「セクシー・オバン」の逆襲:CHAKA KHAN@B.B.King。

木曜日にニューヨークに戻った。

帰りの機内では、「美の巨人たち」の「クリムトの『接吻』」特集を観て、遠い昔、この絵を観る為だけにウィーンへ一人旅をした事を想い出した(拙ダイアリー:「べルヴェデーレ宮殿の『接吻』」参照)…若き日の美しい想い出の一つである。

その日は家に帰ると、ゲル妻に「どちら様ですか?」とドア越しに云われる程、肥え、髪の伸びた自分を呪いながら、敢え無く沈没…午後2時から翌朝4時半迄眠り続ける。そして翌金曜の朝はその「時差ボケ」を利用して、ロンドンの同僚Mと朝8時発のアムトラックで出張。帰りには当市美術館に在る、移築された茶室を見学する。保存も大変だろうが、良い状態であった…一度此処で茶会をしたい物である。

ニューヨークに戻るとオフィスに立ち寄り、終りの無い書類整理…初日と云う事も有り、これは早めに切り上げてイースト・ヴィレッジに髪を切りに行く。Mちゃんから「この侭、ロン毛にしたら?」と云う魅惑的な提案(笑)を断って短くすると、何処と無く気合が入って来て、自分が「ニューヨーク仕様」に戻った気がした。

その晩は、妻とその友人のバレリーナ、Sさんとディナー。Sさんは未だ23歳で、14歳の時に親の反対を押し切り「自らの意思」でバレリーナに為る為に、日本を出て単身ロンドンへ留学、コヴェント・ガーデンで踊り、その後パリ、ニューヨークと「武者修行」を続け、現在はニューヨークの某バレエ団に所属。1年前にベリーズ出身の20歳近く年上の旦那さんIと電撃結婚したのだが、こう云っては何だが外見も極めて美しい上に、中身も年齢からは考えられない程に「大人」な女性である…こう云う人こそ「情熱大陸」向きだと思うのだが。何しろこう云う人に会えるのがニューヨークの醍醐味で、刺激的な会話と人柄に「帰って来て良かった!」と痛感する。

そして昨日の夜は、楽しみにしていた「Chaka Khan」のライヴへ!

このライヴは「Blue Note Jazz Festival」中の一公演で有るが、拙宮殿から徒歩5分、タイムズ・スクエアの「B.B.King Blues Club & Grill」での開催。この「B.B.King」はハコも小さく、一流ミュージシャン達が狭いステージで窮屈そうに演奏するのだが、其処がまたニューヨークらしくて宜しい…況してや、チャカ・カーンですよ、チャカ・カーン

チャカを知らない人は適当に調べて欲しいのだが、筆者がチャカに出会ったのは高校の頃、「Rufus」と云うファンク・バンドのヴォーカルとしてで有った。当時このRufusの「Do you love what you feel」と云う曲がディスコで大ヒットしていて、その後チャカはソウル・R&Bのみならず、マイルスと競演したりデヴィッド・フォスターに曲を書いて貰ったりと、所謂「ブラ・コン」(Black Contemporary)や「AOR」(Adult Oriented Rock)と呼ばれるジャンルでも実力を発揮した、当年取って58歳のスーパー・シンガーなので有る。

B.B.King」に8時前に着くと、超満員でスゴイ熱気…そしてチャカのステージは、いきなりの「I Feel for You」で幕を上げた!

この曲はご存知プリンスの70年代の名曲、チャカはこの曲にGrandmaster Melle Melの「シャカシャカ、シャカ・カーン、シャカ・カーン…」(Chakaは、英語では「シャカ」と発音するらしい)と云うラップをフィーチャーし、世界的ヒットと為った。もう初っ端からチャカも会場もノリノリ、その後も「Ain't Nobody」やスティーヴィーの名曲「Tell Me Something Good」、「I'll be Good to You」や「Whatcha Gonna Do for Me」(この曲はネッド・ドヒニーの名曲だが、Average White Bandヴァージョンも大変ヨロシイ)等のヒット曲を熱唱、全く衰えを知らない4オクターヴの声域と声量に、もう感動し捲くりで有った!

しかしこのチャカ、こんなに小柄で真ん丸で、云ってしまえば「肉団子」にしか見えないルックスなのだが(笑)、なぜか非常にセクシーで可愛く見えるのは何故なのだろう…そんな事を思いつつもステージは進行、曲は滔々涙無くしては聴けない「Through the Fire」へ。この曲は、筆者が学生の頃、周りの全ての男子学生が家で、そしてドライヴで女の子を口説くのに用いた、ディスコのチーク・タイムの定番で有る。そしてチャカのその切ない歌声は、若かりし頃の筆者のほろ苦い想い出と、昔あれだけ女の子と聴いたこの曲を、何故か今、隣の妻とニューヨークの「B.B.King」で聴いていると云う「人生の不思議」を、強烈に感じさせたので有った。しかしこの「Through the Fire」、何度聴いてもE.W.&F.の「After the Love is Gone」と並んで、デヴィッド・フォスターの名曲中の名曲である!

喝采のステージが終り、しかしアンコールの拍手の中、聴き覚えの有る前奏が始まり、再びチャカが登場。〆は「待ってました!」の「I'm Every Womon」…観衆は当然総立ちで踊り捲くり、「アーイム、エーヴリッ、ウーマンッ!」の大合唱…「B.B.King」が揺れる様なスゴいノリで有った!

興奮冷め遣らぬ侭「B.B.King」を後にした我々は、久々にチェルシーの「B」に行き、Tシェフ特製の絶品「イカスミのパスタ」を食して、脳・耳・胃の全てが大満足と為った訳だが、この晩の筆者の唯一の気掛かりは妻が残した一言、

「ワタシは、チャカみたいな『セクシー・オバン』に為る!」

の決意表明で有った…当に「Whatcha Gonna Do For Me」である(笑)。