WORLD ART WEATHER NEWS 2010.

昨晩は友人の英国人S夫妻と、イタリアン・レストラン「C」で食事。

Sは筆者が12歳頃からの知り合いで、云ってみれば「ニューヨークの叔父さん」である。この「C」は嘗て「L」と云う店だったのだが、「C」になって本当に美味しくなった。

アペタイザーのオリーブ、リークそしてピスタチオ・フレークの乗った「ハマチのカルパッチョ」、カニとフレークにしたウニをまぶし、サルディニアン・サフランで絡めた「ニョチェッティ(小ニョッキ)」、マルサラ・ソースで頂く「ポーク・チョップ、ワイルド・マッシュルーム添え」、そしてレモン・ソルべとイチゴを乗せた「ヴァニラ・パンナコッタ」・・・もう至福の一時であった。

味も然る事ながら、素晴しいのはメニュー中のアンティパスト、パスタ、メイン、デザートのどれでも一品ずつお好みで選べる「4コース・プリ・フィックス」で、何と一人62ドル・・・味と雰囲気からすると、非常にお得である!「C」の入っているビルの上の「トリプレックス・ペントハウス」に住んでいた、名優「ヴィンセント・プライス」も吃驚であろう。

さて今朝は「吹雪」の中徒歩出勤して来たのだが、昨晩オバマの「State of the Union Address(一般教書演説)」も有り、当社の「2009 Full Year Figures」も出たので(関係ないか…笑)、それを元に本年度の「世界のアート・マーケットの天気予報」をお伝えしようと思う(当らなくても、怒らない様に)。

先ず「サマリー」。クリスティーズの2009年度の売り上げは、33億ドル(約2970億円)。これは前年比「35%ダウン」である(涙)。云う迄も無くグローバル・エコノミーの影響大で、通常「アート・マーケット・クライシス」は、「津波」の様に「ストック・クライシス」から約半年遅れてやって来るのだが、正にその津波を被ったと云う事が判る。

それでも当社は56.4%のマーケット・シェアを確保し、昨年世界で売られた全ての「一点1000万ドル以上のアート」の61%、「500万ドル以上の作品」の60%を売り、「ワールド・リーディング・アート・カンパニー」としての面目を何とか保った。また良かった点としては、当然売り上げは落ち、ボーナスも出ず(涙)の状況であったのだが、しかし昨年1月と4月に行った大規模なリストラや、トラベル・コスト削減などの経費カットが功を奏し、会社の経営体質がかなり健全化された事だろう。

今度は「地図」で見てみよう。

世界9ヶ所の当社セール・ルームの内、唯一売り上げが伸びたのは「パリ」で、覚えてらっしゃる方も多いと思うが、これは単に「イヴ・サン・ローラン」セールの御蔭である。逆に最も減ったのは、何処であろう「ドバイ」で、前年比何と56%減…これも宣なるかな、である。

アジアはと云うと、当然日本などは昨日の「一般教書演説」同様、世界のアート・マップからも消えているが、メイン・マーケットである「香港」は、前年比12%減に留まり(この率は世界で最も小さい)、しかも「メインランド・チャイナ」の顧客の割合が確実に増えている。

特筆すべきは、昨年当社の「本土の顧客」が、史上初めて高額(10億円以上)「印象派・近代絵画」を買った事で、これは「中華思想」を持つ彼らの、今までの購買ジャンル(中国人が作った美術しか買わない)を考えると、異例且つ喜ぶべき傾向である。「中国」は流石健在、そしてやはりこの国は、今後の如何なる種類のマーケットをも、考えられない位に左右する国である。

「作品」で見てみると、昨年当社で売却した「最高価格作品」は、以前このダイアリーでも紹介したラファエロの素描「女神頭部」で(拙ダイアリー:「ラファエロの誘惑」参照)、4794万ドル強(約43億円)。印象派でも現代美術でも無く、オールド・マスターしかも「素描」がNO,1、その上オールドマスター絵画がトップ10に「3作品」と云う事態は、ここ何年でも非常に珍しい。

これも「景気の悪い時には、アートに対する金は『古くて信用の有る作品』に向かう」と云うセオリーが証明された形だ。ベスト10には、その他レンブラントマティスモンドリアンブランクーシ、モネ等の「大御所」が揃うが、驚くべきは5位に入ったアイリーン・グレイ(1878-1976)作の「龍の付いた肘掛け椅子」で、何と2834万ドル(約25億5000万円)…サン・ローラン恐るべし、と云った所であろう。

これを見ても判る通り、景気が悪くとも「高品質・高価格商品」は何時でも売れる。もう一つ序でに云えば、景気の悪い時に「名品」は中々出て来ない。逆に思われがちで有るが、最高級の名品を持つコレクター達は、世界の景気動向に余り左右されない人が多いので、「何もこんな時に売らんでも!」と思うのだ・・・。世の中本当に不公平である(笑)。

さて御待ちかね、筆者の「2010年アート天気予報」…それは「曇り後、時々晴れ」。マーケットは確実に底を突き、昨秋の「印象派・現代美術セール」も意外な程成績は良かったが、とても安心できる状況では無い。がしかし、淡い期待も有る。

それはズバリ「中国」だ。

良い方に外れる事を期待して、今日はこれ迄。