屋久島日記(3):緑色の「再生」神殿と、感謝。

昨日は、再びTさんに朝5時に迎えに来て貰い、島の東側へと車を走らせた。

着いた場所は、Tさんが朝御飯を良く食べると云う埠頭…日の出を観ながらの朝食である。

宿のオバサンに作って貰った、宿での朝食代わりのお握りを持っていたのだが、Tさんに乞われる侭に渡すと、数分でアボカド・サラダと共に、何と温かいおじやに替わって出て来た。

このTさんと云うガイドさんは、明るく楽しい人柄の上に、最近の若い人には珍しく何しろ一本「筋」が通っている。

それは厳しい樵時代や登山家としての鍛練の賜物だと思うのだが、それと共に、長い森歩きや沢登りの合間の休憩時に、彼から出されるその場でドリップするコーヒーや梅昆布茶、塩分補給の為のヒマラヤ塩を使った梅塩、疲労回復の為の黒糖(此れがまた最高に旨い!)等、「食」にも拘りの強い、もう最高のガイドさんなのだ。

息を飲む程に美しい日の出を堪能しながら朝食を終えると、今度は「ヤクスギランド」へと向かう。

さて今回我々は、「縄文杉」は観ない。それは往復10時間近く掛かる行程に、半月板を損傷・手術した妻の膝が持つかと云う事と、今「縄文杉」には近付けない事(離れて観る事しか出来ない)、そして人が余りに多い事がその主な理由だ。
しかし次回屋久島に来る時には、「縄文杉」を一泊コースで観に行きたいと思っている…この方法なら、「縄文杉」を独占出来るし、夜の森も体験出来るだろう。

が、この「ヤクスギランド」も「縄文杉」に決して引けを取る物ではない。「ランド」と云う名称が何処かしら軽く、「ディズニーランド」的なイメージを持たれるかも知れないが、奥深い標高1000m以上の原生林の中、かなりアップダウンの有る道ならぬ道を歩くので、軽装はしていても中々ハードな行程で有る。

その行程を、我々は休み休み、Tさんの樹木や昆虫、杉伐採の歴史等の解説を聞きながら進む。

「ひげ長老」「くぐり杉」「仏陀杉」等の有名な屋久杉や杉以外の大木、「オニクワガタ」と云う、名前は強そうだが本当に小さく可愛いクワガタを見付けたりして奥へと進む内に、風景は苔の緑を増し、我々を古代へと誘った。

この日の最終目的地は、Tさんを紹介してくれた写真家が、最も気に入った場所を少し入った所らしかったが、その場所は朝の鳥と蝉の声以外は何も音も聞こえない、多種多様な緑色に包まれた、見方に拠っては「神殿」にすら見え思える、この惑星の圧倒的な「循環」「共生」、そしてヒトを含めた動植物の為の、水と苔に因る「再生」システムのモデルで有った。

名残惜しさを振り切って道を戻り、ヤクスギランドを後にすると、今度は「紀元杉」を観に。

樹齢2300年と云われる、周囲8mも有る、巨大な、そして豪放磊落な姿は、まるで「縄文」の中興の祖、岡本太郎の作品の様で、岡本はこの紀元杉を見て「太陽の塔」を造ったのでは?と思った程だ…当に自然芸術的爆発とでも呼びたくなる様な姿で有った。

屋久島最後の夜は、お世話になったTさんと、何と森よりも海が好きと云う(笑)、Tさんの奥さんのYさんを招いて、里で一番人気の大衆割烹「I」で食事。

飛び魚や首折鯖等の美味しい料理と、興味津々の会話、また「奥さん同志」が結託したりして、爆笑の絶えない本当に楽しい一時を過ごした。

さて今回の屋久島旅行は、疑い無くスーパー・ガイドのTさんのお陰で、究極的に思い出深く、素晴らしい物と為った。

Tさんの豊富な樵時代からの森の知識と経験、他の人が誰も来ない場所選択する思慮深さ、ツアー中我々の疲労具合を然り気無く確認し、絶妙のタイミングでの休憩、休憩中フラッと森に消え、我々2人だけの時間を持たせた後、またフラッと現れると云った気遣い、疲労時の為に用意された食事、おやつや飲み物、それら全てが素晴らしかった。
が、筆者に取って最も印象的だったのは、Tさんの「センス」で有る。

Tさんは、我々をツアーしている間でも、美しい場所や光景を観ると、何回も何回も「綺麗だ〜!」「スゴい!」と呟いた。そして彼が感嘆したり、我々のツアーのゴールに選んだ場所の光景は、我々に取って例外無く美の極致としか云い様の無いモノで有ったからだ。

そして今回の旅は、観光のみならず、木、森、水、動物、昆虫、縄文人迄、Tさんから本当に多くの事を学ぶ事が出来た。

Tさん、本当に有難うございました!