出でよ、「熊谷べッソン」!:「ミロクローゼ」@Japan Society。

いきなりだが、ヨーロッパの有名美術館の「2010年度:年間入場者数ベスト15」が発表された。

第1位は、これは予想通りの「ルーヴル」で841万3千人、2位は「大英博物館」の584万2138人、3位が「テイト・モダン」で506万1172人。以下、ナショナル・ギャラリー(ロンドン)、ポンピドー・センター、オルセー美術館プラド美術館、ヴィクトリア&アルバート美術館、ソフィア王妃芸術センター(マドリッド)、ナショナル・ポートレイト・ギャラリー(ロンドン)、テイト・ブリテン、ウフツィ美術館、ゴッホ美術館、ピカソ美術館(バルセロナ)、アクロポリス美術館(アテネ)と為っている(「エルミタージュ」は242万人の来場者が有ったが、「ヨーロッパ」に入らないらしい…欧州に含まれれば、9位入賞である)。

個人的には大体順当だと思うが、ちょっと驚いたのはテイト・モダンが3位に入った事と、意外にオルセーの順位が低い事だろうか…何れにしても、「現代美術館」があっさりと上位に入っている事が、ヨーロッパと日本の「美術」感覚の大きな違いで有ろう。

因みに「世界」に枠を広げれば、メトロポリタンが第3位に入り520万人、第6位にワシントンのナショナル・ギャラリー、7位がMOMAアメリカの3館がランク・イン、そして驚くべき事に世界9位に「韓国中央博物館」(306万8千人)がランク・インしている…日本では東博がやっと17位…此処でも日本は、「パス」されているのだ。

さて昨晩は、某日本文化機関のO氏と、ジャパン・ソサエティへ映画を観に…「New York Asian Film Festival」と「Japan Cuts」に参加している、石橋義正監督作品「ミロクローゼ」である。

会場に行って見ると、驚くべき事に超満員…それも、ほんの一握りの日本人を除いて、外人で溢れ返っている。その会場に入り、この「Japan Cuts」に協力しているO氏のお陰で、ど真ん中の席に座って鑑賞出来る事に。今回は石橋監督も会場に来ていて、上映後は質疑応答も有るそうだ。

そして90分間に及ぶ、云ってみれば3部構成とも云える「ノン・ストップ・ローラー・コースター恋愛映画」がスタート。主演は山田孝之だが、最初のパートには一切出て来ず、この第1部は「オブレネリ・ブレネリギャー」と云う名の(何と云う名前なのだ:笑)金髪少年がフィーチャーされた「空想」恋物語で、主人公と愛の化身「ミロクローゼ」との出会いがCGをバックに描かれる。

第2部に為ると、主演の山田がやっと登場し「熊谷べッソン」を演じる。訳の判らん登場人物名がこの映画の特徴でも有るが、この「熊谷べッソン」は恋愛相談カウンセラー、別名「愛の伝道師」。この章はミュージカル仕立てになっていて、べッソンは「オースティン・パワーズ」をパクッたとしか思えないダンスを、お色気ギャル達と繰り広げ、フニャフニャした現代日本の典型的オタク系青年達の、これまたフニャフニャした「恋愛相談」にべッソンがキレ捲くり、「喝」を入れるのが痛快であった。

このキレたキャラクターは当しく筆者好みで、「もっとやっちまえ!」と心で叫びながら思ったのは、こんな人物が今の日本に本当に居たら、さぞかし日本も良くなるに違いないと云う事だ(笑)。序に言えば、このべッソンの「お付き」で踊る2人の女の子が、非常にスタイルが良くて可愛く、流石監督自身が上映後の質疑応答で「ボクは女好き」と云った事を、120%証明していたのであった…しかし彼女達、マジ可愛かったです…(笑)。

そして第3部は突如時代劇調に為り、舞台は江戸か大正時代か?と云った不可思議な設定だが、背景やセットは「歌舞伎」そのもの。このパートでは、山田が一転して「浪人タモン」になり、遊郭に売られた彼女を探し出すと云う話になるのだが、映像はこのパートが一番凝っていて、遊郭での立ち回りが「20倍速スローモーション」で描かれたりするが、後で聞くとこのシーンは30mのスタジオを実際に作り、「一発」で撮ったらしい。

この立ち廻りの中で、山田が海老蔵ばりの見得(睨み)を切ったり、ヤクザ達が着ているのが市川團十郎家の「三升紋」のパロディらしき「二升紋」の着流しだったりして、監督の「歌舞伎(看板)絵を、絵巻物の様に表現したかった」との言に有った様に、歌舞伎が大きな要素を占めている…そしてこの場面は、本作品最大の見処であると云えるだろう!また、このパートでも監督の「趣味」はふんだんに活用され(笑)、一風変った「現代版セクシー花魁」達が登場する。イメージとしては、「さくらん」や「Kill Bill」等も想起されるが、ここでの山田の演技は中々の物で見応えが有った。

そして本作はその後、山田扮する失恋の痛手を負った侭大人になった、最初のパートで子供だった「オブレネリ・ブレネリギャー」が登場、「ミロクローゼ」と再会するが結局その相手とは報われず、しかしやっとの事で彼女を「吹っ切る」と云う話で終わるのだが、何しろ色彩絢爛、軽いノリで走り捲くるのだ。脇の俳優達も、賭場の「壷振」に原田美枝子、刺青師の親父に鈴木清順、旅館の旦那に奥田瑛二等多彩だが、やはり山田の「三変人」(ブレネリギャー、べッソン、タモン)への「変身」振りには勝てない。

観終わった後の感想は、ギャグに大笑いした箇所も有り、それなりに楽しかったのだが、その後居酒屋でO氏とも話した様に、全体を見渡すと「キレ具合」がイマイチで、最後迄ギャグに徹すれば尚良かったのでは、とも感じた。そしてこの「ミロクローゼ」は、当に今の日本の流行(はやり)であるPOPな作りで、或る意味今の日本を象徴していたのだが、偶にはもっと重厚な「日本作品」が観たいと思ったのも事実である。しかし、しつこいが、べッソンのお付きダンサーは可愛かった…それだけでも観た価値は有る!

我々は「熊谷べッソン」(と、そのダンサー)の登場を、心より待ちわびているのだ!(笑)