「本来の場所」と「新装」根津美術館。

昨日は昼頃から、先日のオークションで茶道具を買って頂いた顧客のお宅に、品物をお届けした。

その方のお宅は都心のど真ん中、東京タワーの見える茶室を備える。顧客と再会を祝した後、早速荷を解き品物を茶室に運び込んだ。すると、ある程度想像はしていたのだが、床の間や畳の上に置かれた品物は、驚くべきスピードで趣を変え、まるで以前から其処に鎮座していた様に見え始めたのだった。

これらの道具は何時の日か日本を離れ、NYでオークションに掛かった末に再び祖国に戻って来た訳だが、いくら頑張ってNYのオークション下見会場で「日本風」の展示をしても、「あるべき場所」には絶対的に敵わない、との思いを改めて強くした。「本来の場所」とは、そういう事である。

作品を眺めながらお茶を頂き、優ちゃんも来たという定食屋で昼食を取った後、7日にリニューアル・オープンする根津美術館の内覧会へ。美術館に着くと、新しい竹垣のデザインのエントランス付近には、和風姿の女性や黒塗りの車が集まり、重要な個人美術館のリニューアルの雰囲気を盛り上げていた。

現代的且つ校倉造りにも見える建築は、竹垣のスロープに緩やかに誘導され、明るい玄関では館長夫妻が招待客に挨拶をされていた。館長や学芸員にお祝いの挨拶を済ませた後、早速展示室へ向かうと、先ずは絵画室で、国宝「那智瀧図」を含む神道絵画が並ぶ。流石のクオリティであった。屏風、焼き物、歌切や書、漆と続き二階へと移動。

二階は中国美術が並び、珍しい「瑠璃釉盤」等々初めて観る作品もあった。各展示室、誘導経路、デザインは須らく素晴らしいのであるが、特に青銅器の展示室が秀逸。ライティングは、もしかしたら少々暗過ぎる感じがしないでも無いが、ドラマチックな見せ方は大成功と思う。

観覧中、鯔背な和服姿の「辻留」の女将とバッタリ会い、思いがけない再会を喜んだが、こういう美術関係者以外との遭遇も、オープニングならでは。その後庭を散歩、玄関に戻り再び館長ご夫妻にご挨拶し、館を後にした。

夜は最近神楽坂にオープンした、筆者の弟の和食店「来経(きふ)」で食事、しかし味はマダマダ。今日は大倉集古館での「根来展」オープニングに行く。

日本の「芸術の秋」、本番である。