アートを止められない理由。

早い物で、弥生と相為った。
閏日だった一昨日は、朝からの雪…しかし、最近筆者が「お茶」に関わる日は、何故か天候が荒れる。

そして今「筆者が」と書いたが、正確には「筆者と『かいちやう』が」で有って、例えば杉本博司氏の茶室「今冥途」の席披きの日の大雪や(拙ダイアリー:「雪の日に茶事をせぬは…」参照)、音羽茶会の日の大雨(拙ダイアリー:「嵐の中で『縁』を思う」参照)等、そのお茶の記憶は荒天と共に有る。

一昨日のお茶も、かいちやうが茶室の障子を開け、窓の外にこんこんと降る雪を楽しみながらの、「雪見の茶」と為った。

美味しいお茶を頂きながら、千葉市美の新館長に為られる河合正朝、研究所を作られる小林忠両先生のニュースや、役者と神社に「呼ばれた」話、新出の室町水墨画の事等、かいちやうと楽しい美術談義に終始…静寂な一時で有った。

その後、雪も止んだ夜は、VIPクライアントのご招待で、麻布の和食店「かんだ」へ。

フレンチを学ばれたと云うご主人の、素晴らしく美味しい、流石のアイディア溢れる料理を頂きながら、顧客とは日本経済や美術品市場に就いて語り続け、非常に楽しい一時を過ごさせて頂いた。

そして昨日は、此方はミーティングや重要な査定に走り回り、ゲル妻は今日の午後ニューオータニで開催される亡き父の「偲ぶ会」に出席する為に来日…夜は前から楽しみにしていた、ニューヨークの友人のベーシスト、ダリル・ジョーンズが出演する「ビルボード・ライヴ東京」へと出掛けた、慌ただしい1日。

今回のライヴは、マイルス・デイヴィスの薫陶を受けた「同窓生」達に拠るギグで、メンバーはロベン・フォード(ギター)、ジョーイ・デフランセスコ(オルガン)、オマー・ハキム(ドラムス)、ウォレス・ルーニー(トランペット)、そしてダリル…腕の達者な一流ミュージシャン達のスーパー・セッションで有る。

ご一緒したのは、平野啓一郎氏ご夫妻…音楽通の平野氏とは、以前のダリルの来日時もご一緒させて頂いたので、今度も楽しみにしていたのだ(拙ダイアリー:「『80年代な夜』@ビルボード東京」参照)。

皆、略同時にビルボードに着き席に座ると、暫くすると1人1人メンバーの名が呼ばれ、ステージに上がって来たのだが、驚いたのは久々に見たダリルで、非常に痩せてスマートに為って居た…以前云っていた、マクロビオティック・ダイエットが効を奏したらしい。

そしてその少し短目の、1時間一寸で終わった彼らの演奏は、超ファンキーでかなり格好良かったので有る!

何しろ、オマーのドラムが凄い…周りを盛り立てながらも、要所要所に見せるテクニックとグルーヴ感満点のビートを作り出す。

オルガンのジョーイは、近頃では信じられない位に太った男だが、オルガンを操るその右手は軽やかで、ファンキー極まりない。しかし左手を使えば、少なくともウエイトを5キロは落とせるのに…と思ってしまった(笑)。

そして、恩師マイルスを彷彿とさせるハード・バップ・ペットのウォレス、泣かせギターのロベン、スマートに為り、よりカッコ良くなったダリルのファンキー・ベースは、観客達を乗せ捲ったので有る!

帰りには、ダリルを楽屋に訪ね、ダイエットの秘訣等を聞く(笑)。聞くと、昨晩彼は7週間振りのお酒を飲んだらしい…何と意志の強い男なのだろう!

そしてダリルと話していると、オマーも話に参加してきて、6月にニューヨークでやるギグの事等を話す。オマーは頭の良さそうな、気さくなヤツだった…ニューヨークでも会えると良いが。

帰りには平野氏夫妻とスペイン料理をつつきながら、5月に新国立劇場で開演する、平野氏翻訳脚本、宮本亜門氏演出の舞台、「サロメ」や原作者ワイルド、夢見や政治の話等で盛り上がる。

「雪見の茶」と「ファンキー・ジャズ」、そして今から楽しみな「サロメ」…これだから、アートは止められないのだ。