香港で蘇った「龍壺」との旅・後編。

アッと云う間に12月…1年とは、何と早いのだろう!
そして昨日、クリスティーズ香港で開催された「中国古画」のセールは、清朝の作家、八大山人の2点の掛軸にリードされた結果となった。

トップ・ロットは、2枚の画帖のハナレを軸装した「畫眉・行書七絶」で1130万香港ドル(約1億2238万円)、次点が紙本墨画軸の「松芝図」で1018万香港ドル(約1億1025万円)。セール総額では91%、1億92万2000香港ドル(約10億9298万円)を売上げたのだが、中々落ち着いた良いセールであったと思う。

しかし、一段と凄かったのは「中国近代絵画」の方で、ロットで96%、総額5億6845万7000香港ドル(約61億5689万円)を売り尽く、そして「中国絵画部門」全体の売り上げとしては、同分野の史上最高額となり、オークションも余りに盛り上がった為に、終了したのも夜10時過ぎになってしまったのも頷ける(笑)。

さて、「龍壺との旅」の後編である。

大壺を抱えて乗り込んだ筆者の「席」は、これも生まれて初めて乗る「ビジネス・クラス」…しかし、これは当然筆者の為では無く、飽くまでも「お壺様」の為で有って、買った2席の窓際に龍壺、通路側に筆者が座って、他の乗客との接触に因るダメージから守る。

特製風呂敷に包まれた壺をシートに座らせ、シートベルトを掛け、その上持って来た紐で、襷掛けに結わえて固定する。すると、その様子を見ていたスチュワーデスが「お客様、一体何をなさってるのです?」と血相を変えて飛んで来たので、「150万ドルの壺が動かない様に、結わえているのです…見て判りませんか?」と一言答えたら、とっとと退散して行った(笑)。

そして離陸後も、隣の壺が気になって、到底落ち着かない…英国人部長のあの言葉が、機体が揺れる度に、脳裏に甦るからである(笑)。当然一睡も出来ず、そうこうしている内に「途中下機」の時間、アンカレッジでの給油の為に、一度飛行機を降りる事に為った。

疲労と寝不足の為に只でさえ重い壺は、その重みを倍増させ、同じ飛行機に乗っていた韓国からの業者達の好奇の眼を避けながら、龍壺を引き摺る様にして、機外に出る。

給油が終わり、再び大汗を掻いて機内に戻ると、これで一安心、後はソウルに向かうだけ…と思ったのだが、人生、そうは問屋が卸さない(笑)。

少しウトウトし、後1時間半でソウル到着…これで初の重大任務も完了、良くやった、自分!と思ったのも束の間、機長からの悪夢のアナウンスが…ソウル金浦空港が霧の為閉鎖されたので、済州島に降りて様子を見ると云う…何と云う事だ!

頭を掻きむしっても、呪いの言葉を吐いても事態は変わらず、飛行機は進路を南に変え済州島に着陸、2時間以上滑走路で待機した末、漸く金浦空港の霧が晴れて出発、結局ニューヨークから20時間以上も掛けて、龍壺と筆者は、遂にソウルに到着したのであった。

精神的・肉体的疲労に因るフラフラの体で、お壺様を大事に抱えて出口を出ると、Xさんが満面の笑顔で、まるで恋人を待っていたかの様に筆者を、もとい、「龍壺」を迎えた。

何とか役目を果たした新入社員の筆者は、美術品を扱う大変さとその歓びをほんの少し学び、この龍壺との旅は、一生忘れ得ない旅となったのである。

龍壺を無事に引き渡した後は、ソウルの街でXさんと、これも忘れ得ぬ想い出を作ったのだが、それはまた別の機会に(笑)。