早くお願いしたい!

19:00 会社の忘年会@「S」。「S」はここひと月で4回位来て居るので、目新しくはないが、コースには入って居ない美味い料理を追加注文する役目を仰せ付かる。皆さん、一年お疲れ様でした。


僕が勝手に、僕と誕生日が一緒のクリストファー・ノーランに敬意を表して「インターステラー理論」と呼んで居るのだが、若い人や今迄会った事の無い人と会ったり、今迄した事の無い事を経験したりすると、自分の老化を鈍化・遅延させる事が出来る、と信じて居る。

此処の所それを意識して実践中な訳だが、人生54年目の年も後2週間…大嫌いなクリスマスがそろそろとやって来る。


ーお知らせー

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/6bd74df6-bb02-1d16-5bf1-59fafec5021f

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

体験藝術覚書。

ー展覧会ー
・「Aomori Printトリエンナーレ2017」審査会:「棟方志功国際版画大賞」の審査員を仰せ遣い、雪降る青森に向かう。今回の応募作は凡そ170点で、技法も木版・エッチング・リト・インクジェット・エングレーヴィング等様々、テーマも古典的な物から現代的な物迄揃い、レヴェルも中々に高い。審査員は僕の他に青森県美の高橋さん、京都市芸大の大西先生、都現美の近藤さんと日本版画協会理事長の磯見氏の計5人。2日間に渡り審査し、結局僕イチオシの少々過激なテーマの大型木版作品は優秀賞に入賞したが、個人的に物凄く欲しい一作(笑)。1つ面白かったのは、地元の高校生に圧倒的人気の有った作品がどれも入賞しなかった事で、「世代間ギャップが有るのかな?」と首を捻ったが、審査後の彼等へのレクチャーの際にその事を確認出来ず、残念。入賞・入選作品の展示は、青森県美で2月3日から。

・「Here and Beyond この現実のむこうに」@国際芸術センター青森:雪が積もり、より美しく佇む安藤忠雄建築の国際芸術センター青森で開催中の、「アーティスト・イン・レジデンス2017秋」。日本、中国、インド、シンガポール、フランスからの5組の参加アーティストに拠る展示だ。ボイス的、或いはもの派的作品にも思えるが、特に本山ゆかりの「デジタル・ドローイング」に惹かれる。

・市村しげの「相対的関係/Relative Relation」@Sh Art Project:ニューヨーク在住の現代美術家市村の新作展。アクリル粘土を丸め、今迄の作品の様にドットを配した、見方に拠っては例えば心電図の様にも見える新作群が新鮮。同世代なのに、新しい展開を生み出す作家の情熱に脱帽。

上田義彦「林檎の木」@Tomio Koyama Gallery:生命、特に「木」に愛着を示す写真家上田の新作展。印画紙の白と、8X10で撮ったにも関わらずミニマイズした美しい「林檎の木」とのコントラストが美しい。

・藤本由紀夫「Stars」@Shugo Arts:ランダムな音を「描く」藤本作品は、その欠落したオルゴールの音と紡がれるイメージの蓄積が心を揺さぶる。本作は18本の音の連作アートだが、2本位なら家に欲しいと切に思う程音が美しく、それと同時にデュシャン、ケージ、そしてシェーンベルグの芸術をも追体験出来る。

・「小野田實」@タカ・イシイギャラリー:「具体」の第三世代で有る小野田の、初期から晩年迄の作品で構成される展覧会。胡粉とボンドで起伏を持ったキャンバスに描かれた円は、時にフラジャイルで草間の作品の様にも見えるが、有機的に思える…自身が「繁殖絵画」と呼んだのも宜なるかな


ー音楽会ー
・益田正洋&川瀬佑介「スペイン!ギターと絵画の交わるところ:スペインは何故アルハンブラを想い出したのか?」@北とぴあ・つつじホール:ジュリアード時代からの友人クラシック・ギタリスト益田正洋と、国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介のコラボ企画。この企画コンサートに行くのは2回目だが、益田君の素晴らしい演奏と、川瀬氏の軽妙且つタメに為るお話は相変わらず楽しい。今揺れているカタルーニャや、嘗て訪れたグラナダコルドバ、或いはセビーリャに想いを馳せる、心温まるコンサートだった。

辻井伸行「音楽と絵画コンサート」@オーチャードホール:前半は辻井本人の曲、後半はクラシックのピアノ曲を、モニターに映る写真や印象派の名作絵画で彩る企画のコンサート。個人的にはモニターに映る印象派等要らないが、自作曲「ロックフェラーの天使の羽」は12歳時の作曲と云うから、矢張り辻井の才能は凄い。そしてラヴェルの2曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「水の戯れ」が、何よりも素晴らしかった…ラヴェルの曲は、運指の都合や曲調が辻井に非常に合って居る様に思う。

小菅優「Four Elements Vol.1:Water」@オペラシティ・コンサートホール:顧客から勧められて、初めて聴いたピアニスト。確りとした固い演奏だったが、最後の一音から指を離す際の残音が、何時も気に為って仕舞う。「水の戯れ」は辻井の演奏の方が柔らかく僕好みだったが、武満の「Rain Tree Sketch I&II」は繊細且つ大胆で惚れる。

・ピエール・ロラン・エマール(P)、シャルル・デュトワ(C)、NHK交響楽団「オール・ラヴェル・プログラム」@NHKホール:この音楽会は如何なるコンサートでも今年1番と云っても良い位の、素晴らしい演奏会だった!何しろデュトワN響の信頼関係が素晴らしく、お互いにリスペクトして居るのが演奏からヒシヒシと感じられる…こんな空気を感じる事は中々無い。その上ラヴェルデュトワ/エマールの仏軍とN響の相性もバッチリで、特に今晩のエマールの神がかった「左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調」は、とても左手一本で演奏したとは思えない恐るべきパフォーマンスで、僕は今日のこの演奏を一生忘れないと思う。そしてクラシックのコンサートではでは余り感じる事の無い、愉悦極まりない「グルーヴ」に乗って迎えた最終曲「ボレロ」では、そのフィナーレを迎えるともうNHKホール全体が揺れ、ステージも客席も歓喜の拍手と興奮の笑顔に包まれたのだった!終演後、この日ステージ上でチェロを弾いて居た中学の同級生Fと会うと、彼も興奮の面持ちで「最高だった!」と僕に語り、エマールとデュトワへの賛辞を惜しまなかった。そう、こんな凄い演奏を聞いた僕は本当にラッキーだったし、そして僕はやっぱりラヴェルを心底愛して居るのだ。


ー舞台ー
・「スーパー歌舞伎II ワンピース」@新橋演舞場:個人的にはかなり苦手な新作歌舞伎だが、本作は違い、ハッキリ云ってかなり良かった!普段歌舞伎座では見掛けないタイプの、大勢の女性客で満員の演舞場は、猿之助不在でも右近の頑張りで活気に満ち、「ワンピース」を全く知らない僕ですら楽しめた(劇中若い友人に、登場人物の相関関係等を教えて貰ったりしたが)演出も良く出来て居る。カーテンコールでは猿之助や「ゆず」のカッコイイ方も登場し、後ろの席でもう何回も観に来て居ると声高に話す、所謂「追っかけ」客達も大興奮で、此処迄コアなファンが多いと拍手が起こるタイミングも皆一緒で、何処か「ロッキー・ホラー・ショウ」的楽しみも有るのだろう。また観てみたい。

・「二十周年記念公演 第九回三響会」@観世能楽堂能楽大鼓葛野流宗家亀井広忠、歌舞伎囃子田中流宗家田中傳左衛門、歌舞伎囃子方田中傳次郎の三兄弟の、第9回公演。猿之助負傷の為、当初予定されて居た演目の変更も有ったが、こちらも普段能楽堂では見掛けない観客で満員。正直能舞台で鳴物を見るのは、未だ違和感が有るのだが、然しこの日の「船弁慶」等は、演出も良く考えられて居たと思う。観世喜正師の謡は朗々として居て、何度聞いても素晴らしい。

・「Fantasia: 1st season」@浅草ロック座:来日して居るニューヨークの友人夫妻に誘われ、数十年振りの浅草ロック座へ。僕がNY最後の晩に一緒に飲んだ友人の音響エンジニアが、その晩連れて居た女の子がダンサーとは聞いて居たが、何と彼女はストリッパーで、然しバレエ・ダンサーとしては「ローザンヌ国際バレエコンクール」のセミ・ファイナリストだと云うからスゴい。若い女の子の観客も見掛けた客席は清潔、そしてそのダンサーの彼女も含めた5人で鑑賞した7つのステージは、「全部見せて居るのに、チラリズム」を感じさせる、「ムーラン・ルージュ」「クレイジー・ホース」的な内容で、ショウとしてのレヴェルがかなり高く飽きない。その点エロさは足りないのかも知れないが、ダンサー達の鍛えられた肉体は美しく、公演後紹介された芸大出の若い演出家や、「土蜘蛛」並みのリボン投げのプロ(投げた後、伸び切った時点で巻き戻すテクニックがスゴい!)、一度は食べてみたい500円のエビピラフやカレーも出すバーカウンターで黙々と働く綺麗な女の子、システムを教えてくれたお礼に外国人観光客に通訳して上げた受付の若い男迄、昭和感の残る看板のロゴマーク等、ロック座は絶対にもう一度行きたい!と思わせるショウワ・ジャパンな場所だ!然しハマったらどうしよう…(笑)。


ー番外ー
・茶室「雨聴天」茶室披@小田原文化財団「江之浦測候所」:現代美術家杉本博司氏20年来の夢が叶った、複合文化施設「江之浦測候所」…其処に建つ待庵写の茶室「雨聴天」の席披きにお呼ばれ。杉本氏の大事なイヴェント時には荒天が定石だが、この日は信じられない位の晴天で吃驚する。が、良く考えれば茶室名「雨聴天」とは、雨の日にトタン屋根に当たる雨音を愉しむ事が故なのだから、この日こそ雨が降らねばならなかったのでは無いか(笑)…何ともお天気の神様は気紛れだ。それはさて置き、抜ける様な青空の下、紅葉の中根津美術館旧蔵の「明月門」を通り、元興寺法隆寺の礎石に歴史を眺め、まるでタオルミーナ風の鏡の様な海を臨みながら、五右衛門風呂にピッタリな焚火野点席での杉本氏自らの白湯手前を頂いた後、僕の親戚筋でも有る奈良屋旧蔵の門を潜り、愈々「雨聴天」へ。この日の相客は有名料亭の若女将と有力古美術商で、杉本氏と小柳氏、そして点前をする千宗屋氏に拠ると、最も気楽な席との事で安心。躙口から床を見ると、某所に在るモノと違わない墨跡、茶碗風格の黒楽、そして武将の茶杓に眼を見張る建水…ー嘗て祖先が戦の中、秀吉の為に茶を点てたこの場所で、400年の歳月を経て濃茶を練る若宗匠はさぞ感慨一入だったろうと思うが、客の我々もその感慨を共有し、素晴らしいお茶を頂いた。そう、この「江之浦測候所」は巨大なタイムマシンで有り、日本文化の墳墓と未来で有り、日本人の記憶細胞が鏤められた祭壇なので有る。


気が付けば12月…命短し、恋せよ男。


追伸:先程、能楽太鼓方観世流宗家後嗣の観世元伯師が亡くなったとの報を受けました。元伯師は気さくで、気高く且つパワフルな演奏の出来る素晴らしい囃子方でした。然し51歳とは若過ぎます…残念でなりません。心よりご冥福をお祈り致します。


ーお知らせー

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/6bd74df6-bb02-1d16-5bf1-59fafec5021f

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。