「白い」青磁。

今日は仕事の合間を縫って、日本橋の老舗古美術店「壷中居」で開催されている、陶芸家川瀬忍の個展「外焔ー青瓷から瓊瓷へ(青から白へ)」を観て来た。瓊瓷(けいじ)とは、「玉の様に美しい焼物」という意味らしい。

川瀬忍氏は、ご存知の通り40年以上「青磁」を追い続けている陶芸家であるが、今回壷中居の展示場に足を踏み入れた瞬間、筆者の眼に飛び込んで来たのは、米色青磁の作品と共に、「白磁」為らぬ「象牙色」の盃、蓋物、茶碗等の作品群であった。

会場には多くの人が来場しており、壷中居のI社長やMさんと共に、川瀬さん御夫妻もいらっしゃり、ご挨拶をする。川瀬氏とは、ニューヨークや東京で何度もお会いしているが、いつもニコニコしている温厚な方だ。そして、そのご本人から新作の説明を受けた。

事の起こりは、中国陶磁研究会で青磁の「酸化」焼成と「還元」焼成の違いを確認する為に、テスト・ピースを制作した時の事だそうだ。経験の無かった「酸化焼成」に因って焼き上がった、「白粘土に青磁釉を厚く施した作品の「象牙色」が、川瀬氏に衝撃を与えた。

その後その「白」を追求する為に、釉薬から酸化鉄を取り除き、「青」の成分を押さえて厚く施釉し、粘土もより白い物を使用する事で、ネットリ、淡く、シットリとした象牙色、「玉」の様な色調を産みだす事を可能にした。

また、この釉調を活かす為に作品の造形を極力省いたとの事で、このコンセプトは、粘土に於ける不純物の除去、前述した釉薬からの酸化鉄の除去と共に、「省く」と云う理念に基づいている。また氏は、この一見「白磁」とも見える作品を、「青磁」からの展開と云う理由から、「白磁」とは呼ばず「白い青磁」と考えているとの事である。

「白い青磁」の内、筆者が最も眼を惹かれたのは、貫入の入った「鎬(しのぎ)」の茶碗であった。高台も無く、丸みを帯びた「鎬」の茶碗に抹茶が注がれ、それを掌に包み込んで頂く…ミニマルで、しかもクラシックな感覚の作品と拝見した。誠に美しい逸品で有った。

この展覧会は、12月5日迄。