「枕絵」と「現代茶碗」の行方。

寒さも厳しくなるに連れて、3月24日に開催予定の「日本・韓国美術オークション」の締め切りも近づいて来た。

現在の所、日本・韓国セクション合わせて150ロット前後集まっており、エスティメイト(落札予想価格)の総計は400万ドルー520万ドルという具合なので、まぁソコソコだろう。昨年クリスマス前の「オニ出張」(拙ダイアリー:「オニの出張」参照)の甲斐無く、その仕事をゲット出来なかったので(コンペに負けた訳では無く、今は売らない)大きな失望感が有るが、これも良く有る事なので仕方無い。美術品の神は「気紛れ」なのである。

さて3月のセールで有るが、「今決まっている」作品の中から、変り種的「分野」のモノを少し紹介しようと思う。

先ず「枕絵」。歌麿北斎の「枕絵(春画)」の最高峰が出品される。歌麿作品は代表作「歌まくら」で、落札予想価格:10万ー15万ドル(約920万-1380万円)。筆者がこの「歌まくら」を扱うのは2005年以来2度目で、その時は今回よりも少々状態の良いモノを、38万ドルで売却した。因みにこの「歌まくら」という作品は、歌麿の「全ての版画」の最高傑作といっても過言でないクオリティの作品である。

そして北斎は、これまた最高峰「浪千鳥」(落札予想価格:12万-18万ドル:約1100万ー1650万円)。これはまだ確認できていないのだが、「高橋誠一郎コレクション」に嘗て有った作品かも知れないとの事で、状態も中々素晴しい。この「浪千鳥」も北斎の全版画中ベスト5に入る作品で、雲母摺のバックに「これぞ、北斎!」的面目躍如の秘画が描かれる・・・大名品である。

春画」は、特に日本では今でも目を背けられ勝ちだが、外国の方が専ら研究も蒐集も盛んである。数年後には大英博物館で「春画展」が企画されている事も有り、世界的に見直しが進むであろう。何故ならば「春画」は、時折大名家などにも伝わる様に、「嫁に行く娘」が「花嫁道具」の一つとして持たされる、と云った用途も有り、特に良い家に伝わった「春画」は状態も良く(陽の下で見ることも無いので、やけていない)、当時の「色」や」摺り」を知るには、誠に好都合なのである。その意味で保存が良く、作行きの良い「春画」は、研究上に於いても貴重な作品が多々有り、海外でのマーケットも既に出来掛かっているのだ。

もう一分野紹介したいのが、「現代陶芸」。「現代陶芸」と云っても今回は「現代茶碗」であるが、以前ちょっとこのダイアリーでも述べた、十五代楽吉左衛門(当代)と十二代三輪休雪(当代)の茶碗を、各二碗ずつ出品する。

この2人のアーティストの作品が海外のオークションに掛かるのは「史上初」で、筆者が敢えて「茶碗」を選んだ理由は、両作家とも歴史の古い「茶陶」の家に育ちながら、現代美術としての思考と「彫刻的造形」を持ち、それを各々の「家の芸」にしっかりと反映させている、と考えるからである。

先ず「楽」は「御印 黒茶碗」と「黒茶碗 銘 巌松(鵬雲斎箱書)」。双方とも黒茶碗で有るが、現代的フォルムを持つ中々良い茶碗で、クラシック且つ現代的な「茶会」双方に使えると思う。また「休雪」の方は、金色に輝く「オーロラ盌」と、萩焼の伝統を兼ね備える「休雪白」の「瞬生盌」で、こちらはグッと現代的な造形。

昨年来「茶道」と云うアートを知り、考え、茶碗を購入して来たアメリカの人々が、また今現在ちょっとしたブームに為っている、日本の「現代陶芸」を買うコレクター達が、下見会に於いてこの「黒」「白」「金」の四碗が並ぶのを見て、一体どの様に捉えるか・・・今から非常に楽しみである。

上に述べた様に、ディレクターとして自分の分野のオークションを運営する醍醐味の一つは、この「春画」や「現代陶芸」の様な分野に代表される様に、自分が思う「新しい作品」(「時代が」と云うだけで無く、「市場的」にも)を、「世界のマーケットに問う事」が可能である事だ。

「リスク」も有るが、「やり甲斐」も有る。そう云った意味では、「麻薬的」とも云える。
道理で、この商売が辞められない訳だ・・・(笑)。