読書の秋も、スタート。

「Labor Day」の連休も終わり、未だ時差ボケに悩まされて居るが、そうも云っては居られない…金曜から愈々下見会が始まるからだ。

そんな今週は、作品展示のセット・アップに追われながら、有力な買い手への個別アプローチや、重要なプライヴェート・セールのプロジェクトを進める。

さて今日は、筆者が連休中に読了した、お茶との付き合いが余り無い人にも、カジュアルに「茶の湯」の楽しさを知る事が出来そうな、3冊の本を紹介しよう。


・樫崎櫻舟著「茶を楽しむ男たち」(里文出版)

この本は、懐石料理店主で利休由縁の茶室「獨樂庵」を持つ樫崎櫻舟氏が、一癖も二癖も有る茶人8名を相手に、その生い立ちから茶との出会い、そして茶に対する想い等を聞き質す、謂わば「茶人版:男の履歴書」で有る。

そしてその8名とは、池内克哉(池内美術主人)、矢部良明(人間国宝館館長)、ベル・クリスティアン(茶人)、三代目村瀬治兵衛(漆工芸作家)、塚田晴可(ギャラリー無境主人:故人)、福田行雄(料紙作家)、井尻千男拓殖大学名誉教授)、林屋晴三(菊池寛実記念智美術館館長)の各氏。

業者、研究者、作家、そして一般人とバランスの良く選ばれたメンバーが語る人生と「茶生」は、本当に色々だなぁと読者に感じさせるが、個人的にお付き合いが有った、先年惜しくも他界された塚田氏や、ご子息共々お世話に為っている池内氏、そして何と云っても御大林屋先生の回が面白い。

この3方に共通している事はと云うと、やはり旧い物と新しい物を取り合わせる優れた感性をお持ちな所、そして本来的な厳しい茶の精神を常日頃念頭に置かれて居る所で有ろうか…自分も何時の日か茶事をやりたい、と云う気にさせる、誠に読んで楽しい著作である。


・千宗屋著「茶味空間。茶で読み解くニッポン」(マガジンハウス)

雑誌「Casa Brutus」に連載された、武者小路千家家元後嗣、千宗屋若宗匠に拠るエッセイ集。

本作の内容は、例えば慈照寺銀閣向月台を「プリン」、東大寺法華堂を「バーチャル・アトラクション」、竹花入の送り筒を「パッケージの下剋上」と云った、著者世代の若い読者にも親近感を持たせる様考えられた独特の語彙や云い回しを以て、茶の湯の世界だけに留まらず、日本文化や美術、宗教迄をも網羅する。

またこの本では、長次郎作赤樂茶碗「早船」や二月堂焼経、国宝「孔雀明王図」や等伯、永徳、抱一、何とも堪らない魅力の古井戸茶碗「五月雨」からルーシー・リー迄、数々の名品を美しい写真で楽しめるのも一興だが、もう一つ忘れてならないのが、何と云っても巻末に収録された、国宝茶室「待庵」での現代美術家杉本博司氏との対談、「利休とデュシャン。価値の捏造」だろう。

利休とデュシャンの共通項で有る「見立て」…謂わば「オリジナル」と「写し」の問題を、茶の湯の「聖地」で語る二人のアーティストの会話は、300年の時空を超えて刺激的である。

現代に生きる我々には、茶の湯に代表されるニッポン文化を、「『油断』をしない『伝燈』」の精神を以て、存続させねば為らない使命が有る…そんな思いを強くさせた一冊で有った。


熊倉功夫著「茶の湯日和 うんちくに遊ぶ」(里文出版)

静岡芸術大学学長を務める、茶道研究家のエッセイ集。

そして、筆者も何度かお会いしている熊倉先生の、お人柄溢れるその文章には、茶の湯に就いてに限らず、有職故実や嘗ては常識だったが今は忘れられている事柄等、今迄知らなかった事が多く含まれ、本当に勉強に為る。

茶の湯が「生活文化」の一であると云う大前提に立ち、「『美術品』と『茶道具』は違う」、「茶道具は美術館に入るより、市場で主人を得る方が良い」等の意見には諸手を挙げて賛成したい…流石「実地」研究者の言で有る。

また利休を初めとする歴史上の大茶人達や、益田孝等の大正・昭和初期の財界茶人達のエピソード、著者本人の海外での経験、茶道具や茶会、食文化に関わる数多の「蘊蓄」は、著者の語り口も有るのだろうが不思議な魅力と驚きに満ちていて、ふと誰かに教えたくなってしまう程だ。

新聞に連載されたコラムらしく、短く簡潔な内容も読み易い本で有った。


ニューヨークは既に秋の気配…夜は長くなり、読書も進む。

今回此処に紹介したこの3冊は、お茶の知識や経験が無くても十分に楽しめる内容に為っているので、秋の夜長にもピッタリ…是非ご一読をお奨めしたい。

さぁ、下見会が始まる。そしてオークション迄後1週間…頑張らねば!