「縁深き」浮世絵版画が作った、オークション世界新記録。

やっと舛添都知事が辞任した…リオ五輪が如何の斯うの云って居たが、事の序でに東京五輪も止めて仕舞えば良い。

で、この件に関する最近の議論で、最も納得が行かないのが「あんなケチ臭いカネの問題で、50億も掛けて都知事選を行うのはカネの無駄だ」「都政の空白が起き、リオ五輪に影響が出る」云々の屁理屈だ。

では聞くが、あれがケチ臭いカネで無かったら、どうなのだろう?今回の一件は、明らかに政治資金規正法違反且つ、一般の企業だったら横領罪に限りなく近い訳で、額の大小に関わらず、罰せられなければならない。「ケチ臭い」か「臭くない」かは、倫理には全く関係がないし、決して過ちを認めない首相共々、その倫理観の無さが今の日本の象徴的な部分なのだから。

序でに選挙に掛かるで有ろうその50億は都民の税金で有り、嘗てその都民が「ケチ臭い、倫理に悖る都知事」を選んだのだから、自己責任に於いて自分達が納めた税金で、正しい「我々の都知事」を選ぶべきでは無いか?

と、腸煮えくり返る今日この頃、嬉しいニュースが…来年のヴェニスビエンナーレ日本代表に、知己の有る岩崎貴宏氏が選ばれたとの事。是非とも頑張って貰いたい!

そして僕はと云うと、再びパリへとやって来た。

今回パリの高名なるオークショニアで有り、敬愛されるディーラー、シィエリー・ポルティエ氏の浮世絵と茶道具のコレクションをクリスティーズ・パリが売る事に為ったのだが、そのオークションがこれ又高名なるオークション会場で有る「オテル・ドゥルオー」で開催される事に為ったからだ!

さて、 実は僕とこのポルティエ氏の浮世絵コレクションとは奇妙な縁が有って、その縁に就ては以前此処に少し書いたが(拙ダイアリー:「舘鼻文楽」@カルティエ現代美術財団」参照)、シィエリー氏の父上ギィ・ポルティエ氏が集めたこの浮世絵コレクションは、全部でたったの10枚。

然しその内容は歌麿と開化絵の三枚続を除いては、写楽歌麿、国政、豊国、春潮の大首絵が揃って居て、状態こそ俗に云う「フレンチ・コンディション」(19世紀にフランスに渡り、彼の地に未だに残って居る浮世絵版画に有り勝ちな、決して良い状態では無いが、長い間愛玩されながら大事にされて来た気配の有る「作品状態」の事)だが、魅力的なラインナップで有る。

相変わらず遅延したUA機をド・ゴール空港で乗り捨て、急いでオテル・ドゥルオーに向かい、直前まで下見会を観ると、サラダとケーキを食べながら「インタレスト・ミーティング」を熟す。

3時半のオークションの時間に為ると、もう会場は超満員の人で溢れ返らんばかり…流石「名士」のコレクション・セールだ。そしてフランス独特の雰囲気でのオークションが始まったのだが、同じオークションでも英国や米国の英語圏のそれとは全く違う、オークショニアの裁きが面白い。

そして豊国の大首絵から始まった「ポルティエ・セール」は好調に売れて行き、運命のロット6、歌麿の名作シリーズ「歌撰戀之部」の中の作品「深く忍(ぶ)恋」の番と為った。

この紅雲母摺の美しい大首絵は、上下に少々トリミングが有る物の中々の美しさを保って居て、コレクションの白眉。そして8万〜10万ユーロのエスティメイトで始まったセールは、オニの様なスピードで競り上がると、30万ユーロ位からは会場に居た2人のディラーの一騎打ちと為り、結果何と浮世絵版画のオークション史上世界最高価格と為る、74万5800ユーロ(約8900万円)で売却されたのだった!

因みにバイヤーは、フランスや日本各所で云われて居る様に、ガゴシアンでもMETでも無いので、悪しからず(笑)。

思い起こせば、この歌麿の「深く忍恋」が19世紀にフランスに渡って以来、たった一度だけ日本に里帰りしたのが、僕の父がカタログも書いて携わった1980年の「ロートレック歌麿」展で、シィエリー氏の父上ギィ氏が自ら日本迄運んで来た、氏に取っても生涯たった一度の来日時の事だった。

僕はピカソの「アルジェの女たち」を含めた、美術品の「世界記録」誕生の場に何度か立ち会っているが、「この世界記録を作った歌麿を、36年前に僕の父も観て触ったのだ」と思うと感慨も一入で、このオークションに来たお陰で、僕は改めて父親、そして美術品の持つ素晴らしいご縁を痛感した佳き日と為ったのだった。

歴史とご縁で繋がるアートの世界は、本当に素晴らしい!


PS:然し史上最高額と云っても、ピカソの「泣く女」やレンブラントに比べれば、それでも日本の版画は未だ未だ安いので有る…。