「プッシュ・ガールズ」。

やっとこさ体調が戻って来た!と思ったら、今度は時差ボケと異常熱波の中、フラフラしながら、後輩のM君と列車に乗ってプチ出張。

着いた某都市では、60年代後半に日本に住んでいたと云う元海軍勤務の老夫婦の歓待を受け、早速査定依頼作品を拝見。観た所、恐らくはこの作品は在米某有名美術館にオリジナルが有る絵画の写しだと思うが、しかし中々派手で観映えのする作品で有った。

そして作品拝見後は、老夫婦のお誘いに甘え、奥様手作りの質素だがヘルシーでリフレッシングな、美味しいヴィシソワーズとツナ・サラダ、ビスケットのランチを頂く。

日本だと、顧客のお宅に査定に行き、其処で食事が出る場合は「店屋物」が殆どなのだが、アメリカではこの様に「手料理」が出されるケースが非常に多い。外での豪勢な食事も嬉しいが、そんな優しい顧客の気持ちが、アチコチ飛び回り人に会い捲る、筆者の疲れてささくれだった心を癒してくれるのだ…誠に有難い事で有る。

さて本題。最近筆者が非常に気に入っている、ケーブル・テレビ番組が有る。

そしてその番組は、スポンサーの顔色ばかり伺いながら、教養の欠片も感じられ無い下らんテレビ番組ばかり作っている日本のテレビ業界の人間が、どうやっても観るべき番組だと思うので、今日はその事を。

その番組とは、今日のダイアリー・タイトルにも為っている、「Push Girls」(→http://www.sundancechannel.com/push-girls/)。

ケーブルの「Sundance Channel」(「サンダンス・フィルム・フェスティヴァル」の「サンダンス」で有る)で今月始まったばかりの番組で、今流行りの一般人の「日常」を追い掛けた、所謂「リアリティ・テレビ」で有る。

が、其処は流石ロバート・レッドフォード率いる「サンダンス」、普通のリアリティ番組とは一線も二線も画して居て、それは主人公で有る未だ若い、一寸綺麗目な5人の一般人女性が所謂「disable」(障害者)、何と全員下半身不随の「車椅子生活者」だからで有る…そう「プッシュ」とは、「車椅子の車輪を押す」の「プッシュ」なのだ。

この番組の素晴らしい所は色々有るのだが、先ずは何しろ番組を通して非常にポジティヴな所だろうか。しかし若くして半身不随に為った妙齢の女性達が、何と活き活きと、自立し生活している事だろう!

ついこの間観た時には、主人公の1人が皆にバースデー・パーティーをして祝って貰うと云う回で、その為に車椅子のメンバー2人が車を運転してケーキを買いに行くのだが、観ている此方はハラハラ・ドキドキ。

だが彼女達が真剣に明るく(例えば、車椅子に座って人に見せる、「機能」より「ファッション」としての可愛い靴を皆で買いに行ったり、「恋バナ」をしたり)、訓練されたスキルを使って生活する姿(例えば、段差の有る道を車椅子でケーキを壊さずに運び、車に乗り込み、運転して帰ったり)には、何処か「若く超優秀で、ファッショナブルな女性アスリート」を観る時の尊敬の念を感じ、同情や差別感、ヤラセ感等は全く感じない。

これは、恐らくはこの番組の作り手自身が、心底そう思って制作しているからなのだと思うが、もし日本のテレビ局が同じ企画で制作しても、決してこうはならないのでは無いだろうか?

何故なら、企画を立てた時点で大概の日本のテレビは、必ず「自分達とは違う」者を見ての「お涙頂戴モノ」にしてしまう事、必然だからで有る…日本のテレビが、「『ファッション』としての車椅子」にフォーカスをする事等、有り得ないのでは無いか(平野啓一郎著「かたちだけの愛」に出て来る、「義足」を思い出させた)。

今回、バースデー・ガールの娘が口にした、この番組を端的に顕す台詞が有った。それは、

「私は『持っているモノ』の事だけを考えてるから、ハッピーなの。だって、『失くしたモノ』の事を考えたって、仕方無いじゃない!」

「前進する」とは、当にその事だ!そして筆者は、彼女達がこの番組で「プッシュ」しているのは、決して車椅子だけでは無い事に気付いた。

彼女達が持つ信念、大事にしている物事、それは訓練して獲得したスキルや、過去を、そして失ったモノを振り返らない生き様だったりする訳だが、それ等の全ては、身障者・健常者に関わらず、「勇気を持って前進する者」だけが持ち得ると云う「事実」を、彼女達は我々視聴者に向けて、赤裸々に「押し出して」見せているので有る。

テレビだから、当然一寸した「味付け」なんかも有るのだろうが、しかし、この番組に因って助けられ、勇気付けられる身障者・健常者が、筆者自身を含めて全米に一体何れ程居るだろうと思うと、拍手を贈らずには居られない。

本当に大切なモノを失った経験の有る人間は、今自分の手元に残っているモノが、如何に貴重で美しいモノかを、知っている筈だ。

日本の人々にも是非観て欲しい、流石「Sundance」な番組で有る。