The Shape of You.

3月11日(日)
9:00 今日で7回目の3.11。窓から見える富士山、祖母からの不動明王像に黙祷する。

12:00 お彼岸前にと思い、父の墓参へ。いつも駅から霊園にタクシーで行き、入口の花屋で待って貰って居て花を買うのだが、この日も花を選んで「すみません〜」と店奥に声を掛けると、何時もは女性が出て来るのに、この日は珍しく中年男性が。そしてその男性にお金を渡すと、彼は僕の顔をマジマジと見て「テレビ観ましたよ!」と云った。あれから1年も経って居るのに…NHK恐るべし(笑)。

15:00 代々木上原に行き、ヘアカット。僕は自分の頭髪の環境を「『硫黄島』状態」と呼んで居て、それは硫黄島での日本軍の闘いに倣って居るのだが、要は「モノ凄く健闘し、一気にヤラレはしないが、日に日に後退する…」と云う事だ(涙)。盟友現代美術家西野達から紹介された、ヘアデザイナーのMさんのご苦労が偲ばれます…Mさん、何時も有難うっ!

16:30 夕飯まで時間があったので、表参道のスパイラルへ。何時もちょっと面白い展覧会をして居る1階のギャラリーを覗くと、美大生に拠るモノらしい面白いファッションの展覧会をやって居て、感心して奥まで観て行くと、見覚えの有る顔の方が座って居るでは無いか…何と数週間前に久々に再会した元イッセイ・ミヤケのデザイナーで、現在多摩美で教鞭を取る旧知のF氏。多摩美「Beyond 2018」展…流石、F氏の生徒さん達の作品でした。

18:00 表参道「K」で、若き能・日本庭園研究者H君と食事。若きウエルテル為らぬ、若き研究者の悩みを聞く…若さって良いなぁ。


3月12日(月)
18:30 表参道参道の「C」で、以前大変お世話に為った顧客と食事。嘗て中東に駐在経験の有る顧客氏は流石、此処の料理に詳しい。美術と音楽の話を、ハマス等で頂く。


3月13日(火)
15:00 某官庁の研究諮問会議に。僕は7人の研究委員の1人なのだが、変革には「隗より始めよ」的思想が必要で、例えば教育。日本文化・芸術の復興、日本美術の流通には、義務教育からピカソモーツァルトよりも、例えば雪舟や能を教えるべきだし、それを唱える大人達から勉強が必要だ!等と言う人は居ない。また、こんな事を云っては何だが、アートフェアに首相夫人が来たら、「国会答弁してからいらっしゃい」位の事を云うのがアートでは無かろうか?等とも思う。


3月14日(水)
11:00 僕が理事を務める、某日本文化系公益財団の理事会@交詢社。この財団の地道な活動には本当に頭が下がる。然し伝統技術分野の人材不足は深刻だ…。


3月17日(土)
11:30 渋谷のセルリアン前に集合し、ポーラ美術館主催のプレス・バス・ツアーに参加。今回は友人の現代美術家流麻二果氏の展覧会が始まり、そのお誘いでも有った。道が渋滞して居て、到着したのは14時を過ぎて居たが、途中の休憩所で買った美味しいホットドッグや、バスを降りて綺麗な空気を思い切り吸い込んで、気分は爽快。その上流氏の作品が超素晴らしくて、もう云う事無し。今回の流氏の作品は、ポーラ美術館所蔵のルノアールゴッホ、モネの作品の色を分析し、其れ等と同じ色の絵具を使って、彼女の作品に表現すると云う興味深い試みだったのだが、特にモネが「睡蓮」に使用した色を基調にし、美術館が本作を購入した時に付いて来た額に入れられた、緑色の作品が実に素晴らしく、モネに勝るとも劣らない出来と云っても過言では無い程で有った!流氏のこの展覧会「色を追う/Tracking the Colors」は、5/31迄…必見だ!


3月19日(月)
8:00 春のAsian Art Week、の為、半年振りのニューヨーク出張をしに羽田へ。ネモい。

10:20 全日空便に搭乗。機内では久し振りの映画三昧と洒落込み、先ずはケネス・ブラナー監督の「オリエント急行殺人事件」を観る。原作はお馴染みアガサ・クリスティーで、本作は僕が子供時分に最も驚いたプロットの推理小説だったが、この作品のお陰で、僕は「カーテン」迄のエルキュール・ポワロやミス・マーブル・シリーズの全作品を読破した位で、同時に明智小五郎金田一耕助、マーロウ、スペンサー、ハマー等探偵小説の虜と為ったのだった。それはさて置き、僕は1974年作のシドニー・ルメット監督作品も勿論観て居て、その時もオールスター・キャストの映画だったのだが、この作品でアカデミー助演女優賞を獲ったイングリッド・バーグマンローレン・バコールショーン・コネリーやサー・ジョン・ギールグッド、ヴァネッサ・レッドグレイヴや大好きだったジャクリーヌ・ビセット等、今から思うと恐るべきキャスティングだった。そして今回は監督のブラナーがポワロ役を務め、ミッシェル・ファイファーやジョニー・デップ、ペネロペ・クルズ等も出演して居るが、前作と比べると役者のスケール・ダウンは否めない。然し物語の結末は分かっては居ても、ファイファーの演技は中々の物で、不覚にも感動。次に観たのは、ヒロインを演じたフランシス・マクドーマンが主演女優賞、巡査を演じたサム・ロックウェル助演男優賞を、其々本年度アカデミー賞で獲得した「スリー・ビルボード」。ずっと観たかった作品だったが、その期待を全く裏切らない作品だった!然し、こう云う脚本が日本で出来ない理由は何なのだろう?…流石北野武を敬愛するアイルランド屈指の劇作家、マーティン・マクドナーの作品だ!そして彼の脚本も然る事乍ら、役者達の演技もスゴイ。上記2俳優の他にも大好きな、何時観ても何故か他人とは思えないウッディ・ハレルソン(笑)も含めて皆素晴らしいが、特にロックウェルの演技は秀逸で、「優しさの連鎖」を何処かユーモアタップリに、そして厳しく描き出す。大名作と云って良い、必見作品だ。そしてもう1作は「キングスマン:ゴールデン・サークル」…此方はクラウディア・シーファーを射止めた裏山な監督、マシュー・ヴォーン監督作品。僕は「キングスマン」は前作も観て居るが、所謂典型的な英国スノッブ・コメディ・スパイ物で、今回はエルトン・ジョンジュリアン・ムーアも出て来て華を添えるが、「暇潰しには持って来い」的作品の域は出て居ないのがトゥー・バッド!

10:00(NY時間) JFK着。半年振りのニューヨークだった訳だが、マンハッタンに入り、ホテルにチェックインした時の「アウェイ」感は半端無い。たった半年前まで17年間も「住んで」居た街なのに、この「旅人」感は何故だ?今回のホテルは僕が社会に出始めた頃憧れだった「R」で、1階のラウンジは今でもヒップでカッコイイ。2007年に改装されて居るが、1988年開業当時のフィリップ・スタルクのデザインが数部屋に残って居るのも好ましい。

11:30 …が、旅先に朝着いて困るのは、チェックイン出来ない事。仕方なく荷物をホテルに預け、先ずはメトロポリタン美術館へ向かう。日本美術ギャラリーでは、嘗て僕の顧客でも有った故フィッシュバイン氏のコレクション展が開催中…琳派を中心としたラインナップを鑑賞する。

12:30 次はウクライナ・インスティテュートで開催されて居たJADA(Japanese Art Dealers Association)の展覧会へ。JADA展は此処毎年か観て居るが、今年は残念ながら寂しいライナップに見え、正直毎年やる意味が有るのかな?と首を傾げて仕舞う。

13:00 昔僕のメンターだった、Sebastian Izzardの展覧会へ。此処はこの春一番のラインナップで、鰕蔵等の素晴らしい写楽の大首絵や長喜等、珍しくも状態の良い版画が並ぶ。略完売との事だが、さも有りなん。

13:30 某ディーラーを訪ねて近況を聞いていると、日本橋の古美術商氏が突然登場。世界は狭い(笑)。その後はKoichi Yanagiに移動して応挙の襖絵や仏像等を観るが、僕が見入ったのは、実は其処に居らした90才を超え尚お元気なM先生その人だった(笑)。

19:30 ミッドタウンの居酒屋「S」で、此方もこの日NYに着いたばかりの顧客とディナー。食事が終わってホテルに帰ると、その顧客から鞄を店に忘れたとの連絡が入る…時差ボケは恐ろしい。


3月20日(火)
10:30 忽然と現れた、恐らくは鎌倉末〜南北朝期の仏教美術の名品を、オフィスにて外部専門家や香港の専門家達と検分する。嗚呼、素晴らしい…。

13:30 ロックフェラーセンター地下のシーフード店「S」で、香港のボスと遅いビジネス・ランチ。此処はクラブ・ケーキ、ロブスター・ロール、そして帆立が美味い。ミーティングは順調に終わる。

19:00 アッパー・イースト・サイドのフレンチ「C」で、顧客十数名を招いてのディナー…夜からの大雪警報にビクビクして居たが、何とか大丈夫。この「C」は、何時行っても美味しくハズレが無い。この日はサラダと鴨、クレーム・ブリュレとダブル・エスプレッソを頂く…旨い。


3月21日(水)
7:00 久々の酷い時差ボケで早朝に起きて仕舞い、腹が減ったので開店と同時に階下のレストランへ走る。迷った末頼んだエッグ・ベネディクトはかなり美味しく、満足。然しEB好きの僕が人生で食べたEBの中で、今迄で一番美味しかったのは何処あろう台北のホテルのモノ…台北?と思うかも知れないが、その時僕自身も驚いたので聞いたら、何とシェフが英国人だったので納得。

12:00 雪の中顧客とのランチの為、連日の「C」へ。プリ・フィクスのコースでも十分に美味しい。此処は本当にいい店だ。然し思えば、去年の藤田セール前日も大雪だった。

14:00 インド系の顧客管理担当者Uとのミーティング。彼女とのミーティングは何時もハードだが、僕には最早M的感覚も出て来たらしく、待ち遠しい気もする(笑)。

15:00 今やって居る、カテゴリーの跨る個人コレクションに関する打ち合わせ。

19:00 父親が70年代から集めた、室町水墨を中心とする日本絵画のコレクションを去年一括して売って頂いた、老齢の女性顧客と寿司店「S」で食事。流石大雪の中、客は僕ら以外3組だけだったが、お陰でゆっくりと食事が出来た。顧客から友人に関係性が変わっても、僕の彼女への尊敬は変わらない。


3月22日(木)
9:30 某コレクションに関する緊急電話会議…うう、頭が痛い。

10:00 今回のAsian Art Weekの目玉、「臨宇山人コレクション・パートIII」セール開始。結果は1点を除き完売、1283万2750ドル(約13億6千万円)を売り上げた。今週のトップロットにも為ったのは、萬野美術館旧蔵の北宋「定窯黒釉鉄砂班文碗」で、421万2500ドル(約4億4600万円)。然し思ったより伸びなかった気がしたのは僕だけ?

13:00 久し振りにチェルシーに向かい、「B」でランチ。相変わらず美味過ぎるTシェフのパスタに舌鼓を打つ。

19:00 知り合いに勧められ、ロウワー・イースト・サイドに半年前に出来たと云う新しい寿司店「U」に。物々しい店構えから、店に入ってカウンターに座ると板長に見覚えが!もう何年も知って居るIさんで有った。中々美味しいが、如何せん高い…。

21:00 NYの古い友人2人と、ミッドタウン・イーストのホテルのルーフトップ・ラウンジ「B」で、久々の再会。1人は不動産会社の社長、もう1人は只今閉店中の家庭料理店主で、長い間お世話に為った気の置けない仲間。もう25年以上行って居るHの店が、漸く5月には開きそうだとの話を聞き、非常に嬉しい。


3月23日(金)
9:30 過去のセールの支払いに関するミーティング。買っておいて、支払わない人の気持ちが理解出来ない…(涙)。

10:00 今日もオークションは有るが、顧客周りに充てる。先ずはMIKA Gallery…書の作品が並ぶ。続いて行ったIppodoでは、辻村史郎等の現代茶碗展。Carol Davenportでは、牛頭天王の木彫や黒織部茶碗等を観る。

12:00 ダウンタウンの老舗ダイナー「D」で、ドイツ人現代美術家Iとランチ。ナム・ジュン・パイクの運転手の経験も持つ彼との付き合いも、長くなった。友情の為、彼の展覧会を日本で企画しようと心に誓う。

14:30 ジャパン・ソサエティで開催中の、長谷川等伯の展覧会「A Giant Leap: The Transformation of Hasegawa Tohaku 」を観る。作品は、アメリカで新発見された一隻屏風を中心に集められて居るが、等伯自体作品数が少ないのと、国宝松林図屏風が来て居ないので矢張り少し寂しい。然しビックリしたのは、会場入り口入って直ぐに有る本物ソックリの「リプロダクション」松林図屏風で、来場者に取っては非常に紛らわしいいのでは無いか?何故これが展覧会の「冒頭」に有るのかが一寸理解出来ない…ウーム。

16:30 この春のクリスティーズのAsian Art Weekが終了…1週間で総額5658万1500ドル(約59億4000万円)を売り上げた。たった31点で2億6000万ドル(約300億円)を売った、去年の藤田美術館セールが如何に凄かったかが分かる。

20:00 チェルシーの「B」でディナー。時差ボケで半落ち状態且つ大人数のディナーだったが、カラマリやシーザーサラダ、魚のカルパッチョ、パスタもイカスミやパルメジャーノ+生ハム、ウニのオイル等、Tシェフの腕を堪能。デザートはリコッタチーズ・ケーキとティラミス…極楽極楽。

23:00 ニューヨークの友人13人と、大カラオケ大会@コリアン・タウンの「D」。僕が帰って来ると聞いて集まって呉れた若い仲間達は、単に僕を出汁にしてただ飲み歌いたいだけなのだろうが(笑)、それでもかなり嬉しい。僕は「雪国」、「サボテンの花」や「安奈」、そして皆に感謝を込めての尾崎紀世彦また逢う日まで」等を熱唱。結局朝の3時迄歌い続けました!


3月24日(土)
10:00 やっと起床。喉が痛い。矢張りカラオケは「慣れ」だ。

12:30 ランチをどうしようかと思い倦ねた末、寒いかなとも思ったが、結局「Z」でサンドイッチを買い、ブライアント・パークの日向のデッキチェアに座る。今日は「March for Our Lives」のパレードが有って、子供から大人迄皆それぞれ手作りのプラカードを持って、歩きながら声を出して居るのが聞こえて来る。こう云う光景は、日本人からすると本当に羨ましい…森友や加計問題、首相夫人の関与を問い質す等のデモが少な過ぎると思うし、それを妨害しようする政府に辟易とする。

15:00 Ronin Galleryで開催中の国芳展を観る。此処の若旦那Dは若いのに遣り手で、然も性格が頗る良い、ナイスガイ。そして彼が企画している日本現代美術賞は、僕も審査員の1人をさせて貰って居る、ニューヨークでのアーティスト・イン・レジデンスを含めた立派なモノだ。Dの行動力と推進力に乾杯!


3月25日(日)
9:00 迎えに来た車に乗り、JFK空港へ。帰りは夕方迄に日本に着く、成田便だ。

12:00 全日空機が出発。機内では再び映画を2本観る。先ずは「ミックス。」…ガッキー主演のピンポン物で、ガッキーは犯罪的にキュートだし、意外に面白い。ストーリーは在り来たりなのだが、瑛太蒼井優の演技がヨロシく(特に蒼井の中国人妻役が、最高に可笑しい)、瑛太がガッキーを迎えに来る時の「愛と青春の旅立ち」のパロディもウケる。もう一本は、第90回アカデミー賞に於いて作品賞・監督賞等4部門の受賞となった、ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」。マイノリティー救済的なストーリー自体は良く有る話だと思うが、口のきけないヒロインを演じた主演のサリー・ホーキンスが実に魅力的で、彼女の存在こそが本作の価値を高めて居ると思うが、この作品が作品賞を獲る程の出来かと云われれば、「スリー・ビルボード」の方が映画として遥かに優れて居ると思った。が、この作品の最後の最後にナレーションで語られる「詩」が余りに素敵で、この作品の後味を最高なモノにして居る。


3月26日(月)
15:00 成田着。日本の余りの暖かさに驚くが、家に戻って窓から見た千鳥ヶ淵の桜が狂った様に満開で、ほんの数日前雪の中に居た事が信じられない。VIVA Japan!

19:30 友人と軽く食事をし、千鳥ヶ淵の夜桜見物に…人が多かったが、ライトアップされた桜はセクシーで美しく、本当にこの辺に越して良かったと嬉し涙する。


はてさて夜桜は最高だったが、最悪だったのは佐川元国税庁長官の国会証人喚問。国民の税金で今迄食べて来て(東大→財務省)、然も文書改竄を認めて居る癖に、国会と云う唯一の国民への説明の場に置いて「訴追の恐れ」等と宣い、肝心な事を何も喋らず自分の身の心配だけする官僚。「税金泥棒」とはこう云う輩の事を云うのだ。

余りにムカつくので、心を鎮める為に「The Shape of Water」のラストに語られる心温まるポエムを…。


Unable to perceive the shape of you, I find you all around me.
Your presence fills my eyes with your love.
It humbles my heart, for you are everywhere.


ーお知らせー
*古美術誌「目の眼」5月号(創刊500号記念号→https://menomeonline.com/about/latest/)に、僕のインタビュー記事が掲載されて居ます。ご一読下さい。

*「婦人画報」5月号、特集「東京案内2018」内「東京人に聞きました 極私的東京案内2018」に、僕の「オススメ東京」が掲載されて居ます。是非ご覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。