初めての「正客」@「今冥途」。

スノー・ストームが嘘の様に晴れ渡った、素晴らしい天気の一日で有った昨日の朝は、前日の杉本博司氏の茶室「今冥途」で行われた、ここ数年でも大変思い出に残る素晴らしい茶事の余韻を引き摺りながら、起床。

その前日お茶事の後は、チェルシーの行きつけ「B」で、「かいちやう」と若手ギタリスト2人、お寺のお坊さんと有名骨董屋さんの旦那さん、そして我ら地獄夫妻の6人で食事。その日の茶事や道具、その他最近の「恋バナ」で盛り上がったが、お茶の世界の「先輩・後輩」の厳しさを垣間見た食事会で有った(笑)。

そんな前日の疲れも少々残っていたが、昼過ぎにはMさんに注文していた「桐箱」が出来てきて、「地獄コレクション」中の2つの「古代美術」作品を早速入れてみる。この2点とは、一つは「インダス文明」の幾何学文様付きの碗で、もう1つは「アナトリア文明」のこれも幾何学文様の付いた獣首付きの丸瓶なのだが、流石Mさんの仕事、ピッタリと収まり満足する。

そして夕方からは、再び「今冥途」へと向かう事に…筆者に取っての「『茶の湯』三連戦」、最終日で有る。

今回は点心と薄茶のみの茶会では有るが、或る事情が有って筆者は少々緊張していた…それは何故なら、人生初の「正客」を仰せ付かったからだ。

如何に「外人客対応型『正客』」とは云え、筆者に取って「正客」は「正客」…数週間前にその使命を仰せ付かってから、ゲルゲル妻の「此処ぞ」とばかりの厳しくも愛の有る稽古に耐えて来たが(笑)、頭の悪い筆者は仕事が有ったりすると作法等簡単に忘れてしまうので、Mさんが帰った後に再び復習…が、どんな相客とも知れず、何とも覚束なく不安で有る。大丈夫だろうか?

「今冥途」に着くと、小柳敦子さんから都合14名の客の名が書かれた「席表」を見せて頂く。おぉ!…数年前に重要な「茶壷」(拙ダイアリー:「『千種』と『歴史の代金』」参照)を買って頂いた、某米国美術館の学芸員L女史や、杉本氏の建築事務所「新素研」の建築家Sさん、小柳さんも一緒では無いか…あぁ、良かった!が、残りのメンバーを見て蒼醒めた…と云うより、「驚愕」した。

何故なら其処には、超有名ドイツ人現代写真家AGや、超有名アメリカ人パフォーミング・アーティストLAとミュージシャンLRのカップル等の、凄いと云うか、「会ってみたい人リスト」的な名前が記されていたからだ。

あぁ、何と云う幸せ、僥倖!これは頑張らねばと思い、パラパラとやってきた数人の客と共に待合で待っていても、彼らは中々やって来ない。そしてドイツ人写真家AGがやっと来た後に、何処か見覚えの有る、髭面で眼鏡を掛けた巨体の男が待合に入って来た。

手を差し伸べて「Hello, nice to meeting you… I'm Magoichi」と云うと、彼は「Hi, I'm JS, nice to meeting you !」と応えた。そうだった…この巨体の男は、どう見てもアメリカ人コンテンポラリー・アーティストのJSでは無いか!でも確か、このJSの名は「席表」には無かった筈だが…しかしそんな事は、彼の作品の大ファンで有る筆者には、もうどうでも宜しい(笑)。

絵も描き、映画も撮るこの才能溢れるJSは、如何にも「たった今、アトリエから出て来ました」的な出で立ちで、白いパンツには色取り取りのペイントが付き捲っており、ハッキリ云って彼は、筆者が今迄の人生で見た「最も汚い格好の茶会客」で有ったのだが(笑)、何とも憎めない理知的な眼をしていた。

客が全員揃う前だったが(結局、ミュージシャンLRは来れなかった)、時間が押してしまい、早速「今冥途」へと皆でぞろぞろと向かう。

階上に行って見ると、この日の「今冥途」は前日とは打って変わった雰囲気で、暖かい陽の光が燦燦と入り、ブラインドが何処と無く「障子」の様な雰囲気を醸し出している。この余りにも異なった昨日の「今冥途」の雰囲気は、「昨日の茶事は、夢だったのでは無いか?」と、筆者に真剣に思わせた程だった。

嵐が吹き荒ぶ「冥界」から、「極楽」に変貌を遂げた茶室の四畳半には、手前から茶席用座椅子を尻に備えた筆者(何と情けない!)、そのお隣にはL女史が座り、S氏と小柳さんと続く。因みに今回の立礼席は、上記アーティスト達や今最も注目されている詩人(名前を忘れてしまった…)、有名ギャラリー・ディレクター等、全員外国人で有る。

そして客全員が席に着くと、杉本氏と若宗匠が登場して「今冥途」と今回の茶会の趣旨説明を行い、点心が運ばれる。酒を注いで乾杯し、和気藹々と食事をする最中(これは大変良いアイディアだと思った)、杉本氏が茶室内の作品の説明を開始する。

そんな中、杉本氏が軸や炉縁の説明をした時の事で有る。

殆どの作品が13世紀だったり14世紀の物だったので、大男の現代美術家JSが堪り兼ねた様に、「ヒロシ、何で古い物ばっかりなんだ?何か新しい物は無いのか?現代美術家だろう?」と聞いたので有る…全員大爆笑であった!

食事が終わると中立が有り、皆美術品を観る為に右往左往したが、暫くして軸等が掛け替えられ、薄茶がスタート。

26個の眼が見つめる中、お菓子を頂くと、眼の前で千宗屋若宗匠が点てられたお茶が運ばれて来た。あぁ、イカン…「お点前頂戴致します」を忘れてしまった…!が、「ええぃ、侭よ!」と、しかし慎重に頂く…あぁ、何と美味しいのだろう!

そして挨拶を忘れたばかりで無く(情け無い!)、座椅子を使ったにも拘らず足の痺れの為、最後には結局胡坐をかいてしまった(本当に、情け無い!)、ダメな筆者の「初正客」は何とか無事終了。

この孫一、こんなにスゴイ面子の茶会で「正客」初体験をさせて頂けた事を、杉本氏に心より感謝して居ります。

「一生の思い出」になりました!