世界が求めた「日本美術」。

昨日朝起きると、一昨日の夜降った雪が車の屋根に積もっていて、勝負の日、出かける頃には再び雪がちらついていた。

オークション当日の朝は忙しい。余り人気の無い作品の出品者と連絡を取って交渉し、底値を下げて売り易くしたり、上級顧客へのビッド・アドヴァイスや、前の日に全て仕舞ってしまった作品を「もう一度見せろ」と云う顧客への対応等、頭も体もフル回転。

そして午後2時、オークショニアの震災被害者へのステートメントに続き、オークションが始まった。

会場は久々の満員で、セールへの期待が感じられる。今回のオークションは「刀剣・甲冑」からのスタート。このセクションは殆どの作品が売れ、幸先の良いスタート。続く「金工品」のセクションは個人コレクションも有り、余り高額で無く地味ながらも、此処も活発な競りが続く。「漆工品」に入ると。柴田是真の作品が物凄く売れた。今是真のコレクターが世界に数人居て、恐ろしく値が高い。例えば印籠3点のハンマー・プライスは、各々6万5千、8万5千ドル、最後の竹を象った作品等は何と10万ドル迄吊り上った!

その後、最近ちょっと弱い「陶磁器」セクションを終え、「能面・能衣装」に移ったがこれも良く売れ、特に出光美術館旧蔵の唐織は18万2500ドルで売却、中々良い価格である。そして「絵画」のセクションへ突入…愈々南蛮屏風の出番である。

南蛮屏風のビッドは、250万ドルからスタート。ドンドン上がり、筆者の電話ビッダーが結局478万6500ドル(約3億8700万円)で購入(ハンマーは420万ドル)、日本絵画に於けるオークション世界新記録を打ち立てた。またこの金額は、全ての日本美術品の中でも、伝運慶作「大日如来坐像」に次ぐ、2番目の高額商品で有る。売却後、会場から拍手が起ったのも、それを考えれば当然だったかも知れない。

興奮冷めやらぬ侭「絵画」セクションが終わると、此処でオークショニアが交代し、今度は今回の目玉の一つである「版画」セクションへ。

今回、江戸浮世絵では「パレフスキー・コレクション」、新版画では「某アーティスト・コレクション」が含まれており、どちらも「ウブ」で状態・来歴も素晴しい…これこそが、バイヤー達の垂涎の的なのだ。

早速初期版画から春信へと移るが、筆者が最も好きな春信の「源重之」は6万8000ドルのハンマー・プライス、流石である。そして今回のカタログ・カヴァーである歌麿作「針仕事」は、下馬評通りエスティメイト上値を上回る23万ドルのハンマー・プライス、その他、北斎や広重(特に「東都八景」のセット)も非常に引きが強く、高額で売れた。続く新版画のセクションも、会場中が沸き立った様な活発なビッドが往来し、その後の現代陶芸も完売…久々の凄いセールであった。

その後の韓国美術はアップ・ダウンが有ったが、「文房具図」屏風がクリーヴランド美術館に拠って45万8500ドルで購入され、3人のビッダーに因って競られた李朝染付龍壺は389万5000ドル、そして最後の最後のロット、キム・ワンキの現代美術が142万6500ドルで売却、総額1485万ドルを売り、大団円的にオークションは終了。

そしてセール終了後、会場で一体何人の顧客から握手を求められ、オフィスに戻ってからも、世界中の顧客や同僚、友人達の一体何人からお祝いのメールを貰った事だろう…これは今迄には無かった事で、それは「大日如来」の時ですら、なのである。

日本の震災被害の甚大さを、世界が知っている。そんな中で、ビッドはアメリカ各都市、ヨーロッパ各国、アラブ、ロシア、中国等から万遍無く入り、そして昨日のセール結果がいみじくも証明した事は、日本美術が世界中の美術愛好家から買いたいと思われ、持ちたいと思われ、一緒に暮らしたいと思われて居り、そしてそれは半日のオークションに、900万ドルに喃喃とする金額を叩いてでも、と云う事なのである。

セール後、皆に肩を叩かれたり握手を求められたり、取材を受けたりして、不覚にも気持ちが動揺し涙が出そうになった大きな理由は、今回のセールの為に費やして来た苦労やその素晴しい結果と云うよりも、母国や国民が苦しんでいる中、日本文化の「顔」である日本美術品が、これだけ世界で求められている「事実」への、「誇り」と「有り難さ」なのであった。

最後に、「Love Art & Help Japan」キャンペーンの最新フォト・レポート(→ http://www.nyartbeat.com/nyablog/2011/03/love-art-help-japan-photo-report/)と、「Save Japan Benefits」の出来立てサイト(→http://savejapanbenefits.org/)をお届けして、今日はお仕舞い。