「現代美術・古典芸能・現代文学」な1日。

日本滞在も残り少なくなった昨日は、メチャ忙しい1日を過ごした。

先ず昼前から、森美術館で開催中の展覧会「ネイチャー・センス」へ。この展覧会は、今をときめく3人のクリエイター、吉岡徳仁、篠田太郎、そして栗林隆をフィーチャーし、日本の自然知覚力を考える試みである。

先ずは大人気の、吉岡作品が観者を迎える。「スノー」は、羽毛を扇風機で舞い上げる巨大な作品で、何処かしら北斎の「大浪」を思い起こさせる。また、硬化ガラス作品は古代の美術品の様であった。

だが、それ以上に素晴らしかったのが、篠田太郎の「忘却の模型」と「銀河」、栗林隆の「ヴァルト・アウス・ヴァルト」である。これらの作品は、古代の宇宙観や、枯山水に於ける星の動き、和紙と紙パルプで作られた「地表」等に拠って、人と自然との境界や、循環思想を表現する…分かりやすく、見ても参加しても楽しい、非常にレベルの高い作品で、一見の価値が有ると思う。

夕方には、能楽小鼓大倉流宗家の大倉源次郎先生と、叔母の家で待ち合わせ…昨年亡くなった叔母が残した、鼓を見て頂く為である。
叔母の家は、お茶の水に在るビルの屋上に建てられているが、稽古舞台も在り、嘗て源次郎先生や京舞の井上八千代さんも、東京での稽古の際、この叔母の舞台を使用していた事も有るそうだ。

源次郎先生に何調か見て頂き、ご意見を頂いた後は、都内某ホテルの中華料理店で、両親共々先生と早い夕食。美味しい黒酢酢豚や、芝海老のレタス包等を頂きながら、能楽のルーツや、石垣島西表島の古い祭り、神社と翁面の農耕の伝繙との関係など、非常に興味深いお話を源次郎先生から伺った。源次郎先生は、あれだけお忙しいのに本当に深く勉強されていて、その知識欲と研究心には、何時も敬服している。

食事後、宝生流シテ方の辰巳満次郎さんが、急遽名古屋から合流する事に為ったのだが、その後我ら夫婦が或る方のお宅にお邪魔する事に為って居た事と、満次郎先生の終演が遅れた為、会えるか?と云う感じであったが、何とかセーフ!今年12月4日に開催される、「第二回 満次郎の会」のお話を伺ったりして、満次郎さんが新宿駅迄、F1ドライバー並にブッ飛ばしてくれた(笑)「車内」で旧交を温めさせて頂いた。

そして我ら夫婦は、某宅での飲み会参加の為、8時半過ぎにやっと電車に乗り込んだ。駅に到着すると、出迎えに来てくれたのは、作家島田雅彦氏の奥様Hさん。車内で再会を喜んで居る内に、Hさんの運転する車は山を登り、「某宅」こと島田家に到着。

島田氏、息子さんのM君とも再会を祝し、同じく昨晩のゲスト、作家の奥泉光夫妻とご子息、某文芸誌編集長のI氏、大手出版社編集者のS氏の皆さんと乾杯。もうそれなりに出来上がっていた方も有ったが(笑)、皆さん気さくな方ばかりで、非常に楽しい雰囲気。先ずは、島田氏が最近購入した或る作品を観賞(鑑定?:笑)…ご安心下さい、ハッキリ云って名品です!この作品を観ると、色々な意味で「モノは行くべき所に行く」、と云う事が良く判る。

実はこの晩、恥ずかしい、しかしご縁を感じる事が有った。文学音痴の筆者は、紹介された芥川賞作家の奥泉光氏を、恥ずかしながら存じ上げず、しかし、何処かしら聞き覚えの有るお名前だと感じていた。氏とお話をしている内に、音楽の話になり、氏がフルートやバンドをやっておられると云うお話を聞いている内に、アッと思い出した事が有ったのだ。

さて筆者は、毎回日本に来る度に、10冊単位の本を買ってニューヨークに持ち帰るのを習慣としている。通常それは、殆どが美術書や研究書の類だが、エッセイや小説も数は多く無いが、含まれる事も多い。そしてそれは、つい最近買った本の事なのである。

先日、家の近所のS書店の3階で恒例の買い物をした。天明屋尚のバサラ展図録、蓮實重彦先生の随想、島田荘司の「写楽」本、アンディ・ウォーホルの評論新書等々である。そして買い物も終わり、1階に降りて何気無く新刊本のコーナーを見渡すと、一冊の本が眼に入った…それは、黒と白のストライプが眼に付くカバーで、タイトルには「シューマンの指」と有る。タイトルとカバーに惹かれた、謂わば「ジャケ買い」(この言葉も「死語」である)したこの小説こそが、何と奥泉氏の新作だったのだ!

その事を奥泉ご夫妻に話すと、只笑っておられ、しかも購入した事に感謝迄されてしまい、恥ずかしくも、此方が大恐縮してしまったのだった。

飲んで食べて、爆笑したり、屋上に出て山と月を眺めたりの会も、気が付けば深夜の1時半。名残惜しかったが、島田氏にヒット新作「悪貨」の「付録」をたくさん頂くと、島田家の皆さんに感謝しつつお宅を辞去し、3時半過ぎに床に就いた。
そして今朝目が醒めると、、枕元に「札束」が!一夜にして金持ちに為った筆者は、その札束をポケットに捩じ込み、骨董屋へと走ったのだった…骨董の分割払いをする為に…。

こうして資本主義の崩壊は、「骨董」から始まるのだった(笑)…これは判る人にしか、判らんだろう。判らん人は早く「悪貨」を読む様に!