「探究心」の1日。

数日前、最近音沙汰の無かった友人の女性から驚くべきメールが届いた。そのメールは、

「桂屋さんは、去年の9月に起った御嶽山の噴火を知ってますか?」

と云う質問から始まっていて、詳しくは覚えていないが、確かに御嶽山が噴火し、数十人が亡くなった事は覚えていた…そして彼女のメールは、その後驚きの事実を僕に告げる。

「私、あの時丁度頂上で被災して、火山灰で完全に生き埋めに為ってしまったけれど、偶々手が出て居たので掘り起こして貰えて、頂上山荘までどうにか逃げる事が出来ました。友人が1人亡くなって仕舞ったり、自分も怪我をしたけれど、あの状況で良く生きて帰れたと思います。なので、現在は『今を生きよう!』、そんな気持ちで毎日を過ごして居ます。」

何と云う事だろう!人間こう云う経験をすると、1日1日目標を持って、本当に大切にその日を生きる様に為る。不幸な経験は時として偉大なる教訓と為るし、命こそ唯一のリスクで有る…身に沁みる話で有った。

さて一昨日の水曜日、今春のニューヨークの日本・韓国美術セール「An Inquiring Mind」が無事終了し、131点のオファーで107点(82%)、ヴァリューでは77%、総額431万3375ドル(約5億1700万円)を売り上げ、成功裡に幕を閉じた。

トップ・ロットは長谷川派の「柳橋図屏風」で、60万5000ドル(約7260万円)、以下「龍自在置物」の36万5000ドル(4380万円)と続くが、特に強かった分野は埴輪や勾玉等の古代美術や七宝・自在金具等の明治工芸、鍋島焼等の色絵磁器や甲冑等。

このセール結果を見ると、セール・サブタイトルで有った「American collecting」通り、海外での日本美術の嗜好は、矢張りよりデコラティヴの方向に向かっていると云えると思う…ハイ・アートのコレクターが少なく為って来て居るのは淋しいが、地理的なバイヤー及びビッダーの分布図を見ると、驚くべきは日本からのビッダーと購買者の数が増えて居て、これが直接的な日本の景気向上を示す物とは思えないが、然し日本人の購買力が少し回復したと思わせるに十分な結果で有った。

また日本・韓国美術セールは今回初めて3月の「Asian Art Week」を出て、4月にオークションを行った訳だが、それ故天井高の有るコンテンポラリー・ルッキングなホワイト・キューブ的展示スペースで下見会が出来た事、以前「サブライム・セール」ディナーや現代美術家杉本博司氏を囲むディナーを実施した様に、今回はセール前に個人コレクター、学者、美術館学芸員コンサルタント、業者等の十数名の重要顧客を呼んで下見会場でのディナーを行った事、或いはカタログ・フォーマットを大きく変えた事等も、今回のセールの成功の理由として挙げられるかも知れない。

そしてこの様な新しい試みをした今回のライヴ・テーマ・セールの成功は、クリスティーズの日本美術に於いて、ライヴ・オークション、オンライン・セール、プライヴェート・セールと云う、3チャンネルの販路が確立したと云えると思う。

さて、そんなサクセスフル・オークション後の夜は、某顧客とダウンタウン和食店「K」で超重要な話と食事をし、その後はその顧客に連れられて、グラマシー・パーク・ホテルのローズ・バーへ…其処で開かれて居たのは、コンテンポラリー・アーティスト、ケニー・シャーフのパーティー

この「ローズ・バー」は、酒を一滴も飲まない僕がニューヨークで最も好きなバーの1つで(笑)、それは大好きなアーティスト、ジュリアン・シュナーベルが内装をした事や、デカダンな雰囲気とヒップな客層が大好きだからなのだが、そのシックな内装の壁に飾られたシャーフのポップ作品が、バーの内装と絶妙なマッチングを見せて居て、実にオシャレ!

異常に顔の広い顧客が顔パスで入ったそのパーティーでは、立派な髭面のシャーフ本人やアート・ディーラーをやっているシュナーベルの息子、MSG(マジソン・スクエア・ガーデン)の全興行権を持つ大富豪達、そして当然眉目秀麗な女性軍がウヨウヨしていて、ウェイターが運んで来る色んなテイストの「ミニ・ドーナッツ」を頬張りながら彼等と一言二言言葉を交わしただけでも、日々「古美術愛好家」達と過ごして居る身にはとても同じニューヨークと云う街とは思えない、全くの別世界の夜と為った。

こうして新旧多種多様なアートとアートピープルが蠢く、夜半過ぎ迄続いた「探求心」(Inquiring Mind)尽きない僕のニューヨークの1日は、ひっそりと終わって行くのでした。