大嫌いなクリスマスと「誰もして居ない時計」店。

12月16日(土)
16:00 某美術館地下のショップ店内をブラブラ見て歩いて居たら、片隅に何やら変わった時計が並んで居るケースが有った。「あれ、前からこんなの売ってたかな?」と思いつつ眺めて居ると、店主らしき人が出て来て云うには、今考えれば謂わば「キワモノ」的な70年代位からの日本の腕時計だけを探して、売って居るらしい。云われて見れば、確かに計算機にしか見えない時計やどう見てもダイヤル電話にしか見えないモノ、録音機能の有る初代「ゴースト・バスターズ」達がした時計や、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクがして居たストップウォッチ時計等、風変わりな、今でこそ一点モノの時計が並び、然しそれらは「金さえ出せば誰でも買える時計」とは一線を画した、余りにも魅惑的な「探さなければ買えない、誰もして居ない時計」なのだった!うぅ、欲し過ぎる!

18:00 音楽をやって居る友人と、「Glenn Gould Gathering curated by Ryuichi Sakamoto」@草月ホール。このイヴェントはカナダ建国150年、且つ50歳の若さで急逝したご存知20世紀の異才クラシック・ピアニストで有るグレン・グールドの生誕85周年を記念し、グールドの芸術を坂本教授が「リモデル」する試みだ。コンサートの他にトーク・セッションや展覧会も有ったが、時間の関係で僕はこの日のコンサートだけに参加。さて僕とグールドの出会いは、在り来たりの極みみたいだがバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」で、グールドの死の直前に録音された、若い頃の演奏とは正反対の非常にゆっくりとしたプレイに大感動し、彼の或る意味パンク的な思想と演奏に痺れたモノだ。その後かなり経って、大好きな映画「イングリッシュ・ペイシシェント」の中で、従軍看護婦ジュリエット・ビノシュが爆撃され廃墟と為った教会の壊れたピアノで弾いた曲が「ゴールドベルグ」だった事と、「羊たちの沈黙」でのレクター博士のピアノ、はたまた大切な友人からグールドの2枚の「ゴールドベルグ」がセットに為ったCDをバースデー・プレゼントされた事が切っ掛けで、再びグールド熱が再燃したのだった。僕に取っては杉本博司氏の朗読劇「肉声」以来の草月ホールは満員御礼だったが、ロビーで「桂屋さん!」と声を掛けられたので振り向くと、其処にはつい先日「情熱大陸」で取り上げられたイケメン作曲家のH氏が…が、未だ番組を観れて居らず、恐縮しながら挨拶する(汗)。公演が始まると、スクリーンには高谷史郎の映像(これが又素晴らしい)が流れ、先ずは教授のアルバム「async」からの曲、そしてカールステン・ニコライ(SA)、クリスチャン・フェネス(G)、キャロリン・ケンブルグ(V)、そして注目すべきピアニスト、フランチェスコ・トリスターノも競演で観客を魅了した。特に彼のピアノはクラシック・ジャズ・テクノの三面体的センスを持つアーティストならではのモノで、今回のバッハ&グールドの「リモデル」には最適と思われる、素晴らしい演奏だった!終演後はこれまたロビーで、前日ペロタンのレセプションで紹介された神の手マッサージャーのTさんにバッタリ。これもご縁と翌日の予約状況を聞いてみると、何とバッチリ空いて居たので、直様お願いする…嬉しさ倍増のコンサートと為ったのでした。

20:30 コンサート後は、行き付けのレストラン「A」でディナー。相変わらず美味スグル「白子のフリット」や「蟹のワカモレ」、「みる貝のココット」や「マグロのうなじ」等を頂く。素晴らしい芸術後の素晴らしい料理は、この上ない歓び。


12月17日(日)
15:00 友人に誘われて、某アイドル事務所のオフ会へ。僕は今迄半世紀強の人生を生きて来ても、こう云ったイヴェントに参加した事が皆無…なので、或る種の「恐怖感」と「場違い感」満載でこの会に行ったのだが、20歳前後の5人の女性タレント達と事務所の人が僕等を持て成すオフ会は何とも家族的で、来て居たファンの人達も恐らくは20代から50代迄位の当然男子だけだった訳だが、彼等は僕が想像して居た様なオタクだらけでも無く、仕事帰りのサラリーマン風の人も居たりして、アイドルさん達と皆で和気藹々とバーベキューを楽しむ事が出来た。序でに、僕が人生で1度しか当たった事の無いビンゴゲーム大会で何とビンゴして仕舞い、景品をアイドルさんから頂く羽目に為り嬉しいやら恥ずかしいやらだったが、「いやぁ、世の中未だ未だ知らない世界が色々有るものだなぁ…」と感慨深く会場を後にした。

19:30 麹町に向かい、前夜教授のコンサートで偶然会ったTさんのマッサージを受ける。タイ古式マッサージを基にしたTさんのマッサージは、親愛なるアーティストK氏やAさんも受けて居て、若しかしたら出雲神が付いて居るのでは?と勘ぐる程神掛かって上手い。イタ気持ち良い整体で、身体が伸びました!


12月18日(月)
11:30 今週一杯でオフィスはクローズなので、香港のプライヴェート・セールズ・マネージャーと、今年最後の電話ミーティング。来年こそ実現させたい、大きなプロジェクト2つに就いて話す。

18:00 再び例の「誰もして居ない時計」店に赴き、Sonyがその昔電子ペーパーを使って作った、ボタンを押す度に文字盤もベルトもデザインが刻一刻と変化するヤツと、アナログ電話ダイヤルを「117」と廻すと、何とその時間の「時報」が流れて現在の時刻を教えて呉れる、時間を知るのにひと手間もふた手間も掛かる明和電機作の腕時計の2点を滔々購入。さぁて、誰に自慢しよっかなー⁉

19:00 渋谷の「L」で、中学の同級生でチェリストのFと、その後輩の美人チェリストとの忘年会。彼女はクラシックのみならず、ポップス畑でも演奏すると云うパワフルな方で、とても書けない音楽業界裏話等、皆で喋り捲りの楽しい一夜と為りました。


12月19日(火)
15:00 某美術館長と打ち合わせ。今年は大変お世話になりました!此方の美術館に入った作品を、来年展示会場で観る事を楽しみに年を越そう。

19:30 麻布十番の熊本料理店「A」で、毎年恒例の男4人忘年会。今年は友人が急逝された為、残念ながらジャズ評論家O氏が欠席だったので、作家H氏と写真家S氏との3人会。馬刺しや辛子蓮根等を摘みながら、最近ハリウッドやアート界で騒がれて居るセクハラ問題に就いて話す。セクハラを肯定する気等毛頭無いが、此処まで表沙汰に為ると各芸術界の大物がかなりの割合で葬り去られて仕舞うのでは無いかとも思う。これも誤解の無い様に気を付けねば為らないが、セクハラと同意の上での行為の境界線、或いは「英雄色を好む」の格言通り、女好きで無い偉大な芸術家がどれほど居るのか?と云う疑問も有る。然し「時代の流れ」と云うモノが有る以上、今後益々摘発される大芸術家の数は増えるに違いない…大丈夫か、世界の藝術界?


12月20日(水)
12:00 都内某ホテル内の料亭で、美術館学芸員とランチ。久し振りの鯛茶を楽しみながら、日本美術界の近況を聞く。

18:00 此方も某ホテルのラウンジで、23日の朝日カルチャーでの「北斎ジャポニズム」に関するレクチャーの打ち合わせを、共催する国立西洋美術館の川瀬主任研究員と。川瀬氏はプライヴェートでもお付き合いの有る、ニューヨーク時代からの尊敬する友人…僕より遥かに話の上手い川瀬氏との対談形式レクチャー、乞うご期待です!

19:00 友人と西麻布「C」でディナー…此処に来るとデザートを食べ過ぎるのが難だが、季節の素材の料理と苺のデザート「カルメン」(アルコール抜き)に舌鼓を打つ。

21:00 帰るすがらふと思いつき、ミッドタウンのイルミネーションを友人と観る。クリスマス頃は大変な混雑なのだろうが、この日は未だ人も疎らで、中々清々しく美しい。余りの人の多さに辟易するので、日頃イルミネーション等決して観に行かないのだが、偶々訪れたこのミッドタウンのイルミネーションは立体的で観る場所に拠っても見え方がかなり異なるので、インスタレーションとして見応えが有ると思うし、さぞやインスタ映えするのだろう。


12月21日(木)
11:00 某画廊に日本美術作品を査定に行く。この作品は嘗て僕が入社したての頃に良く知った顧客オークションで落としたモノで、状態は昔から全く変わって居らず、見覚えが有ると同時に懐かしい逸品だ。プライヴェート・セールの契約を取る。

12:30 天現寺の和食店「S」で、某氏とランチ。「S」は久し振りだったが、相変わらず超美味しく、ランチはかなりのお得感有り。掘り炬燵の茶室に設えられた軸や香合も「ホンモノ」で、オーナーNさんの趣味の良さと気配りが分かる。ご馳走様でした!

17:00 新幹線に飛び乗って熱海に向かい、最終目的地の湯河原に在る高級温泉旅館「S」へ。この「S」では、現代美術家杉本博司氏の内外のファンと関係者10名程が集まってディナーと宿泊をし、翌早朝「S」から皆で小田原に出来た氏の財団「江之浦測候所」にバス等で移動し、年に一度冬至の日の出光でしか見れない「冬至光遥拝隧道」のアートを観る、と云う企画だ。「S」に着いてみると、アメリカ人投資家や顔見知りの某米美術館館長、日本人アーティストご夫妻等が居らっしゃる。僕はと云うと、食事前にひとっ風呂浴びようと露天風呂に入って居ると、外国人2人が入って来たので、日本の風呂の作法を教えて進ぜる。そして長湯出来ない彼らが去って暫くすると、目の前の柿の木をハクビシンがスルスルと登って行き、何と柿を食べ始めたのだが、目近に見るその様子が面白くて、お陰でつい長湯をして仕舞う。ディナーも流石に美味しくて、色々とアートの話で盛り上がったが、1番ウケたのは、藤田セールもビッドしたと云う香港在住の投資家が教えて呉たポリティカル・ジョーク(→https://9gag.com/gag/axj4W4D/i-said-lunch-not-launch-d)で、もう全員笑い死寸前の大爆笑だった。

22:30 そんな楽しい夜も、翌朝を考えて解散し就寝…の筈が、僕が今抱えて居る仕事に関して、散々メールを送らねば為らなくなり、結局寝たのは1時半過ぎ。大丈夫か、俺?


12月22日(金・冬至
4:30 決死の思いで起床し、出発準備。

6:00 車中から見る海には、雲が厚く垂れ込め、不安が過ぎる。そうして居るうちに江之浦測候所に到着、日の出迄皆で測候所内の施設を見て回るが、水平線の雲は消えない。

6:48 冬至の日の出時間に為るが、水平線の雲は残念ながら消えず…気候は風も無く、暖かくて悪くなかったので、残りの日の出光を楽しむ事に専心。

8:30 江之浦測候所を後にし、根府川から帰京。曇っても良い一晩でした。

10:30 数日前に「芸術家のセクハラ」に就て一緒に語ったばかりの作家H氏からのメールで、デュトワがセクハラで訴えられたとのニューヨーク・タイムズの記事を知る。その時、この間N響を指揮した「オール・ラヴェル・プログラム」が素晴らしかったと皆に話したばかりだったので、驚くと共に残念過ぎるが、仕方ない。ボストンやニューヨークでのデュトワの演奏会は既にキャンセルされた様だから、この間の演奏が彼の日本最後の指揮に為って仕舞うかも知れない。素晴らしい指揮者だけに悲し過ぎる。その上、あの素晴らしいラヴェルの演奏をテレビ収録して居たにも関わらず、放映も中止になったらしい。何も逮捕された訳でも無いし、有罪判決が出た訳でも無いのに、あの素晴らし過ぎる演奏をオクラ入りさせるなんて、余りにも勿体無い…NHKは、気小さ過ぎ。

13:00 今日は東京オフィスの今年最終営業日。オフィスに行って、皆に今年最後の挨拶。とかして居たら、某所からとんでもなく良い話の電話が掛かって来て、驚愕する…オイオイ、今年最後の営業日にこれか?「来年はかなり良い年に為るのでは?」と、取らぬ狸の皮算用的に期待して仕舞ふ。

19:00 来日中のニューヨークの元同僚と、代官山「A」で今年最後のディナー。「平目のパイ包み」や「鯖とモッツァレラ」、「ラムチョップ」等相変わらずパンチーで繊細な料理を堪能。Kシェフ、今年も大変お世話になりなりました!


12月23日(土・天皇誕生日
12:30 朝日カルチャーセンター新宿に向かい、西美の川瀬氏と落ち合い、講座の最終打ち合わせ。お互いのパワーポイントや構成を再確認。モデレーターは僕がやる事と為ったが、川瀬氏の話術に期待したい。

13:00 30名以上集まって頂いたレクチャーがスタート。川瀬氏の「日本+スペイン=フランス」的ジャポニズムのお話は非常に面白い角度からの見方で、僕が持って居た、恐らくは受講者の皆さんも思って居た、従来のジャポニズム理解の道筋を更新して呉れました。受講して頂いた皆様、川瀬さん、3種の栗のお菓子の詰め合わせを差し入れをして下さったNekoniko様(物凄く美味しかったです!)、本当に有難うございました。来年も宜しくお願い致します!

15:00 某美術誌に拠る、浮世絵のインターナショナル・マーケットに関するインタビューを受ける。

16:30 自宅に帰る最中、最近或る事でお願い事をして居た某美術館学芸員のH氏からメールが入り、何と僕が偶に行く神保町のベルギー・ビール・バー「B」で飲んで居ると云う。未だ夕方前なのに、で有る(笑)。余りのタイミングの良さにいそいそと「B」へ行ってみると、この日の「B」は何と居酒屋化して居て、店長は割烹着を着て女将さんに為って居るし、カウンターにはおでんと煮込みの鍋が!この雰囲気に呑まれ、2時間後にはディナーの予定が有ったのにも関わらず、おでんや煮込みを突きながら、H氏と歓談…と云いたい所だが結構重い話に為り、が故にお互いに共感を深めたひと時と為った。

19:00 最近僕が気に入って居る銀座の薬膳豚鍋屋「Y」で、ニューヨークの友人に紹介されたダンサーと食事。コンテンポラリー・ダンスやバレエ、舞踏の話等で盛り上がる。


12月24日(土:クリスマス・イヴ)
15:00 NHKホールに向かい、クリストフ・エッシェンバッハ指揮&N響「第九」を聴く。エッシェンバッハは「カラヤンの隠し子」とも噂される同性愛者の鬼才で、元ピアニスト。独特な解釈と感情的な指揮者との噂だったが、僕が初めて聞いた限りでは、エモーショナルでは有るが落ち着いた指揮で、中々の演奏だった。然し「第九」と云うのは本当に不思議な曲で、この曲が始まると僕は徐に今年を振り返り始め、第3楽章で失った人や物を想い、第4楽章のカタルシスでこの1年間の嫌な事、穢れを全て洗い流し昇華させる…そして今年余りにも色々な物を失った僕は落涙を止める事が出来ず、僕から去って行った人やモノへのレクイエムとして、が、何よりも自分が今生きて此処に居る事への感謝の歌としての「第九」を、感動を持って経験したのだった。終演後は、今日も舞台上に居たF君に挨拶。そしてNHKホールを出ると、其処にはクリスマス・イルミネーションの点灯を待ちわびる鬼の様な数の人が!そしてその殆どはカップルで、然もイチャイチャ、いっちゃいちゃ…だからクリスマスなんて大嫌いなんだ!(怒)

18:00 西麻布「A」で、音楽会に一緒に行った友人とディナー。クリスマスの日は、誰が何と云っても和食に限る…そうでしょ、サンタさん?


12月25日(月)
13:30 仲の良い骨董屋さんT氏を訪ね、年末の挨拶。昔からの仲間は、何時も気が置けなくてホッとする。

14:00 会社的には先週末でもう仕事納めなのだが、某古美術店で極秘超重要秘密会議。これが上手く行くと、僕の将来の回想録の重要なチャプターと為るに違いない(笑)。重要な仕事程、時と人の縁で動く。それら全てが揃ったタイミングが最も重要。

15:30 今年も大変お世話になった老舗古美術商を訪ね、ご挨拶。琳派の軸の掛かった床を見ながら、垂涎の黒茶碗でお抹茶を頂く。この店のご主人も今年は公私共に色々大変だった筈なので、お互いに言葉を交わさずとも、心から相手の来年の健勝を祈る。美しく素晴らしい来歴の半筒型の茶碗が、今年一年色々有り過ぎてかなり草臥れた僕の掌と心を、ジンワリと暖めて呉れました。


そんなこんなで、今年もあと1週間…そして皆様、

🎄メリー・クリスマス🎄


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第五回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。