「眼」は口ほどに、物を云うか?:ギッター・コレクション展@千葉市美術館。

昨日の月曜日は、夕方から千葉市美術館で開催された、「開館15周年記念 帰ってきた江戸絵画 ニューオリンズ ギッター・コレクション展」のオープニング・レセプションへ。

ギッターさんは、世界的な眼科医で、第二次大戦後軍医として来日した際、日本美術の素晴らしさに、眼科医だけに「開眼」(笑)、禅画や文人画、琳派や肉筆浮世絵等多岐に渡る日本美術を収集している。今回は、以前渋谷の松涛美術館で開催された、「ZENGA」展以来の日本での展覧会なので、アメリカからのご家族や友人も勢揃いし、華やかなオープニングとなった。

館に着くと、先ずは階下の展示を見る。

展覧会は、若冲作、無染浄善賛の迫力満点の「達磨図」から始まる…これは筆者も大好きな作品で、後頭部を叩けば、落ちそうな達磨さんの「目玉」がスゴい。氏のコレクション中にも有る「白隠達磨」もそうだが、ギッターさんは、やはり「眼」に惹かれるのかも知れない。若冲作品では、他に「白象図」や、これも名品の「寒山拾得図」を拝見し、展観はその後蕭白、芦雪と云った所謂「奇想系」の画家達の作品と続く。

「奇想」セクションを過ぎると、今度は琳派のコーナー。宗達墨画や其一、芳中等の作品が並ぶが、見処はやはり抱一の三幅対と、神坂雪佳の作品であろう。雪佳が「竹」を、蒔絵で描いた棚も展示されている。

そしてギッター・コレクションの白眉、「禅画」の展示会場へ。選りすぐりの白隠南天棒等の飄逸な絵画が並び、楽しい。それに加えて、大雅や応挙が描いた珍しい達磨などの禅画も有り、眼を惹いた。文人画セクションに移ると、浦上玉堂や大雅、蕪村等の文人画が観者を迎え、倭絵系の源氏絵や山水花鳥図等の屏風も有るが、肉筆浮世絵のコレクションにも、中々面白い作品がある。

特に筆者が扱った、麻布美術工芸館旧蔵の川又常行作「色子図」は名品で、所謂男娼が、急な雨に打たれたのだろうか、網笠を頭に翳して恐らく「陰間」と思われる茶屋の前を歩いている図である。この作品が描かれた18世紀でも、男娼を描いた絵は珍しく貴重で、茶屋の軒先を大胆に切り落とした構図も新鮮で魅力的ある。
数々の作品で、「眼」が一杯になると、今度は「お腹」を充たす為に、階上のレセプションへ。

小林忠館長を始め、千葉市美の学芸員の方々、Y先生やN氏等の学者や業者達迄、多くの知り合いに会っては、歓談。驚いたのは、長い友人でロンドン大学教授のジョンが来ていた事で、東大に呼ばれて、半年間来日中との事。日本人の学者の方々も彼を見倣って、ドンドン外国に行ってみましょう!

スピーチに立ったギッターさんは、家族や友人に囲まれ大変嬉しそう…自分と日本絵画との馴れ初めや、ニューオリンズに恐るぺき損害を与えた「ハリケーンカトリーナ」から、如何に自分の美術品を守ったか等を語り、会場から万雷の拍手を浴びていた。

この展覧会を観終わると、或る外国人が、これ程迄に日本美術を愛していると云う現実を目の当たりにし、そしてそれは、ギッターさんの「眼」が収集した作品群が、饒舌に語っているからであろう。

答えはイエス、美術品の世界では、「眼」は口ほどに、いや殆どの場合、それ以上に物を云うのである。

この展覧会は、来年1月23日迄開催。