「味」が全て。

今、成田のラウンジに居る。

父が亡くなり、ニューヨーク〜日本間を短期間に2度往復したのだが、物事もやっと落ち着き始め、今からニューヨークへと帰る…ハッキリ云って、体力的にも精神的にもクタクタだ。

唯一の心配は、やはり1人残された母で、能の「熊野(ゆや)」の様に、嘗て自分の母を1人残して旅立った筆者の母は、今度は自分が祖母の立場に為った訳で、母の寂しさは想像するに余り有るが、しかし筆者はその側に居残る事は叶わず、「生きる」為にニューヨークに帰らねばならない(拙ダイアリー:「母の誕生日に、『熊野』(ゆや)を想う」参照)。

そんな事を考えながらも、ここ数日は、亡き父の「偲ぶ会」の準備に奔走していた。

都内の幾つかのホテルで宴会場の下見をしたが、至る所で「偲ぶ会」が催されて居て、ホテルの営業部の人に聞くと、やはり寒い時期には老人が亡くなる事が多く、「偲ぶ会」の需要が多く為るのだそうだ。

さて、今回の日本滞在最後の昨日は、小一時間の隙間を見つけて、サントリー美術館で開幕した「大阪市立東洋陶磁美術館コレクション 悠久の光彩 東洋陶磁の美」展を観に行った。

今迄、何度このコレクションを観ただろうか…恐らく30回は下らないと思うが、観る度に毎回新たな発見が有るのは、偏にこのコレクションのクオリティの高さに由来するのだろうと思う。

其処で、今回展覧された作品から、「改めて」眼を奪われたモノを此処に挙げてみたい。

先ずは、中国陶磁器から。
「飛青磁花生」と「油滴天目」の両国宝も良いが、個人的には何と云っても「木葉天目」で有る。この重文天目の、剰りにマットで味の有る「黒」色と、薄く冷たそうな器体は誠に魅力的で、その黒の「味」全く以て只者では無い…一度は触れてみたい逸品で有る!

そして、お待ち兼ねの韓国陶磁器。

今回の展示は、東洋陶磁美術館の白眉、「安宅コレクション」と「李コレクション」の双方からの、極々一部の作品が中心と為っているが、その中でも今回改めて眼を惹いたのが、重文「青磁象篏童子海石榴華文水注」、「黒釉扁壷」、「粉青粉引瓶」、そして「青花宝相華唐草文盤」の4点で有った。

特に「黒釉扁壷」は、個人的に昔から「大大大好き」な作品で、この世に数多存在する「黒釉扁壷」の中でも、この作品程ぽったりとし、侘びた黒色も素晴らしく「味」が有り、横に膨れ、高台も愛らしいモノは他に無い!

また「粉青粉引瓶」もその「味」が凄く、アシンメトリーな器型と長い年月で付いた沁みが、何とも云えない…「黒釉扁壷」と共に両手で抱き締めて、撫で撫でしたい作品で有った(笑)。

モノも人も、「味」が全てで有る…と思いません?(笑)