祝「世界新記録」達成!:クリスティーズ「戦後・現代美術イヴニング・セール」の結果速報。

今日は先ずは訃報から…Art Newspaper紙に拠ると、カタールの大コレクター、シェイク・アル・タニがロンドンで急死した。48歳だった。

シェイクは多分野に渡る大美術品コレクターで、日本美術も特に漆工芸を大量に買っていた。カタール国立美術館にも関わって居るし、が何よりもこの若さでの急死には驚くほかは無い…ご冥福を祈りたい。

さて、ニューヨークの今年の秋は実に素晴らしい!

未だ最高気温が15-18度に喃喃とし、先週末訪れたアップ・ステートに在るMETの別館、大好きな「クロイスターズ」から臨む山々も本当に美しく、セントラルパークの木々も紅葉中…「Autumn in New York」此処に有り、で有る。

そんな今週滔々「現代美術ウィーク」が開幕し、取り急ぎ幾つかの画廊を訪ねたが、先ずはアッパー・イーストサイドに在るYoshii Gallery…此処では「Alberto Giacometti & On Kawara」と銘打たれた展覧会を開催中。

ジャコメッティのブロンズを中心に、周りを4枚の河原温の「Date Painting」が囲む展示で、非常にミニマルな空間を演出しているこのショウは来月20日迄。今年亡くなった所為か、また来年グッゲンハイムでの回顧展を控えて居る所為か、この秋は河原作品のオークション出品も目立って居るので、観て置いた方が良いかも知れない。

そして月曜の夜はチェルシー24丁目のガゴシアンでの村上隆の展覧会、「Takashi Murakami-In the Land of the Dead, Stepping on the Tail of a Rainbow」のオープニングへ。

行ってみると、もう入場者の行列が出来ていて、入ってみるとこれまた凄い人の数…そして、これでもかと云う数の知人・友人・顧客に会い捲り、挨拶やら世間話やらで中々作品に集中出来ない。

当の村上氏は頭と足に「被り物」をして、ゲスト達との2ショット三昧だったので、此方はご挨拶も出来ず…が、展示された作品は、日本から宮大工を呼んで制作したと云う冠木門(!?)から、蕭白の「群仙図屏風」や若冲作「象鯨図屏風」、琳派仏教美術から判り易く取られたモティーフ(日本古美術を知らない人には、当然判らないだろうが)迄、箔や蒔絵、螺鈿等の日本伝統工芸風に仕上げた巨大な作品が並ぶ。

展示作品中には未だ完成していない作品も有るとの事だったが、嘗てターナーが自作の展覧会中に筆を持って現れ、客の目の前で赤の絵具で「点」(太陽)を展示作品に入れ、「これで、絵が締まった!」と云って立ち去った、と云う逸話が残って居る位だから、作家的には珍しい事では無い。

そんな事も含めて、スタッフの方達に取っても今回の制作・展示はさぞかし大変だっただろうと想像するが、本展では正直作品の好き嫌いが分かれるかも知れない…が、必見のショウで有る事だけは確かだ!

そのガゴシアンを後にすると、今度はHauser & Wirthで開催中のThomas Housagoの展覧会「Moun Room」を観て、最後は友人等9名でチェルシーの最高に旨いピザ屋「C」での食事…楽しいひと時と為りました。

さて、此処からが今日の本題…今週開催された「現代美術イヴニング・セール」の結果である。

先ず火曜の夜開催のサザビーズは、78点のオファー中67点売れ、売上総額は3億4362万1000ドル(約395億円)。

トップ・ロットはロスコの「NO.21」(Estimate on Request)の4496万5000ドル(約51億7000万円)で、2位にはジャスパーの「Flag」の3600万5000ドル(約41億4000万円)が付け、1000万ドル超の作品は、上記以外にリヒター、ライマン、ウォーホル3点の計7点。

それなりに高額商品も有ったが、しかし何と無く大人しい雰囲気のセールで、「これは嵐(クリスティーズ)の前の静けさか?」と思って居たのだが、案の定その通りに為る辺りが、今の現代美術市場の恐ろしい処…。

そのクリスティーズのセール会場は800人に喃喃とする大変な混み具合で、歩くのも困難な程…そうして始まったセールは、最終的にロットで94%、ヴァリューで97%を売り、一晩で総額8億5288万7000ドル(約を980億8350万円)を売り上げたのだった!

トップ・ロットはウォーホルの「トリプル・エルビス」で、8192万5000ドル(約94億2000万円)、以下ウォーホルの「フォー・マーロンズ」とトゥオンブリーの「Untitled」が同額の6960万5000ドル(約80億円)と続き、以下ベーコン、リヒター、リキテン、クライン、キッペンバーガー等の、何と計23点が1000万ドル超で売れて行った。

そして、トゥオンブリーやルシェ、草間(710万9000ドル:約8億1600万円!)を含む11のワールド・アーティスト・レコードを作った今回のこのモンスター・セールの売り上げは、今年5月にクリスティーズが打ち立てた戦後・現代美術イヴニング・セールの記録(7億4494万4000ドル)を1億ドルも抜き去り、1オークションでの売り上げ世界新記録を塗り替えたのだ!

が、会場に居て電話ビッドでも参加した僕の個人的な感想では、750人を超える入場者から高額商品に対しての拍手も何回か起こった物の、何処か「唖然感」も漂って居た様な気もして居て、それは恐らく、現代美術が此処まで高額に為って仕舞った事への諦めや脱力感なのかも知れないが、それでもこれだけの数、これだけの金額の現代美術作品を、今季市場が支えたと云う事実は大きい。

たった一晩で1000億円近く叩き出す現代美術マーケットは、一体何処迄行くのだろう…?と、熟く感じた夜と為りました。