揺蕩わない心。

気が付けば、ダイアリーの更新もひと月出来ずに、7月に為って居た…ので、今日は先月の藝術+α体験を。


ー音楽ー
・「青少年名曲コンサート」@静岡市民文化会館:友人の招待で訪れた、静岡交響楽団の映画音楽+クラシックの音楽会。後半は日本人大好きのドボルザークの「新世界」だったが、前半は「インディ・ジョーンズ」や「ハリー・ポッター」、「スター・ウォーズ」等のジョン・ウィリアムズ作品が中心の映画音楽特集。他には「パイレーツ・オブ・カリビアン」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ジュラシック・パーク」、そして「ゴッドファーザー・愛のテーマ」だったが、僕の世代からすると「映画音楽コンサート」のライナップも大層変わったなぁ…」と云う感じ。それでも大好きなニーノ・ロータが1曲入って居たのには感謝感激で(笑)、その昔「サウンド・トラック・レコード」コレクターだった僕的には(嗚呼、嘗て渋谷に在った「Sumiya」が懐かしい!)、このニーノ・ロータヘンリー・マンシーニフランシス・レイエンニオ・モリコーネ、そして最近なら坂本龍一のメロディが聴きたい。映画音楽の「美しい旋律」は、今何処…。

高橋悠治「プレイズ・サティ」@代官山ヒルサイド・プラザホール:偶然にも、サティの命日に開かれた音楽会へ。高橋悠治と云うピアニストは、その昔クセナキスの演奏で知ったのだが、何ヶ月か前にバッハを聞いた時には首を捻った物の、今回はサティと云う事で、いそいそと出掛ける。最近高橋はサティの録音を40数年振りにしたそうだが、その甲斐も有ってか、小さいホールで奏でられたサティは、優しくノンビリと、そしてフワッとして居て、バタバタして居た此処数日の気分転換には持って来いだった。然し高橋悠治と云う人は、何ともキャラクターで有る。


ー舞台ー
山海塾「卵を立てることからー卵熱」@世田谷パブリックシアター:砂と水が落ち続ける舞台の中で繰り返される、静寂の歩行。然しここ数年、山海塾の舞台は海外でしか観て居なかった所為か、日本で観る事に違和感が有ったのは、一体何故だろう?日本の風土から産まれたモノでも、日本に合うとは限らないのかも。

・「第三回 三人の会」@観世能楽堂観世流の三派、即ち観世宗家・銕之丞家・梅若實家にそれぞれ「住み込み」弟子入りし学んだシテ方、坂口貴信・谷本健吾・川口晃平の三師に拠る会。今回は坂口師が能「野宮」、川口師が舞囃子「藤戸」、そして谷本師が能「邯鄲」を舞う。三師の舞は何れも良かったが、特に「邯鄲」は僕の大好きな曲で、「一炊の夢」と云う言葉とその夢の中での「もう一つの人生」の物語が魅せる。最後の舞の途中で、態と床を踏み外しそうに為って目が醒める、と云うのも曲として良く出来て居ると思う。その後は美味しい天麩羅を堪能…極楽極楽。


ー映画ー
・「48 yearsー沈黙の独裁者」@熱海国際映画祭:ニューヨーク時代の友人でも有る砂入博史監督の、熱海国際映画祭特別賞受賞作品。東京高裁に拠って再審請求が棄却された、袴田巌さんの48年間の拘禁生活を振り返るドキュメンタリーだが、重苦しくは無く、観て居る内に何故か袴田さんとヘンリー・ダーガーが被って来たのが不思議だった。それは半世紀にも及ぶ拘禁生活中、誰からも「独裁」されずに自分の世界を構築し、自分が世界の「独裁者」に為らざるを得なかった袴田氏の言動が、或る種「アーティスティック」と云えるからかも知れない。砂入監督、特別賞受賞御目出度う!


ー展覧会ー
佐藤允「+10」@Kosaku Kanechika:個人的にも大好きな佐藤允君の新作展は、タイトル通り10作品。彼の個性は画面から溢れ、観る者をその世界へと巻き込み、魅了する。その意味で佐藤君の作品は、小手先でないアートその物と云えると思う。展覧会後は皆でディナーに出向き、最近良くお会いする外国人ながら国文学の権威、C先生等と談笑。

・「人麿影供900年 歌仙と古筆」@出光美術館:歌仙絵の展覧会。会場では前日会ったルーブルアブダビ学芸員とバッタリ会い、子供のお土産にしたいと云うので、玩具店を教える。展覧会の注目は、「佐竹本三十六歌仙」が3本出て居る事で(2本はいつでも観れます)、特に個人蔵の「山部赤人」(7/1で終わり)は必見。その他にも岩佐又兵衛派の歌仙図や、其一の描表装の大名品も見もの。

・「ミケランジェロと理想の身体」@国立西洋美術館:同展レセプションへと向かう。「ミケランジェロ」と銘打っては居るが、実際は彫刻2点だけの出展なので、ギリシャ・ローマ、ルネッサンスの彫刻展と云える。世界で40点しかないミケランジェロの彫刻の貸し出しは難しいにしても、もう少し身体素描等が有ると思って居たので、そこが残念。

・「朝倉優佳展」@コバヤシ画廊:デザイナー山本耀司とのコラボが話題になったアーティストの新作展。具象と抽象の間の大画面に描かれる、大胆な色彩のストロークが力強い。作家は最近博士課程を終了したらしいので、その論文も読んでみたい。

・「ジャケ・ドロー 創業280年特別展」@銀座蔦屋書店Atrium:280年の歴史を持つスイスの時計メーカー、ジャケ・ドローの特別展レセプションへ。今回にこのご招待は、この展覧会の為に中国清朝乾隆帝にも愛されたこの時計の歴史と美術品的価値に就てコメントした為。個人的に江戸時代のからくり人形に興味が有るので、ジャケのオートマタの素晴らしさや、エナメル細密画に驚嘆する。

荒木経惟「恋夢 愛撫」@Taka Ishii Gallery:最近パワハラでアート界を賑わした、荒木の新作展。98点にも及ぶモノクロームは、荒木が標榜する「私小説」で満ちて居るが、問題と為ったモデルとの関係性も匂わせる。

・菅木志雄「放たれた縁在」@The Club:小山登美夫ギャラリー「広げられた自空」と同時開催の菅展。「もの派」の特徴で有る空間と素材は、時として芸術性を失い「ただ在るだけ」に為りかねない…そしてそれは展示スペースにも拠る、のかも知れない。コマーシャル・マーケットでの菅作品が、非常に興味深く為る展覧会。


ー文学ー
幸田文「台所のおと」:国文学者C先生に教えて貰った、「音」に関わる小説を読んでみた。幸田文の小説を読むのは実は初めてで、僕の知識内では幸田露伴の娘で映画「おとうと」の作者だと云う位しか無かったが、市川崑監督・岸恵子主演の映画作品は、貧しくも小さな家族の愛を巧く描いて居て、中々良い作品だった。さて本作は、病に臥す料理人が、その夫の為に台所で料理をする妻の包丁捌きや料理中の「音」で、妻の感情や身の回りの小さな世界を理解すると云う話で、これぞ短編小説と云う名作だった!特に最後の「雨」と「慈姑を揚げる音」を聞き間違える処等は、秀逸…と思ったら、孫の青木玉に拠ると、それは露伴のエピソードだとの事。それでも素晴らしい一編でした!

宮沢賢治セロ弾きのゴーシュ」:最近チェリストと親交が有る所為か、実家に帰った時にふと自室の本棚で見つけ、恐らくは40年以上振りに読んだ。然し、何て厳しくも優しいお話なのだろう!「人は決して1人ぼっちではない」「精進は報われる」と云ったテーマは普遍で、賢治の死の翌年(1934年)に出版されたのだから、80年以上経った今読んでも心が洗われる。毎晩イライラしながら動物達と特訓する様は、賢治自身もチェロを習って居たらしいから、若しかしたら彼自身の経験かも知れない。今度チェリストに、何が一番イラつくか聞いてみようと思う(笑)。

原田マハ「たゆたえども沈まず」:パリ市の標語から用いられたタイトルは、弟テオを主人公として進む、ゴッホ兄弟の物語。ジャポニズムの主役達、林忠正や若井謙三郎、サミュエル・ビングやゴンクール兄弟、ドクター・ガシェ、フィリップ・ビュルティやタンギー爺さん、そして勿論印象派の画家達が登場し、世紀末パリのジャポニザン事情を背景に、其々37歳と33歳でこの世を去ったゴッホ兄弟の葛藤が語られる。浮世絵と印象派は実はとても良く似て居て、新しさ故のアカデミズムからの蔑視を乗り越えて、芸術として認められた経緯が有る。その当時最もカッティング・エッジな「現代美術」の有り様は、今のアーティストにも参考に為るに違いない。


ーその他ー
・「青花の会」:神楽坂で開催された骨董市。4箇所に分かれての開催なので、夕方歩いて廻るのも楽しい。或る店に飾って有った梅原龍三郎の小品に心惹かれ、最後迄悩むが、結局諦める。骨董も人生も「諦め」が肝心な時も有るのだ(笑)。

・第20回国際浮世絵学会春季大会@法政大学:理事を務めて居ながらも忙しさに感けて居て、久し振りの大会へ。今回は公私共に長年お世話に為って居る京都の版画商、「絵草子」の山尾剛さんが学会賞を受賞されたので、本当に嬉しい。浮世絵自体が江戸町人文化の生まれの為か、京都では余り重要視されない中、その反面外国人観光客も多い新門前に店を構えて、上方・江戸に拘らない「日本」文化を長年発信・継承されて来た功績は大きい。山尾さん、御目出度う御座います!

・アダチ伝統木版画技術保存財団理事会@交詢社:僕が理事を務めさせて頂いて居る、財団の理事会へ。事業報告等を聴くが、昨今摺師・彫師の人材が深刻に不足して居る事に危惧を覚える。折角美大で教えて居るのだから、次の授業で生徒達に問いかけてみようと思う。

・別荘訪問:諸般の事情でもう数十年も行って居なかった、湯河原の別荘を母と訪ねる。運転を買って出て頂いた能楽師夫妻と向かったが、住所が分かっては居ても迷う。母の記憶では「某大手出版社の創業者の御宅の向かい」だったのだが、肝心のその御宅が中々見つからず、終いには能楽師さんのお知り合いで、僕も小説を何冊か読んだ事の有る女流作家Tさんに尋ねて、やっと別荘に到着。彼の地は想像通り「廃墟マニア」が萌えそうな程の荒れ放題だったが、能舞台の鏡板や柱が無事で驚く。子供の頃には泳げる程大きかった(と記憶して居た)温泉を引いた岩風呂は小さく見え、叔母が中村外二工務店に頼んだ茶室には物が積まれて居て入れず、検分は次回に延期。複雑な感情の母の涙が印象的だった。

・ワールドカップ・サッカー「日本VSポーランド」:今回の日本代表は確かに頑張っては居るが、巷の6、7割がこの試合の最後の10分間を肯定して居る事が、僕には到底信じられない。先ず以って、「ルールに反して居る訳では無い」「決勝トーナメントに行く事こそが目的」「これは勝負だから」とか云う意見が有るが、それならば引き分けでトーナメントに行けるこの試合、最初から最後までキーパーとバックスの間でずっとパス廻しをして居れば良い事に為る。「勝負事」とはそう云う事では無いし、負けてこそ学ぶ事が有るのが「勝負事」なのだから、精一杯死力を尽くして戦うべきでは無いか。これでベルギー戦で大負けしたならば、只でさえ世界の笑い者が大笑われ者に為るだけだし、この「セコさ」は今の日本を象徴して居る様で本当に苛つく。大体主力6人も変えて「温存」等、最後迄戦う世界のチームに対して烏滸がましい…彼等は最後の10分間、死に物狂いで「1点」を獲りに行くべきだった。サッカーだけで無く如何なる事でも、レヴェルの低い者が己のその低さを心底知る事が出来るのは、自分よりレヴェルの高い者と「全力」で戦って散る時だけなのだし、そして「地位」とは、「実力」が伴わねば却って恥ずかしいモノなのだから。


今夜の日本代表には「ベスト●●」等と云う下らない波に揺蕩わず、頑張って欲しいと思う。


追伸:先程、桂歌丸師匠が亡くなったのを知った。もう20年程前の話だが、僕が友人の骨董商の結婚披露宴に羽織袴姿で出席した時、宴に途中で新郎が「おいおい、君は新婦の友人席で落語家に為ってるぞ!」と云いに来た。それは何故なら、和服姿の僕が「桂、桂」と会場で呼ばれて居たのと、意地の悪い新郎が「向こうに居る和服のアイツ、桂歌『麿』って云う落語家なんだぜ!」と吹聴して居たからだったが、知らぬ間に落語家「桂歌麿」にされた僕は、仕方無く袂から取り出した扇子を開いて酒を飲んだり、今度は畳んで蕎麦を食べて見せたりして、新婦友人席から盛大な拍手を貰ったのだった…。他人とは思えない歌丸師匠のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「インターステラー理論」のお陰。

5月14日(月)
11:00 僕が審査員を務めた、昨年の「青森トリエンナーレ棟方志功国際版画大賞」の入賞者、山田ひかるさんの展覧会へ。女子高生を主人公にした少々エグいテーマで有ったりもするが、サー・ジョン・エヴァレット・ミレーの名作「オフィーリア」を思わせる墨一色の木版画は、迫力と新しさに充ちる。

21:00 アメリカ出張の為に羽田空港へ。ラウンジでは現代美術ディーラーのM氏にバッタリ会い、四方山話…そろそろニューヨーク進出との話を聞く。未だ精力的なM氏に感動。

23:00 搭乗し、食事中から映画を観ようとするが、ラインナップがイマイチで、仕方なく「嘘」に関わる邦画2本を観る。1本目の「嘘」は、昨年来同業者から「観た?観た?」と聞かれ続けて居た、中井貴一主演の「嘘八百」。利休所持の幻の楽茶碗の贋物を作って売ると云うコンマン・ストーリーだが、映画自体は安っぽく、何て事は無い…が、『文化庁の人間が「大日如来の一件」で、海外流出に厳しくなった』話や、映画の最後で海外オークションに出そうと企む連中の、「早速クリスティーズが食い付いて来ましたで!」と云った台詞には驚く。特に後者には、「おいおい、一体誰の許しを得て社名使ってるんだ?」と云いたい(怒)。2本目は「Tsutaya Creaters’ Program Film 2015」のグランプリ作品、「嘘を愛する女」。ストーリーは在り来たりだと思うが、主演の長澤まさみ高橋一生吉田鋼太郎がそれなりの演技を見せて飽きない。ただ、『「捨てたく為る程の過去」を持つ人間の痛みは、中々本人からは語られず、其れが無い者には非常に判り辛い』と云う現実を突き付けられる。現在の「生」は、如何なる過去だとしても、その過去の「結果」でしか有り得無いのだ。


5月15日(火:アメリカ時間)
10:00 修復家を伴って、顧客宅へ。相変わらずお元気なご夫妻に会えて、嬉しい。

12:00 顧客家族、修復家と寿司ランチへ。然し寿司は、ここ10年で外国でも飛躍的に美味しく為った。このプロジェクト、是非とも上手く行って欲しい…。


5月16日(水:アメリカ時間)
11:30 顧客家族と再びランチ…今日はステーキだ!80歳をとうに越えたクライアントの食欲は旺盛で、毎度思うが「肉を食べる老人」は須らく元気。岩の様な形状の、然し柔らかいステーキを頂きながら、打ち合わせ。帰りには、素敵なアクセサリーのお土産を頂く。

25:30 某都市空港から帰国便に搭乗。帰りの機内では、阿部寛松嶋菜々子主演のミステリー邦画「祈りの幕が下りる時」を観る。プロットは流石に良く出来て居て、面白い。また松嶋菜々子の可愛さは未だ健在で、僕は実は大好きだったドラマ「Sweet Season」以来のファンなのだが、45歳・二児の母としては、かなり上手く年を取って来て居ると思う。


5月18日(金)
5:00 羽田空港到着。深夜に出発し、寝て、明け方に日本に到着、は中々宜しい。

12:30 久し振りに会う顧客と、某大名品に関する打ち合わせランチ@銀座「G」。今年も始まった「パリソワ」を味わう。この大名品は、僕が人生で観た如何なる作品の中でも美しい作品…良い所に嫁入りさせたい。


5月20日(日)
15:30 静嘉堂文庫美術館で、「酒器の美に酔う」展を観る。中国古代青銅器から、朝鮮・日本の酒器を所蔵品から展示する。が、何と云っても目玉は特別出品の国宝「曜変(稲葉)天目」で、3碗全て国宝として存在する曜変天目の中でも、一際派手で美しい。階下で上映されて居たヴィデオも大変良く出来て居て、勉強になる。その後は学芸員の方と懇談。

19:30 ミッドタウンの「U」で、友人とディナー。食事中、向こうの席で結構な大声で話して居る家族が居て、気に為って見ると、何故かその声の主に見覚えが…良く見ると、何と小中高同級生だったKでは無いか!Kはドイツ人とのクォーターで、Kを含めた3兄弟は皆ハンサムで有名だった。在学当時、兄のCは雑誌「メンズクラブ」、弟のCもモデル、そしてKはこれも当時大流行してた雑誌「ポパイ」のモデルで、最近は大層体重も増えた様だが、カメラのCM等にも出て居たのを見た事も有る。Kと一緒に居たのはご家族で、綺麗な奥様に超ハンサム&美人の息子と娘、流石で有る(笑)。さて、僕が通って居た高校は小中高一貫教育の男子校で、だが僕達の降りる駅周辺には有名女子高が三校位在って、僕の惨めな男子校生活はその事に因って、その悲惨さがほんの少し緩和されて居た訳だが、Kに取ってのその三女子高の存在は、僕の眼には飽く迄も「彼の誕生日」の為に有った、と思える程だった。それがどう云う事かと云うと、Kは自分の誕生日が近く為ると、駅のプラットフォームを僕等とチンタラ歩きながら、「そう云えば、もうそろそろ誕生日だなぁ…」と周りに聞こえる程の声で呟く。すると僕等の誰かが「あれ、いつだっけ?」と聞と、「ああ、来週の水曜!」等とKが答える。そしてまた誰かが「おい、K、最近は何か欲しいモノあんの?」と聞くと、「そうだなぁ、『カウチンセーター』かなぁ?」とこれも少し大きい声で答える。そして迎えた次の水曜日の朝、僕等がまた駅のプラットフォームをチンタラ歩いて居ると、女の子が駆け寄って来て、「Kさん、お誕生日おめでとうございます!」と云いながら、ラッピングされたモノをKに渡す。するとそこいらに居た異なる制服を着た女の子達が一斉に、「K君、お誕生日おめでとう!」とカウチンセーターを持って来るのだ!そしてKは恐らくは20着程のカウチンセーターを貰い、僕等が其れ等を持つのを手伝って、登校するので有った…「人生とは不公平だ」と実感した青春の一コマで有る(笑)。


5月21日(月)
11:00 関西の顧客を同僚と訪ね、色々と作品を拝見しながら、某名品を如何に売るか考える。これはマーケティングが必要だ。

16:00 骨董屋さんを訪ねる。仕事中に頂く、良い高麗茶碗での一服はタマラナイ。


5月22日(火)
11:00 久し振りに南蛮文化館に向かい、展示を拝見。南蛮文化館は今年が開館50周年だが、年に2カ月間しか開いて居ない、知る人ぞ知る美術館。収蔵品は屏風や漆器等、誠に素晴らしい南蛮美術の宝庫。Y館長もお元気そうでした。

13:00 新しく中之島に開館した、香雪美術館へ。学芸員の方にご挨拶をすると、早速開館記念展第2弾の「美しき金に心をよせて」へ。有名且つ超可愛い重文「稚児大師像」から始まり、「これ以上に状態の良い『桃山屏風』が有るだろうか?」位に状態の良い、大好きな「レバント戦闘図・世界地図屏風」迄、最初から最後ま迄、「金」三昧。次回の「茶の道にみちびかれ」も楽しみだ!

15:00 奈良へ向かい、奈良博で特別展「国宝 春日大社のすべて」を観る。云う迄も無く素晴らしい展覧会で、特に絵画パートがスゴい。宮曼荼羅、鹿曼荼羅、社寺曼荼羅を含めて、これだけの春日曼荼羅を一度に観るのは中々無いし、僕が人生で2回だけ扱かった「春日宮曼荼羅」の内の1つが出ていたのも嬉しい。季節は桜の散り際、その桜が見える小さな茶室に横たわり、側には美しく優しい女性、床には宮曼荼羅と出来の良い興福寺千体仏、そして大好きなお茶碗で一服頂きながら、西行の歌を口遊み乍ら、逝きたい…と云うのが、僕が死ぬ時の夢の状況。そうは問屋が卸さないだろうなぁ(涙)。

16:00 某氏のご厚意で、某大名品を倉庫で拝見する。出るのは溜息と感謝の言葉ばかり…。

17:00 近鉄奈良駅への帰りの道で、歩道に居た鹿が、何故か急に物凄い勢いで此方に向かって走り出し、驚いた外国人同僚が引っ繰り返って仕舞う。最近鹿の一群が市街を爆走する映像を見たばかりだったが、実際に体験すると恐ろしい。春日の鹿達は、成る程あの速さと勢いで「鹿島神宮」から来たんだから、そりゃ強いわな。


5月23日(水)
12:30 名古屋の方が居らして、青山のフレンチ「R」でランチ。冬に僕が担当する講座の打ち合わせ。この「R」には初めて伺ったのだが、中々に美味しくて、序でに最後にお抹茶が出て来るのが面白い。そのお点前は、宗和流のU宗匠のご指導との事…お茶事でご一緒したのが、もう懐かしく思われる。

15:30 オフィスで顧客に会い、某作品の契約を頂く。この作品はその分野では最もレアなモノで、価格も高いが世界にももう無い。売れるか知らん?

20:00 長年の友人編集者とチェリストと、蛎殻町の寿司屋「K」でディナー。相変わらず美味いK君のお寿司を摘みながら、チェリストの電車&飛行機オタク話で盛り上がる。


5月24日(木)
14:00 仏教美術専門の古美術商を訪ね、仏像等を観る。然し仏教美術とは不思議なモノで、仏教自体に信仰の無い僕でも惹かれるし、例えば藤時代のモノでも、「良くぞ残って来た!」感が他の分野のモノよりも強い…何故だろう?

15:00 ペロタン東京で開催中のDaniel Arshamの展覧会、「Color Shadow」を観る。天然物質から作り出される彫刻は、石膏や金属、そしてブロンズを含む鋳造作品だが、その素材感の無いぬいぐるみ作品が面白い。

15:30 階上の現代美術画廊で、オーナー氏と懇談。美術品の価値とは、価格が全てでは無い…希少性こそ重要かも知れない。

17:30 ウチの舞台を借りて貰って居る観世流喜多流の能役者2人を、母が招いたディナー@「O」へ。若手ながら実力者のこの2人は、将来の能楽界を背負って立つかも知れない。


5月26日(土)
5:30 迎えの車に乗って、香港に行く為羽田空港へ。ラウンジでは某古美術商とばったり。

9:00 全日空便は、映画のラインナップが良く無い…ので、「コード・ブルー」と云う緊急医療モノの連続ドラマを観るが、何とこれにハマる。ガッキーや戸田恵梨香比嘉愛未が可愛いし、有り勝ちとは云え、ストーリーも面白い。元々医療モノのドラマ好きで、このドラマも悪くは無いが、どう頑張っても「白い巨塔」には敵わない。

14:00 香港到着。蒸し暑い。体調優れず。

22:00 今晩のアジア20世紀&現代美術イヴニングセールは、10億4039万香港ドル(約147億円)を売上げ、これは香港でのこの分野での史上最高価格。相変わらずザオ・ウーキーが強く、中国マーケットも強い…まぁ「アジア」と云っても、バスキアやヘリング、ドイグやボカプーア等も出て居たのだけれど。


5月27日(日)
9:30 今回の香港出張は、ほぼほぼ会議とミーティングに明け暮れる予定。その第1弾は、専門家達と今手掛けて居る某コレクションに関する打ち合わせ。数が多いので、どう捌くか?が問題。

10:30 今回の香港には、大阪美術倶楽部の理事の方々20名が研修旅行で居らっしゃるので、そのお出迎え。美術商には元気な人が多い。

11:00 今日のミーティング第2弾、某個人コレクションに関する打ち合わせ。この仕事はマーケティングとタイミングに掛かって居る気がする。

12:30 ミーティング第3弾。在米コレクションの打ち合わせ。二転三転するこの仕事は、然し僕の仕事の集大成に為るやも知れない大仕事。頑張らねば!

17:30 全世界CEOと、初の1:1ミーティング。フランス人で有る彼は、日本的な仕事スタイルに詳しく、例えば「根回し」と云う言葉も知って居る程(笑)。昨年の僕の大仕事や、今やって居る仕事も承知して呉れて居て、一寸嬉しい。

19:00 大阪美術倶楽部の方々20名を招待してのディナー@「D」。この場所は中国及び欧米の現代美術コレクターが作品を飾って居るお洒落な店で、料理はコンテンポラリー・カントニーズ。和気藹々とした、良いディナーでした!


5月28日(月)
10:30 香港での絵最後のミーティング。某コレクションの売却を頑張って来たが、今回のバイヤーとは金額が折り合わず、ギブアップ。残念だが、こんなコレクションは世界広しと云えども他には無いのだから、何時か売れるに違いない!

13:00 香港セールは続くが、別の重要ビジネスの為帰国するので、チェックインしラウンジに入ってムシャムシャ食べて居ると、何処からか「孫一さん!」と云う声が…顔を上げると、其処には友人のアーティストK氏が!K氏はヨーロッパのギャラリー所属で、香港にもアトリエを持ち、クリスティーズのオークションにも作品が出る世界的な作家で、最近はバンドも始めてレーベルも作る勢い。K氏とは、目黒でやった西野達と椹木野衣さんの芸術選奨のお祝い飲み会以来だったが、マネージャーでパートナーのAさんも登場し、嬉しくも偶然な再会でした!

15:00 機内では相変わらず「コードブルー」を観る。観てる内に、ドクターの1人の浅利陽介と云う役者が好きに為って、コメディもシリアスもやれそうなこの役者の、「演技派的演技」の映画を見て観たいと思う。


5月29日(火)
14:00 或る方に招かれ、銀座に在るスイスの超高級腕時計ブランド、「Jaquet Droz」のショウルームへ。このメーカーは1738年の創業と云うから、今年で280年の歴史を持つ。クリスティーズの創業は1766年だから彼方の方が28年程先輩だが、18世紀創業同士と云う事で、何と無く好意を持つ。幾つか作品を見せて貰うが、オートマタやエナメル絵画装飾等も作って居ると云う事で、その技術と美の感覚には、清朝乾隆帝もラッキナンバー「8」のデザインでオーダーしたと云う事実も信用出来る。

19:00 某美術館理事長とそのご友人の一部上場企業の社長氏と、月島で「超下町」ディナー。頂いたのはアジフライ、ハムカツ、マグロユッケ等だったが、軽くサクッと揚げられたアジフライは特に美味く、アジフライ大好物の僕には超ハッピー。


5月30日(水)
16:00 千葉市美術館で始まった、「岡本神草の時代」展のオープニング・レセプションへ。この作家の事は知らなかったが、この大正京都のアーティストは、決して関東には居ないタイプ。浮世絵美人画の流れを汲んでは居るとは思うが、展覧会を観て行くとこのアブナい感じの画風は、幕末大阪の絵師祇園井特を思い出させるし、甲斐庄楠音にも通じる。然し知らない絵師は沢山居る物だ!

18:30 レセプションを終え、総武線快速で帰京。が、東京駅の改札を出る時に、ズボンのポケットに入れて置いた、千葉駅で1万円チャージしたばかりのパスモが無い事に気付く…どうも座席に落としたらしい。慌てて駅員さんに云うと、「乗って来た電車が品川で折り返して居るので、今ホームに戻って折り返しに乗れば、席に有るかも知れない」と云うので、ダッシュでホームに戻ったが、丁度ドアが閉まって仕舞い、満員の乗客を乗せた電車は目前で走り去った。嗚呼、こりゃダメだな…と思い、家に帰ったが、念の為にとJR遺失物センターに連絡したら、何とそれらしき物が届いて居ると云うでは無いか!翌日取りに行く事にする。


5月31日(木)
9:00 「紀州ドンファン死亡」事件を知り、何て「推理小説」っぽい事件かと思う。数十億と云われる資産、本人の死の前にもがき苦しんで死んだ愛犬、3ヶ月前に結婚した55歳年下の妻、家政婦、解剖で分かった覚醒剤の大量摂取、半裸で椅子に座っての死、上階の物音の時刻とと死後硬直の時間差…おいおい、エラリイ・クイーンか?

12:00 今やって居る仕事に関わる某エキスパート氏と、明神下「K」でランチ。この方とはもう長いお付き合いだが、外国の有名美術館のコンサルタントも務める、真のエキスパート。美味しい食事と打ち合わせを堪能する。

18:00 無くしたパスモを受け取りに、東京駅の遺失物お預かりセンターに行く。偶々チャージした時の領収書を持って居たので、その末尾4桁で僕のパスモだと証明され、無事手元に!勿論中身の金額も同じ。然し日本って、信じられない位に、何て親切で誠実な国なのだろう…長い外国生活経験者には、もう涙しか出ない。アメリカだったら有り得ないよ。


気が付けばもう6月…いや、「インターステラー理論」のお陰で「未だ」6月、と云おう。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「熊野(ゆや)」な日々。

4月21日(土)
17:00 某オークションの或るロットが気に為って電話ビッドをするが、儘為らない…残念だった様な、良かった様な(笑)。

19:00 Terada Art Complexのオープニングへ。先ずは3FのURANO…梅津庸一キュレーションのグループ展「共同体について」。梅ラボのキュレーションと有って、自身を含む7人のアーティストの面子も面白いが、残念ながら僕の好みではない。続く山本現代では、小林耕平の個展「あくび・指南」が開催…近年インスタレーション作家として名を挙げて居る小林の作品は、古典落語を基にした物。が、この日の目玉は5FのKosaku Kanechikaで始まった、鈴木親「晴れた日、東京」と「Mirror of Fashion」の2つの写真展だ。パリ在住のファッション・フォトグラファーで有る鈴木の作品は、僕には何故かアートの領域を侵して居る様に見えて、其処こそが興味深い。そして成山画廊とのコラボ企画は、「成山数寄」満載の作品選定で、其処に居るフリークスでさえ美しく愛おしい。必見だ!

20:30 その鈴木・成山両氏をメイン・ゲストに、現代美術家コレクターのS氏やT氏、デザイナーの方やパリのフォトグラファー、そして若くて美しい女優KさんやアーティストS君等と、総勢14名で「T」でディナー…閉店迄盛り上がりました!


4月22日(日)
8:30 朝起きてテレビを付けると、以前舘ひろしが出て居た超ダサい「ハズキ・ルーペ」のCMの新ヴァージョンが!この商品の旧「舘ひろしヴァージョン」は、「娘とパパ」が高級レストランで久し振りに会って食事をする、と云うシチュエーションなのだが(→https://www.youtube.com/watch?v=Wb-FlW4qF0c)、どう見ても「愛人とそのパパ」にしか見えない所がキモい。が、今度の出演者は何と渡辺謙菊川怜と云う「訳あり」コンビで(→https://www.youtube.com/watch?v=wObXLdAjC0w)、もう泣きたく為る位、謙さんも菊川もダサ過ぎる…どうした謙さん、そんなに仕事がないのか?(涙)

9:00 日曜美術館「ヌードがまとうもの〜英国禁断のコレクション」を観る。横浜美術館で開催中の本展、是非とも観に行かねば!だが、番組にいきなり乳首も露わなヌードモデルが登場し、「おいおい、日曜の朝のNHKでか?」と驚く。その上、作家島田雅彦氏が出て来たのにもビックリ…が、良く考えれば今日のテーマにはピッタリか(笑)。久し振りに拝見する島田先生、お元気そうでした。

13:00 国立能楽堂に「観世九皐会別会」を観に。この日のメインの演目は能「戀重荷」と「道成寺」…二曲共僕の大好きな曲で、期待大。この二演目は、双方共「女性の底知れぬ恐ろしさ」を表現して居るので、もう恐怖心無しでは観れない、僕に取っては或る意味「サスペンス・ホラー能」なのだが(笑)、そんな期待は逆の意味で見事に裏切られて仕舞った…。先ずこの日は謡がバラバラで、女性能楽師の声は掻き消されて仕舞うし、間違える地謡も出る始末。そして「道成寺」では、特に乱拍子で小鼓とシテとの間の緊張感に欠け、これは小鼓側の問題かと思うが、致命的。番組全体的にも何処かピリッとした所が無く、大丈夫か?と感じて仕舞う程だった。今後是非とも頑張って頂きたい。


4月24日(火)
10:30 出光美術館で開催中の展覧会、「宋磁ー神秘のやきもの」を観る。宋時代の焼物は中国陶磁器の「美の極致」と云っても過言では無いが、その美しさの大部分は「宋時代」の文化的センスから来る「品の良さ」で、それは日本で云えば平安時代の美術に匹敵するモノだ。青磁白磁・青白磁を代表選手とする、シンプルで壮麗な作品群は必見。

18:30 香港のボスを連れて、森美術館で始まった15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子がもたらすもの」の、オープニングレセプション・内覧会へ。然し最近の美術館の「内覧会」とは名ばかりで、物凄い人で溢れ返るケースも多く、何しろこの日も招待客が長蛇の列で開場を待つ始末。「こりゃ、また来なきゃ…」な人出で、展覧会をキチンと内覧出来ずに帰る。美術館にはこの辺に関して、再考を促したい。

20:00 そのフランス人ボスと、神田の弟の店「I」でディナー。久々に打ち解けて話をする。フランス人が苦手と云う人も周りに多いが、哲学的な人が多いので「話せば分かる」事も多いから(笑)。


4月25日(水)
10:30 大雨の中、重要顧客の所へお詫びに。僕の仕事は、感謝を述べるか謝るかの何方かがその大半を占める…はあぁ(嘆)。

15:30 銀座の顧客を訪問し、或る名品に関する打ち合わせ。僕にこの分野の作品が売れるだろうか?

17:00 某ホテルのラウンジにて、僕の永年の夢で有る或る企画に関しての打ち合わせ。江戸を現代に蘇らせるこの企画、何とか実現したい。


4月26日(木)
11:00 今年から名称も変わった、「東京アートアンティーク〜日本橋・京橋美術まつり」へ。先ずは老舗繭山龍泉堂の「土偶展」。ここ数年土偶(及び縄文土器)は大変なブームで値段も高騰、然しその魅力には抗し難い。が、古代モノには何時も真贋の問題が伴い、特に日本では土偶縄文土器の取引の際に、「C14年代測定」のテスト結果等を添えないので(添えれば良いと云う訳では無いが、無いよりは安心出来る気がする)、少々尻込みして仕舞う。その後色々と店を訪ねるが、例えば「花径」では可愛い有元利夫の版画作品に惹かれ、「草友舎」では一瞬古画かと見間違える程に味の有る、不染鉄の観音像に見入る…が、もう売れてた(涙)。

15:00 某コレクションの査定に関する打ち合わせを、オーナーと。是非扱いたいコレクションだ。

18:30チェリストの友人と、焼肉ディナー@銀座「U」。「ザブトン」が余りにも美味すぎて、涙が出そうに為る。

20:00 友人のアーティスト舘鼻則孝氏の、革製品展示注文即売会へ。表参道のスタジオに行くと、新しい皮の香りが購買欲を唆る。僕は彼のトートバッグを愛用して居るのだが、年々まるで日本工芸品の様な味が出て来て、良く為る。今年はリュックが超魅力的。


4月27日(金)
13:00 後輩K君と大阪出張に出掛け、重要クライアントとミーティング。この仕事も早く完結させねば…。

15:00 某古美術商を訪ねて打ち合わせをするが、その時出て来たお茶碗に目が釘付けに為る。「病膏肓に入る」とは、当に骨董数寄に使う言葉だ。然し高麗茶碗とは、何とセクシーなのだろう!


4月28日(土)
13:00 帰国後初めてのゴールデン・ウィークのスタートは、「李朝」展を拝見しに日本橋の「壷中居」へ。伝世の作品で綴られる本展は略完売で、流石朝鮮物の老舗の一言。僕も李朝物は昔から大好きで、嘗ては白磁杯や石箱、華角貼の糸巻等の工芸品も持って居たが、僕が愛玩し今は母の手元に有る三島の扁壺も、実は壷中居来歴のモノ。取り返したいが、敵もさる者引っ掻く者…諦めようか(笑)。

17:00 日本橋の骨董店を巡った後は六本木に向かうと、アートコンプレックスの各ギャラリーを訪問し、ライアン・マッギンレーや高畠依子、榎倉康二等を観る。その後隣のピラミデビルに移り、Kawsをペロタンで観るが、未だにその良さが分からない。国内オークションでもバカ売れと聞くが、一体全体この作家の何処が良いんだろう?

20:00 ホテル内の寿司店「K」で、某美術館関係者と食事。然し美術館内の政治も、外に違わず聞くからに難しそうで、同情する。どの世界も政治に関わらずに生きて行ける事程嬉しい事は無い、と実感。


4月29日(日・みどりの日
10:30 北陸新幹線に乗って、久し振りの金沢へ。今回の目的は、金沢美術倶楽部の百周年を記念した3つの展覧会、則ち「美の力」@石川県美、「Power of Art」@金沢21世紀美術館、「茶事の妙」@金沢市立中村記念美術館を観る為だった。が、その中でも僕の最大の興味は、5年前に根津美術館で開かれた「井戸茶碗展」にも出品されなかった個人蔵、幻の大井戸茶碗「筒井筒」 だ!

13:30 金沢に着くと、早速石川県美の「美の力」展へ。ゴールデンウィークなので大混雑と思いきや、会場の余りの人気の無さと静けさに驚く。そして展覧会はスンバラスィ作品群で、もう溜息の連続…その中でも長次郎黒楽「北野」と赤楽「次郎坊」、奥高麗筒茶碗「子のこ餅」、名越四方釜、井戸茶碗「福嶋」や粉引茶碗「楚白」、斗々屋茶碗「毘沙門堂」等にヨダレが止まらない。

15:30 重厚な展示だった県美を堪能すると、今度は裏の山道を降り、こじんまりとした中村記念美術館で開催中の「茶事の妙」展へ。其処で入場料を払って入ろうとして居ると、後ろから「桂屋さん?」と声が掛かり、驚いて振り向くと何と数日前に京橋骨董祭りでお会いした、某茶道具店の方がお母様といらして居たので有った…世の中、本当に悪い事は出来ない(断言しますが、何もしてません!笑)。そして展覧会の方はと云うと、中々味の有る展示だったのだが、何しろ初めて観る重文大井戸茶碗「筒井筒」に圧倒され、頭がクラクラ。これは僕が今まで観た如何なる井戸茶碗の中でも、最高のモノだと思う。そしてこの茶碗に纏わる有名な話が有って、それは秀吉愛玩のこの茶碗を小姓が落として5つに割って仕舞い、怒った秀吉は小姓を手討ちにしようとするが、其処に居た細川幽斎伊勢物語第二十三段の「筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに」を基にした狂歌、「筒井筒 五つにわれし井戸茶碗 咎をば我に 負いにけらしな」を詠み、その場を鎮めたとの逸話。然しこの「筒井筒」、何度観ても素晴らし過ぎる茶碗で、個人的には「喜左衛門」や「細川」よりも優れて居る様に思うし、その風格・品格全てに於いて、最高の茶碗だと思う。そして「個人蔵」で滅多に観る機会が無いと云うのも、この茶碗の価値を高めて居る…「真の名品」は、余り世間の目に晒す物では無い。

19:00 合流した友人と、カウンター割烹の「T」へ。此処は某茶道具商から紹介された何とも云えぬ場所に有る小さな店で、ご主人は大阪の名店「K」で15年以上修行された、ルックスもまるで修行僧の様な方。が、料理は非常に繊細でかなり美味しく、流石金沢の意気を感じる。幸せスグル。


4月30日(月・振替休日)
11:00 東茶屋町へ観光しに。古い遊郭が残るこの街での個人的目玉は、重要文化財の「志摩」…文政2年に建てられたこの建物は、遊興の為の高い天井を持つ、二階建の茶屋だ。良く残って居る物だと思ったが、「現存茶屋として唯一の重文」と云って居たが、「角屋」はどうなるのだ?確かあれも重文では無かったか?

12:30 此方も某茶道具商のご紹介、茶屋町内の寿司屋「M」へ。美味しい季節・地場のネタを、風情の有る店の佇まいで頂く。美味い。ご主人と話すと、近い将来東京に進出するとの事…楽しみだ!

14:00 今回の金沢の最後の目的地、金沢21世紀美術館へ「Power of Art」展を観に。館に着くと物凄い人出に辟易するが、肝心のこの展覧会場には人は疎らで助かる。序でに入り口では、知己の有る茶道具商T氏にもバッタリ。さて会場内は例えば黄瀬戸茶碗「朝比奈」の様な名品も有ったが、出展作品も展示も何処かチグハグな感じで、「売り物」の展示の様に見えて仕舞う所が勿体無い。が、この3館での展示、何しろ気合は伝わった。然し頭に残るのは、何と云っても「筒井筒」…死ぬ迄に一度は茶を飲んでみたいと切望する逸品でした。

15:30 人が多過ぎる21世紀美術館を後にし、兼六園へ…何度来ても良い庭だなぁ。

18:00 今回の金沢旅行最後の食事は、金沢フレンチの「C」で。ご夫婦でやられて居るレストランの味は愛情溢れ、物凄く美味しい。オーセンティックな中にも新しさが宿る、流石のお味でした。

21:00 北陸新幹線で帰京。頭も眼も胃袋も、何と充実した旅だったのだろう…Tさん、今回の金沢グルメ指南、有難うございました!


5月2日(水)
13:00 カレンダー通りの休日の僕だったが、午後は骨董屋さんを廻る。その1人Aさんの所では、自分でももう喉から手が出る位に欲しいと思う、最近見た中では最高級の藤原期の仏像を観るが、世の常で「これ、良いなぁ…」と思う物程高い(涙)。

18:00 久し振りにお会いした、西洋美術のディーラーの方と食事。鉄板焼きを頂くが、70歳を超えて尚お元気でダンディーなお姿に驚く。アートをやる人は若いなぁ。


5月3日(木・憲法記念日
12:30 母と観世能楽堂で、観世喜之家「三代能」を観る。観世喜之師の家と我が家とは、僕の父、叔母2人が先代の喜之先生の弟子だった事、喜正師が学校の後輩な事も有って、お付き合いが長い。連吟「菊慈童」から始まった会は、喜之師の枯れた「鷺」、観世宗家の気合の入った舞囃子「安宅」、そして喜正師が舞う「熊野」へと移る。「熊野」は僕の大好きな曲の1つで(拙ダイアリー:「母の誕生日に『熊野(ゆや)』を思う」参照)、そもそも涙無くしては観れ無いのだが、今回の喜正師の「熊野」は、朗々とした謡に素晴らしい舞の、何とも美しいお能で有った。そして梅若實・観世銕之丞・片山九郎右衛門の三師に拠るお仕舞「三笑」(九郎右衛門師は、近年益々良くなって来て、師は将来観世流を背負って立つと思う)を経て、最後は喜正師の娘さん和歌ちゃんの「合浦」。子供がシテやワキを演じる能に、一流の囃子方が付く…お能のこう云う所が素晴らしい。


5月4日(金・国民の休日
19:00 銀座のステーキハウス「I」で、最近サバティカルから戻られた美術史家H先生、小説家H氏、写真家S氏と食事。今の日本に最も必要な物は何か?…それは「批評」の土壌と、それを実践する勇気だ。


5月6日(日)
16:00 友人と両国に行き、勅使川原三郎の舞台「調べ」@シアターXを観る。本公演は勅使川原とKarasの佐東利穂子が、宮田まゆみの笙の演奏で踊ると云う演目。会場では、最近クラシックコンサートで良くお会いするI先生にバッタリ会い、ビックリ。そして肝心の公演は、正直笙の曲が単調で、少々眠かった。

18:00 公演後は麻布十番に行き、「T」で餃子と担々麺を頂く。此処の餃子は大学生時代から食べて居るが、変わらぬ旨さ。「モチモチー」な食感に歓喜の声を上げる。


5月7日(月)
11:00 理事を務める某財団で、温めて居た企画の打ち合わせ。取り敢えずGOが出て、ヤル気が起きる。

19:00 かいちやう&クラシックギタリストと、久々に青山「D」でディナー。会話中、山口達也の事件以来、僕が「メンバー」と呼ばれて居る事を話すと爆笑されたが、全国の山口姓の方々のご苦労が偲ばれる。

21:00 かいちやうの茶室に場所を変え、お茶を静々と。かいちやうが僕にお茶を出す時に、「孫一さんは、この茶碗に見覚えが有る筈ですよ」と仰るので良く観ると、それは何と僕がもう10年以上前に扱った、和物茶碗では無いか!余りの懐かしさと時を経て再会したご縁、そして在るべき場所に在る為(この茶碗には、かいちやうのご先祖様の箱書が有る)に、存在感を増した姿に感動する。お代わりは、僕がかいちやうに箱書を頼んで居た赤楽茶碗で。そしてその茶碗に付けられた銘は、何と「熊野(ゆや)」…数日前に観た観世喜正師の「熊野」での装束が目に浮かんだ、静かな良い一夜でした。


5月8日(火)
12:00 某美術館長と恒例のランチ@「O」。この日から始まったと云うパリソワとオムライスを堪能しながら、情報交換をする。

14:30 古美術商を訪ね、神道美術の話をたんまりと。最近、数年前に亡くなった某有名美術館長の仏教・神道美術、朝鮮物等のコレクションが市場に出て居て、何れも素晴らしいモノばかりと云う話で盛り上がる。矢張り眼の力は偉大で、それは経済力も必要とする。

17:00 時間が空いたので、ワタリウムで開催中の「理由なき反抗」展を拝見し、その後地下のカフェで和多利さんとお茶。某作家に関する新企画を聞き、興奮する。


5月9日(水)
10:00 その昔父と由縁の有ったご家族のお宅に伺い、お持ちの作品を拝見する。その方は亡き父が大学生だったか助手だったかの当時高校生で、父に1年間英語を教わったそうだ。僕の出たテレビ番組を偶然観て会社に連絡を頂いたとの事だったが、人のご縁とは本当に有り難いものです。

21:00 テレビのニュースで、最近捨てたか捨てなかったかですったもんだして居た、東大食堂の宇佐美圭司作品「きずな」が、結局産廃として電動ノコだかで切られ、破棄されて居た事を知る。全く日本人の芸術に対する民度の低さを露呈する話だが、「誰にも」相談しないで遣って仕舞う事にこそ問題が有ると思う。東大の生協で働いて居る人々の教育・教養レヴェルがどの位かは知らないが、あんな大作を切って捨てて良いかどうか、「誰かに聞くべきでは無いか?」と誰一人も思わなかった事がアンビリーヴァブルで有る。日本の最高学府らしい「東大」、世界の中での取り柄が何か欲しいモノだ。


5月10日(木)
10:00 香港のボスと電話会議。進行中の3つの大仕事に就いて、近況報告。

10:30 今度はグループでの電話会議…カンファレンス・コールのシステムを開発した人間を恨む。

21:00 夜は自宅でゆっくりとしながら、小川洋子の「口笛の上手な白雪姫」を読了。小川洋子の不安な作品は、何時も僕を「非現実的な現実」とでも云うべき不思議な世界へと誘い、何故か「嗚呼、僕だけじゃ無いんだ」と安心させて呉れる。


5月11日(金)
12:00 重要顧客と、「N」で鮨ランチ。この80歳を超えて尚お元気な方と会うと、「俺はまだ若い、頑張らねば」と熟く思う。この方には何時か恩返しをしたい、と切望する方だ。

14:00 神保町に行き、古本屋を巡って或る日本美術に関わる文献を探す。その折、昭和9年に建設社から刊行された青山二郎装丁の「アンドレ・ジイド全集」見つけ、思わず買って仕舞おうかと思うが、状態が余りに悪く断念。僕は小林秀雄作品の青山二郎装丁初版本を実は2冊持って居るのだが、此処迄来ると本ももうアートの領域…だが、価格は非常に求め易くて宜しい。

15:30 以前観た仏像が脳裏から離れず、某古美術商を再訪。夢に迄出て来そうな勢いなので、その晩は家で古い文献をひっくり返して調べ捲る。「ウーム、若しかしたら藤原より一時代前では無いのか?」「来歴は何か有るのか?」…沸々と好奇心が湧き上がり、居ても立っても居られなく為る。良い作品に出会うと、僕は何時もこうなるのだ。


5月12日(土)
9:00 社内メールで、今週ニューヨークで開催されて居た「The Collection of Peggy and David Rockefeller」セールが終了し、総額8億3257万3459ドル(約910億円)を売り上げた事を知る。トップロットはピカソの「Fillette à la Corbeille fleurie」の1億1500万ドルで、個人コレクション・セールとしてのオークション史上最高額と為った売上高も凄いが、何しろこの1000億近い売上金の全てを寄付する所がより凄い…日本じゃとても考えられない。


5月13日(日・母の日)
16:00 ホテル・ニューオータニの寛土里にて開催中の、「前田正博展」を観る。作家ご本人も居らしたので、初めてご挨拶。赤色を使用した水指等が面白い。

18:00 紀尾井町の料亭「R」で、母の日ディナー。食欲旺盛な母と、鮎や季節の料理を楽しむ。


茶碗の銘も偶然だったが、母の日には「熊野」の謡を思い出す…皆様のお母様が、何時迄もお元気で有ります様に。

「老いぬれば さらぬ別れのありといえば いよいよ見まく ほしき君かな」


ーお知らせー
*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

清婉峭雅。

然し最近溜息しか出ないのは、今世間を騒がせて居る財務次官やら国税庁長官新潟県知事が全員東大卒で、しつこい様だがその人生の大半を我々国民・県民の税金で生きて来た、と言う事実。

こんな連中が「我が国を動かしている面」していると思うと、実に腹立たしい。正直「金返せ」と云いたいし、特に財務次官の人間的程度の低さ、昭和感満載の時代遅れ感、此の期に及んでの財務大臣と省を挙げての「上から目線感」を見ても、これが日本国最高学府・最高官庁の姿かと吐きそうになる。いずれにせよあの事務次官、若い頃からさぞモテなかったんだろうなぁと思ふ(笑)。

そして「組織」というモノには、何時でもトップの人格や考え方が反映される訳で、その責任も重いのだから、当然責任者の人格や考え方が、今回の財務相に文書書き換えや事務次官のセクハラ、モリ・カケ疑惑を生み出したのは疑いがない。総理も財務相もさっさと責任取りなさい。大丈夫、「他に代わりが居ない」なんて事は有りませんから…そして何より、誰が総理や財務相をやっても今よりは俄然マシですから!

と云う事で、今日は最近の体験藝術覚書を。


−展覧会−
・「工芸・Kogeiの創造−人間国宝展−」@和光ホール:人間国宝の制度が制定されて60余年…和光では陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形の分野の人間国宝展が開催された。文化庁長官も出席したこじんまりとしたレセプションでは、本展の出展人間国宝作家の方々の中でも個人的に所縁有る方が居らして、例えば髹漆の増村紀一郎氏は、僕の中高の美術教師だった増村寛先生の従兄弟さん。初めてお会いした増村氏は、無頼漢だった寛先生とは正反対のジェントルマンで有った(笑)。また鍛金の大角幸枝先生は、最近アメリカでも大活躍中…お元気そうで安心致しました。

・「日本スペイン外交関係樹立150周年記念 プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」@国立西洋美術館:ベラスケスが7点も展示される、担当学芸員K氏の気合の入った展覧会!個人的には「マルス」が好きだったが、有名な「バリューカスの少年」にも惹かれる…そして本展では、ベラスケス→ゴヤ→マネ→ロートレックと云った、西洋美術史的ドローイングの流れを強く感じさせられた。そんな風に展覧会を観て居たら、突然携帯にテキストが入って来て、何とアメリカの顧客Dさんが今上野に居ると云うでは無いか!早速館を出て地獄門の辺に行くと、Dさんが手を振って居て、その後コーヒーで再会を祝す。アートに取っても人に取っても、世界は狭くなった。

・「春燦々−清婉峭雅の系譜」@相国寺承天閣美術館:本展は相国寺鹿苑寺慈照寺が持つ、この「清婉峭雅」を代表する室町水墨・近世絵画・中国絵画等で構成される。ドラッカー・コレクションやパワーズ・コレクションで学んだ室町水墨画、そして最近名品を何作か扱った若冲迄、禅寺らしく静謐でクオリティの高い名品が並ぶ、麗しい展覧会だった。外国人観光客で騒々しい京都の街中に比べ、此処は静かな極楽…質の高い藝術は、ゆったりと厳かに観たい。

・「猿楽と面 大和・近江および白山の周辺から」@MIHO MUSEUM:枝垂桜が未だ美しかったMIHO MUSEUMは、中国人を始めとする観光客でごった返して居たが、それは石山駅のバス停から始まって居て、桜のシーズンは要注意。が、展覧会の方は古面の歴史を俯瞰出来て、流石に素晴らしい!職業柄今迄百面以上の能面を扱って来たが、今でも無銘の能面の時代判定は難しい。その意味でこの展覧会は、能面より一時代古い大名品群を観られるので、非常に勉強になります。本展は6/3迄。

・「創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年 特別展 名作誕生 つながる日本美術」@東京国立博物館:「現存する世界最古の雑誌」とも云われる、朝日新聞社刊の「國華」の記念展覧会。何しろ物凄いラインナップで、出るのは溜息ばかりの、彫刻・絵画・工芸迄幅広く網羅した大名品展だ。絵画だけでも平家納経から若冲蕭白岸田劉生迄見所満載だが、自分が扱った作品がこう云った展覧会に出るのは鼻が高い。初っ端展示の「國華」創刊号が、某Y先生の所蔵品と云うのも一興…状態が良いので高かったのではなかろうか(笑)?「つながり」も大変勉強になる、何回も訪れたい展覧会だ。

・「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟 響き合う美意識」@根津美術館:この季節毎年恒例の、国宝「燕子花図屏風」を中心にした展覧会。「兄弟でも此処迄違うか?」的な芸術家兄弟の共作も含めた、全容が観覧出来る。そんな中、僕は個人的には兄弟合作の陶磁器の中では圧倒的に銹絵作品の方が好きなのだが、本展にも出展されて居る大和文華館所蔵「銹絵楼閣山水図四方火入」はかなり素晴らしい作品。が、最近僕が日本に戻した、旧某海外個人コレクション所蔵品で一回り大きい同手作品は、より素晴らしい(笑)!早く公開に為ると良いなぁ。

・「百花繚乱列島−江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり」@千葉市美術館:去年大仕事を頂いたDさんと訪れた千葉市美の新展覧会は、謂わば北海道から鹿児島までの「江戸絵画の『秘密のケンミンShow』」(笑)だが、見応えは十分。然しこれ程までも知らない絵師が居たモノか!と思いながら、根本常南の「旭潮鯨波図」の構図に驚いたり、安田田騏の描く象のお尻にキュンとしたり。そして既知の絵師の作品でも、例えば秋田蘭画に「やっぱり好きだなぁ」と思ったり、今でも個人宅で使用されて居ると云う蕭白の「渓流図襖」(これを観たら、「そこいらで売ってる蕭白は、蕭白ではない」と強く思う)は、実にスンバラシイ出来の作品で感動する!担当学芸員Mさんの渾身の展覧会…然し「絵師」を「うまいもん」と読ませるとは流石で有る(笑)。

・平松麻「Waft / Vacant」@Loko Gallery:平松さんの作品に出会ったのは、数年前の骨董祭に出店して居た、僕が良く伺って居る仏教美術のお店から独立したIさんのお店だった。静かな器物が並ぶその背面の壁に掛かっていたその絵はもう売れて仕舞って居たが、モノクロームで寂しいけれど暖かく、何故か恐ろしく惹き付けられて仕舞った僕は、Iさんを通じて平松さんを紹介して貰い、作品を幾つか見せて貰う事に為った。その時は未だ職業画家に為って居なかった平松さんに見せて貰った絵の数々は、何処かミステリアスで改めて寂しく暖かい、然も触れもしないのに手触り感の有る不思議な絵の数々で有った。あれから2年、平松さんとは共通の親しい友人も見つかり、彼女の絵も変化して来て居るが、今回展示されて居る作品群も、彼女の作品の本質である所の「現実と内面の融合」、そして何よりも暖かな「手触り感」が感じられる。毎日眺めたい絵画を探している人には、是非見てもらいたい展覧会だ。

・開館記念「神護寺経と密教の美術」@半蔵門ミュージアム:予てから話題に為って居た、宗教法人真如苑の美術館が滔々オープン。この美術館の目玉は云う迄も無く、2008年に僕が扱った今でもオークション史上世界最高価格の記録を持つ日本美術品で有る、重文伝運慶作「木造大日如来坐像」。美術館は半蔵門に出来たので、僕は自宅から歩いて行けるし、何と入場は無料…そして清新なギャラリーは、落ち着いた雰囲気で荘厳で有る。東博での運慶展以来の再会だった「大日如来」は、運慶展の喧騒の中で観た時とは異なり、落ち着いて僕達を迎える。然し10年前、この作品を僕が触り検分して居たのが(勿論指定前です!)、今と為っては夢の様…美術品の縁とは、本当に不思議なモノだ。大日如来以外にも、醍醐寺来歴の不動明王坐像や神護寺経、ガンダーラ仏等も展示される、静かな空間を体験して頂きたい。

・「64年の美術館史初 リニューアル前 最後の『蔵』公開」@藤田美術館:惜しまれつつも再出発の為に取り壊される藤田美術館の、元々藤田家の蔵で有った展示室と国内最古の鉄骨造の収蔵庫は、何も100年以上前の建築物。それらに別れを告げる「蔵」公開とレセプションが開催された。藤田清館長の素晴らしいご挨拶やヴァイオリン演奏の余興等と共に、美術界の名士達との会話を楽しむ。然しこの蔵を壊すのは惜しい…この間永青文庫ででも思ったが、「モノを畳の上に置く展示ケース」はもう中々見られず、その趣が愛おし過ぎるからだ!

・「没後200年 大名茶人 松平不昧」@三井記念美術館:最近名品が出展される展覧会が多くて、或る意味名品に対する有り難みが欠けて来た感が否めない。そんな中、再び茶道具の名品の揃う本展には、国宝「喜左衛門井戸」を始め、相国寺の国宝「玳玻盞 梅花天目」や重文「油滴天目」、重文梁楷「李白吟行図」や重文牧谿「遠浦帰帆図」、終いには「無一物」や「加賀光悦」迄、これでもか!の体。然し僕が一番気に入ったのは、青井戸茶碗「朝かほ」と信楽水指「三夕」、そして斗々屋茶碗「斗々屋」だった。うーん、欲しいっ!


−舞台−
・「Dunas」@オーチャード・ホール:天才的コンテンポラリー・ダンサー&振付師で有るシェルカウイが、これまた天才フラメンコ・ダンサーとして名高いマリア・パヘスをフィーチャーした、コンテンポラリー・フラメンコのステージ。光と布を上手く使っての飽きさせない舞台だったが、如何せん上演時間が短か過ぎる。一寸金返せ!的な感じが否めなかった事を記して置きたい…残念。

・「音阿弥生誕620年 観世会春の別会」@観世能楽堂:この日の御目当ては、滅多に見れない「三老女物」の一、「姨捨」。「三老女物」(他に「檜垣」と「関寺小町」)は、「重習」と呼ばれる至高の芸の一つとされて居て、中々披かれない。今回のシテは武田宗和師で、囃子には大倉源次郎師と亀井広忠師等が固める。そして武田師のシテは寂しく、そして人生の無常を感じさせた名演だった。僕がこの曲が好きなのは、通常の能と異なり、最後にワキやワキツレが退場した後にシテの老婆が1人舞台に残される場面で、泣ける…人生は孤独だ。

・「第26回奉納夜桜能」@靖国神社:ここ数年行って居る、靖国神社での「夜桜能」。今年は桜が早く、もう殆ど散って仕舞って居て「葉桜能」の体だったが、幽玄の体は変わらない。葉桜の下の会場は超満員で、相変わらずに人気振りだったが、上演前の「火入れ」をする者(政治家等)の名をマイクで呼び上げるのも相変わらずで、胸糞が悪く為る…何故静かに火入れが出来無いのだろう?が、最近「實」を襲名した梅若玄祥師の「羽衣」は流石に素晴らしく、特に橋掛りで舞う姿はこの世の物とも思えない程美しく、怪しかった。梅若實師、矢張り天才だ。

・「魔笛」@オーチャードホール:ベルリンに有る3つのオペラ劇場の1つ、ベルリン・コーミッシェ・オーパー・オペラのロングラン作品。会場では、最近クラシックのコンサートで連続的にお会いする、日本美術史家のH先生とI先生のお二人にバッタリ…こう為ると、一度「日本美術史=クラシック飲み会」をやらねば為るまい(笑)。さて演出のバリー・コスキーの秀でた才能に拠って造られた舞台は、大きな壁と歌手達の顔や体を出す穴と台、そして最も重要な「映像」のみに拠って構成される。「夜の女王」もルイーズ・ブルジョワの蜘蛛的に表現されるその映像は、或る時はフリッツ・ラングの「メトロポリス」を、或る時はチャップリンの「モダンタイムス」を、そしてウィリアム・ケントリッジを想起させるが、何処かノスタルジック且つ現代性を残す感覚で、歌手たちとのコラボレーションも秀逸。久し振りに完成された現代オペラを観た。

・「石橋 於 石橋」@江之浦測候所:現代美術家杉本博司氏の財団、小田原文化財団での「『石舞台』披」公演。前日からの予報と雨で、氏のイヴェント時には必ず天候が荒れる事から、「嗚呼、今回もか…」と思いながら根府川に向かう。そして強風の中測候所に着くと漸く雨が止み、室内に設置された舞台が急遽外に運び出され、「石舞台」での公演と相成った…が、強風が残った為、演目は舞囃子がキャンセルされ、メインの「石橋」のみに。シテの喜多流大島輝久師と塩津哲生師が風に乗り、そして亀井広忠師の大鼓や竹市学師の笛が風を切る。上演前には強風で牡丹の作り物が勝手に動いたりして、ヒヤッとする瞬間も有ったが、何とか無事終了しホッと溜息。風に棚引く獅子達の髪が、誠に印象的な舞台披きでした!

・「アイーダ」@新国立劇場オペラハウス:新国立劇場開場20周年記念特別公演のこの舞台、僕の予想を裏切る素晴らしいモノだった!ご存知ヴェルディ作曲、フランコ・ゼッフィレッリ演出の「アイーダ」は、もう20年以上も前に一度ヴェローナの屋外劇場で観て居るが、こう云っちゃあ何だが、パリ・オペラ座ミラノ・スカラ座、METオペラやテアトロ・マッシモ等でもオペラを観て居る身としては、正直今回初めて観る日本のオペラ舞台が持つで有ろう、ヴェローナのスケール感と「場所」に対するディスアドヴァンテージはどう為るのだろう?と思いながら、会場へと足を運んだ。が、豈図らんや、歌手やオーケストラのレヴェルやセットの精巧さ規模、全てが良く出来て居て、一時も退屈どころか齧り付きで観終わったのだ!特にセットは見応えが有り、あの舞台に身を置きたいと思った程…日本のオペラハウスも、中々やるなぁ。

・「自己紹介読本」@シアタートラム:この舞台は山内ケンジ作・演出、「城山羊の会」の作品で、彼等に取っては珍しい再演演目との事。謳い文句に「なにもないことを極めた傑作」と有る様に、ナンセンスで不条理、そしてちょっとセクシーな舞台で、思わず笑って仕舞う。7人の出演者は皆かなり個性的で、各々の役割を果たすが、特に岡部たかしが面白い。僕も人との距離感の難しさを、現実社会で感じる事が多い方がだと思うが、その不自然さが得も云われぬ可笑しみを産む。これから大阪公演だそうだが、大阪人に受けるや否や(笑)。


−映画−
・「ガーデンアパート」@Galaxy銀河系:友人でも有る芸大在学中の映像作家、石原海さんの処女長編映画作品。「ガーデンアパート」(→https://www.youtube.com/watch?v=2R4y04Is2Q4)は、主人公の彼氏のクレイジーな「おばさん」、京子を中心とする女性達を巡るガールズ・ムービーだが、この京子役の女優竹下かおりがセクシーかつアンニュイで中々良い。「愛は映画みたいなもので、政治みたいなもので、料理みたいなもので、庭みたいなものだ。一度始まってしまったら、終わるまでそれを止める事は出来ない」…個人的にはレオス・カラックス作品を彷彿とさせたが、今の所本作は映画と云うよりは寧ろ現代映像作品だと思う。映画作家としての海さんの将来が、超楽しみスグル出来栄えの作品でした!


−その他−
・目白コレクション@目白椿ホール:毎年恒例の骨董市へ、音楽家の友人と。去年も開展前に人が並んで居たが、今年も大勢の人が並んで居て、人気の程が知られる。会場内は熱気でムンムンして居て、骨董熱がこんなにも有るのか!と云うのが正直な所。で、今回は僕のお好みの作品は無かった…嗚呼、良かった〜(笑)。

・ジャパン・ソサエティー創立110周年記念式典・レセプション@ホテル・オークラ:10年前、僕も招かれた100周年記念の時は、天皇皇后両陛下を迎えてのシッティング・ディナーだったが、あれから10年経った今回は、皇太子殿下ご夫妻を式典に迎え、レセプションは殿下のみご出席の立食パーティー。式典では、亀井広忠師と坂口貴信師に拠る一調「高砂」が披露されたり、レセプションでは、ニューヨーク時代に知己の有った若きジャスティン・ロックフェラー氏や、芸術文化に関わる第一線の方々と再会。誠に楽しいひと時でした。


「清婉峭雅(せいえんしょうが)」とは「清らかで美しく、厳かで気品が有る」事…我が国のトップにはこう云う人になって頂きたいが、無理だろうなぁ(涙)。


ーお知らせー
*古美術誌「目の眼」5月号(創刊500号記念号→https://menomeonline.com/about/latest/)に、僕のインタビュー記事が掲載されて居ます。

*「婦人画報」5月号、特集「東京案内2018」内「東京人に聞きました 極私的東京案内2018」に、僕の「オススメ東京」が掲載されて居ます。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

The Shape of You.

3月11日(日)
9:00 今日で7回目の3.11。窓から見える富士山、祖母からの不動明王像に黙祷する。

12:00 お彼岸前にと思い、父の墓参へ。いつも駅から霊園にタクシーで行き、入口の花屋で待って貰って居て花を買うのだが、この日も花を選んで「すみません〜」と店奥に声を掛けると、何時もは女性が出て来るのに、この日は珍しく中年男性が。そしてその男性にお金を渡すと、彼は僕の顔をマジマジと見て「テレビ観ましたよ!」と云った。あれから1年も経って居るのに…NHK恐るべし(笑)。

15:00 代々木上原に行き、ヘアカット。僕は自分の頭髪の環境を「『硫黄島』状態」と呼んで居て、それは硫黄島での日本軍の闘いに倣って居るのだが、要は「モノ凄く健闘し、一気にヤラレはしないが、日に日に後退する…」と云う事だ(涙)。盟友現代美術家西野達から紹介された、ヘアデザイナーのMさんのご苦労が偲ばれます…Mさん、何時も有難うっ!

16:30 夕飯まで時間があったので、表参道のスパイラルへ。何時もちょっと面白い展覧会をして居る1階のギャラリーを覗くと、美大生に拠るモノらしい面白いファッションの展覧会をやって居て、感心して奥まで観て行くと、見覚えの有る顔の方が座って居るでは無いか…何と数週間前に久々に再会した元イッセイ・ミヤケのデザイナーで、現在多摩美で教鞭を取る旧知のF氏。多摩美「Beyond 2018」展…流石、F氏の生徒さん達の作品でした。

18:00 表参道「K」で、若き能・日本庭園研究者H君と食事。若きウエルテル為らぬ、若き研究者の悩みを聞く…若さって良いなぁ。


3月12日(月)
18:30 表参道参道の「C」で、以前大変お世話に為った顧客と食事。嘗て中東に駐在経験の有る顧客氏は流石、此処の料理に詳しい。美術と音楽の話を、ハマス等で頂く。


3月13日(火)
15:00 某官庁の研究諮問会議に。僕は7人の研究委員の1人なのだが、変革には「隗より始めよ」的思想が必要で、例えば教育。日本文化・芸術の復興、日本美術の流通には、義務教育からピカソモーツァルトよりも、例えば雪舟や能を教えるべきだし、それを唱える大人達から勉強が必要だ!等と言う人は居ない。また、こんな事を云っては何だが、アートフェアに首相夫人が来たら、「国会答弁してからいらっしゃい」位の事を云うのがアートでは無かろうか?等とも思う。


3月14日(水)
11:00 僕が理事を務める、某日本文化系公益財団の理事会@交詢社。この財団の地道な活動には本当に頭が下がる。然し伝統技術分野の人材不足は深刻だ…。


3月17日(土)
11:30 渋谷のセルリアン前に集合し、ポーラ美術館主催のプレス・バス・ツアーに参加。今回は友人の現代美術家流麻二果氏の展覧会が始まり、そのお誘いでも有った。道が渋滞して居て、到着したのは14時を過ぎて居たが、途中の休憩所で買った美味しいホットドッグや、バスを降りて綺麗な空気を思い切り吸い込んで、気分は爽快。その上流氏の作品が超素晴らしくて、もう云う事無し。今回の流氏の作品は、ポーラ美術館所蔵のルノアールゴッホ、モネの作品の色を分析し、其れ等と同じ色の絵具を使って、彼女の作品に表現すると云う興味深い試みだったのだが、特にモネが「睡蓮」に使用した色を基調にし、美術館が本作を購入した時に付いて来た額に入れられた、緑色の作品が実に素晴らしく、モネに勝るとも劣らない出来と云っても過言では無い程で有った!流氏のこの展覧会「色を追う/Tracking the Colors」は、5/31迄…必見だ!


3月19日(月)
8:00 春のAsian Art Week、の為、半年振りのニューヨーク出張をしに羽田へ。ネモい。

10:20 全日空便に搭乗。機内では久し振りの映画三昧と洒落込み、先ずはケネス・ブラナー監督の「オリエント急行殺人事件」を観る。原作はお馴染みアガサ・クリスティーで、本作は僕が子供時分に最も驚いたプロットの推理小説だったが、この作品のお陰で、僕は「カーテン」迄のエルキュール・ポワロやミス・マーブル・シリーズの全作品を読破した位で、同時に明智小五郎金田一耕助、マーロウ、スペンサー、ハマー等探偵小説の虜と為ったのだった。それはさて置き、僕は1974年作のシドニー・ルメット監督作品も勿論観て居て、その時もオールスター・キャストの映画だったのだが、この作品でアカデミー助演女優賞を獲ったイングリッド・バーグマンローレン・バコールショーン・コネリーやサー・ジョン・ギールグッド、ヴァネッサ・レッドグレイヴや大好きだったジャクリーヌ・ビセット等、今から思うと恐るべきキャスティングだった。そして今回は監督のブラナーがポワロ役を務め、ミッシェル・ファイファーやジョニー・デップ、ペネロペ・クルズ等も出演して居るが、前作と比べると役者のスケール・ダウンは否めない。然し物語の結末は分かっては居ても、ファイファーの演技は中々の物で、不覚にも感動。次に観たのは、ヒロインを演じたフランシス・マクドーマンが主演女優賞、巡査を演じたサム・ロックウェル助演男優賞を、其々本年度アカデミー賞で獲得した「スリー・ビルボード」。ずっと観たかった作品だったが、その期待を全く裏切らない作品だった!然し、こう云う脚本が日本で出来ない理由は何なのだろう?…流石北野武を敬愛するアイルランド屈指の劇作家、マーティン・マクドナーの作品だ!そして彼の脚本も然る事乍ら、役者達の演技もスゴイ。上記2俳優の他にも大好きな、何時観ても何故か他人とは思えないウッディ・ハレルソン(笑)も含めて皆素晴らしいが、特にロックウェルの演技は秀逸で、「優しさの連鎖」を何処かユーモアタップリに、そして厳しく描き出す。大名作と云って良い、必見作品だ。そしてもう1作は「キングスマン:ゴールデン・サークル」…此方はクラウディア・シーファーを射止めた裏山な監督、マシュー・ヴォーン監督作品。僕は「キングスマン」は前作も観て居るが、所謂典型的な英国スノッブ・コメディ・スパイ物で、今回はエルトン・ジョンジュリアン・ムーアも出て来て華を添えるが、「暇潰しには持って来い」的作品の域は出て居ないのがトゥー・バッド!

10:00(NY時間) JFK着。半年振りのニューヨークだった訳だが、マンハッタンに入り、ホテルにチェックインした時の「アウェイ」感は半端無い。たった半年前まで17年間も「住んで」居た街なのに、この「旅人」感は何故だ?今回のホテルは僕が社会に出始めた頃憧れだった「R」で、1階のラウンジは今でもヒップでカッコイイ。2007年に改装されて居るが、1988年開業当時のフィリップ・スタルクのデザインが数部屋に残って居るのも好ましい。

11:30 …が、旅先に朝着いて困るのは、チェックイン出来ない事。仕方なく荷物をホテルに預け、先ずはメトロポリタン美術館へ向かう。日本美術ギャラリーでは、嘗て僕の顧客でも有った故フィッシュバイン氏のコレクション展が開催中…琳派を中心としたラインナップを鑑賞する。

12:30 次はウクライナ・インスティテュートで開催されて居たJADA(Japanese Art Dealers Association)の展覧会へ。JADA展は此処毎年か観て居るが、今年は残念ながら寂しいライナップに見え、正直毎年やる意味が有るのかな?と首を傾げて仕舞う。

13:00 昔僕のメンターだった、Sebastian Izzardの展覧会へ。此処はこの春一番のラインナップで、鰕蔵等の素晴らしい写楽の大首絵や長喜等、珍しくも状態の良い版画が並ぶ。略完売との事だが、さも有りなん。

13:30 某ディーラーを訪ねて近況を聞いていると、日本橋の古美術商氏が突然登場。世界は狭い(笑)。その後はKoichi Yanagiに移動して応挙の襖絵や仏像等を観るが、僕が見入ったのは、実は其処に居らした90才を超え尚お元気なM先生その人だった(笑)。

19:30 ミッドタウンの居酒屋「S」で、此方もこの日NYに着いたばかりの顧客とディナー。食事が終わってホテルに帰ると、その顧客から鞄を店に忘れたとの連絡が入る…時差ボケは恐ろしい。


3月20日(火)
10:30 忽然と現れた、恐らくは鎌倉末〜南北朝期の仏教美術の名品を、オフィスにて外部専門家や香港の専門家達と検分する。嗚呼、素晴らしい…。

13:30 ロックフェラーセンター地下のシーフード店「S」で、香港のボスと遅いビジネス・ランチ。此処はクラブ・ケーキ、ロブスター・ロール、そして帆立が美味い。ミーティングは順調に終わる。

19:00 アッパー・イースト・サイドのフレンチ「C」で、顧客十数名を招いてのディナー…夜からの大雪警報にビクビクして居たが、何とか大丈夫。この「C」は、何時行っても美味しくハズレが無い。この日はサラダと鴨、クレーム・ブリュレとダブル・エスプレッソを頂く…旨い。


3月21日(水)
7:00 久々の酷い時差ボケで早朝に起きて仕舞い、腹が減ったので開店と同時に階下のレストランへ走る。迷った末頼んだエッグ・ベネディクトはかなり美味しく、満足。然しEB好きの僕が人生で食べたEBの中で、今迄で一番美味しかったのは何処あろう台北のホテルのモノ…台北?と思うかも知れないが、その時僕自身も驚いたので聞いたら、何とシェフが英国人だったので納得。

12:00 雪の中顧客とのランチの為、連日の「C」へ。プリ・フィクスのコースでも十分に美味しい。此処は本当にいい店だ。然し思えば、去年の藤田セール前日も大雪だった。

14:00 インド系の顧客管理担当者Uとのミーティング。彼女とのミーティングは何時もハードだが、僕には最早M的感覚も出て来たらしく、待ち遠しい気もする(笑)。

15:00 今やって居る、カテゴリーの跨る個人コレクションに関する打ち合わせ。

19:00 父親が70年代から集めた、室町水墨を中心とする日本絵画のコレクションを去年一括して売って頂いた、老齢の女性顧客と寿司店「S」で食事。流石大雪の中、客は僕ら以外3組だけだったが、お陰でゆっくりと食事が出来た。顧客から友人に関係性が変わっても、僕の彼女への尊敬は変わらない。


3月22日(木)
9:30 某コレクションに関する緊急電話会議…うう、頭が痛い。

10:00 今回のAsian Art Weekの目玉、「臨宇山人コレクション・パートIII」セール開始。結果は1点を除き完売、1283万2750ドル(約13億6千万円)を売り上げた。今週のトップロットにも為ったのは、萬野美術館旧蔵の北宋「定窯黒釉鉄砂班文碗」で、421万2500ドル(約4億4600万円)。然し思ったより伸びなかった気がしたのは僕だけ?

13:00 久し振りにチェルシーに向かい、「B」でランチ。相変わらず美味過ぎるTシェフのパスタに舌鼓を打つ。

19:00 知り合いに勧められ、ロウワー・イースト・サイドに半年前に出来たと云う新しい寿司店「U」に。物々しい店構えから、店に入ってカウンターに座ると板長に見覚えが!もう何年も知って居るIさんで有った。中々美味しいが、如何せん高い…。

21:00 NYの古い友人2人と、ミッドタウン・イーストのホテルのルーフトップ・ラウンジ「B」で、久々の再会。1人は不動産会社の社長、もう1人は只今閉店中の家庭料理店主で、長い間お世話に為った気の置けない仲間。もう25年以上行って居るHの店が、漸く5月には開きそうだとの話を聞き、非常に嬉しい。


3月23日(金)
9:30 過去のセールの支払いに関するミーティング。買っておいて、支払わない人の気持ちが理解出来ない…(涙)。

10:00 今日もオークションは有るが、顧客周りに充てる。先ずはMIKA Gallery…書の作品が並ぶ。続いて行ったIppodoでは、辻村史郎等の現代茶碗展。Carol Davenportでは、牛頭天王の木彫や黒織部茶碗等を観る。

12:00 ダウンタウンの老舗ダイナー「D」で、ドイツ人現代美術家Iとランチ。ナム・ジュン・パイクの運転手の経験も持つ彼との付き合いも、長くなった。友情の為、彼の展覧会を日本で企画しようと心に誓う。

14:30 ジャパン・ソサエティで開催中の、長谷川等伯の展覧会「A Giant Leap: The Transformation of Hasegawa Tohaku 」を観る。作品は、アメリカで新発見された一隻屏風を中心に集められて居るが、等伯自体作品数が少ないのと、国宝松林図屏風が来て居ないので矢張り少し寂しい。然しビックリしたのは、会場入り口入って直ぐに有る本物ソックリの「リプロダクション」松林図屏風で、来場者に取っては非常に紛らわしいいのでは無いか?何故これが展覧会の「冒頭」に有るのかが一寸理解出来ない…ウーム。

16:30 この春のクリスティーズのAsian Art Weekが終了…1週間で総額5658万1500ドル(約59億4000万円)を売り上げた。たった31点で2億6000万ドル(約300億円)を売った、去年の藤田美術館セールが如何に凄かったかが分かる。

20:00 チェルシーの「B」でディナー。時差ボケで半落ち状態且つ大人数のディナーだったが、カラマリやシーザーサラダ、魚のカルパッチョ、パスタもイカスミやパルメジャーノ+生ハム、ウニのオイル等、Tシェフの腕を堪能。デザートはリコッタチーズ・ケーキとティラミス…極楽極楽。

23:00 ニューヨークの友人13人と、大カラオケ大会@コリアン・タウンの「D」。僕が帰って来ると聞いて集まって呉れた若い仲間達は、単に僕を出汁にしてただ飲み歌いたいだけなのだろうが(笑)、それでもかなり嬉しい。僕は「雪国」、「サボテンの花」や「安奈」、そして皆に感謝を込めての尾崎紀世彦また逢う日まで」等を熱唱。結局朝の3時迄歌い続けました!


3月24日(土)
10:00 やっと起床。喉が痛い。矢張りカラオケは「慣れ」だ。

12:30 ランチをどうしようかと思い倦ねた末、寒いかなとも思ったが、結局「Z」でサンドイッチを買い、ブライアント・パークの日向のデッキチェアに座る。今日は「March for Our Lives」のパレードが有って、子供から大人迄皆それぞれ手作りのプラカードを持って、歩きながら声を出して居るのが聞こえて来る。こう云う光景は、日本人からすると本当に羨ましい…森友や加計問題、首相夫人の関与を問い質す等のデモが少な過ぎると思うし、それを妨害しようする政府に辟易とする。

15:00 Ronin Galleryで開催中の国芳展を観る。此処の若旦那Dは若いのに遣り手で、然も性格が頗る良い、ナイスガイ。そして彼が企画している日本現代美術賞は、僕も審査員の1人をさせて貰って居る、ニューヨークでのアーティスト・イン・レジデンスを含めた立派なモノだ。Dの行動力と推進力に乾杯!


3月25日(日)
9:00 迎えに来た車に乗り、JFK空港へ。帰りは夕方迄に日本に着く、成田便だ。

12:00 全日空機が出発。機内では再び映画を2本観る。先ずは「ミックス。」…ガッキー主演のピンポン物で、ガッキーは犯罪的にキュートだし、意外に面白い。ストーリーは在り来たりなのだが、瑛太蒼井優の演技がヨロシく(特に蒼井の中国人妻役が、最高に可笑しい)、瑛太がガッキーを迎えに来る時の「愛と青春の旅立ち」のパロディもウケる。もう一本は、第90回アカデミー賞に於いて作品賞・監督賞等4部門の受賞となった、ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」。マイノリティー救済的なストーリー自体は良く有る話だと思うが、口のきけないヒロインを演じた主演のサリー・ホーキンスが実に魅力的で、彼女の存在こそが本作の価値を高めて居ると思うが、この作品が作品賞を獲る程の出来かと云われれば、「スリー・ビルボード」の方が映画として遥かに優れて居ると思った。が、この作品の最後の最後にナレーションで語られる「詩」が余りに素敵で、この作品の後味を最高なモノにして居る。


3月26日(月)
15:00 成田着。日本の余りの暖かさに驚くが、家に戻って窓から見た千鳥ヶ淵の桜が狂った様に満開で、ほんの数日前雪の中に居た事が信じられない。VIVA Japan!

19:30 友人と軽く食事をし、千鳥ヶ淵の夜桜見物に…人が多かったが、ライトアップされた桜はセクシーで美しく、本当にこの辺に越して良かったと嬉し涙する。


はてさて夜桜は最高だったが、最悪だったのは佐川元国税庁長官の国会証人喚問。国民の税金で今迄食べて来て(東大→財務省)、然も文書改竄を認めて居る癖に、国会と云う唯一の国民への説明の場に置いて「訴追の恐れ」等と宣い、肝心な事を何も喋らず自分の身の心配だけする官僚。「税金泥棒」とはこう云う輩の事を云うのだ。

余りにムカつくので、心を鎮める為に「The Shape of Water」のラストに語られる心温まるポエムを…。


Unable to perceive the shape of you, I find you all around me.
Your presence fills my eyes with your love.
It humbles my heart, for you are everywhere.


ーお知らせー
*古美術誌「目の眼」5月号(創刊500号記念号→https://menomeonline.com/about/latest/)に、僕のインタビュー記事が掲載されて居ます。ご一読下さい。

*「婦人画報」5月号、特集「東京案内2018」内「東京人に聞きました 極私的東京案内2018」に、僕の「オススメ東京」が掲載されて居ます。是非ご覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「室町の名残」に遊んだ1日。

国会で1年以上も嘘を突き通された末に、森友問題が漸く動き出した。

然しそう為ると、森友・加計問題が1つの争点だった去年の衆院選も、国民が国会で嘘の答弁を信じた末の投票結果だった訳だから、遣り直さねば為らないのでは無かろうか?今こそ「国民の信」を本当に問わねば為らないのだから、解散総選挙をすべきだと思う。そもそも「特例ディスカウント」を遣らずに済んだのだから、選挙費用くらい出るだろう(怒)。

そんな怒り心頭な僕はと云えば、仕事の合間を縫って某官庁の研究会に出たり、理事を務める日本文化系財団の理事会に出席したりと、文化普及貢献活動にも勤しんで居たのだが、最近素晴らしい超日本文化な1日を過ごしたので、その事を。

その日僕は、日頃親しくさせて頂いて居る茶の湯者の茶事に、久し振りに招かれた。

前回彼の正式な茶事に呼ばれたのはもう何年も前の事で、久し振りの事で緊張もしたが、正客に茶道某流派宗匠、相客に邦楽家元とコレクターの方2名、そして茶の湯者の流派のお弟子さんの編集者の方と云った具合で、知った方も居らっしゃるので心易い。

客同士挨拶を交わして、待合で水屋お見舞をお渡しし手口を浄めると、いざ茶室へ。この日の床には室町期の禅僧が自分を鼠に例えた自画賛軸が掛かり、見覚えの有る炉縁と芦屋釜に迎えられる。亭主が現れ挨拶を交わすと、そろそろと茶は始まった。

炭手前が始まると客は自然と炉縁に集まり、肩が触れる程近付き合って燃え始めた炭を眺める。この一瞬こそが「一座建立」を実現するのだと痛感する瞬間…茶事の過程の中でも、最も重要で醍醐味の有る瞬間だと思う。

続いて懐石。美味しい料理を楽しい会話で味わう。5人の客の内のお2人がお酒に滅法強く、徳利の空きも早い(笑)。最後にこれまた美味なきんとん主菓子を頂いて、中立…暫く休み、仄かに暗んだ茶室に戻ると、濃茶が始まった。

軸が外された床には、戦国武将茶人の豪絡な二重切竹花入が掛けられ、花が活けられる。松籟も程良い加減で、茶の湯者が大振りな茶碗を持って茶室に入ると、客の間にも緊張感が増した。大振りな茶碗で念入りに練られる濃茶を心待ちにする客達の眼は、茶の湯者の手先に集中し、これも戦国武将の手に為る繊細な茶杓が茶入と茶碗とを何度も行き来し、茶筅で念入りに練られるのを熟視する。

そうして完璧に練られた濃茶は、正客から順に手渡しされ、滔々僕の所に回って来ると、僕は口当たりの良い茶碗から喉に流れる濃茶の旨さに思わず唸って仕舞う…至福のひと時とは、当にこの事では無いか!その後は道具拝見で大振り茶碗の正体を知り(溜息)、薄茶は場所を移しての立礼で、茶の湯者自作茶碗等を楽しむ。心尽くしの亭主と気取らない相客に、感謝感激の暖かいひと時だった。

さてこの日の茶事で思ったのは、茶道と云うのは利休が桃山時代に大成した芸術に違い無いが、矢張り「室町時代の名残」の芸術だと云う事。桃山のアヴァンギャルドさは、室町の静謐さの中でこそ生きる…それは「基礎」を徹底した上での、「遊び」で有り「作為」なのだと云う事で、現代美術にもそれが云えると思う。

茶事を終えた後は、国立能楽堂へと急ぐ…観世宗家の「求塚」を観る為だった。

「求塚」は観阿弥原作、世阿弥改作と云われる四番目物で、観世流では長い間廃曲に為って居たらしいが、昭和26年に観世華雪に拠って復曲された、万葉集や大和物語等に登場する菟名日処女(うないおとめ)の悲劇を題材とする作品。

生田の里に来た僧達は、若菜摘みの女達に出逢い別れるが、その内の1人が残り僧達を求塚に案内して、塚の由来を語る。

それは、2人の男に言い寄られた女(菟名日処女)が1人に決め倦ねて、生田川の水面の水鳥を先に射た方と結婚すると云うが、2人が同時に射当てた為に、女は嘆き川に身を投げて仕舞う。それを見た男たちは後追いをし、1人は女の手を、もう1人は女の足を掴んで死ね、と云う物語だったが、若菜摘みは自分がその女の霊だと仄めかして立ち去る。

僧達が弔いの経をあげると、地獄の責め苦に憔悴した後シテの女の亡霊が現れ、自分の所為で男2人と水鳥迄を死なせて仕舞った業で、苦しみを受けていると明かす。そして亡霊はその地獄の責めの様子を見せて消え去ると云う、何とも恐ろしい曲だ。

この曲の見所は、前半の静かで優しい雰囲気と、後半の凄惨な場面の対比が凄い所で、シテの観世宗家の舞は中々に素晴らしく、特に後半の緊迫感は身の毛がよだつ程だった。然し現代で考えると、男1人を決めかねて死ぬ女やそれを後追いする2人の男等、「何故だ!」的要素が多いのも事実だが、室町の世ではそれも当たり前の事だったのだろう。人は昔は余程真面目に生きて居た、とも云えるのかも知れないが、その意味で官僚や政治家も、偶には能の一番位観た方が良いと思うのは決して僕だけでは有るまい。

茶と能…室町時代に深く身を浸し、その名残に遊んだ、余りにも此の世離れした1日だったが、シリアスな室町文化を緩い現代の世の中で体験すると、身が引き締まる思いが有る。

だからこそ現代人には、この様な「真面目な遊び」が必要なのだ。


ーお知らせー
*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

芸術と政治に於ける「スクラップ&ビルド」。

先ずは、超嬉しいお目出度いニュースから。

敬愛する現代美術家、西野達氏が文科省芸術選奨文科大臣賞を受賞した!

遅過ぎの感は有るが、達さんの仕事が国から「も」認められたのが、我が事の様に本当に嬉しい!今からお祝いの飲み会が楽しみスグル。達さん、おめでとう御座います!!!!

と云う事で、今日も覚書から。


2月22日(木)
9:00 人間ドック2日目。痛さを堪えてモニターを見ながら、毎年恒例の大腸内視鏡検査を受ける。その最中或る部分に来た時、担当医が「アッ!」と声を上げたので何事かと怖くなるが、何と「アニサキス」が居て、その箇所が腫れて少し出血しているでは無いか。医師に拠るとアニサキスは通常胃酸で死ぬか、若しくは胃にへばりついて激痛を齎すらしいが、大腸まで生き残るのは珍しいとの事。放って置けば腸閉塞も起こしかねなかったらしいのでラッキーだったが、その後の検査では病院中の看護婦さんや検診医達に「桂屋さん、大腸にアニサキス居たんだってー?」と言われ、天然記念物的気分を味わう。

19:00 去年お世話になったNHKプロフェッショナル 仕事の流儀」のTディレクターと久し振りに会い、「I」で食事。放映からもう1年近くなるが、未だに街で声を掛けられたりする。今から思えばT氏も良くぞ1年以上も僕なんかに密着出来たモノだが、それもこれもT氏の人徳が全て。そして1年経って想うのは、この番組のお陰で最大の親孝行が出来た事と、或る人との素晴らしい邂逅が有った事…感謝、感謝である。


2月23日(金)
13:30 大阪美術倶楽部で開催された「大美アートフェア」に向かい、藤田美術館館長藤田清氏の講演会を聴く。美術館のお計らいで関係者席に座るが、何とも面映ゆい。ユーモアを交えた館長のレクチャーは流石で有った!

18:30 北新地のおでん屋で、コレクターS氏、F館長、古美術商T氏の御三方とディナー。御三人は各々三島や唐津等の味の有る酒杯を持ち寄り一献傾けるが、下戸な僕は触らせて貰うだけ。然し美味しいおでんで続く骨董話は楽しスグル。その後は某クラブへ繰り出し、最後はショット・バーで「もう一度」食べて解散。食欲と骨董欲は比例するのだ(笑)。


2月24日(土)
10:00 大阪市某所に在る、大阪のオバチャンの「ゴッド・ハンド・マッサージ」へ。僕の数年に渡った坐骨神経痛はこのオバチャンの手に因って、たった1回の施術で完治したのだが、大阪に仕事に行った折には立ち寄る事にして居る。相変わらず小柄な体格からは信じられない程の強い力、痛さにギャアギャア叫びながら1時間たっぷりと痛めつけられ、スッキリ感を得る。

19:00 東京駅経由で高崎に向かい、今迄食べた中でも最も美味い担々麺を名店「H」で頂くと、群馬交響楽団定期演奏会を聴く為に、高崎音楽センターにダッシュで向かう。群響は日本の地方交響楽団では最も歴史有る楽団で、然も今回は名ヴァイオリ二スト、オーギュスタン・デュメイの弾き振りだから見逃せない。前半はチャイコフスキー「憂鬱なセレナード」、ショーソン「詩曲 作品25」、ラヴェル「ツィガーヌ」(拙ダイアリー:「『香子』と『ツィガーヌ』」参照)で、デュメイの本領発揮…実に美しい演奏だった。後半はベートヴェンの4番、これも群響の弦が壮大で素晴らしかった!


2月25日(日)
14:00 新国立劇場に向かい、高谷史郎/ダムタイプの公演「ST/LL」へ。会場ではS銀行のO氏夫妻や、今回の公演の音楽を坂本教授と担当している原摩利彦氏の弟で、能研究者のR君にもバッタリ。さて舞台の方だが、ダンスも音楽も起承転結、或いはメリハリが余り無く、正直少々ダレる。本公演には女優鶴田真由も出演して居たが、声も出て居らず「何故彼女が?」感も有ったが、如何に?


2月27日(火)
10:00 香港と電話会議。会議、カイギ、かいぎ…。

16:00 染織作品の研究の為に某古美術商を訪ねると、或る有力古美術商コレクターが来て居て、3人で話し始めたら止まらなく為り、肝心の話はお預けに為る(笑)。が、その話の中で、数年前にニューヨークのサザビーズで売られた縄文土偶のアンダービッダーを偶然知る事と為り、雑談の大切さを改めて思い知る。真実は雑談の中や「枠の外」にこそ有るのだ。

19:30 友人が「歌手のバックで演奏するので、映るかも知れない」というので、家に戻りNHK「うたコン」を観る。目を凝らして見ていると「セカオワ」の後ろにそのお姿が!芸能人でも無い個人的に知ってる人をテレビで観ると、興奮するのは何故だろう。


2月28日(水)
13:30 永青文庫で開催中の展覧会、「細川家と中国美術ー名品でたどる中国のやきもの」へ。17年振りと云う本展には、所謂「日本人好み」のモノが並び、特に唐三彩や宋磁に名品が揃う。その中でも個人的白眉は重文「三彩花卉文盤」や「三彩獅子」、定窯「白磁長頸瓶」、そして重文磁州窯「白釉黒花牡丹文瓶」辺りだろうか。然しこの美術館を訪れると、その展示室の落ち着き方に何時も癒されるのだが、藤田美術館の改装を思うと何となく惜しい気がして来るから、人間とは我儘なモノ。日本人の優れた眼で選ばれた東洋古美術は、矢張り日本人的な空間で観るのが最適なのかも知れない、と熟く思ふ。

16:00 某古美術商を訪ね、ここ数年で観た神像の中でも最も素晴らしいモノの一つを見せて貰う。もう時代・クオリティとも最高級で、垂涎の作品…当然、値段も最高級。

19:00 友人と日本橋のしゃぶしゃぶ店「Z」に行き座ると、隣の席から「桂屋さん!」と声が…驚いて振り向くと、引退された大古美術商H氏が!相変わらず大柄なH氏はお元気そうで、エネルギッシュで有った。然し僕は人に偶然良く会うなぁ…。


3月2日(金)
11:00 ニューヨークから来日中のスペシャリストや東京の社員と、翌日顧客へ渡すコレクションのセール・プロポーザルの為のミーティング。誰がどのパートを話すか、どのポイントを強調するか等を話し合う。上手く行けば良いが。

19:00 浜離宮朝日ホールに向かい、ピアニスト高橋悠治のリサイタル「余韻と手移り」を聴く。80歳に為ろうとする高橋は矍鑠として居て、弾く前の各曲説明も枯れて居て面白い。最初のバッハ「組曲 ハ短調」はかなり危なっかしかったが、その後の現代系曲の演奏は、その間合いや雰囲気も含めて流石。音楽会タイトル通り、「余韻」を楽しんだ音楽会だった。


3月3日(土)
14:00 チーム全員で顧客宅に向かい、念入りに作ったプロポーザルを基にセールの提案をする。好印象は与えられた気がするが、結果は如何に?


3月4日(日)
13:00 観世能楽堂での「観世会定期能 三月」を観る。この日は能「巴 替装束」、狂言「寝音曲」、仕舞四曲の後、最後は銕之丞師の「西行桜 脇留」。寺井栄師の「巴」は感動的で「寝音曲」は爆笑、そして僕が大好きな「西行桜」は、この時期人の生の儚さを何時も思わせる…良い番組で有った。

17:30 お能を観た後は母親、友人と「K」でお寿司を摘む。人生で初めてお能を観た友人も僕も、良く寝た後の食欲は満点で(笑)、お寿司後の「スーパー・メロン」と「スーパー・ストロベリー」のショートケーキ2つも、3人でペロッと頂く…いとをかし。


3月5日(月)
11:00 香港のマネジメントチームが来日し、夕方迄会議。マネジメントの連中が我々スペシャリストやビジネス・ゲッターに云う事は、言葉をどんなに変えても唯一つ…「良い作品を取って来い」だけだ。自分でやれない事を人に強制するとは、どう云う事だろう(笑)?況してや、馬だってエサをぶら下げなければ走らないのに。


3月6日(火)
19:00 東京・ニューヨークでもう20年近く知っている寿司職人K君が、日本橋蛎殻町に店を出したと聞き、早速ディナーをしに向かう。昔から丁寧な仕事をするK君の寿司は、相変わらず美味しく、お店も品の有る作り。そしてホールをして居た女性が何と無く怪しく(笑)、聞くと矢張り彼女は最近K君と結婚した奥さんで有った!最初に会った時から、ずっと独立する夢を話していたK君のダブルのお目出度は、我が事の様に嬉しい…おめでとう、K君!


3月7日(水)
11:00 千代田区の高級住宅街の顧客を訪ね、作品拝見。老夫人のお父様が僕の大先輩だと知り、打ち解ける。人に縁有り。

13:00 某古美術誌の取材を受ける。色々話して居る内に、自分がこの業界に25年も居る事実に改めて驚くが、然し良く続いたモンだなぁ…(笑)。


3月8日(木)
9:00 朝の芸能ニュースで、北島三郎の次男が51歳で孤独死し、見つかった時は死後1週間経って居た事を知る。親や親しい友人から「初老」と呼ばれて居る54歳の僕は、つい最近も週末朝寝坊して、友人からのラインに数時間連絡しないで居たら、脳梗塞心筋梗塞で死んだとマジ思われたらしく、連絡取れた途端にマジギレされた経験をしたばかりなので(笑)、他人事では無い。

11:00 K大学のN教授を訪ね、或る日本美術作品に関する意見を伺う。非常に勉強に為るお話をご教授頂き、大感謝。その後は大学の博物館を見学させて頂き、バブル時代は大学にもお金が有ったんだなぁ、と感慨深く拝見する。

14:00 東京国際フォーラムで開催される、「アートフェア東京」のVIPヴューイングへ。このフェアは毎年ニューヨークのアジアン・アート・ウィークと重なって居て、観る事が出来なかったので、実は今回が初めて。さて入場はした物の、現代美術と古美術の双方が出店して居るので、僕は顧客や知人とのご挨拶に忙しく、作品が全く見れない。然しイヴェントとしては盛り上がって居り、その点は良かったと思うが、作品の質はイマイチか…。そんな中、会場では芸術選奨を受賞した達さんとバッタリ会い、お祝いを申し上げ、そしてお互いに「俺らが文科省から賞貰ったり、某政府研究会の委員なったりしてる様じゃ、この国も終わりだな!」と軽口を叩く…達さんのこう云う所が僕は大好きなんだ。達さん、これからも頑張って、日本のアート行政の「スクラップ&ビルド」もやっちゃって下さい!


3月9日(金)
12:00 母親と銀座「G」でランチ。昔懐かしいメニュー「ポワブル・ステーキ」が復活したと聞いたので、早速頂く。美味い。

15:00 某婦人誌の特集号の取材を受ける。オークションや美術品が話題になるのは宜しいが、品良く、面白く、身近に伝えるのは何時でも難しい。現代インテリアと古美術の相性の良さに関する本を出したいなぁ。

17:30 アーツ千代田に赴き、「3331 Art Fair」を観る。有楽町とは全く異なる雰囲気の会場と作品は、逆に眼に新しい。佐藤直樹の「その後の『そこで生えている』」や淺井裕介の作品等色々と興味深かったが、一番眼を惹いたのは地下のバンビナートギャラリーで展示されて居た、内藤京平「Poker-Face」展だった。15世紀フランドルの画家、ヤン・ファン・エイクの作中人物の顔だけをトレースし、そこに内藤のドローイングが加えられた作品群は、クラシカル&コンテンポラリー感且つエロティシズムに溢れ、非常に魅力的。

19:00 神田に新しく開店したフレンチビストロ「B」でディナー。此処のシェフはフランス人だが西海岸で長年働いた人で、英語で話せるのが嬉しい。素材を生かした料理も美味しく、カジュアルな雰囲気も好ましい。当日某誌の取材が入って居て、僕の後ろ姿も撮影されました…載るかも(笑)。


3月10日(土)
9:00 朝のニュースで佐川国税庁長官がやっと辞任した事と、近畿財務局担当官が自殺して仕舞った事を知る。1人の命が失われた今、上に立つ各氏は猛省し、今までシラを切り続けてきたツケを絶対に払わねばならない。彼らの不遜な態度もこれっきりだし、官僚も矜持を正し、大阪地検は死に物狂いで奴等を追い詰めねば、遺族に対して申し訳が立たないだろう…「死人の出た『疑惑』は『ホンモノ』」なのだから。また驚くべき米朝間首脳会談のニュースは、米韓朝から日本だけが爪弾きにされている事を明白にした。全く情けない話だが、今の日本の内閣はそんなモンなのだ。嗚呼、出るのは溜息ばかり…そして我が国の政治・官僚の質は低下するばかりだ。国民の税金で食って居るのにメモに書いた同じ答えを繰り返し、国民に対して全く説明責任を果たさず、不遜な態度で会見に臨むしか能がない連中は、恥を知るべきだ。然し「官僚」と云う人種が佐川氏に代表されるなら、東大→財務省と云う典型的な官僚の人生の道筋に、我々の税金が使われたかと思うと、心底腹が立つ。

14:00 テラダ・アート・コンプレックスで開催中の、「Asian Art Award 2018」のファイナリスト展へ。特別賞を受賞したAki Inomataさんの展示が最も素晴らしく、特に「やどかりに『やど』をわたしてみる」の水槽作品が美し過ぎて、欲しく為る。

15:30 乃木坂のギャラリー間で開催中の展覧会、「en [縁]:アート・オブ・ネクサス 第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本帰国展」を観る。非常に興味深い展覧会だったが、建築素人の僕からすると、例えばレンゾ・ピアノやジャン・ヌーヴェル、亡くなったザハの様なスケール感の有る建築家が日本には居ないなぁ、と感じて仕舞う。敢えて云えば安藤忠雄がそうかも知れないが、それでもスケール感は海外の建築家に敵わない気がするし、ビエンナーレの展示としても何かコマコマして居る気がするのは僕だけだろうか?

17:00 小説家H氏と待ち合わせ、再び「アートフェア東京」へ。今一度作品を観て歩くが、ピンと来るモノは無い。古美術では何故か縄文ブームで、複数店が扱って居たのが不思議。

19:00 六本木の中華「K」で、H氏と食事。相変わらず美味スグル、大好物の胡麻平麺や蒸し豚薬膳ソース、海老の辛味ソースやキャベツ味噌炒め、マコモダケや鳥唐等の料理を、男2人で次々と平らげる。至福のひと時でした!


そして今日は3・11…記憶は日々風化して行くが、9・11と共に鎮魂の気持ちを忘れない。森友や加計問題、そして東北復興よりもオリンピックを優先する現政府等、潰れて仕舞えばいい。

我が国の政府の「スクラップ&ビルド」…シン・ゴジラの登場を心待ちにする。


ーお知らせー
*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。