海を超えた「偶然力」。

セールが終了した火曜日の晩は、「打ち上げ」スタッフ・ディナー。

店は、筆者に取って今滞在中2度目の、雑居ビルの3階でエレベーターを降りると、いきなりテーブルに座った客が迎えると云う変わった店の造りの「L.Y.P.」で、総勢50人程が一同に会しての、如何にも中国風の賑やかな宴会である。

次から次へと出てくる料理は「相変わらず」何れもマジ旨く、海月、蟹、海鼠、海老、小籠包、白身魚、最後のデザートの「ハピネス・ライス」迄ハズレが1つとして無い…「中国料理、恐るべし」で有る!

が、それにも況して恐ろしいのは、帰国後、筆者が香港で何をどれ位食べたか、「旧東ドイツ秘密警察」並みに徹底的に追及するで有ろう、ゲルゲル妻の眼で有る(つい最近、ドイツ映画「善き人のためのソナタ」を観たので…:笑)。

そして一夜明けた一昨日は、午後から25名程が集まっての長いミーティングに参加。

この会議は、短期・長期に於ける、世界中に点在する中国美術の「ポテンシャル・コンサイナー」(売主)に就いての情報交換をする、非常に重要な会議なので有る。

それは、世界中のコレクターが「何時」そのコレクションを売るかを見極め、コンペティターに先んじて、コレクターとより良い関係を築き上げて、いざと云う時により良い条件を提示出来なければ、コレクションはいともアッサリと、競合他社に持って行かれてしまうからだ。

ここ20年で、リスト中の中国美術トップ・コレクター達の居住国は、台湾、香港、メインランド・チャイナが圧倒的に増え、嘗てのヨーロッパやアメリカに取って代わった。

しかし大きな問題は、中国の法律では未だ本土から香港や台湾、海外への美術品の持ち出しが禁止されて居ると云う事で、今増えている「本土」のコレクターが作品を売る際には、本土のドメスティック・オークション・ハウスのみがその権利を持ち、クリスティーズには今の所そのチャンスすら無い事で有る…まぁ、法律の事は悩んでも仕方無いし、「時」が解決するかも知れない。

そして昨日はと云うと、筆者の恐るべき「偶然力」が、この地香港でも発揮されたのだ。

ランチ後時間が余ったので、土産でも買おうと大きなショッピング・モールに出掛けた時の事。

ブラブラと店のウインドウを見ながら歩いていたら、向こうから何処か見覚えの有る、小柄な老人が歩いて来る。大きなショッピング・バッグを抱えたその老人を良ーく見ると、何と20年来お付き合いの有る、親しい韓国人顧客のCさんでは無いか!

余りに驚き、大声で「Cさん!」と呼ぶと、向こうもビックリして飛び上がったが、筆者だと判ると直ぐに相好を崩し、偶然の再会をお互い大笑いで喜び合った。しかし何故香港の巨大モールで、しかもこの日この時、最も親しい韓国人顧客にばったり会わねばならないのだろう…筆者の「偶然力」、健在で有る!

その後オフィスでのミーティングを片付けた夜は、今日から2日間香港大學で開かれる、「世界文化遺産 銀閣(慈照)寺 東山文化講座 藝術禅 心皆活趣」の為に、香港にいらした皆さんとお会いする。

この催しは、慈照寺研修道場に関わる方々が、日本文化を香港の人々に伝える「講座」で、今年が2回目だそうだ。

今回の日本からの講師の方々は、慈照寺執事長の平塚景堂師と執事須賀玄集師を始め、慈照寺初代華務・花方の珠寳(佐野珠緒)氏、橋本関雪記念館副館長の橋本真次氏、京刺繍作家の長艸敏明氏、京料理店「木乃婦」の高橋拓児氏、そして何と千宗屋若宗匠も居らして、スケジュール的タイミングの良さにビックリ。

香港大学の陳氏ら、香港サイドの方々も含めた全員とホテルで落ち合うと、先ずは「歓迎クルージング」へと向かった…肌寒い夜だったが、オークションの後ではそれ程高いとは思えない(笑)「100万ドルの夜景」に酔った、素晴らしいクルーズで有った。

クルーズ後は、香港の美人医師アビーさんの郷土料理だと云う「順徳料理」レストランで、カレー風味のチキンや海老パンに卵白を掛けた料理、海老子の掛かった麺や「くさや」の入った炒飯等、少し薬膳的な、しかしアッサリとした味付けの美味しいディナーを頂く。

そしてデザート・タイムには、若宗匠を含めた12月生まれの方々への「バースデー・ケーキ」も出され、皆でハッピー・バースデーを合唱と云った一幕も。

食後は一旦ホテルに戻ったが、若宗匠とお弟子さんの三浦氏とお茶(お抹茶では無く、カプチーノでした!)をと云う事に為り、近況報告や美術品の話等をし、結局夜中過ぎに散会。

しかし考えると、お二人にはこのひと月ちょっとの間に、スケジュール等の偶然も重なりながら、ニューヨーク、日本、香港の3都市でお会いした事に相為った…「空飛ぶ茶人」とでもお呼びしようか。

そして昨日1日だけでも、「縁」を運ぶ「偶然力」は、海を超えてもその力を存分に発揮…本当に有難い「力」で有る。

空港ラウンジの筆者は、これから日本に戻り、再び「モノ探し」に精を出す。

再見、香港!