「古き良きアメリカ」@CHRISTIE'Sと、「嫌われ松子」@JAPAN SOCIETY.

突然だが、先週から当社社屋に三頭の「馬」と、一匹の「犬」が居座っている。

何の事かと思われるだろうが、この都合4頭の動物達は昨日、一昨日とクリスティーズで行われた「The Roy Rogers & Dale Evans Museum Collection」セールで、売りに出された動物達なのである。勿論馬も犬も剥製なのだが、しかしその中でも素晴しい鞍が付いた一頭、「Trigger」と名付けられた馬には、一昨晩行われたイヴニング・セールに於いて、ネブラスカのケーブルTV会社が26万6500ドル(約2345万円)を支払い、その馬に付いた「鞍」の方は、米個人コレクターが38万6500ドルで購入したのであった。

この「ロイ・ロジャース」と云う人物を知っている人が居たら、その人は恐るべき西部劇フリークに違いない。ロイは1940-50年代に活躍した所謂「Singing Cowboy」俳優で、その「シンギング・カウボーイ」とは1930年代に確立した西部劇の1ジャンルで有り、俗に云う「B級西部劇」中で歌を歌うスターの事で有る。云って見れば、小林旭がヤクザ映画で唄う様なモノだ(笑)。

このロイ・ロジャーズと云う人は人間的にも非常に良い人だったらしく、今でもかなり人気も有って人物的にも尊敬されており、その人気の高さは下見会期間中のネットワークTV「NBC」での取り上げられ方や、テンガロン・ハットを被った屈強な男達を特に数多く見かけた、満員の「イヴニング・セール」会場にも顕れていた。

結局セールは100%売れ、総額300万ドル弱(約2億6000万円)を売り上げた。トップ・ロットは前述したロイの愛馬トリッガーの「鞍」、次点が「名馬トリッガー(剥製)」だったのだが、「古き良きアメリカ」が感じられた社屋には、何時もと違う、緩やかで暖かな空気が満ち溢れていた…こう云ったセールは、何と無く心が温まる。

ここで「セレブ系」セールの、最新情報を一つ。今年11月10日・11日の両日、ニューヨーク・クリスティーズの現代美術オークションに於いて、今年5月に亡くなった俳優デニス・ホッパーのコレクションが売りに出される事が決定した。

ウォーホルのロスでの最初の展覧会で、「『最初の』キャベルスープ缶」を「75ドル」で購入した事で知られるホッパーのコレクションには、ウォーホルの他バスキアやオルデンバーグ、シュナーベル、プリンス、へリング、ラウシェンバーグ等の作品が含まれており、1000万ドル以上の売り上げが期待されているとの事…こう云ったセールには、ハリウッド・スター等のセレブ達も参加するのが常なので、ミーハー感覚でも大変楽しみなセールとなるだろう!

さて、カタログをやりつつも、未だ作品が来る可能性がある今日この頃、とある顧客の所で信楽大壺を観て、もしかしたら、年末に「某超大物ミュージシャン」に会えるかも知れないとの希望を持った後は、ジャパン・ソサエティでの映画「嫌われ松子の一生」を妻と観に行った。

この作品は、何しろ何年か前に友人から借りた原作が異常に面白く、一気読みしてしまったのが始まり。映画の方は、映像もキッチュっぽくて面白いとの噂を聞いていたので駆けつけたのだが、原作と異なる箇所も多く、またちょっと遊び過ぎの嫌いが有って、正直「イマイチ」であった。しかし、この「物語」には正直結構身につまされるモノが有って、それは、世の中孤独な人間が非常に多いと云う事実と、人生泥沼に入り込んでいる時に「かすかな希望」とか「かすかな喜び」が見えた瞬間、人間は前後見境無しに、思わずそれに飛びついてしまうのだろうと云う事を、これでもかと見せ付けられるからである。

劇中、男に殴られ蹴られても「どんなに酷い男でも、1人で居るよりマシ」と松子が呟くのだが、この気持ちは何と無く理解できるし、不幸は重なって訪れると云う事も、非常にリアルに感じられる。人よりも散々回り道をしている自分の今迄の人生を考えると、追い詰められねば何も決定出来無くて、しかしその時に選んだ道が「偶々」ラッキーだったクチなので、その時の選択が間違っていたら…と思わなくも無いが、しかし「『後悔』等存在しない。何故なら自分の下した決定・選択は、全て正しいのだから」と云う先達の教えも有り、この考えは或る意味この「嫌われ松子」の生き方と、何故かシンクロするのである。

山田宗樹の原作は、ジェット・コースター感覚で読める激オモ小説である。ハッキリ云って相当暗い話だが、読後は何と無く爽やかな気分なる、不思議な味わいが有る。興味のある方は是非。