「『音』の音楽宇宙」:坂本龍一@The Stone。

昨日は坂本龍一がキュレートする、イースト・ヴィレッジのエクスペリメンタル・スペース「The Stone」(→http://thestonenyc.com/)での「インプロヴァイゼイション・ライヴ」の第1夜、「坂本龍一ソロ」を2セット共観に行った。

「The Stone」は、当に下町の街角に良く在るビルの1階、ワンルーム・アパートと云っても良い位にしか広さの無い、所謂只の「箱」空間に、ピアノが1台置いて有るだけのミニマルなスペース。

8時からのファースト・セッションに向けて会場に着くと、既に物凄い数の人が並んでおり、何と先頭の人は昼の12時過ぎから並んでいると云う…寒さの戻ったこのニューヨークで、何と云う根性だろう!

会場には、女優菊地凛子さんを含めた約80人が入場、ピアノの回りに設えられた椅子や座布団に座り、開演を待つ。筆者達は幸いにも関係者として最前列に座る事が出来、ピアノの前に座った坂本氏とは1〜2mの距離しかない。

会場の照明が落とされ場内がかなり暗く為ったが、寒さの中並んだ客達は、置かれたピアノの後ろに在るトイレに未だに出入りして居る…が、そんな事はお構い無しに「教授」が登場し、演奏が始まった。

ピアノの上のラップトップに入れられた、即興的に選ばれるノイズや、マヤやアイヌの民謡の声、まるでクリスマスの日にサンタクロースが袋の中からプレゼントを取り出す様に、教授がバッグから取り出してピアノの弦に噛ませたり、中に置いたり転がしたりする「道具」達、そして当然奏でられるピアノ…教授がそれ等を駆使して産み出したのは、「音楽を形成する『音』」と云うよりも「『音』が紡ぎ出す宇宙」で有り、その行為はまるで「美しい『科学実験』」の如くで有った。

そして今回の「The Stone」での公演は、此処のアーティスティック・ディレクターを努めるジョン・ゾーンの「出来るだけ実験的に」と云う要望通り、例えば演奏が始まっても人が出入りするトイレのドアの軋む音、直ぐ外を通る救急車やパトロール・カーのサイレンやトラックのクラクション、また観客の消し忘れた携帯の着信音をも含めて、その狭い、彼の息遣いが感じられる位に狭い空間を、教授はミニマルな「音のコスモス」に変えてしまったのだ!

この晩の2回のライヴでは、個人的には10時からのセカンド・セッションが特に素晴らしいと感じたのだが、今一つ素晴らしいと思った事が有って、それは、公演後教授が去った後のピアノにその侭残されたラップトップ、音を作る為に使われたスパナやワイヤー、定規や扇子、鍵束やハサミ等を、観客達が鑑賞出来た事で有る。

そしてその事は、恰も「茶事」終了後の「道具拝見」を筆者に連想させ、この晩の演奏が確かに「アンフォルメル」で「ハプニング」的な「インプロヴァイゼイション・イヴェント」で有った事の証として記憶されたので有った。

Ryuichi Sakamoto Curates」第2夜の今晩は、8時からジョン・ゾーンとの初インプロ・コラボ、そして10時からは愈々ゲル妻とのガチ共演が行われる。

皆様のご来場を改めて此処にお願いするが、セカンド・セッションの見処は、ゲル妻が何れ位教授を困らせ、慌てさせられるかに尽きる(笑)…乞う御期待!