Marking Infinity:Lee Ufan@Guggenheim Museum、そしてもう一つの「凄いアート」。

日本は例年より早い梅雨明けだそうだが、ここ数日のニューヨークは非常に天気が良くて、暑いが湿気が余り無く助かる。

そんな昨日は午後から、グッゲンハイム美術館で開催中の李禹煥の展覧会、「Marking Infinity」へ。

この展覧会は、李氏の恐らくはアメリカでの初の大規模な個展となる、記念すべき回顧展である。ご存知の方も多いと思うので、此処には多くを記さないが、李氏は韓国で生まれたが日本に留学、日大文学部を卒業後長く日本(鎌倉)に住み、「もの派」の重要なメンバーとしてその哲学的芸術活動をして来たアーティストで、その思想的著作も多く、筆者も「出会いを求めて」や「時の震え」等愛読したものだが、日本で1、2度お会いした時の氏の印象も、まるで哲学者のそれで有ったのを印象深く覚えている。

展示作品は初期から最新作まで、「From Line」や「From Point」シリーズに代表される絵画や、「関係項」等のスカルプチャー、インスタレーション迄を網羅し、流石グッゲンハイムが「1アーティストの展示に使った展示面積としては、過去最大」と云うだけのことは有るが、土曜の夕方の割には混雑も無く、未だこのアーティストが欧州に比べると知名度が低いのだなと思いつつも、こちらとしてはじっくりと観覧が出来たので、却って有り難かった。

観終わって個人的に好きだったのは、岩絵具も美しい1977年作の青い「From Point」(東京近美蔵)と、国際美術館所蔵の同シリーズ「赤の三枚続き」作品(1975)、そして68/69年制作の「関係項」、これは鉄板と割れたガラス、そして石を使ったインスタレーションだが、2種類の人工的素材と自然素材「石」の対立的緊張感をひしひしと感じる、素晴らしい作品で有る。

難を云えば、例えば「From Line」等の作品は一点一点は素晴らしいが、何点も観ると流石に観慣れてしまうし、インスタレーションも背景等全く同じ環境での展示になると、余り引立たない。しかしそんな「観慣れ」も、最上階の「Annex:Level 7」での極めて美しい「Dialogue」の展示を観ると吹っ飛び、「やはり李禹煥作品は、『閉ざされた空間』が似合う」と 自己再確認する事と為った。

この展覧会には、「サムソン」が100万ドルの資金後援をしているとの事…オープングには会長も来場し、彼らの並々ならぬアートへの情熱を感じさせるが、印象派を買うのも良いが、日本にも日本人現代美術家の後援と世界デビューの為に、その位の資金・政治力の有る人が出て来て欲しいものである。

そして夜は、李作品にも負けない「アート」を経験する事に為ったのだが、それは何かと云うと、ジャズ・ピアニストH女史とゲル妻と3人でディナーに行った、ローワー・イースト・サイドに在る精進料理店、「KAJITSU」の料理の事である。

先日「ハム御殿」で、オーナーのK氏にお会いした事と(拙ダイアリー:「最新の『アート・マーケット四方山話』、そして『ホーム・パーティー』三昧」参照)、この「KAJITSU」にも久しくお邪魔していなかった事も有って「行くぞ!」と為ったのだが、久し振りに頂いた西原料理長の「珠」の様な料理の数々は、何とも芸術的で素晴らしいものであった!

全員「7月の『HANA』コースを」頼み、先ずは「青ゆず風味の冷製冬瓜」が出される。敷き詰められた胡瓜とさやえんどう、枝豆等の緑を基調とした涼しげな色彩が美しい…勿論味も素晴らしく、1品目からもう口元が緩みっ放し。2品目は「和風バーニャカウダ」で、新鮮な野菜の数々を少しずつポルチーニ茸の特製ソースで頂く…このソースも本当に旨く、3人とも「1滴も」残さず(笑)。

続くは「花巻そば豆腐のミルキーウェイ」で、これまた淡白な味わいの蕎麦豆腐に掛かるパンチの有るタレ、そして山葵が紡ぎ出すハーモニー…これをアーティスティックと呼ばずに何と呼ぼう!次の「冷そうめん 柑橘釜オリエンタルジュレ射込み」も、先ずは普通に葱と生姜でそうめんを食べた後に、レモングラスの入ったジュレを入れて食べるのだが、もうその旨さに溜息しか出ない。

「お替りしたい!」とH女史と叫ぶが、ここはオトナの我慢で(笑)、次の文字通りの「主菜」、「夏野菜の畑焼き」を頂く。牛蒡の筏揚げ、揚茄子や伏見唐辛子等旬の野菜を食べ、自慢の「大葉麩」を頂くとオトナの我慢も限界…料理長に恐る恐る「あのう、生麩をもう少し食べたいんだけど…」と云うと、ニッコリと即座にOKが出て、「田楽」を追加する事に。

その間に〆の「蕃茄(トマト)御飯、ブラック・オリーブふりかけ付」が出され、これも旨い旨いと平らげたが、その内に田楽も出来上がり、もう大満足。デザートも何とも手の込んだ芸術的な、ダイス状にカットした西瓜を寒天で固めた「氷室西瓜あんみつ」を楽しんだが、西原料理長の「お腹が一杯に為る迄、行きますよ!」との、何とも有りがたいお言葉に甘え(笑)、最後の最後に笹の香り漂う死ぬ程美味い「麩饅頭」を頂き、お抹茶で締め括った。

グッゲンハイムで観る日本/韓国現代アートと、KAJITSUで味わう日本現代精進料理…ニューヨークとは、何とインターナショナルでアーティスティックな街なのだろう!

本当はこの後に、もう一軒「ちょっと」寄ったのだが、その話はまた今度。