「超絶」:Taka Kigawa@(LE)POISSON ROUGE。

いきなりだが、寒い…。今日のNYの気温はマイナス4度からマイナス9度、だが風が強い為、体感温度は「マイナス17度」との事。この中を片道30分歩いて働きに来るのだから、もう「根性」以外の何物でも無い(笑)。

昨晩は激寒の中、NY在住のピアニスト、TAKA KIGAWA(木川貴幸)のピアノ・リサイタルへと足を運んだ。

場所はブリーカー街に在る、前衛的なイベントをプロデュースする事で知られるクラブ「(Le)Poisson Rouge」。この変わった店名の由来は、エントランスを入れば一目瞭然で、来場者は直ぐに数尾の「金魚」が泳いでいる、「大きな水槽」を見つける事が出来るからである。

「(Le)Poisson Rouge」には公演の30分前には着いたのだが、地下の会場に降りると既に超満員で席が無い。仕方がないので、箱の様なモノに腰掛けて観る事にした。観客は外人もかなり多く立見客も多かったが、これは彼の前回のステージが、ニューヨーク・タイムズの好批評を受けた事にも因るのだろう。

木川氏には、一度だけローワー・イーストサイドの「DROM」でお会いした事がある。その時は友人の笛奏者KAORU WATANABEにチラッと紹介されただけで、特に話もしなかったので、この日初めて聴く彼の演奏を楽しみにしていたのだった。

プロフィールを見ると、氏は長野県出身、信州大と学芸大を出て、ジュリアードでマスターを取っている。失礼を承知で云えば、決して「王道」の経歴では無い。そこで、彼がどんな演奏をするのか改めて興味が深まったのだが、それにはもう一つ大きな理由が有って、それは昨晩の「プログラム」であった。

その昨晩の演奏曲目は、以下の通り。

Debussy:「Preludes pour piano livre II」、I−XII
Ferneyhough:「Lemma−Icon−Epigram」
Dai Fujikura:「Joule
Stravinsky:「Trois Mouvement de ”Petrochka"」

これを見てお判りの様に、彼が演奏した曲は所謂「現代音楽」である。ドビュッシーは、ショパンラヴェルラフマニノフスクリャービン等と並んで、筆者が最も好きなピアノ曲の作曲家の一人であるが、この曲を含め何しろ大変な難曲ばかりだ。

そして演奏を聴き終わった感想は、何しろ「超絶技巧」であった。ドビュッシーも然る事ながら、ストラヴィンスキーの「ぺトリューシュカ」と云う曲は、元々彼の有名なバレエ曲なのだが、超技巧派ピアニスト、ルービンシュタインからの「過去のどの曲よりも、難しい作品」と云うリクエストに、ストラヴィンスキーが応えて作曲したと云う、曰く付きの「超技巧難曲」なのである。

だが木川氏の恐るべきスピードと運指は、それを物ともしない。少々ミスタッチが有った様な気もしたが、「クラブ」であるが故、演奏中食事やグラスを傾ける観衆に、その暇を与えない程彼の演奏は凄かったのである。

実は昨晩、筆者が一番好きだった演奏は、2曲の「アンコール」の内の「ブーレーズ」の作品であったのだが(曲名不明:もう一曲はドビュッシー)、一つ理想を云えばプログラムの選曲、そしてその曲調にもう少し「メリハリ」が有れば、尚良かったのではないかと思った。他の聴衆はどうか判らないが、「超絶技巧」の曲だけでの2時間弱は、筆者も妻も少々「お腹一杯」になってしまったからだ。

木川氏の演奏は「天才肌」の演奏で、また「王道」を来なかった「荒々しさ」も感じられた・・・現代音楽を中心に演奏するピアニストとしても、貴重である。

これからもTAKA KIGAWAのパフォーマンスに、注目したい。