「現代美術下見」と「G氏の茶会」。

突然だが、今日のタイトルとは何の関係も無いのだが、最近中原昌也著「作業日誌:2004−2007」を読んでいる。

この本はスゴイ。日記と云うか、魂の叫びと云うか、ノイズ版「断腸亭日乗」と云うか。筆者が勝手に思っているだけだが、この人の日常は非常に「作家」的日常に思え、しかも、こういう作家は今余り居ないのではないか。音楽は当然だが、観ている映画もミーハーからカルトまで、日誌の文体も簡潔で、非常に勉強になります。スゴイ人だ、この人は。

さて昨日の日曜日は、先ず現代美術の下見の為両オークションハウスへ。ハッキリ云って双方とも大した事は無い、と思った。サザビーズのトップ・ロットは、ウォーホルの「200 One Dollar Bills」で800万ー1,200万ドルのエスティメイトだが、ハッキリ云ってつまらない作品、且つ値段が高過ぎる。個人的にはイサム・ノグチの81年の御影石作品「Basin and Range」(40万ー60万ドル)と、カプーアの「Turning the World Upside Down」(120万ー180万ドル)が最も好きであった。

クリスティーズのトップ・ロットは、バスキアの「Brother's Sausage」(900万ー1,200万ドル)だが、これも筆者は唯高い、としか思わず。個人的意見だが、バスキアと云う作家は、少々過大評価され過ぎではないだろうか。

こちらでのフェイヴァリットは、クーンズの3作品も然る事ながら、やはり「草間」である。彼女の1960年作のカンバス「No.A」も良い作品だが、何と云っても「The Passing Winter」と云うタイトルの付いた、ミラー・ボックスが秀逸であった。この作品は、80センチ四方の、内も外も鏡張りの立方体の箱(+足)で、各側面には覗き孔が数個ずつ付いており、そこから観者は中を覗く事が出来る。中には電球が一つ上からぶら下がり、鏡面に反射して「永遠(とこしえ)」に連続して見えるのだが、「ミソ」は覗いた人の「眼」も鏡に映り、電球と共にこれも「トコシエ」に見える所だ。素晴しい!!エスティメイトは15万ー20万ドル、お金が有ったら是非買いた、「とこしえ」の逸品である。

何れにしても、火・水両日の現代美術イヴニング・セールの結果が、世界の美術界全体の景気を占う事は必死なので、今週は眼が離せない。

下見の後は、予てより約束していた、米国人茶人G氏の茶会へ向かう。

G氏は金融機関にお勤めだが、お茶を始めて既に25年以上、現在NY裏千家の重鎮で、ワシントンのフリアー・ギャラリーのボード・メンバーも勤めている。3時過ぎにアッパー・イースト・サイドのお宅に伺うと、アパートメントの入り口付近の本棚には、茶道関係書籍がビッチリと並んでいた。外国の個人宅で、こんな量の茶道関係資料を見たのは勿論初めてで、「古今名物類聚」まで揃っている。G氏は日本語もペラペラなので、日本語の書籍も全て読めるのだ。

茶壷が飾られ、畳を敷いた茶席が見えるテーブル席で、先ずはお菓子を頂く。その後お茶が始まり、何しろ全てキチンとしているのだが、流石数寄者のG氏、道具もスゴイ。濃茶席で眼を奪われたのが、雲州名物瀬戸肩衝茶入「有明」。床は翠巌老師の公案、主茶碗は古伊羅保で、茶杓大徳寺のお坊さん(名前を失念!こういう所が、ダメなのだ…)の作であった。

しかし、何という外人であろうか!部屋も本当に静かで、聞こえる音は「松籟」のみ、何しろ全て「侘び」ている。此処は本当にNYか?という感じで有った。

その後中立があり、薄茶を頂く。薄茶席の主茶碗は「阿漕焼」で、珍しい物であった。お茶が終わった後も、テーブル席に戻り四方山話、お茶を通して世界経済を語る、と云う大変為になる会話に終始。日本のお茶のプロの方々からすれば、勿論大した事は無いのだろうが、G氏の様に、本格的に「茶道」や「日本文化」を愛するアメリカ人は、その知識や道具の扱い等も勉強に余念が無い。こう云った人は、筆者にとっては実に大切で、何しろこちらが見習わねばならない事が、多々有るのである。そんな事を考えながらも、G氏の持て成しと「茶の心」に感謝しつつ、彼の家を後にした。

夕食はダウンタウンの「A」で、旨いパスタ。ここは以前アーティストのM君に紹介してもらったのだが、「BABOO」のシェフが出した店なので、何を食べても須らく美味しい。

その後は、止せばいいのに、夫婦でまたBASTA PASTAへ。そして最悪な事に、此処でもパスタ再食(涙)。16日に日本に行く迄に、頑張って痩せねば…「冬の京都」は食べ物が旨過ぎるので、腰を痛めて以来ちょっと肥えてしまった筆者には、危険極まりないのである。

BASTAでは、友人の「偽マルコビッチ」スティーブや、NYティファニーのジェエリー・デザイナーだったN氏、ルーベン・ミュージアムのディレクターW氏等と談笑。

楽しかったが、激疲れの「和洋折衷」サンデーであった。