現代美術勉強旅行。

思い切って、ミラノとヴェニスに現代美術の勉強に行って来た。

僕に取ってヴェニスは24年、ミラノは22年振りの再訪で、例えばブレラ美術館で観たマンテーニャの「死せるキリスト」等、嘗て観た美術品の幾つかは今でも記憶に残って居るけれど、当然道や街並は全く覚えて居ない。

さて今回の旅のメインテーマは、初体験と為る「ヴェニスビエンナーレ」の見学…が、ミラノとヴェニスにはそれ以外にも現代美術の「名所」が犇めいて居るので、何しろ現代美術を観捲る事。

だったのだが、灼熱の太陽の下、滅茶苦茶暑いわ疲労するわで詳しく書く元気も無いので、行った施設と特に気に為った事を自分の為のメモとして以下に記す。

ーミラノー
1. EXPO Milano 2015(ミラノ万博):ミラノ市の外れで開催中だが、矢張り凄い規模。この万博の為に出版された、「日本料理アカデミー」監修「日本料理大全・プロローグ巻」を僕も手伝った事も有って日本館を観に行ったのだが、炎天下の下1時間待ちの行列で、然も入館してからのノロノロ観覧で最低1時間は掛かると係員に聞き、断念。然し、この万博が「食」に特化して居るとは言え、例えばロシア館等可成りカッコ良いアーティスティックな建築が並んで居るのは観て居て楽しい。日本館内部にはチーム・ラボの作品が有るとの噂も聞いたが、そう云った訳で残念ながら未見。

2. Fondazione MUDIMA(ムディマ財団):シチリア出身の現代美術コレクター、ディーノ・ディ=マッジオ氏のコレクションを有する財団で、現在「MONOHA」展を開催中。本展ではコレクション中の榎倉康二、原口典之、小清水漸、李禹煥、成田克彦、菅木志雄、関根伸夫、高山登高松次郎、吉田克朗の10人の「もの派」作家の作品が展示される。昨今具体に続き、もの派もマーケットでの価格が高く為って来て居て、90年代から作品を収集して居るディ=マッジオ氏のコレクションの価値もさぞ上がったに違いない。桑原さんと云う日本人の方に丁寧に説明して頂いた上に、ディ=マッジオ氏やチーフ・キュレーター氏とも電話で話す事が出来て幸甚。

3. Lorenzelli Arte(ロレンツェッリ・ギャラリー):アート・ディーラー、ロレンツェッリ氏のギャラリー。此処では「Enrico CastellanI e Lee Ufan: Surfaces et Correspondences」と云う、素晴らしいギャラリー・スペースで非常にセンスの良い展覧会が開催されて居て、李禹煥の1枚1トンを超える鉄板と石を使ったインスタレーション「関係項」や、特に僕が以前から興味を持って居たカステラーニに就いて、例えばカステラーニの「突起」には2種類有る事、また真贋判断に就て等、タメに為る事をロレンツェッリ氏に色々と教えて頂く。

4. Fondazione Marconi(マルコーニ財団):コレクター&ディーラーで、財団を持つジョルジオ・マルコーニ氏のスペース。此処ではフォンタナ財団と共催の、これ又垂涎の「Omaggio a Lucio Fontana」と題された展覧会が催されて居て、初期の「空間概念」や彫刻が並ぶ中、此処で観た1966年作の大きな正方形白キャンバス3枚続作品「Trinita (Trinity)」は、その昔僕が西武美術館で初めてフォンタナを観て以来の粗30年間、数だけは星の数程観て居るフォンタナ作品の中でもピカイチで、もう大感動!…それプラス、その3枚を展示する際にインストールされるべきブルーのパネルの位置を指示したフォンタナのドローイング迄展示されて居て、いやはや何とも贅沢な展示でした。然し「Trinita」、実にスンバラシイ作品だった…。

5. Duomo & Pinacoteca di Brera (ドゥオモ & ブレラ絵画館):「ゴチックの極み」な大聖堂は上迄登り、その後ご存知オールドマスター+近代美術の宝庫ブレラを訪ねる。今回気に為ったのは、大好きなマンテーニャの「死せるキリスト」の展示位置が、観る者に「キリストの臨終を見守る」目線で鑑賞させる為か非常に低くかった事で、僕には超見辛かったのが難点だったが、オールドマスターの大名品の間に散見する、リヒターやクネリス等の作品との対比も流石な展示だった。

6. Museo del Novecento (1900年代美術館):この美術館は「1900年代」と名乗っては居るが、可成り最近の現代美術迄カヴァーして居る見応えタップリの美術館で、もう何でも有りな感じなのだが、矢張りボッチョーニやバッラ、セヴェリーニ等のフューチャリスムの作家の作品が素晴らしい。ミラノに行ったら外せ無い美術館だと思う。

7. Fondazione Pradaプラダ財団):ご存知ファッションブランド「プラダ」のアート・コレクションを管理する、ミラノ市の外れに在る財団だが、ハッキリ云ってパリのルイ・ヴィトン財団なんかよりも、100倍センスが良い。レム・コールハースのOMAに拠って、1910年代の「蒸留所」から生まれ変わった10棟から為る施設では、ゴーバーとブルジョワに拠るパーマネント・インスタレーション「Haunted House」や常設展以外にも、古代ギリシャ・ローマ彫刻とそれをオマージュした現代作家に拠る彫刻の展覧会「Serial Classic」が開催されて居て、何しろ非常にカッコ良い。また、ダミアン・ハーストの大作「Lost Love」等も展示されて見所十分な上に、展示室、建物、スタッフ、環境の全てが洗練されて居る、誠にインプレッシヴな空間でした。

ヴェニス
1. Glass Tea House "Mondorian"(杉本博司茶室「聞鳥庵」):やっと実見出来た、杉本がサン・ジョルジョ・マッジョーレ島に創ったガラスのお茶室。抜ける様な青空の下、正直あの暑さの中でのお茶はご勘弁だが(笑)、水が張られた究極ミニマルで透徹な茶室は、観る者にヴェネティアン・ガラスの歴史へと想いを馳せさせる程環境にマッチした茶室だったので、展示終了前の秋口だったら、是非一服所望したい(笑)。

2. Peggy Guggenheim Collection:ソロモン・グッゲンハイムの姪で、エルンストの嘗ての妻、ご存知ペギー・グッゲンハイムのこじんまりとした個人美術館では、ピカソやクレー、モンドリアンデュシャン、珍しくも美しいリシスキー等の常設展と共に、ジャクソン・ポロックとその兄チャールズの展覧会「Charles Pollock: A Retrospective」が開催。チャールズの70年代の絵が中々良くて、ビックリする。

3. Punta Della Dogana:安藤忠雄が改装した、我が社主フランソワ・ピノーのコレクション・ミュージアム。流石のロケーションと施設で、今回の展覧会はDahn Voのキュレーションに拠る「Slip of the Tongue」。Vo自身の作品やベリーニのキリスト像を含む13-15世紀のオールドマスター、ブランクーシピカソ工藤哲巳(若しかしたらM財団が売ったモノか?)や元永定正、マンゾーニ、セラーノ、ゴンザレス=トーレスや横たえられたロダン迄、バラエティに富んだラインナップと展示内容だった。時間が無くて行けなかった、ピノーのもう一つのコレクションを収めたPalazzo Grassiでは、Martial Raysseの展覧会を開催中だったが、観れずに残念…。

4. "All the World's Future": Biennale Arte 2015(Giardini):初体験ビエンナーレの日本館だが、先ず建物がイマイチ…他国のパヴィリオンに比べると良く言えばミニマルだが、正直面白くも何とも無い建築でガックリ。塩田千春の展示も想像よりも迫力が無く、それは室内が思ったよりも明るかったのと天井高の低さの所為かもしれ無いが、何よりも今回のビエンナーレの非常に政治的なテーマで有る「All the World's future」を考えた時、他国の展示に比べても弱い展示だったと云わざるを得ない…ロマンティシズムだけでは、厳しい世界未来は語り切れないのかも知れない。

その他僕が好きだったのは、余りの暑さの為に、只のコンビニ店と勘違いして思わず水を買いに入って仕舞う「カナダ館」、絵画の力強さを思い出させてくれたAdrian Ghenieをフィーチャーした「ルーマニア館」、Celeste Boursier-Mougenotの松の木が動き回る作品をフィーチャーした「フランス館」、個人作品ではMutuや石田徹也作品、金獅子賞を取ったAdrian Piperの「Everything will be Taken Away」、Dumasの「36 Sculls」, Charles Gainesのミュージカル・コンセプチャアル・ワーク「Sound Texts」に惹かれた。

5. 同上(Arsenale):国別のパヴィリオンではイマイチピンと来る所はなかったが、ツヴァルのプールから湯気の出るシンプルな展示(バレエ・ダンサーが踊る)が面白い。反面アーティストの個別展示の方は充実感が有り、ChrisOffliやLorna Simpson、Cao FeiやBeselitz、The Propeller Group、Kutlag Altman、そして僕自身もレジスターした上記金獅子賞受賞作品、Adrian Piperの「The Probanle Trust Registry」が良かった("I will always be too expensive to buy" 、"I will always mean what I say"、"I will always say what I'm doing to do"の3種の内、僕が何れを宣誓したかは内緒:笑)。

6. 同上(上記2箇所以外の展示):此方も金獅子賞を取ったサン・ロレンゾ島のアルメニア館も良かったが(船の便数が少ないのが難…)、それにも況してクオリティの高かったのが、European Cultural Center主催の展覧会「Personal Structures-Crossing Borders」。50カ国を超えて集められた100人以上のアーティスト達の作品には力が満ち溢れ、本展キュレーターの実力の程が知られる。隠れた必見展覧会だと思う。

また、アカデミア橋の袂に在るベルギー本拠のBoghossian Foundation(ボゴシアン・ファンデーション)では、ソウルのKukje GalleryとTina Kim Galleryとの共催で、戦後韓国現代美術の展覧会「Dansaekhwa」が開催中。70年代に韓国で起こったムーヴメント「Dansaekwa」に関わったアーティスト達、即ち李禹煥、鄭相和等7人のアーティストの代表作が、リウム美術館やソウル美術館、個人コレクション等から出品され展示されて居る。作品はお馴染み李の「From Line」や「From Point」から、最近パリのペロタンで観たChung Chang-Supの作品迄ヴァラエティに富み、70-80年代の日本での展覧会カタログ等も展示されて居り、ムーヴメントの全体像を掴む事が出来る秀逸な展覧会だった。

7. Fondazione Prada, Venezia :ミラノのプラダ財団の別館。此処はミラノに比べると本当に行き辛い所で、サインも可成り地味で見つけ辛いが、ミラノと連動した展覧会「Portable Classic」を開催中。古代、そして16-19世紀の古典彫刻とレプリカがスケール毎に並ばせた展示が秀逸で、こう云う所に来ると、「あぁ、ヨーロッパって良いなぁ…」と熟く感じて仕舞う。

と、今回ビエンナーレも全部は制覇出来なかったワタクシの個人的ナンバーワンを云えば、展示はミラノのプラダ財団、作品はビエンナーレルーマニア館のAdrian Ghenieか…。

駆け足で廻ったイタリアでの現代美術勉強旅行の報告をして、今日は此れ迄。