私にとっての「9.11」(前編)。

今日から下見会が始まったが、客の姿は本当に疎らである。考えられる理由としては幾つかあるのだが、先ず今回の日本・韓国美術セールが、エイジアン・ウイーク最後である来週の木曜なので、今回顧客にとっては、非常に長い下見期間が有る。しかも今日は朝から時折激しい雨風模様。そして何よりも、今日は「9・11」なのだ。

朝からTVでは「グラウンド・ゼロ」での追悼式一色で、副大統領や州知事、市長が勢揃いし、遺族と共に弔辞を述べていた。つい先日食事をご一緒した建築家のS氏によると、「1WTC」(旧称フリーダム・タワー)の高層ビル建築は、資金面でのトラブルがあり、一棟を除いては現在全てストップしているとの事。お互い「このまま建たなければ面白いのに」と、金の亡者達を皮肉を込めて笑ったのだったが、この「金の亡者たち」は、8年続いているこの追悼会を、どう見ているのだろうか。

8年前の「この日」の「あの時間」、筆者はシカゴ上空に居り、乗っていた飛行機はJFK空港に降りる為降下を始めていた。日本からのANA10便は定刻に成田を出発したのだが、出発前にはこれからパリに行くと云う、昨日ダイアリーに登場して頂いた柳孝一氏とラウンジでバッタリ会うという偶然もあった。柳氏とラウンジで一杯やっている時は、こんな事になるとは勿論想像だにしなかったのだが。

降下を始めた機内では、機長の最初のアナウンスが有り、云うには「NYで重大なテロがあり、現在JFKが緊急封鎖されているので、暫く様子を見る」との事だった。暫くすると「その重大なテロとは、ハイジャックされた2機の飛行機がWTCに突っ込んで爆発、またペンタゴンにも墜落。そして現在計13機ハイジャックされている模様」との事。頭の中は巨大な「?」が浮遊し、何か大変な事が起きた様だとの思いはあったが、悲しい事に現代の人間は映像が無いと、こういう突発的な事件を上手くイメージできない。ハッキリ云って機長の云う意味が良く解らなかった。

その直後、機長は「全米非常事態宣言が発令され、航空管制が引かれた。緊急着陸命令が飛行中の全機に対して出ており、今すぐに着陸しないとその命令に背く事となり、ハイジャックされていると見做され爆撃の恐れがあるので、速やかにランディング・ポイントを探す」と、とんでもない事を云う。流石に乗客中にざわめきが起こり、小パニックが起こり、CAを質問攻めにし始めた。

前に述べたようにJFKは封鎖されているが、何処かに降りねばならない。「全米」の空を飛んでいる「全世界」の飛行機が一度に何処かへ着陸せねばならないのだから、混雑するに決まっている。我がANA10便はカナダを目指しUターン、が暫く飛んだ後、カナダのどの空港も既に一杯という事が判り、またアメリカへUターン。こんな時何となく日本の国力の弱さというか、後回しにされている気が強くしたのを覚えている。

結局燃料も尽き掛けた頃、やっとデトロイトにスペースを見つけ着陸したのだが、着陸後駐機したサテライトから、3時間以上も空港ビルに入れなかった。緊急事態の為携帯も回線パンク状態で不通、が、こう云った時に妙に落ち着く癖の有る筆者は、仕方がないので機内の女性誌を片っ端から読んでいたのだった。

これには後日談があって、この時の筆者の様子を当該機のあるCAが良く覚えていたらしく、テロから1−2ヵ月後の日本行きANA9便に搭乗した時、そのCAが「あの失礼ですが、孫一様ですよね?9・11の時10便に乗ってらっしゃいましたよね。」と声を掛けられた。

「良く判りましたね」と云ったら彼女は、「あの時、ご存知の通り非常事態で、お客様もCAも皆パニックになっていて右往左往していたのですが、桂屋様だけが悠々と女性誌をお読みになっていて、当時のCAは皆、あの人何であんなに落ち着いて居られるんだろう、と話していたのです。その時搭乗していた先輩も今日一緒に勤務しているのですが、その先輩と、『あっ、あの人だ!』という事になって、お声を掛けさせて頂きました。」

ウーム、人間何処でどう見られているか判らん。以下衝撃の後半は次号を待て。