清婉峭雅。

然し最近溜息しか出ないのは、今世間を騒がせて居る財務次官やら国税庁長官新潟県知事が全員東大卒で、しつこい様だがその人生の大半を我々国民・県民の税金で生きて来た、と言う事実。

こんな連中が「我が国を動かしている面」していると思うと、実に腹立たしい。正直「金返せ」と云いたいし、特に財務次官の人間的程度の低さ、昭和感満載の時代遅れ感、此の期に及んでの財務大臣と省を挙げての「上から目線感」を見ても、これが日本国最高学府・最高官庁の姿かと吐きそうになる。いずれにせよあの事務次官、若い頃からさぞモテなかったんだろうなぁと思ふ(笑)。

そして「組織」というモノには、何時でもトップの人格や考え方が反映される訳で、その責任も重いのだから、当然責任者の人格や考え方が、今回の財務相に文書書き換えや事務次官のセクハラ、モリ・カケ疑惑を生み出したのは疑いがない。総理も財務相もさっさと責任取りなさい。大丈夫、「他に代わりが居ない」なんて事は有りませんから…そして何より、誰が総理や財務相をやっても今よりは俄然マシですから!

と云う事で、今日は最近の体験藝術覚書を。


−展覧会−
・「工芸・Kogeiの創造−人間国宝展−」@和光ホール:人間国宝の制度が制定されて60余年…和光では陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形の分野の人間国宝展が開催された。文化庁長官も出席したこじんまりとしたレセプションでは、本展の出展人間国宝作家の方々の中でも個人的に所縁有る方が居らして、例えば髹漆の増村紀一郎氏は、僕の中高の美術教師だった増村寛先生の従兄弟さん。初めてお会いした増村氏は、無頼漢だった寛先生とは正反対のジェントルマンで有った(笑)。また鍛金の大角幸枝先生は、最近アメリカでも大活躍中…お元気そうで安心致しました。

・「日本スペイン外交関係樹立150周年記念 プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」@国立西洋美術館:ベラスケスが7点も展示される、担当学芸員K氏の気合の入った展覧会!個人的には「マルス」が好きだったが、有名な「バリューカスの少年」にも惹かれる…そして本展では、ベラスケス→ゴヤ→マネ→ロートレックと云った、西洋美術史的ドローイングの流れを強く感じさせられた。そんな風に展覧会を観て居たら、突然携帯にテキストが入って来て、何とアメリカの顧客Dさんが今上野に居ると云うでは無いか!早速館を出て地獄門の辺に行くと、Dさんが手を振って居て、その後コーヒーで再会を祝す。アートに取っても人に取っても、世界は狭くなった。

・「春燦々−清婉峭雅の系譜」@相国寺承天閣美術館:本展は相国寺鹿苑寺慈照寺が持つ、この「清婉峭雅」を代表する室町水墨・近世絵画・中国絵画等で構成される。ドラッカー・コレクションやパワーズ・コレクションで学んだ室町水墨画、そして最近名品を何作か扱った若冲迄、禅寺らしく静謐でクオリティの高い名品が並ぶ、麗しい展覧会だった。外国人観光客で騒々しい京都の街中に比べ、此処は静かな極楽…質の高い藝術は、ゆったりと厳かに観たい。

・「猿楽と面 大和・近江および白山の周辺から」@MIHO MUSEUM:枝垂桜が未だ美しかったMIHO MUSEUMは、中国人を始めとする観光客でごった返して居たが、それは石山駅のバス停から始まって居て、桜のシーズンは要注意。が、展覧会の方は古面の歴史を俯瞰出来て、流石に素晴らしい!職業柄今迄百面以上の能面を扱って来たが、今でも無銘の能面の時代判定は難しい。その意味でこの展覧会は、能面より一時代古い大名品群を観られるので、非常に勉強になります。本展は6/3迄。

・「創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年 特別展 名作誕生 つながる日本美術」@東京国立博物館:「現存する世界最古の雑誌」とも云われる、朝日新聞社刊の「國華」の記念展覧会。何しろ物凄いラインナップで、出るのは溜息ばかりの、彫刻・絵画・工芸迄幅広く網羅した大名品展だ。絵画だけでも平家納経から若冲蕭白岸田劉生迄見所満載だが、自分が扱った作品がこう云った展覧会に出るのは鼻が高い。初っ端展示の「國華」創刊号が、某Y先生の所蔵品と云うのも一興…状態が良いので高かったのではなかろうか(笑)?「つながり」も大変勉強になる、何回も訪れたい展覧会だ。

・「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟 響き合う美意識」@根津美術館:この季節毎年恒例の、国宝「燕子花図屏風」を中心にした展覧会。「兄弟でも此処迄違うか?」的な芸術家兄弟の共作も含めた、全容が観覧出来る。そんな中、僕は個人的には兄弟合作の陶磁器の中では圧倒的に銹絵作品の方が好きなのだが、本展にも出展されて居る大和文華館所蔵「銹絵楼閣山水図四方火入」はかなり素晴らしい作品。が、最近僕が日本に戻した、旧某海外個人コレクション所蔵品で一回り大きい同手作品は、より素晴らしい(笑)!早く公開に為ると良いなぁ。

・「百花繚乱列島−江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり」@千葉市美術館:去年大仕事を頂いたDさんと訪れた千葉市美の新展覧会は、謂わば北海道から鹿児島までの「江戸絵画の『秘密のケンミンShow』」(笑)だが、見応えは十分。然しこれ程までも知らない絵師が居たモノか!と思いながら、根本常南の「旭潮鯨波図」の構図に驚いたり、安田田騏の描く象のお尻にキュンとしたり。そして既知の絵師の作品でも、例えば秋田蘭画に「やっぱり好きだなぁ」と思ったり、今でも個人宅で使用されて居ると云う蕭白の「渓流図襖」(これを観たら、「そこいらで売ってる蕭白は、蕭白ではない」と強く思う)は、実にスンバラシイ出来の作品で感動する!担当学芸員Mさんの渾身の展覧会…然し「絵師」を「うまいもん」と読ませるとは流石で有る(笑)。

・平松麻「Waft / Vacant」@Loko Gallery:平松さんの作品に出会ったのは、数年前の骨董祭に出店して居た、僕が良く伺って居る仏教美術のお店から独立したIさんのお店だった。静かな器物が並ぶその背面の壁に掛かっていたその絵はもう売れて仕舞って居たが、モノクロームで寂しいけれど暖かく、何故か恐ろしく惹き付けられて仕舞った僕は、Iさんを通じて平松さんを紹介して貰い、作品を幾つか見せて貰う事に為った。その時は未だ職業画家に為って居なかった平松さんに見せて貰った絵の数々は、何処かミステリアスで改めて寂しく暖かい、然も触れもしないのに手触り感の有る不思議な絵の数々で有った。あれから2年、平松さんとは共通の親しい友人も見つかり、彼女の絵も変化して来て居るが、今回展示されて居る作品群も、彼女の作品の本質である所の「現実と内面の融合」、そして何よりも暖かな「手触り感」が感じられる。毎日眺めたい絵画を探している人には、是非見てもらいたい展覧会だ。

・開館記念「神護寺経と密教の美術」@半蔵門ミュージアム:予てから話題に為って居た、宗教法人真如苑の美術館が滔々オープン。この美術館の目玉は云う迄も無く、2008年に僕が扱った今でもオークション史上世界最高価格の記録を持つ日本美術品で有る、重文伝運慶作「木造大日如来坐像」。美術館は半蔵門に出来たので、僕は自宅から歩いて行けるし、何と入場は無料…そして清新なギャラリーは、落ち着いた雰囲気で荘厳で有る。東博での運慶展以来の再会だった「大日如来」は、運慶展の喧騒の中で観た時とは異なり、落ち着いて僕達を迎える。然し10年前、この作品を僕が触り検分して居たのが(勿論指定前です!)、今と為っては夢の様…美術品の縁とは、本当に不思議なモノだ。大日如来以外にも、醍醐寺来歴の不動明王坐像や神護寺経、ガンダーラ仏等も展示される、静かな空間を体験して頂きたい。

・「64年の美術館史初 リニューアル前 最後の『蔵』公開」@藤田美術館:惜しまれつつも再出発の為に取り壊される藤田美術館の、元々藤田家の蔵で有った展示室と国内最古の鉄骨造の収蔵庫は、何も100年以上前の建築物。それらに別れを告げる「蔵」公開とレセプションが開催された。藤田清館長の素晴らしいご挨拶やヴァイオリン演奏の余興等と共に、美術界の名士達との会話を楽しむ。然しこの蔵を壊すのは惜しい…この間永青文庫ででも思ったが、「モノを畳の上に置く展示ケース」はもう中々見られず、その趣が愛おし過ぎるからだ!

・「没後200年 大名茶人 松平不昧」@三井記念美術館:最近名品が出展される展覧会が多くて、或る意味名品に対する有り難みが欠けて来た感が否めない。そんな中、再び茶道具の名品の揃う本展には、国宝「喜左衛門井戸」を始め、相国寺の国宝「玳玻盞 梅花天目」や重文「油滴天目」、重文梁楷「李白吟行図」や重文牧谿「遠浦帰帆図」、終いには「無一物」や「加賀光悦」迄、これでもか!の体。然し僕が一番気に入ったのは、青井戸茶碗「朝かほ」と信楽水指「三夕」、そして斗々屋茶碗「斗々屋」だった。うーん、欲しいっ!


−舞台−
・「Dunas」@オーチャード・ホール:天才的コンテンポラリー・ダンサー&振付師で有るシェルカウイが、これまた天才フラメンコ・ダンサーとして名高いマリア・パヘスをフィーチャーした、コンテンポラリー・フラメンコのステージ。光と布を上手く使っての飽きさせない舞台だったが、如何せん上演時間が短か過ぎる。一寸金返せ!的な感じが否めなかった事を記して置きたい…残念。

・「音阿弥生誕620年 観世会春の別会」@観世能楽堂:この日の御目当ては、滅多に見れない「三老女物」の一、「姨捨」。「三老女物」(他に「檜垣」と「関寺小町」)は、「重習」と呼ばれる至高の芸の一つとされて居て、中々披かれない。今回のシテは武田宗和師で、囃子には大倉源次郎師と亀井広忠師等が固める。そして武田師のシテは寂しく、そして人生の無常を感じさせた名演だった。僕がこの曲が好きなのは、通常の能と異なり、最後にワキやワキツレが退場した後にシテの老婆が1人舞台に残される場面で、泣ける…人生は孤独だ。

・「第26回奉納夜桜能」@靖国神社:ここ数年行って居る、靖国神社での「夜桜能」。今年は桜が早く、もう殆ど散って仕舞って居て「葉桜能」の体だったが、幽玄の体は変わらない。葉桜の下の会場は超満員で、相変わらずに人気振りだったが、上演前の「火入れ」をする者(政治家等)の名をマイクで呼び上げるのも相変わらずで、胸糞が悪く為る…何故静かに火入れが出来無いのだろう?が、最近「實」を襲名した梅若玄祥師の「羽衣」は流石に素晴らしく、特に橋掛りで舞う姿はこの世の物とも思えない程美しく、怪しかった。梅若實師、矢張り天才だ。

・「魔笛」@オーチャードホール:ベルリンに有る3つのオペラ劇場の1つ、ベルリン・コーミッシェ・オーパー・オペラのロングラン作品。会場では、最近クラシックのコンサートで連続的にお会いする、日本美術史家のH先生とI先生のお二人にバッタリ…こう為ると、一度「日本美術史=クラシック飲み会」をやらねば為るまい(笑)。さて演出のバリー・コスキーの秀でた才能に拠って造られた舞台は、大きな壁と歌手達の顔や体を出す穴と台、そして最も重要な「映像」のみに拠って構成される。「夜の女王」もルイーズ・ブルジョワの蜘蛛的に表現されるその映像は、或る時はフリッツ・ラングの「メトロポリス」を、或る時はチャップリンの「モダンタイムス」を、そしてウィリアム・ケントリッジを想起させるが、何処かノスタルジック且つ現代性を残す感覚で、歌手たちとのコラボレーションも秀逸。久し振りに完成された現代オペラを観た。

・「石橋 於 石橋」@江之浦測候所:現代美術家杉本博司氏の財団、小田原文化財団での「『石舞台』披」公演。前日からの予報と雨で、氏のイヴェント時には必ず天候が荒れる事から、「嗚呼、今回もか…」と思いながら根府川に向かう。そして強風の中測候所に着くと漸く雨が止み、室内に設置された舞台が急遽外に運び出され、「石舞台」での公演と相成った…が、強風が残った為、演目は舞囃子がキャンセルされ、メインの「石橋」のみに。シテの喜多流大島輝久師と塩津哲生師が風に乗り、そして亀井広忠師の大鼓や竹市学師の笛が風を切る。上演前には強風で牡丹の作り物が勝手に動いたりして、ヒヤッとする瞬間も有ったが、何とか無事終了しホッと溜息。風に棚引く獅子達の髪が、誠に印象的な舞台披きでした!

・「アイーダ」@新国立劇場オペラハウス:新国立劇場開場20周年記念特別公演のこの舞台、僕の予想を裏切る素晴らしいモノだった!ご存知ヴェルディ作曲、フランコ・ゼッフィレッリ演出の「アイーダ」は、もう20年以上も前に一度ヴェローナの屋外劇場で観て居るが、こう云っちゃあ何だが、パリ・オペラ座ミラノ・スカラ座、METオペラやテアトロ・マッシモ等でもオペラを観て居る身としては、正直今回初めて観る日本のオペラ舞台が持つで有ろう、ヴェローナのスケール感と「場所」に対するディスアドヴァンテージはどう為るのだろう?と思いながら、会場へと足を運んだ。が、豈図らんや、歌手やオーケストラのレヴェルやセットの精巧さ規模、全てが良く出来て居て、一時も退屈どころか齧り付きで観終わったのだ!特にセットは見応えが有り、あの舞台に身を置きたいと思った程…日本のオペラハウスも、中々やるなぁ。

・「自己紹介読本」@シアタートラム:この舞台は山内ケンジ作・演出、「城山羊の会」の作品で、彼等に取っては珍しい再演演目との事。謳い文句に「なにもないことを極めた傑作」と有る様に、ナンセンスで不条理、そしてちょっとセクシーな舞台で、思わず笑って仕舞う。7人の出演者は皆かなり個性的で、各々の役割を果たすが、特に岡部たかしが面白い。僕も人との距離感の難しさを、現実社会で感じる事が多い方がだと思うが、その不自然さが得も云われぬ可笑しみを産む。これから大阪公演だそうだが、大阪人に受けるや否や(笑)。


−映画−
・「ガーデンアパート」@Galaxy銀河系:友人でも有る芸大在学中の映像作家、石原海さんの処女長編映画作品。「ガーデンアパート」(→https://www.youtube.com/watch?v=2R4y04Is2Q4)は、主人公の彼氏のクレイジーな「おばさん」、京子を中心とする女性達を巡るガールズ・ムービーだが、この京子役の女優竹下かおりがセクシーかつアンニュイで中々良い。「愛は映画みたいなもので、政治みたいなもので、料理みたいなもので、庭みたいなものだ。一度始まってしまったら、終わるまでそれを止める事は出来ない」…個人的にはレオス・カラックス作品を彷彿とさせたが、今の所本作は映画と云うよりは寧ろ現代映像作品だと思う。映画作家としての海さんの将来が、超楽しみスグル出来栄えの作品でした!


−その他−
・目白コレクション@目白椿ホール:毎年恒例の骨董市へ、音楽家の友人と。去年も開展前に人が並んで居たが、今年も大勢の人が並んで居て、人気の程が知られる。会場内は熱気でムンムンして居て、骨董熱がこんなにも有るのか!と云うのが正直な所。で、今回は僕のお好みの作品は無かった…嗚呼、良かった〜(笑)。

・ジャパン・ソサエティー創立110周年記念式典・レセプション@ホテル・オークラ:10年前、僕も招かれた100周年記念の時は、天皇皇后両陛下を迎えてのシッティング・ディナーだったが、あれから10年経った今回は、皇太子殿下ご夫妻を式典に迎え、レセプションは殿下のみご出席の立食パーティー。式典では、亀井広忠師と坂口貴信師に拠る一調「高砂」が披露されたり、レセプションでは、ニューヨーク時代に知己の有った若きジャスティン・ロックフェラー氏や、芸術文化に関わる第一線の方々と再会。誠に楽しいひと時でした。


「清婉峭雅(せいえんしょうが)」とは「清らかで美しく、厳かで気品が有る」事…我が国のトップにはこう云う人になって頂きたいが、無理だろうなぁ(涙)。


ーお知らせー
*古美術誌「目の眼」5月号(創刊500号記念号→https://menomeonline.com/about/latest/)に、僕のインタビュー記事が掲載されて居ます。

*「婦人画報」5月号、特集「東京案内2018」内「東京人に聞きました 極私的東京案内2018」に、僕の「オススメ東京」が掲載されて居ます。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

The Shape of You.

3月11日(日)
9:00 今日で7回目の3.11。窓から見える富士山、祖母からの不動明王像に黙祷する。

12:00 お彼岸前にと思い、父の墓参へ。いつも駅から霊園にタクシーで行き、入口の花屋で待って貰って居て花を買うのだが、この日も花を選んで「すみません〜」と店奥に声を掛けると、何時もは女性が出て来るのに、この日は珍しく中年男性が。そしてその男性にお金を渡すと、彼は僕の顔をマジマジと見て「テレビ観ましたよ!」と云った。あれから1年も経って居るのに…NHK恐るべし(笑)。

15:00 代々木上原に行き、ヘアカット。僕は自分の頭髪の環境を「『硫黄島』状態」と呼んで居て、それは硫黄島での日本軍の闘いに倣って居るのだが、要は「モノ凄く健闘し、一気にヤラレはしないが、日に日に後退する…」と云う事だ(涙)。盟友現代美術家西野達から紹介された、ヘアデザイナーのMさんのご苦労が偲ばれます…Mさん、何時も有難うっ!

16:30 夕飯まで時間があったので、表参道のスパイラルへ。何時もちょっと面白い展覧会をして居る1階のギャラリーを覗くと、美大生に拠るモノらしい面白いファッションの展覧会をやって居て、感心して奥まで観て行くと、見覚えの有る顔の方が座って居るでは無いか…何と数週間前に久々に再会した元イッセイ・ミヤケのデザイナーで、現在多摩美で教鞭を取る旧知のF氏。多摩美「Beyond 2018」展…流石、F氏の生徒さん達の作品でした。

18:00 表参道「K」で、若き能・日本庭園研究者H君と食事。若きウエルテル為らぬ、若き研究者の悩みを聞く…若さって良いなぁ。


3月12日(月)
18:30 表参道参道の「C」で、以前大変お世話に為った顧客と食事。嘗て中東に駐在経験の有る顧客氏は流石、此処の料理に詳しい。美術と音楽の話を、ハマス等で頂く。


3月13日(火)
15:00 某官庁の研究諮問会議に。僕は7人の研究委員の1人なのだが、変革には「隗より始めよ」的思想が必要で、例えば教育。日本文化・芸術の復興、日本美術の流通には、義務教育からピカソモーツァルトよりも、例えば雪舟や能を教えるべきだし、それを唱える大人達から勉強が必要だ!等と言う人は居ない。また、こんな事を云っては何だが、アートフェアに首相夫人が来たら、「国会答弁してからいらっしゃい」位の事を云うのがアートでは無かろうか?等とも思う。


3月14日(水)
11:00 僕が理事を務める、某日本文化系公益財団の理事会@交詢社。この財団の地道な活動には本当に頭が下がる。然し伝統技術分野の人材不足は深刻だ…。


3月17日(土)
11:30 渋谷のセルリアン前に集合し、ポーラ美術館主催のプレス・バス・ツアーに参加。今回は友人の現代美術家流麻二果氏の展覧会が始まり、そのお誘いでも有った。道が渋滞して居て、到着したのは14時を過ぎて居たが、途中の休憩所で買った美味しいホットドッグや、バスを降りて綺麗な空気を思い切り吸い込んで、気分は爽快。その上流氏の作品が超素晴らしくて、もう云う事無し。今回の流氏の作品は、ポーラ美術館所蔵のルノアールゴッホ、モネの作品の色を分析し、其れ等と同じ色の絵具を使って、彼女の作品に表現すると云う興味深い試みだったのだが、特にモネが「睡蓮」に使用した色を基調にし、美術館が本作を購入した時に付いて来た額に入れられた、緑色の作品が実に素晴らしく、モネに勝るとも劣らない出来と云っても過言では無い程で有った!流氏のこの展覧会「色を追う/Tracking the Colors」は、5/31迄…必見だ!


3月19日(月)
8:00 春のAsian Art Week、の為、半年振りのニューヨーク出張をしに羽田へ。ネモい。

10:20 全日空便に搭乗。機内では久し振りの映画三昧と洒落込み、先ずはケネス・ブラナー監督の「オリエント急行殺人事件」を観る。原作はお馴染みアガサ・クリスティーで、本作は僕が子供時分に最も驚いたプロットの推理小説だったが、この作品のお陰で、僕は「カーテン」迄のエルキュール・ポワロやミス・マーブル・シリーズの全作品を読破した位で、同時に明智小五郎金田一耕助、マーロウ、スペンサー、ハマー等探偵小説の虜と為ったのだった。それはさて置き、僕は1974年作のシドニー・ルメット監督作品も勿論観て居て、その時もオールスター・キャストの映画だったのだが、この作品でアカデミー助演女優賞を獲ったイングリッド・バーグマンローレン・バコールショーン・コネリーやサー・ジョン・ギールグッド、ヴァネッサ・レッドグレイヴや大好きだったジャクリーヌ・ビセット等、今から思うと恐るべきキャスティングだった。そして今回は監督のブラナーがポワロ役を務め、ミッシェル・ファイファーやジョニー・デップ、ペネロペ・クルズ等も出演して居るが、前作と比べると役者のスケール・ダウンは否めない。然し物語の結末は分かっては居ても、ファイファーの演技は中々の物で、不覚にも感動。次に観たのは、ヒロインを演じたフランシス・マクドーマンが主演女優賞、巡査を演じたサム・ロックウェル助演男優賞を、其々本年度アカデミー賞で獲得した「スリー・ビルボード」。ずっと観たかった作品だったが、その期待を全く裏切らない作品だった!然し、こう云う脚本が日本で出来ない理由は何なのだろう?…流石北野武を敬愛するアイルランド屈指の劇作家、マーティン・マクドナーの作品だ!そして彼の脚本も然る事乍ら、役者達の演技もスゴイ。上記2俳優の他にも大好きな、何時観ても何故か他人とは思えないウッディ・ハレルソン(笑)も含めて皆素晴らしいが、特にロックウェルの演技は秀逸で、「優しさの連鎖」を何処かユーモアタップリに、そして厳しく描き出す。大名作と云って良い、必見作品だ。そしてもう1作は「キングスマン:ゴールデン・サークル」…此方はクラウディア・シーファーを射止めた裏山な監督、マシュー・ヴォーン監督作品。僕は「キングスマン」は前作も観て居るが、所謂典型的な英国スノッブ・コメディ・スパイ物で、今回はエルトン・ジョンジュリアン・ムーアも出て来て華を添えるが、「暇潰しには持って来い」的作品の域は出て居ないのがトゥー・バッド!

10:00(NY時間) JFK着。半年振りのニューヨークだった訳だが、マンハッタンに入り、ホテルにチェックインした時の「アウェイ」感は半端無い。たった半年前まで17年間も「住んで」居た街なのに、この「旅人」感は何故だ?今回のホテルは僕が社会に出始めた頃憧れだった「R」で、1階のラウンジは今でもヒップでカッコイイ。2007年に改装されて居るが、1988年開業当時のフィリップ・スタルクのデザインが数部屋に残って居るのも好ましい。

11:30 …が、旅先に朝着いて困るのは、チェックイン出来ない事。仕方なく荷物をホテルに預け、先ずはメトロポリタン美術館へ向かう。日本美術ギャラリーでは、嘗て僕の顧客でも有った故フィッシュバイン氏のコレクション展が開催中…琳派を中心としたラインナップを鑑賞する。

12:30 次はウクライナ・インスティテュートで開催されて居たJADA(Japanese Art Dealers Association)の展覧会へ。JADA展は此処毎年か観て居るが、今年は残念ながら寂しいライナップに見え、正直毎年やる意味が有るのかな?と首を傾げて仕舞う。

13:00 昔僕のメンターだった、Sebastian Izzardの展覧会へ。此処はこの春一番のラインナップで、鰕蔵等の素晴らしい写楽の大首絵や長喜等、珍しくも状態の良い版画が並ぶ。略完売との事だが、さも有りなん。

13:30 某ディーラーを訪ねて近況を聞いていると、日本橋の古美術商氏が突然登場。世界は狭い(笑)。その後はKoichi Yanagiに移動して応挙の襖絵や仏像等を観るが、僕が見入ったのは、実は其処に居らした90才を超え尚お元気なM先生その人だった(笑)。

19:30 ミッドタウンの居酒屋「S」で、此方もこの日NYに着いたばかりの顧客とディナー。食事が終わってホテルに帰ると、その顧客から鞄を店に忘れたとの連絡が入る…時差ボケは恐ろしい。


3月20日(火)
10:30 忽然と現れた、恐らくは鎌倉末〜南北朝期の仏教美術の名品を、オフィスにて外部専門家や香港の専門家達と検分する。嗚呼、素晴らしい…。

13:30 ロックフェラーセンター地下のシーフード店「S」で、香港のボスと遅いビジネス・ランチ。此処はクラブ・ケーキ、ロブスター・ロール、そして帆立が美味い。ミーティングは順調に終わる。

19:00 アッパー・イースト・サイドのフレンチ「C」で、顧客十数名を招いてのディナー…夜からの大雪警報にビクビクして居たが、何とか大丈夫。この「C」は、何時行っても美味しくハズレが無い。この日はサラダと鴨、クレーム・ブリュレとダブル・エスプレッソを頂く…旨い。


3月21日(水)
7:00 久々の酷い時差ボケで早朝に起きて仕舞い、腹が減ったので開店と同時に階下のレストランへ走る。迷った末頼んだエッグ・ベネディクトはかなり美味しく、満足。然しEB好きの僕が人生で食べたEBの中で、今迄で一番美味しかったのは何処あろう台北のホテルのモノ…台北?と思うかも知れないが、その時僕自身も驚いたので聞いたら、何とシェフが英国人だったので納得。

12:00 雪の中顧客とのランチの為、連日の「C」へ。プリ・フィクスのコースでも十分に美味しい。此処は本当にいい店だ。然し思えば、去年の藤田セール前日も大雪だった。

14:00 インド系の顧客管理担当者Uとのミーティング。彼女とのミーティングは何時もハードだが、僕には最早M的感覚も出て来たらしく、待ち遠しい気もする(笑)。

15:00 今やって居る、カテゴリーの跨る個人コレクションに関する打ち合わせ。

19:00 父親が70年代から集めた、室町水墨を中心とする日本絵画のコレクションを去年一括して売って頂いた、老齢の女性顧客と寿司店「S」で食事。流石大雪の中、客は僕ら以外3組だけだったが、お陰でゆっくりと食事が出来た。顧客から友人に関係性が変わっても、僕の彼女への尊敬は変わらない。


3月22日(木)
9:30 某コレクションに関する緊急電話会議…うう、頭が痛い。

10:00 今回のAsian Art Weekの目玉、「臨宇山人コレクション・パートIII」セール開始。結果は1点を除き完売、1283万2750ドル(約13億6千万円)を売り上げた。今週のトップロットにも為ったのは、萬野美術館旧蔵の北宋「定窯黒釉鉄砂班文碗」で、421万2500ドル(約4億4600万円)。然し思ったより伸びなかった気がしたのは僕だけ?

13:00 久し振りにチェルシーに向かい、「B」でランチ。相変わらず美味過ぎるTシェフのパスタに舌鼓を打つ。

19:00 知り合いに勧められ、ロウワー・イースト・サイドに半年前に出来たと云う新しい寿司店「U」に。物々しい店構えから、店に入ってカウンターに座ると板長に見覚えが!もう何年も知って居るIさんで有った。中々美味しいが、如何せん高い…。

21:00 NYの古い友人2人と、ミッドタウン・イーストのホテルのルーフトップ・ラウンジ「B」で、久々の再会。1人は不動産会社の社長、もう1人は只今閉店中の家庭料理店主で、長い間お世話に為った気の置けない仲間。もう25年以上行って居るHの店が、漸く5月には開きそうだとの話を聞き、非常に嬉しい。


3月23日(金)
9:30 過去のセールの支払いに関するミーティング。買っておいて、支払わない人の気持ちが理解出来ない…(涙)。

10:00 今日もオークションは有るが、顧客周りに充てる。先ずはMIKA Gallery…書の作品が並ぶ。続いて行ったIppodoでは、辻村史郎等の現代茶碗展。Carol Davenportでは、牛頭天王の木彫や黒織部茶碗等を観る。

12:00 ダウンタウンの老舗ダイナー「D」で、ドイツ人現代美術家Iとランチ。ナム・ジュン・パイクの運転手の経験も持つ彼との付き合いも、長くなった。友情の為、彼の展覧会を日本で企画しようと心に誓う。

14:30 ジャパン・ソサエティで開催中の、長谷川等伯の展覧会「A Giant Leap: The Transformation of Hasegawa Tohaku 」を観る。作品は、アメリカで新発見された一隻屏風を中心に集められて居るが、等伯自体作品数が少ないのと、国宝松林図屏風が来て居ないので矢張り少し寂しい。然しビックリしたのは、会場入り口入って直ぐに有る本物ソックリの「リプロダクション」松林図屏風で、来場者に取っては非常に紛らわしいいのでは無いか?何故これが展覧会の「冒頭」に有るのかが一寸理解出来ない…ウーム。

16:30 この春のクリスティーズのAsian Art Weekが終了…1週間で総額5658万1500ドル(約59億4000万円)を売り上げた。たった31点で2億6000万ドル(約300億円)を売った、去年の藤田美術館セールが如何に凄かったかが分かる。

20:00 チェルシーの「B」でディナー。時差ボケで半落ち状態且つ大人数のディナーだったが、カラマリやシーザーサラダ、魚のカルパッチョ、パスタもイカスミやパルメジャーノ+生ハム、ウニのオイル等、Tシェフの腕を堪能。デザートはリコッタチーズ・ケーキとティラミス…極楽極楽。

23:00 ニューヨークの友人13人と、大カラオケ大会@コリアン・タウンの「D」。僕が帰って来ると聞いて集まって呉れた若い仲間達は、単に僕を出汁にしてただ飲み歌いたいだけなのだろうが(笑)、それでもかなり嬉しい。僕は「雪国」、「サボテンの花」や「安奈」、そして皆に感謝を込めての尾崎紀世彦また逢う日まで」等を熱唱。結局朝の3時迄歌い続けました!


3月24日(土)
10:00 やっと起床。喉が痛い。矢張りカラオケは「慣れ」だ。

12:30 ランチをどうしようかと思い倦ねた末、寒いかなとも思ったが、結局「Z」でサンドイッチを買い、ブライアント・パークの日向のデッキチェアに座る。今日は「March for Our Lives」のパレードが有って、子供から大人迄皆それぞれ手作りのプラカードを持って、歩きながら声を出して居るのが聞こえて来る。こう云う光景は、日本人からすると本当に羨ましい…森友や加計問題、首相夫人の関与を問い質す等のデモが少な過ぎると思うし、それを妨害しようする政府に辟易とする。

15:00 Ronin Galleryで開催中の国芳展を観る。此処の若旦那Dは若いのに遣り手で、然も性格が頗る良い、ナイスガイ。そして彼が企画している日本現代美術賞は、僕も審査員の1人をさせて貰って居る、ニューヨークでのアーティスト・イン・レジデンスを含めた立派なモノだ。Dの行動力と推進力に乾杯!


3月25日(日)
9:00 迎えに来た車に乗り、JFK空港へ。帰りは夕方迄に日本に着く、成田便だ。

12:00 全日空機が出発。機内では再び映画を2本観る。先ずは「ミックス。」…ガッキー主演のピンポン物で、ガッキーは犯罪的にキュートだし、意外に面白い。ストーリーは在り来たりなのだが、瑛太蒼井優の演技がヨロシく(特に蒼井の中国人妻役が、最高に可笑しい)、瑛太がガッキーを迎えに来る時の「愛と青春の旅立ち」のパロディもウケる。もう一本は、第90回アカデミー賞に於いて作品賞・監督賞等4部門の受賞となった、ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」。マイノリティー救済的なストーリー自体は良く有る話だと思うが、口のきけないヒロインを演じた主演のサリー・ホーキンスが実に魅力的で、彼女の存在こそが本作の価値を高めて居ると思うが、この作品が作品賞を獲る程の出来かと云われれば、「スリー・ビルボード」の方が映画として遥かに優れて居ると思った。が、この作品の最後の最後にナレーションで語られる「詩」が余りに素敵で、この作品の後味を最高なモノにして居る。


3月26日(月)
15:00 成田着。日本の余りの暖かさに驚くが、家に戻って窓から見た千鳥ヶ淵の桜が狂った様に満開で、ほんの数日前雪の中に居た事が信じられない。VIVA Japan!

19:30 友人と軽く食事をし、千鳥ヶ淵の夜桜見物に…人が多かったが、ライトアップされた桜はセクシーで美しく、本当にこの辺に越して良かったと嬉し涙する。


はてさて夜桜は最高だったが、最悪だったのは佐川元国税庁長官の国会証人喚問。国民の税金で今迄食べて来て(東大→財務省)、然も文書改竄を認めて居る癖に、国会と云う唯一の国民への説明の場に置いて「訴追の恐れ」等と宣い、肝心な事を何も喋らず自分の身の心配だけする官僚。「税金泥棒」とはこう云う輩の事を云うのだ。

余りにムカつくので、心を鎮める為に「The Shape of Water」のラストに語られる心温まるポエムを…。


Unable to perceive the shape of you, I find you all around me.
Your presence fills my eyes with your love.
It humbles my heart, for you are everywhere.


ーお知らせー
*古美術誌「目の眼」5月号(創刊500号記念号→https://menomeonline.com/about/latest/)に、僕のインタビュー記事が掲載されて居ます。ご一読下さい。

*「婦人画報」5月号、特集「東京案内2018」内「東京人に聞きました 極私的東京案内2018」に、僕の「オススメ東京」が掲載されて居ます。是非ご覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「室町の名残」に遊んだ1日。

国会で1年以上も嘘を突き通された末に、森友問題が漸く動き出した。

然しそう為ると、森友・加計問題が1つの争点だった去年の衆院選も、国民が国会で嘘の答弁を信じた末の投票結果だった訳だから、遣り直さねば為らないのでは無かろうか?今こそ「国民の信」を本当に問わねば為らないのだから、解散総選挙をすべきだと思う。そもそも「特例ディスカウント」を遣らずに済んだのだから、選挙費用くらい出るだろう(怒)。

そんな怒り心頭な僕はと云えば、仕事の合間を縫って某官庁の研究会に出たり、理事を務める日本文化系財団の理事会に出席したりと、文化普及貢献活動にも勤しんで居たのだが、最近素晴らしい超日本文化な1日を過ごしたので、その事を。

その日僕は、日頃親しくさせて頂いて居る茶の湯者の茶事に、久し振りに招かれた。

前回彼の正式な茶事に呼ばれたのはもう何年も前の事で、久し振りの事で緊張もしたが、正客に茶道某流派宗匠、相客に邦楽家元とコレクターの方2名、そして茶の湯者の流派のお弟子さんの編集者の方と云った具合で、知った方も居らっしゃるので心易い。

客同士挨拶を交わして、待合で水屋お見舞をお渡しし手口を浄めると、いざ茶室へ。この日の床には室町期の禅僧が自分を鼠に例えた自画賛軸が掛かり、見覚えの有る炉縁と芦屋釜に迎えられる。亭主が現れ挨拶を交わすと、そろそろと茶は始まった。

炭手前が始まると客は自然と炉縁に集まり、肩が触れる程近付き合って燃え始めた炭を眺める。この一瞬こそが「一座建立」を実現するのだと痛感する瞬間…茶事の過程の中でも、最も重要で醍醐味の有る瞬間だと思う。

続いて懐石。美味しい料理を楽しい会話で味わう。5人の客の内のお2人がお酒に滅法強く、徳利の空きも早い(笑)。最後にこれまた美味なきんとん主菓子を頂いて、中立…暫く休み、仄かに暗んだ茶室に戻ると、濃茶が始まった。

軸が外された床には、戦国武将茶人の豪絡な二重切竹花入が掛けられ、花が活けられる。松籟も程良い加減で、茶の湯者が大振りな茶碗を持って茶室に入ると、客の間にも緊張感が増した。大振りな茶碗で念入りに練られる濃茶を心待ちにする客達の眼は、茶の湯者の手先に集中し、これも戦国武将の手に為る繊細な茶杓が茶入と茶碗とを何度も行き来し、茶筅で念入りに練られるのを熟視する。

そうして完璧に練られた濃茶は、正客から順に手渡しされ、滔々僕の所に回って来ると、僕は口当たりの良い茶碗から喉に流れる濃茶の旨さに思わず唸って仕舞う…至福のひと時とは、当にこの事では無いか!その後は道具拝見で大振り茶碗の正体を知り(溜息)、薄茶は場所を移しての立礼で、茶の湯者自作茶碗等を楽しむ。心尽くしの亭主と気取らない相客に、感謝感激の暖かいひと時だった。

さてこの日の茶事で思ったのは、茶道と云うのは利休が桃山時代に大成した芸術に違い無いが、矢張り「室町時代の名残」の芸術だと云う事。桃山のアヴァンギャルドさは、室町の静謐さの中でこそ生きる…それは「基礎」を徹底した上での、「遊び」で有り「作為」なのだと云う事で、現代美術にもそれが云えると思う。

茶事を終えた後は、国立能楽堂へと急ぐ…観世宗家の「求塚」を観る為だった。

「求塚」は観阿弥原作、世阿弥改作と云われる四番目物で、観世流では長い間廃曲に為って居たらしいが、昭和26年に観世華雪に拠って復曲された、万葉集や大和物語等に登場する菟名日処女(うないおとめ)の悲劇を題材とする作品。

生田の里に来た僧達は、若菜摘みの女達に出逢い別れるが、その内の1人が残り僧達を求塚に案内して、塚の由来を語る。

それは、2人の男に言い寄られた女(菟名日処女)が1人に決め倦ねて、生田川の水面の水鳥を先に射た方と結婚すると云うが、2人が同時に射当てた為に、女は嘆き川に身を投げて仕舞う。それを見た男たちは後追いをし、1人は女の手を、もう1人は女の足を掴んで死ね、と云う物語だったが、若菜摘みは自分がその女の霊だと仄めかして立ち去る。

僧達が弔いの経をあげると、地獄の責め苦に憔悴した後シテの女の亡霊が現れ、自分の所為で男2人と水鳥迄を死なせて仕舞った業で、苦しみを受けていると明かす。そして亡霊はその地獄の責めの様子を見せて消え去ると云う、何とも恐ろしい曲だ。

この曲の見所は、前半の静かで優しい雰囲気と、後半の凄惨な場面の対比が凄い所で、シテの観世宗家の舞は中々に素晴らしく、特に後半の緊迫感は身の毛がよだつ程だった。然し現代で考えると、男1人を決めかねて死ぬ女やそれを後追いする2人の男等、「何故だ!」的要素が多いのも事実だが、室町の世ではそれも当たり前の事だったのだろう。人は昔は余程真面目に生きて居た、とも云えるのかも知れないが、その意味で官僚や政治家も、偶には能の一番位観た方が良いと思うのは決して僕だけでは有るまい。

茶と能…室町時代に深く身を浸し、その名残に遊んだ、余りにも此の世離れした1日だったが、シリアスな室町文化を緩い現代の世の中で体験すると、身が引き締まる思いが有る。

だからこそ現代人には、この様な「真面目な遊び」が必要なのだ。


ーお知らせー
*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

芸術と政治に於ける「スクラップ&ビルド」。

先ずは、超嬉しいお目出度いニュースから。

敬愛する現代美術家、西野達氏が文科省芸術選奨文科大臣賞を受賞した!

遅過ぎの感は有るが、達さんの仕事が国から「も」認められたのが、我が事の様に本当に嬉しい!今からお祝いの飲み会が楽しみスグル。達さん、おめでとう御座います!!!!

と云う事で、今日も覚書から。


2月22日(木)
9:00 人間ドック2日目。痛さを堪えてモニターを見ながら、毎年恒例の大腸内視鏡検査を受ける。その最中或る部分に来た時、担当医が「アッ!」と声を上げたので何事かと怖くなるが、何と「アニサキス」が居て、その箇所が腫れて少し出血しているでは無いか。医師に拠るとアニサキスは通常胃酸で死ぬか、若しくは胃にへばりついて激痛を齎すらしいが、大腸まで生き残るのは珍しいとの事。放って置けば腸閉塞も起こしかねなかったらしいのでラッキーだったが、その後の検査では病院中の看護婦さんや検診医達に「桂屋さん、大腸にアニサキス居たんだってー?」と言われ、天然記念物的気分を味わう。

19:00 去年お世話になったNHKプロフェッショナル 仕事の流儀」のTディレクターと久し振りに会い、「I」で食事。放映からもう1年近くなるが、未だに街で声を掛けられたりする。今から思えばT氏も良くぞ1年以上も僕なんかに密着出来たモノだが、それもこれもT氏の人徳が全て。そして1年経って想うのは、この番組のお陰で最大の親孝行が出来た事と、或る人との素晴らしい邂逅が有った事…感謝、感謝である。


2月23日(金)
13:30 大阪美術倶楽部で開催された「大美アートフェア」に向かい、藤田美術館館長藤田清氏の講演会を聴く。美術館のお計らいで関係者席に座るが、何とも面映ゆい。ユーモアを交えた館長のレクチャーは流石で有った!

18:30 北新地のおでん屋で、コレクターS氏、F館長、古美術商T氏の御三方とディナー。御三人は各々三島や唐津等の味の有る酒杯を持ち寄り一献傾けるが、下戸な僕は触らせて貰うだけ。然し美味しいおでんで続く骨董話は楽しスグル。その後は某クラブへ繰り出し、最後はショット・バーで「もう一度」食べて解散。食欲と骨董欲は比例するのだ(笑)。


2月24日(土)
10:00 大阪市某所に在る、大阪のオバチャンの「ゴッド・ハンド・マッサージ」へ。僕の数年に渡った坐骨神経痛はこのオバチャンの手に因って、たった1回の施術で完治したのだが、大阪に仕事に行った折には立ち寄る事にして居る。相変わらず小柄な体格からは信じられない程の強い力、痛さにギャアギャア叫びながら1時間たっぷりと痛めつけられ、スッキリ感を得る。

19:00 東京駅経由で高崎に向かい、今迄食べた中でも最も美味い担々麺を名店「H」で頂くと、群馬交響楽団定期演奏会を聴く為に、高崎音楽センターにダッシュで向かう。群響は日本の地方交響楽団では最も歴史有る楽団で、然も今回は名ヴァイオリ二スト、オーギュスタン・デュメイの弾き振りだから見逃せない。前半はチャイコフスキー「憂鬱なセレナード」、ショーソン「詩曲 作品25」、ラヴェル「ツィガーヌ」(拙ダイアリー:「『香子』と『ツィガーヌ』」参照)で、デュメイの本領発揮…実に美しい演奏だった。後半はベートヴェンの4番、これも群響の弦が壮大で素晴らしかった!


2月25日(日)
14:00 新国立劇場に向かい、高谷史郎/ダムタイプの公演「ST/LL」へ。会場ではS銀行のO氏夫妻や、今回の公演の音楽を坂本教授と担当している原摩利彦氏の弟で、能研究者のR君にもバッタリ。さて舞台の方だが、ダンスも音楽も起承転結、或いはメリハリが余り無く、正直少々ダレる。本公演には女優鶴田真由も出演して居たが、声も出て居らず「何故彼女が?」感も有ったが、如何に?


2月27日(火)
10:00 香港と電話会議。会議、カイギ、かいぎ…。

16:00 染織作品の研究の為に某古美術商を訪ねると、或る有力古美術商コレクターが来て居て、3人で話し始めたら止まらなく為り、肝心の話はお預けに為る(笑)。が、その話の中で、数年前にニューヨークのサザビーズで売られた縄文土偶のアンダービッダーを偶然知る事と為り、雑談の大切さを改めて思い知る。真実は雑談の中や「枠の外」にこそ有るのだ。

19:30 友人が「歌手のバックで演奏するので、映るかも知れない」というので、家に戻りNHK「うたコン」を観る。目を凝らして見ていると「セカオワ」の後ろにそのお姿が!芸能人でも無い個人的に知ってる人をテレビで観ると、興奮するのは何故だろう。


2月28日(水)
13:30 永青文庫で開催中の展覧会、「細川家と中国美術ー名品でたどる中国のやきもの」へ。17年振りと云う本展には、所謂「日本人好み」のモノが並び、特に唐三彩や宋磁に名品が揃う。その中でも個人的白眉は重文「三彩花卉文盤」や「三彩獅子」、定窯「白磁長頸瓶」、そして重文磁州窯「白釉黒花牡丹文瓶」辺りだろうか。然しこの美術館を訪れると、その展示室の落ち着き方に何時も癒されるのだが、藤田美術館の改装を思うと何となく惜しい気がして来るから、人間とは我儘なモノ。日本人の優れた眼で選ばれた東洋古美術は、矢張り日本人的な空間で観るのが最適なのかも知れない、と熟く思ふ。

16:00 某古美術商を訪ね、ここ数年で観た神像の中でも最も素晴らしいモノの一つを見せて貰う。もう時代・クオリティとも最高級で、垂涎の作品…当然、値段も最高級。

19:00 友人と日本橋のしゃぶしゃぶ店「Z」に行き座ると、隣の席から「桂屋さん!」と声が…驚いて振り向くと、引退された大古美術商H氏が!相変わらず大柄なH氏はお元気そうで、エネルギッシュで有った。然し僕は人に偶然良く会うなぁ…。


3月2日(金)
11:00 ニューヨークから来日中のスペシャリストや東京の社員と、翌日顧客へ渡すコレクションのセール・プロポーザルの為のミーティング。誰がどのパートを話すか、どのポイントを強調するか等を話し合う。上手く行けば良いが。

19:00 浜離宮朝日ホールに向かい、ピアニスト高橋悠治のリサイタル「余韻と手移り」を聴く。80歳に為ろうとする高橋は矍鑠として居て、弾く前の各曲説明も枯れて居て面白い。最初のバッハ「組曲 ハ短調」はかなり危なっかしかったが、その後の現代系曲の演奏は、その間合いや雰囲気も含めて流石。音楽会タイトル通り、「余韻」を楽しんだ音楽会だった。


3月3日(土)
14:00 チーム全員で顧客宅に向かい、念入りに作ったプロポーザルを基にセールの提案をする。好印象は与えられた気がするが、結果は如何に?


3月4日(日)
13:00 観世能楽堂での「観世会定期能 三月」を観る。この日は能「巴 替装束」、狂言「寝音曲」、仕舞四曲の後、最後は銕之丞師の「西行桜 脇留」。寺井栄師の「巴」は感動的で「寝音曲」は爆笑、そして僕が大好きな「西行桜」は、この時期人の生の儚さを何時も思わせる…良い番組で有った。

17:30 お能を観た後は母親、友人と「K」でお寿司を摘む。人生で初めてお能を観た友人も僕も、良く寝た後の食欲は満点で(笑)、お寿司後の「スーパー・メロン」と「スーパー・ストロベリー」のショートケーキ2つも、3人でペロッと頂く…いとをかし。


3月5日(月)
11:00 香港のマネジメントチームが来日し、夕方迄会議。マネジメントの連中が我々スペシャリストやビジネス・ゲッターに云う事は、言葉をどんなに変えても唯一つ…「良い作品を取って来い」だけだ。自分でやれない事を人に強制するとは、どう云う事だろう(笑)?況してや、馬だってエサをぶら下げなければ走らないのに。


3月6日(火)
19:00 東京・ニューヨークでもう20年近く知っている寿司職人K君が、日本橋蛎殻町に店を出したと聞き、早速ディナーをしに向かう。昔から丁寧な仕事をするK君の寿司は、相変わらず美味しく、お店も品の有る作り。そしてホールをして居た女性が何と無く怪しく(笑)、聞くと矢張り彼女は最近K君と結婚した奥さんで有った!最初に会った時から、ずっと独立する夢を話していたK君のダブルのお目出度は、我が事の様に嬉しい…おめでとう、K君!


3月7日(水)
11:00 千代田区の高級住宅街の顧客を訪ね、作品拝見。老夫人のお父様が僕の大先輩だと知り、打ち解ける。人に縁有り。

13:00 某古美術誌の取材を受ける。色々話して居る内に、自分がこの業界に25年も居る事実に改めて驚くが、然し良く続いたモンだなぁ…(笑)。


3月8日(木)
9:00 朝の芸能ニュースで、北島三郎の次男が51歳で孤独死し、見つかった時は死後1週間経って居た事を知る。親や親しい友人から「初老」と呼ばれて居る54歳の僕は、つい最近も週末朝寝坊して、友人からのラインに数時間連絡しないで居たら、脳梗塞心筋梗塞で死んだとマジ思われたらしく、連絡取れた途端にマジギレされた経験をしたばかりなので(笑)、他人事では無い。

11:00 K大学のN教授を訪ね、或る日本美術作品に関する意見を伺う。非常に勉強に為るお話をご教授頂き、大感謝。その後は大学の博物館を見学させて頂き、バブル時代は大学にもお金が有ったんだなぁ、と感慨深く拝見する。

14:00 東京国際フォーラムで開催される、「アートフェア東京」のVIPヴューイングへ。このフェアは毎年ニューヨークのアジアン・アート・ウィークと重なって居て、観る事が出来なかったので、実は今回が初めて。さて入場はした物の、現代美術と古美術の双方が出店して居るので、僕は顧客や知人とのご挨拶に忙しく、作品が全く見れない。然しイヴェントとしては盛り上がって居り、その点は良かったと思うが、作品の質はイマイチか…。そんな中、会場では芸術選奨を受賞した達さんとバッタリ会い、お祝いを申し上げ、そしてお互いに「俺らが文科省から賞貰ったり、某政府研究会の委員なったりしてる様じゃ、この国も終わりだな!」と軽口を叩く…達さんのこう云う所が僕は大好きなんだ。達さん、これからも頑張って、日本のアート行政の「スクラップ&ビルド」もやっちゃって下さい!


3月9日(金)
12:00 母親と銀座「G」でランチ。昔懐かしいメニュー「ポワブル・ステーキ」が復活したと聞いたので、早速頂く。美味い。

15:00 某婦人誌の特集号の取材を受ける。オークションや美術品が話題になるのは宜しいが、品良く、面白く、身近に伝えるのは何時でも難しい。現代インテリアと古美術の相性の良さに関する本を出したいなぁ。

17:30 アーツ千代田に赴き、「3331 Art Fair」を観る。有楽町とは全く異なる雰囲気の会場と作品は、逆に眼に新しい。佐藤直樹の「その後の『そこで生えている』」や淺井裕介の作品等色々と興味深かったが、一番眼を惹いたのは地下のバンビナートギャラリーで展示されて居た、内藤京平「Poker-Face」展だった。15世紀フランドルの画家、ヤン・ファン・エイクの作中人物の顔だけをトレースし、そこに内藤のドローイングが加えられた作品群は、クラシカル&コンテンポラリー感且つエロティシズムに溢れ、非常に魅力的。

19:00 神田に新しく開店したフレンチビストロ「B」でディナー。此処のシェフはフランス人だが西海岸で長年働いた人で、英語で話せるのが嬉しい。素材を生かした料理も美味しく、カジュアルな雰囲気も好ましい。当日某誌の取材が入って居て、僕の後ろ姿も撮影されました…載るかも(笑)。


3月10日(土)
9:00 朝のニュースで佐川国税庁長官がやっと辞任した事と、近畿財務局担当官が自殺して仕舞った事を知る。1人の命が失われた今、上に立つ各氏は猛省し、今までシラを切り続けてきたツケを絶対に払わねばならない。彼らの不遜な態度もこれっきりだし、官僚も矜持を正し、大阪地検は死に物狂いで奴等を追い詰めねば、遺族に対して申し訳が立たないだろう…「死人の出た『疑惑』は『ホンモノ』」なのだから。また驚くべき米朝間首脳会談のニュースは、米韓朝から日本だけが爪弾きにされている事を明白にした。全く情けない話だが、今の日本の内閣はそんなモンなのだ。嗚呼、出るのは溜息ばかり…そして我が国の政治・官僚の質は低下するばかりだ。国民の税金で食って居るのにメモに書いた同じ答えを繰り返し、国民に対して全く説明責任を果たさず、不遜な態度で会見に臨むしか能がない連中は、恥を知るべきだ。然し「官僚」と云う人種が佐川氏に代表されるなら、東大→財務省と云う典型的な官僚の人生の道筋に、我々の税金が使われたかと思うと、心底腹が立つ。

14:00 テラダ・アート・コンプレックスで開催中の、「Asian Art Award 2018」のファイナリスト展へ。特別賞を受賞したAki Inomataさんの展示が最も素晴らしく、特に「やどかりに『やど』をわたしてみる」の水槽作品が美し過ぎて、欲しく為る。

15:30 乃木坂のギャラリー間で開催中の展覧会、「en [縁]:アート・オブ・ネクサス 第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本帰国展」を観る。非常に興味深い展覧会だったが、建築素人の僕からすると、例えばレンゾ・ピアノやジャン・ヌーヴェル、亡くなったザハの様なスケール感の有る建築家が日本には居ないなぁ、と感じて仕舞う。敢えて云えば安藤忠雄がそうかも知れないが、それでもスケール感は海外の建築家に敵わない気がするし、ビエンナーレの展示としても何かコマコマして居る気がするのは僕だけだろうか?

17:00 小説家H氏と待ち合わせ、再び「アートフェア東京」へ。今一度作品を観て歩くが、ピンと来るモノは無い。古美術では何故か縄文ブームで、複数店が扱って居たのが不思議。

19:00 六本木の中華「K」で、H氏と食事。相変わらず美味スグル、大好物の胡麻平麺や蒸し豚薬膳ソース、海老の辛味ソースやキャベツ味噌炒め、マコモダケや鳥唐等の料理を、男2人で次々と平らげる。至福のひと時でした!


そして今日は3・11…記憶は日々風化して行くが、9・11と共に鎮魂の気持ちを忘れない。森友や加計問題、そして東北復興よりもオリンピックを優先する現政府等、潰れて仕舞えばいい。

我が国の政府の「スクラップ&ビルド」…シン・ゴジラの登場を心待ちにする。


ーお知らせー
*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

大和屋、ラフマニノフ、六地蔵と、人生の無常と。

今僕はメインの仕事の他に美大客員教授、また日本文化系財団・学会等の理事を3つ程やらせて頂いて居るのだが、最近もう一つ新しくも興味深いお仕事が…。

それは某官庁から仰せ付かった、政府制度研究会の委員。初会合にお邪魔すると、僕以外には大学教授や法律家、美術館学芸員、画商、金融関係者の方々が委員と為って居るし、会合にはもちろん政府の方々も出席されて居て、未だに「何故僕が?」感が否めないのだが、その新しい制度の内容は重要且つ興味深いモノなので、ちょっと頑張ろうかなとも思っている…が、基本的には僕は制度破壊を目指して居る人間なので悪しからず、なので有る(笑)。

さてピョンチャン・オリンピックも終盤に入り、日頃スポーツ観戦をしない僕でも、スピード&フィギュア・スケートやカーリング等の中継時にはテレビに釘付けに為って居るのだが(然しオリンピックのお陰で、眞子様の結婚の儀延期の話題が世間から掻き消された…これも政府の手だっんだたろう)、或る事がずっと腑に落ちないで居るので、今日はその事から。

それは男子モーグルで銅メダルを獲った、原大智選手のコーチの事。原選手の銅メダルは日本男子モーグル界史上初と云う事で本当に素晴らしく、彼に関しては何の文句も無い。また、彼を13歳から指導しながら4年前に27歳と云う若さで惜しくも急逝した、平子コーチとの約束を果たしたと云う話も美しい…が、メディアではこの平子コーチの事ばかりが取り上げられて、平子氏亡き後原選手を4年間指導し、メダリストへと導いた筈のコーチの事に誰も触れていない気がするのは、僕だけだろうか?

人間が出来ていない僕がそのコーチだったら、「原選手を此処まで育てたのは、『平子コーチと俺』なんだぞ!」と叫んで居るのではと無いか。シニカルな様だが、日本人は所謂お涙頂戴的な「美談」好きだから仕方ない。だが、いみじくもスピード・スケートの小平選手の金メダル決定後のインタビューで、「コーチと二人三脚で獲りましたね」と云うインタビュアーの問い掛けに、小平選手は「コーチとの二人三脚では無くて、チーム全員と頑張った」と敢えて訂正して答えて居た事を鑑みると、メディアが考えがちな「ネタになる話題」報道には、僕等も踊らされてはいけない気がするので有る。誰か原選手の「直近のコーチ」の事も教えて下さい!

てな感じの今日この頃だが、此処からが本題…今回も最近僕が体験して来た藝術の覚書を、メモ形式で。


ー舞台ー
・「歌舞伎座百三十年 二月大歌舞伎 夜の部」@歌舞伎座:先月に引き続き、高麗屋三代の襲名披露公演へ。歌舞伎座は団体客でごった返していたが、ロビーでは現代美術コレクターY氏や、友人の化粧品会社CDのT氏夫妻、顧客C氏等に遭遇。然し驚いたのは、何と緞帳が「草間彌生」に為って居た事で、然も作品は「富士山」等では無く、恐らくは初期の抽象絵画を3点配置した物…歌舞伎座に現代美術の緞帳が掛かる事自体には異論は無いが(寧ろ望ましい)、この作風は似合わない。緞帳って、誰がどう云う基準で決めているのだろう?さて今月の夜の部は、お馴染み「熊谷陣屋」「壽三代歌舞伎賑 木挽町芝居前」「仮名手本忠臣蔵 一力茶屋」の三狂言。「熊谷陣屋」は新幸四郎が頑張るが、矢張り声と台詞廻しが未だ未だで、5年前の吉右衛門の舞台で号泣した僕には物足りない。が、脇を固める魁春左團次菊五郎が素晴らしかったので、どうにかこうにか。幕間には久し振りに隣の「B」に出向いて「日之影栗のプリン」を頂き、相変わらずの旨さに悶絶する。このプリンはここ数年食べた如何なるマロンちゃんの中でも、未だにベスト3に入って居るのだ。次の襲名公演で良く掛かる幹部総出演の華やかな「木挽町芝居前」では、こう云っちゃあ何だが、芝居に集中せずにキョロキョロしたり、ダルそうにして居た海老蔵の悪い態度が目立って、周りの幹部連中がキチンとして居るだけに、折角の祝言の舞台の上であんな態度が許されるのか?とイラ付く。そして「一力茶屋」…これはもう松嶋屋と大和屋の2人の美しくも軽妙な演技が超素晴らしく、それに新白鸚の重さが加わった素晴らしい舞台。この平右衛門・お軽の役は、偶数日は海老蔵菊之助のコンビに変わるのだが、先に此方を観て仕舞うとどうだろう?夕飯は歌舞伎座帰り恒例の寿司屋「M」へ…減らず口を叩きながらの寿司は、幸せスグル。

・「面影」@国立能楽堂:フランスの詩人ポール・クローデルの作品、「女とその影」を原作とする新作能金剛流宗家金剛永謹師がシテの先妻の霊を、家元後嗣の龍謹師がツレの後妻を演じる。そして「清経」の小書で良く知られる笛の「恋之音取」で幕を開けるこの新作能は、詩情溢れる「蝋燭能」として上演されたのだが、実はこの「女とその影」は大正12(1923)年3月に帝劇に於いて、五代目中村福助主宰の「羽衣会」にて上演された事が有って、その時は柞尾佐吉作曲、鏑木清方が装置と衣装を担当すると云う豪華版だったらしい。これも何とも観たかった舞台だが、今回の金剛宗家の舞も成る程素晴らしく、夢幻能として完成度の高い新作能と為って居た。

・「松風」@新国立劇場新国立劇場開場20周年記念公演で有る本舞台は、観阿弥世阿弥作の能「松風」をオリジナルとした作品で、細川俊夫作曲、サシャ・ヴァルツの演出・振付。本公演は日本初演だが、実は僕はこの舞台を2013年にニューヨークで観て居て、その時の演出家は今回のヴァルツでは無かったのだが、纏まりが無く曖昧模糊として居て、辟易とした思い出が有った。なので、今回少しばかりの期待をして行ったのだが、残念ながら感想は変わらず、と云うのが本心。僕に取っての一番の疑問は、何故思い切った時代・役柄・物語の改変をしないのかと云う事で、成立後500年以上経ち、その長い年月の間シェイプされ続け、ミニマライズされ続けた最高級の芸術作品を改変するに当たり、 あの舞台で「ユキヒラ〜」と外人に歌われても違和感が有り過ぎるし、単に怪談若しくは亡霊譚に思えて仕舞う仕舞うストーリー、「武満っぽさ」から脱皮出来切れない音楽、散漫に見えて仕舞ったダンス・演出の一体感の無さは、再び僕を眠りへと誘ったのだった。異論が有れば、是非。


ー音楽ー
・「読売交響楽団 feat.ニコライ・ルガンスキー」@サントリー・ホール:読響の名誉指揮者、ユーリ・テミルカーノフ指揮、ピアノにチャイコフスキー・コンクール最高位のルガンスキーをフィーチャーした音楽会。この晩のプログラムは、チャイコの「幻想曲『フランチェスカ・ダ・リミニ」、ラフマニノフの「パガニーニ狂詩曲」、ラヴェル組曲クープランの墓』」、そしてレスピーギ交響詩『ローマの松』」。オーケストラの出来はそれなりだったが、ルガンスキーのピアノにはラフマニノフの曲の演奏に必要な微妙な「タメ」が有り、余りにもラフマニノフ向きで嬉しく為る。会場では、音楽バーを持つコレクターS氏にもバッタリ。


ー展覧会ー
・「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」@サントリー美術館寛永年間の京都芸術文化にスポットを当てた展覧会。遠州の「綺麗さび」に代表される瀟洒なアートを生んだ寛永文化は、公家や武士、町人の中でボーダーレスに成長する。その展覧会中の個人的白眉は、矢張り小井戸茶碗「六地蔵」と膳所光悦、そして「朝儀図屏風」(然し、何故この屏風が裏千家に在るのだろう?)で、特に「六地蔵」は矢張り僕が「老僧」と共に、一生に一度で良いからお茶を飲んでみたい逸品だ!…と思って居た矢先、下の階の展示室前で笑いながら手を振る集団が。最初、手を振られて居るのは僕ではないと思い、辺りを見回して見たが、どうも皆様僕に向かって手を振って居られる様で、良く見ると某美術館館長と学芸員の方々がサントリー学芸員の方といらっしゃる。ご挨拶すると「丁度孫一さんの話が出てたんですよ!『六地蔵』お好きなんだろうなぁ…ってね」と仰る…噂をすれば、影(笑)。

・「ポートレイツ」@Maho Kubota Gallery:オピー等7人のアーティストの「ポートレイト」作品を集めた展覧会。僕は個人的にポートレイトが好きで、自分が偶に買う現代美術作品も何故か広い意味でのポートレイトが多いのだが、今回の展覧会では、武田鉄平の「一見『厚塗り』に見えるが、実作を観ると実は写真の様にしか見えない程『薄塗り』な絵画」が面白い。

・「色絵 Japan CUTE!」@出光美術館:江戸期の色絵磁器を中心に構成された展覧会で、鍋島、古九谷、柿右衛門、仁清、デルフトやマイセン迄、名品を堪能出来る。ファッション性溢れる色絵磁器の中でも、僕は古九谷が好きで、今回も驚くべきデザインの数々に驚嘆。本展を観ると、日本の美術は「デコラティヴ&ミニマル」の両輪の上に成り立って居るのだと、熟く思う。

束芋「ズンテントンチンシャン」@Gallery Kido Press:現代美術家束芋の、初の銅版画展。この奇妙な展覧会タイトルは口三味線の表現らしいが、そもそも本展の作品は朝日新聞に連載された吉田修一の小説、「国宝」の挿絵が元に為って居るらしい。作品中には文楽岡本太郎太陽の塔等も登場する。お値段もお手頃で、一寸欲しい作品も有った(笑)。

奈良美智「Drawings: 1988-2018 Last 30 years」@Kaikai Kiki Gallery:何と、村上隆奈良美智のレップと為る第1回展。高天井の壁面と透明ガラスのデスクに、膨大な数のドローイングがクロノロジカルに並べられる。その作品群は、奈良がそれこそ真のアーティストだと云う事を証明すると共に、特に初期作品の素晴らしさは、プロトタイプと為る前の初々しさを際立たせて居て、僕は感動すら覚えたのだが、然し小山さんの事を考えずには居られなかったのも事実…色々な意味で興味深い展覧会だ。

・住山洋「Sea of Tranquility」@Books & Sons:現代美術家杉本博司に師事し、長年ニューヨークで活動して来た写真家の展覧会。住山のソフトフォーカスな暖かい写真は、観る者を自然へと引き込む。フィルムケースを使った自作ピンホール・キャメラも展示される、作家の温もりを感じる本展、会場の「Books & Sons」も良い意味で日本らしくないスペースなので、是非一度訪れて頂きたい。

・「仁清と乾山ー京のやきものと絵画」@岡田美術館:久し振りに訪れた箱根岡田美術館では、仁清と乾山を中心に、琳派絵画や若冲迄も含めての展覧。が、驚いたのは最上階仏教美術の部屋に入った途端、見覚えの有る仁王像一対が眼に入った時だった。「嗚呼、此処に入ったのか!良かった」と、大変御世話に為った元のオーナーの事を感慨深く思い返して居たのだが、その2日後にまさかそのオーナー氏の逝去を某レストランで知らされるとは…美術品は時に人生の無常を予言する。

・鈴木康広「始まりの庭」@彫刻の森美術館:自然現象を巧みに活かした、現代美術&デザインの展覧会。水滴が彫刻に為り、彫刻の「上」は「下」に為り、メトロノームの音すらアートに為る。鈴木の或る意味ユーモラスな「軽さを測る天秤」や「空気の人」等は、自然とアートの関係性と親和性を改めて「楽しく」考えさせられた作品だった。

会田誠「Ground No Plan」@表参道ダイヤモンドビル:2年に1度開催される、大林財団の新しい助成プログラム「都市のヴィジョン」の第一回。現代美術家会田誠が考える都市・国土を、マルチ・メディウムで表現するが、正直アートの展覧会と云うよりは、アイディア展に近いと思う。

・Hernan Bas「Imsects from Abroad」@ペロタン東京:アメリカ人アーティスト、バスの作品中の人物は何処かエゴン・シーレを思わせるし、風景は例えばラファエル前派の作家ミレイの「オフィーリア」やモネの「睡蓮」を感じさせる…が、決して剽窃や模倣に留まって居る訳では無く、現代的頽廃感を上手く表現して居る作品だと思う。ちょっと欲しく為ったが、怖くて値段が聞けない(笑)。

・「日本陶磁協会賞受賞作家展ー和のこころ 愉しむうつわ」@和光ホール:日本陶磁協会賞を受賞した重松あゆみと伊藤慶二の作品を中心に、歴代の受賞作家43名と「現代陶芸奨励賞」の福井・富山展受賞作家6名に拠る展覧会。来年引退をする予定の楽吉左衛門の黒茶碗から、手頃な酒器迄「愉しむ」焼物が揃う。会場では先日「陶説」でインタビューをして頂いた事務局長のM氏にばったりお会いしたが、氏のハード・ワーク無くしてはこう云った陶磁協会の展覧会も実現しないに違いない。手元で楽しむ陶磁器を、もっと身近にしたいと云う想いを同じくする。


さて年を取ると必然的に多くなるのが、お世話に為った方々のお葬式やお別れ会…最近も、親戚筋の冨士屋ホテル最後の創業家からの総支配人山口祐司氏、また公私共に大変お世話になったサンモトヤマ会長の茂登山長市郎氏のお別れ会に参列。

特に96歳で大往生された茂登山氏は、本当に豪快な方で、僕がニューヨークから日本に出張に来ていた時、銀座界隈の道端でばったり会って仕舞ったりすると「こらっ!日本に来たら必ず連絡しろっ!」と笑顔で怒鳴られ、数え切れない位鰻や洋食をご馳走して頂いた。

僕みたいな風来坊的若造にも、分け隔て無くフランクに接して呉れた懐の大きさは、氏の180cmを超える体格と共に、多くの人々を暖かく包んで呉れて居たに違いない…偉大なる「ハクライ屋」茂登山氏のご冥福を、心からお祈り致します。


明日明後日は、毎年恒例の人間ドック…はてさてどうなる事やら。


PS:先程、ニューヨーク禅堂の嶋野老師が名古屋で客死されたとの連絡を受けた。老師のご冥福をお祈り致します。


ーお知らせー
*生活の友社刊「月刊アートコレクターズ」2月号(→http://www.tomosha.com/collectors/9235)にて、ショート・インタビューが掲載されて居ります。ご一読下さい。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

不感症、神の法、森、そして幻の女。

最近の僕は、風邪気味では有っても、僕独自の「インターステラー理論」の実践に因って、時の流れをゆっくりとさせ、周りを見渡す時間を作る事に専念する。

そして、その実践は仕事に於いても芸術鑑賞に於いても然り…と云う事で、今日は最近の体験芸術一覧。


ー舞台ー
・「Noh Climax」@セルリアンタワー能楽堂現代美術家杉本博司の企画・監修、亀井広忠演出・囃子作調の本舞台は、元来パリでの公演企画だったらしいが、そのパリの劇場の改修工事の延期に拠り、当公演が初演と為った謂わば能の「ダイジェスト・メドレー」。登場するシテ方観世流から坂口貴信(善知鳥)、谷本健吾(屋島)と鵜澤光(羽衣)、喜多流から大島輝久(舞働・祈)と大島衣恵(猩々乱)。さて場内に入ると、舞台の松羽目は斜めに置かれた杉本作の「松林図屏風」一双で隠され、舞台中央には面箱が1つ置かれる。開演すると、先ずは屏風裏からの「翁」の居囃子が謡われ、その後杉本氏が登場して本公演の説明と自身のコレクション中の各面の説明をする。「翁面」の原型とも云われる「父尉」は古様を呈し、鎌倉期と云われれば成る程と思える。またこの日は使われなかった「万媚」は、その名に相応しくかなり艶っぽい面で中々良い面だったが、「真蛇」は実際に「舞働」で観るとかなり大きく、所謂「般若」や「蛇」とは異なる作りで、「これは本当に能面か?」と思った程。そして舞台は、休憩を挟んでの3曲と2曲がダイジェスト・メドレーと為って居て、囃子方はその間休まず、シテだけが入れ替わると云う演出で新しい…これなら杉本氏の云う通り、「寝る客」も少ないだろう(笑)。また後半は「松林図屏風」が土佐派系の絵師進藤尚郁の金地「松図屏風」と変わり、それも一興だったが、女流能楽師が特に羽衣を舞うと興が削がれて仕舞ふ気がするのは、何故だろう?最初小鼓の音が全く出て居らず心配したが、亀井広忠師の流石の大鼓にリードされた囃子はテンポ良く、能の新しい流れを創り出したと感じた、素晴らしい公演だった。然し杉本氏のステイトメント、「No Climax=不感症」とはこれ如何に(笑)。

・「アンチゴーヌ」@新国立劇場小劇場:主演は蒼井優生瀬勝久、原作は古代ギリシャ三大悲劇詩人ソフォクレスの「テーバイ三作」の一である本作を翻案したジャン・アヌイ(ピーター・オトゥールリチャード・バートンの名作映画「ベケット」の原作者だ!)。舞台は劇場中央に十字架の形に造られ、セットも椅子2脚だけが置かれ、蓋をされた奈落が中央に在るだけのミニマルなモノ。そして2時間10分の休憩無しのこの作品は僕を全く飽きさせず、蒼井と生瀬の熱演が「『神の法』と『人間の法』の対立」と云うテーマを鮮明且つ重厚に浮き立たせて観客を引きずり込む、誠に素晴らしい舞台で有った。それにしても蒼井優と云う女優は、こう云った役が似合うし上手い…恐らく本人もこの役が大好きに違いない。栗山民也の演出も見処。

・「新春歌舞伎公演・昼の部」@新橋演舞場高麗屋三代の襲名を歌舞伎座で観た後は、正月恒例の「にらみ」を観る為に演舞場へ。先ずは獅童宙乗りを務める「天竺徳兵衛韓噺」…此方は見世物的な内容だが、飽きさせない。獅童は台詞廻しが相変わらずで少々残念だが、体調も戻った様で悦ばしい。さて本劇中、獅童が「ライザップ、ライザップ」と連呼して居て、その時は一体何の事か訳が分からなかったのだが、翌日偶々テレビを観て居たら、ライザップのコマーシャルに何と市川九團次が出て居るでは無いか!そして「嗚呼、この事だったか!」と得心…高島屋さん、結果にコミットしてました(笑)。続くは初春恒例、成田屋の「口上」&にらみ。睨んで貰って、今年一年の健康祈念する。最後は九世團十郎生誕百八十年記念の復活上演、新歌舞伎十八番内「鎌倉八幡宮静の法楽舞」。此方は海老蔵が7役を演じるのも話題だが、個人的見処は、それよりも河東節・常磐津・清元・竹本・長唄箏曲迄入った音楽で、「邦楽リミックス」的聞き応えが抜群だった。


ー映画ー
・「ノクターナル・アニマルズ」:傑作「シングルマン」でデビューした、ファッション・デザイナーでクリエイティヴ・ディレクターのトム・フォードの監督第2作で、第73回ヴェネチア国際映画祭審査員大賞作。原作はオースティン・ライトのミステリー、主演は僕の大好きなエイミー・アダムスとジェイク・ジレンホールで、かなり良く出来た心理サスペンスドラマだった。主人公が現代美術のディーラーなので、映画の冒頭では見た事の有る作家の作品が幾つも登場するが、彼女が企画した太った女をフィーチャーしたイヴェントは、恐らくはこれも僕の大好きな英国人アーティスト、ジェニー・サヴィルの作品がモティーフでは無いかと思う。然し、この作品に観るフォードの美意識は崇高で、これは「シングルマン」でもそうだったが、画面に映る家具の一点一点、小道具、カット割、照明、ファッション、ストーリー・テリング、その全てが張り詰めた極細の糸の様に洗練されて居る為、観る者は疲弊し怖くなる。が、それよりも恐ろしいのは「男の復讐心」で、これはゲイで有るフォードならではの視点かも知れない。皆さん、女に捨てられた男の復讐は本当に恐ろしいですよ…ご注意あそばせ(笑)。


ー展覧会ー
・特別展「仁和寺と御室派のみほとけー天平真言密教の名宝ー」@東博:最近の東博は気合が入って居て、運慶展に続くこの特別展も仏教美術の至宝で溢れる。僕はオープニングに行った為、今回の超目玉で有る葛井寺の「千手観音像坐像」は未だ観れて居ないのだが、素晴らしい作行の道明寺の十一面観世音立像や中山寺馬頭観音坐像、非常に変わった造りの神呪寺(然しスゴい名の寺だ…笑)の如意輪観音坐像、個人的に観たかった仁和寺蔵の垂迹美術の名宝「僧形八幡影向図」等、大名品揃いで眼福の極み。序でにこの日は、開幕式で超目利仏教美術商のT氏にバッタリ会い、一緒に歩いて話を伺いながら展覧会を拝見する事が出来た、眼も頭も大変勉強に為った至福の時間と為りました。必見の本展、千手観音像が出たらまた行かねば!

・「開館20周年記念展I 細見美術館の江戸絵画 はじまりは伊藤若冲」@細見美術館:京都に或る屏風を観に行った合間に拝見。ここ数年の若冲の大ブームは、当然プライス夫妻コレクションに拠る処が大きいのだが、当然日本にも若冲のコレクターは居て、その筆頭が細見美術館前館長の故細見実氏で有った。細見コレクション中の白眉若冲は、30代半ばから後半の作と思われる2作品で、それは未だ景和落款の「雪中雄鶏図」と「糸瓜群蟲図」で、両作品とも中国絵画の影響を強く受けた、謂わば「プレ動植綵絵」。その他にも押絵貼屏風や禅僧に拠る画賛作品、若演等の弟子筋の作品も多く展示され、筋目描きや外隈等の技法も解説される、楽しい展覧会だ。

・「墨と金ー狩野派の絵画ー」@根津美術館狩野派の絵画作品を「墨」と「金」をキーワードに見直す企画展。作品は雪舟や元信、山雪から探幽、久隅守景迄バラエティに富むが、見処は矢張り芸阿弥の重文「観瀑図」と伝元信「養蚕機織図屏風」か。「犬追物図屏風」は風俗画題の中でも、外国でポピュラーな画題だが、最近は動物虐待を連想させるからか、余り人気が無い(涙)。

・「マイク・ケリー展 デイ・イズ・ダーン」@ワタリウム美術館:57歳でこの世を去った、「裏ポップアーティスト」の展覧会。ケリーはマイノリティに対する差別やセックス、暴力等の社会的問題を時に可笑しく、時に皮肉タップリに作品を作った、ニューヨーク・タイムズに「過去25年間で最もアメリカ美術に影響を与えた芸術家の1人で、アメリカに於ける大衆文化と若者文化の代弁者」と評された、クレイジー・アーティスト。3フロアの会場にはビデオ作品、インスタレーション、コラージュ等の平面作品で溢れているので、時間をタップリ取って訪れたい。展覧会タイトル作の「Day is Done」はケリーが1日1つの映像を作り、1年間で365と為る筈だったマルチ・メディア作品なのだが、実際は31作品しか完成せず、然しその全てをこの展覧会で観る事が出来るので、必見…然しこの作品が2005年に発表されたのが、ロンドン・ガゴシアンだったと云う事に、僕は興味を惹かれる。個人的には初期作品の「エクトプラズム #1-#4」や「チキンダンス」が良かった。

上田義彦「Forest 印象と記憶 1989-2017」@Gallery 916:天井高も広さも凄い、上田氏自身がキュレートするこの素晴らしい環境のギャラリーも、ビル自体が取り壊される事と為った為、本展が最後の展覧会…余りに残念過ぎる。さてその最後を飾るのは、上田氏が28年間撮り続けたQuinault、屋久島、春日大社の「森」で、会場は東京の湾岸とは思えない程のマイナスイオンに充たされて居る。僕は嘗て、氏の屋久島の作品を観て、彼の地へと旅をした。そして其処の森で観た生命の息吹と力強さ、生と死と云う命の循環の尊さは、今でも僕の心の奥底に「忘れがちな宝物」として大切に仕舞って有るのだが、この展覧会は改めてその宝物の存在を再確認したくさせる。特に新作の春日大社の森は、僕の心に如何に「森」が必要かと問い掛ける…そう、心に「森」を持ち続ける事が肝要なのだ。


そんな中、或る音楽家から「以前観た日本画の内容が余りに美し過ぎて覚えて居るのだが、画題が思い出せない…知らないか?」との連絡が有った。

その内容は「男が梅の木の下で、花の美しさに感動して歌を詠むと、美しい女が現れて歌を詠み、其の内に2人は歌を交し、酒を飲み、契りを交わすが、いつの間にか寝て仕舞う。翌朝男が木の下で起きると、女は消えていて、それは花の精だった…」と云う。

僕は色々探してみたのだが、見付からないで居ると、彼から「分かった」と連絡が有った。それは信濃を舞台にした日本の怪談の一噺だったが、元はどうも中国唐代の詩人崔護の「人面桃花」らしい。


去年今日此門中     
人面桃花相映紅     
人面不知何處去     
桃花依舊笑春風     


愛のキューピッドとしても名高い、音楽家の彼らしいロマンティックな話だったが、気が付けば1月ももう終わり…節分がやって来る。然し今年は時間の経過が遅い。


ーお知らせー
*生活の友社刊「月刊アートコレクターズ」2月号(→http://www.tomosha.com/collectors/9235)にて、ショート・インタビューが掲載されて居ります。ご一読下さい。

*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

夢のあとに。

1月6日(土)
15:00 原美術館に行き、この日から始まった展覧会「現代美術に魅せられてー原俊夫による原美術館コレクション展」を観る。館のW女史に拠ると、本展は80歳を超えても尚お元気な原館長が、50年代以降集めた約1000点の収蔵品の中から、館長自らが作品選定・キュレーションをした展覧会との事。その前期にはロスコや李禹煥草間彌生の素晴らしいインスタレーション「自己消滅」や杉本博司の「仏の海」の一部屋等が展示され、見応え充分。国宝をも持つ古美術コレクターの家に生まれた館長が、自身の世代に自身の眼で集めた戦後・現代美術に「コレクターの眼」の真髄を感じられる、後期も待ち遠しい展覧会だ。

19:00 サントリーホールで行われた、テナー歌手ヨナス・カウフマンのコンサートへ。会場では茶道家元や美術史家の方々にもご挨拶したが、席には空席も。コンサートはオーケストラの演奏とカウフマンのアリアが交互に行われる形式で、少々間延び感が有った事を否めないが、カウフマンは歌う度に声も出て来て、流石に素晴らしい。そして「誰も寝てはならぬ」を歌い終えたカウフマンは、その後何と6曲のアンコールに応え、最後の数曲は僕も涙する程感動しました!

21:30 コンサート後は「A」で食事…季節の素材を生かしたイタリアンを堪能するが、特に食前に飲んだ「とちおとめ」のフレッシュ・ジュースが大変な美味で、一気にその日の疲れが吹っ飛ぶ。嗚呼、四季有る日本の料理は世界一だ。


1月7日(日)
11:00 別に出世を望んで居る訳でも無かったが、「出世の神様」と呼ばれる愛宕神社を参拝する。標高27.7mに在る、東京23区内では「最高峰の山」へと登る「出世の石段」は、下から見るとかなり急で、芸能界の人等はこれを駆け上ると出世すると云う謂れも有ると聞く。そして「大丈夫か、俺?」と不安を抱えつつも、勿論駆け上がるのは不可能で普通に歩いて登ったのだが、特に大きく息も切れず登り切れて一安心…俺、未だイケるわ(笑)。その後はオニの様に長い行列に並んで参拝を終え、御神籤を引くと何と大吉…コイツは春から縁起がええわえ!

19:30 六本木の蕎麦屋「H」での、某美術館学芸員T女史を顕彰する「T会」新年会に参加。今回のメンバーはT女史、大手アート・ディーラーO氏らの総勢6人。「H」は嘗てニューヨークのソーホーに在った時に良くお邪魔していた店で、個性的な店主さんが有名。楽しい面子で新年を言祝ぎました。

22:30 そしてこの晩は、実は新年会がもう1つ…と云う訳で、中目黒に移動。其処で待って居たのは、仲の良い現代美術家N氏とK氏、K氏マネージャーのA女史と建築家I氏。新年早々の良い知らせを皆に伝えると、大盛り上がりで寒さも吹き飛ぶ。今年は皆にも良い事が有ります様に!


1月8日(月:成人の日)
9:00 一体何時から成人の日は、1月15日では無くなって仕舞ったのだろうか?…連休だから、まぁいいけど(笑)。

16:30 母、弟夫妻と共に歌舞伎座へ向かい、高麗屋三代の襲名公演「壽初春大歌舞伎」夜の部を観る。今月の狂言は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場」、「口上」、「勧進帳」、そして「相生獅子・三人形」。最初の「角力場」は、或る意味非常にタイムリーな演し物だが(笑)、芝翫愛之助双方共上手く楽しめる。「口上」では左團次等が、高麗屋三代が通い、また僕の母校でも有る暁星小学校の級長の話を持ち出して、客席を沸かせる。新白鸚は級長だったらしいのだが、僕も万年副級長だったので、制服の肩に縫い付ける金糸の腕章を懐かしく思い出した。幕間には皆で上階の「K」でお弁当を頂く。お能もそうだが、歌舞伎も幕間が短か過ぎて満足に食事が出来ない…何とか為らない物か?が、「K」のお弁当は流石美味しく、偶々隣にの席には米国人日本文化研究者のR先生が居らして、新年のご挨拶も。幕間後の目玉の「勧進帳」は、新幸四郎の力が入り過ぎて居て、観る方もかなり疲れる。また弁慶の知的部分が見受けられ無かったのが、少々残念…何しろ幸四郎もこれから、これから。そんな中、余りにも立派な大播磨の冨樫と新染五郎の凛とした姿、芝翫愛之助の山伏は見応え充分で有った。最後の舞踊は、鴈治郎が口をほんの少し開けて踊るのが、何時も気に為って仕舞ったが、又五郎が抜群に上手かった。


1月9日(火)
9:00 朝イチから香港と電話会議。課題山積…今年も色々有るんだろうなぁ。

10:30 香港の上司とのサシの電話会議。プライヴェート・セールに関しては良いニュースが…コトヨロです。

12:00 現在某有名週刊誌で連載中の小説の主人公でも有るIT会社のCEO氏と、都内ホテルの天麩羅屋「Y」で会食。余りの多忙さに太られ、食後に数種類の薬を飲まれる氏を心配する…。が、それに付けても此処の天麩羅の美味さよ(笑)。

19:00 六本木「K」でディナー。K夫妻がやって居る古き良き上海のカフェ風の「K」の胡麻平麺は、余りに絶品で思わずお代わりをして仕舞ふ程。キャベツの海老味噌炒めやスペアリブも絶品で、堪らない。


1月10日(水)
12:00 銀座「N」で某美術館関係者とランチをし、或るプロジェクトに関して相談する。食事は何時ものハンバーグ・ランチ…相変わらず、旨し。


1月11日(木)
18:30 九段下の「M」で開かれたIT会社CEOのK氏が主宰する政経塾で、日本美術と日本文化に就いて、90分間講演する。聴講者は政財界や官僚等総勢40人で、「真の国際人とは、自国の文化を正確に外国人に伝えられる人の事」「美術品は文化交流大使」「伝統は革新の連続」等の話を熱心に聴いて頂く。その後はブッフェ形式の会食だったが、質問者に取り囲まれた為余り食べられなかったのが悔しい(涙)。


1月12日(金)
10:30 香港のプライヴェート・セールズ・マネジャーと電話会議。目下僕が手掛けて居る、3つのプロジェクトに関して話す。これ等が完結すれば、この世界での僕のキャリアも終わりに近付く気がする。

19:00 某出版社の方と原宿「M」で会食。実は僕はこの方に、25年程前にお会いして居たらしいのだが、全く覚えて居らず、恥ずかしい思いをする。白子の天麩羅や鴨の厚切り焼、マグロアボカド山かけを頂き、最後はせいろそばでシメ。将来何か仕事に為れば良いのだが…。


1月13日(土)
10:30 今日の午後、今年初めて伺う弓の先生にお渡しする為のお年賀を買いに、日本橋三越へ。地下鉄で行ってみると、開店2分前だったが、地下入り口の前には凄い数の人が。入って見ると、先着順にチューリップの無料プレゼントをして居たので、納得…時間が有れば僕も並んだのに!お年賀には、たねやのお菓子を買う。

13:00 今年初めての弓のお稽古。暫くサボって居たので身体も言う事を聞かず、構えもキツく、直ぐに股関節が痛く為る。その上ただで寒い弓道場なのに、シングル・ディジットの気温の中長袖のシャツを忘れた為の半袖の道着、袴の下は股引も履か無かった為、足袋を履いた足も感覚が無く為る程に寒い。そして清廉な空気の中、久し振りに巻藁に居る弓は時に落ち、構えはぶれ、儘為らない…然し、この歳で物事を習うと云うのは、何と素晴らしい事なのだろう!

17:00 弓道場を後にし、電車を乗り継いで、青山のカフェ「T」へ。此処ではパリ在住フォトグラファーのS氏から、世界のファッション業界四方山話を聞く。この「T」には初めて来たのだが、流石「和」の店らしいメニューが並んで居たので、僕は餡入りココアを選び、冷え切った身体を温める。嗚呼、ブルータスの「あんこ好き。」特集が懐かしい(→拙ダイアリー:「『アート』より『あんこ』」参照)。

21:00 家に戻り、もう何度目かも分からない程大好きな川端の「眠れる美女」を読みながら、フレデリカ・フォン・シュターデフォーレ名歌曲集を聴く。僕はフォーレの「夢のあとに」が大好きなのだが、この「夢のあとに」はパリ音楽院でのフォーレの同僚、ロマン・ビュシーヌの詩に曲を付けた作品。ビュシーヌの詩も素晴らしいのだが、それにも況してフォーレの曲がこの上なく美しく、儚い…そう「人の夢」と書いて「儚い」と読むのだ。


夢は醒めない方が良いかも知れないが、人の夢は醒める…儚さの美しさを知る為に。そして再び夢を見続ける…醒めない夢に出会う為に。


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。