日本美術展覧会@NYC、そして笑えない「夢」。

昨日の朝は、再びマイナス6度迄気温の下がったニューヨークだが、今晩の予報は何と「雪」。全く以って好い加減にして欲しいが、超多忙だった春の「Asian Art Week」が、先週漸く幕を閉じた。

その先週のクリスティーズは、3部門都合8セールスで7211万4126ドル(約73億5000万円)を売り上げ(プライヴェート・セールで売却された青銅器を除く)、Asian Art Weekをリードした。

そしてセールが終わり、一息吐いた先週末は、日本美術史家でコロンビア大学名誉教授、元メトロポリタン美術館特別顧問の村瀬実恵子先生の「卒寿」記念シンポジウムが、コロンビア大学で開催。

初日金曜日の夜は、千葉市美術館の河合正朝館長に拠る記念講演が有り、その後はレセプションに出席。20年程前に初めてお会いした村瀬先生は、卒寿を迎えられても本当にお元気で、此方が座骨神経痛で足を引き摺って居るのが、恥ずかしく為る程だ。

レセプションでは司会を務めたコロンビア大のマシュー・マッケルウェイ准教授を始め、世界から集まった、今は錚々たる学者と為った村瀬先生の御弟子さん達と楽しい時間を過ごしたが、翌土曜日は、その錚々たるメンバーの御弟子さん達の講演をフィーチャーしたシンポジウムを覗く積りだったにも関わらず、ここ数週間休んで居なかった為の疲労と足の痛みで断念する羽目に。

が、日曜は何とか立ち直り、今ニューヨークで開催されている2つの日本美術展へと向かった…先ず1つ目は、メトロポリタン美術館で開催中の「The Flowering of Edo Period Paintng: Japanese Masterworks from the Feinberg Collection」だ。

この展覧会はメリーランド州在住のコレクター、ベッツィー&ロバート・ファインバーグ夫妻のコレクション展で、夫妻のコレクションは昨年日本(江戸博・MIHO MUSEUM等に巡回)でも展覧されたが、今回はMETの所蔵品もギャラリーに残しての小規模な物。

が、出展作品は流石充実して居て、見覚え有る酒井抱一「屠龍」落款の「立美人図」や、礒田湖龍斎の「紅嫌い」三幅対の「松風村雨図」、狩野山雪の水墨屏風「訪戴安道・題李欵幽居図」や蕭白の「宇治川先陣争い図」屏風、また南蛮屏風や琳派の名品迄、見応え充分で有る。

そしてもう1つの「日本美術展」は、ジャパン・ソサエティで開催されて居る「Points of Departure: Treasure of Japan from the Brooklyn Museum」。

此方はブルックリン美術館とのコラボ企画で、その日本美術コレクションからの71点を展示するが、展示作品は埴輪から「洛中洛外図屏風」、「興福寺千体仏」等の仏像や美濃陶磁器、根来瓶子から近現代陶芸迄、多岐に渡る。

が、その中での白眉は云う迄も無く「桜狩遊楽図屏風」六曲一隻で、MOA美術館所蔵の「湯女図」に通じる、妖艶な、岸田劉生が且つて「デロリ」と表現した作画技法は、近世初期風俗画の大名品。

「プラット・インスティテュート」のプラット氏に拠って1942年に寄贈されたこの屏風には、実は「ツレ」で有る処の「左隻」(日本個人蔵)の存在が分かって居る。今迄にも数回「再会」展示の機会が有ったのだが、両隻を並べてみると、左隻の若衆が右隻の遊女に云い寄って来る感じで、より生々しい「遊楽」の場面を呈する構図と為って居る。

また今回のJSの展示では、最終室に「アイヌ工芸」がフィーチャーされて居て、これは「日本の南から北へ向かって」美術品を見せると云う企画に則った展示の「トリ」なのだが、非常に珍しくモダンなデザインの工芸品が観れるのでお勧めだ。

と此処迄紹介して、今日はこの辺で終わろうと思ったのだが、つい最近或る顧客から誠に「身につまされる」話を聞いたので、その話で今日は締め括りたい。

それはオークションの下見会中の、或る日の出来事…下見会場で突如火災が起き、偶々その場に居た顧客は、出展して居た仏像を抱え、大急ぎで逃げようとした。そしてビルの玄関迄来て、回転ドアに仏像を抱えながら入ったのだが、何と大きな仏像が痞えてドアが廻らない。

必死の思いの顧客が無理矢理ドアを廻したら、痞えて居た仏像の頭が取れて仕舞い、そのお陰でドアは回ったのだが、取れた頭コロコロとドアマンの方に転がって行ったので、「あぁ、何て事だ!」と思って居たら、顔見知りのドアマンがその「頭」を拾って持って来て呉れて、何時ものニコニコ顔で顧客に「頭」を差し出したそうな。

と云う「夢」を見て、顧客は飛び起きたそうなのだ(笑)。

筆者にはとても笑えないこの話で(涙)、今日はこれ迄。